サルにもわかる相対性理論④
2.もしスピードに限界があったら
前節では有限のスピードあるいは無限大のスピードで走っているもののスピードを,止まっている人と走っている人がはかったらそれぞれどうなるか?というお話をしました。
でも無限大のスピードって不自然だとは思いませんか?
アメリカの西海岸と日本のたとえば東京を結ぶ,非常に硬いがとても軽くて動きやすい棒があったとして,アメリカの西海岸で棒の端を押すと,まったく同時に東京にあるほうの棒の端も押されて動く。
こんなことが可能なら,これはとても便利な通信方法になりますね。なんせ通信スピードが無限大なんですからね。
現実には現在もっとも速い通信方法は無線電波をとばして行なうもので,その最大スピードは約秒速30万kmであることが知られています。
光も電波と同じスピードなので,結局光は電波の一種ではないかという推測がなされ,現在ではその通りであるということがわかっています。
では,ものが伝わったり運動するスピードには限界があるのでしょうか?
まあ,いままでの話や常識を考慮するかぎり限界スピードがあるとするほうが自然ですね。
では,限界スピードがあってそのスピードは秒速30万kmであるとしましょう。これは光のスピードですね。
もちろん,限界スピードというのは実際に観測者が測ったときの最大値であるという意味ですから,あるスタートラインから同時に反対向きに光が進んだとき1秒後には60万kmはなれている。
2つの光の先頭が1秒間に60万kmはなれるから,これは秒速60万kmじゃないか,限界を超えているよ。というようなものを否定するわけではありません。
でもこれは何かが伝わったり,運動したりするスピードですか?
そうじゃなくて,いわゆる「絵に描いたもち」のようなもので,実際に世の中に存在するものの,伝達スピードや,走るスピードではないですね。
これこそ算数の上でのスピードでしかありませんから,わたしたちの物理で考える限界スピードが秒速30万kmであるというのとは無関係ですね。。
そういう頭の中でやる算数のような話とははなれて,実際にものが走るスピードが限界速度に等しいとしたら,どうなるかという話にもどりましょう。
まず,限界速度というのは先に述べた無限大のスピードとまったく同じ性質を持つものでなければならない,ということがいえます。
なぜなら,C君が限界スピード秒速30万kmで走っていて秒速10万kmで走っているB君とすれちがったら,常識ではB君の測るC君のスピードは秒速40万kmになるはずですが,
これはすでに限界速度である秒速30万kmを超えるスピードになっていますから,秒速30万kmが限界であるということに矛盾しています。
だから,ここは,常識の方を忘れて,この場合でもB君のはかるC君のスピードは限界の秒速30万kmのままであるとします。
つまり限界スピードにどんなスピードを足しても限界スピードのままである,という無限大スピードの性質が成り立つと考えるのです。
さらに拡大解釈して,スピードの引き算についても限界スピードには無限大スピードの性質が成り立つということも仮定することにしましょう。
でも,これはどういうことでしょうか?
止まっていたA君の時計が1秒きざむうちに,C君は確かにスタートラインより後ろに30万kmのところに到達しており,同時にB君はスタートラインより前に10万kmのところに到達しているので,A君にとって1秒後に2人は40万kmはなれています。
なんで,秒速40万kmではなく秒速30万kmなんでしょう?
ということは,「B君にとっては,2人の距離が40万kmより小さい」のか?,あるいは「B君の時計はA君の時計が1秒きざむあいだに,もっと速く進んで1秒より大きかった」のか?
実は,どちらでもないということがわかります。
というのは,B君は同じようにスタートラインから秒速10万kmで進むとして,C君の方が,こんどはB君と同じ向きに限界スピード秒速30万kmで走る場合を考えてみればおかしなことに気がつくからです。
この場合もB君の測るC君のスピードは秒速20万kmではなくて,限界速度の足し算,引き算の法則によって限界スピードは変わらない,つまり秒速30万kmでなければなりません。
限界スピードはだれが測っても同じで,それは走る向きによって変わるようなものであってはいけませんからね。
おかしいですね。
B君の時計が1秒きざむ間にC君は確かにB君よりちょうど20万km前にいるはずですからね。
なんで秒速20万kmでなく秒速30万kmなんでしょう?
それじゃ,こんどはB君にとっては2人の距離が20万kmより大きい」のか? それとも「A君の時計が1秒きざむうちに,B君の時計はもっと遅れて1秒より小さかった」のか?のどちらかでしょうか?
ちょっとまてよ,C君がどちら向きに走ったとしても,B君は関係なく同じ向きに同じスピードで走っているのですから,A君の時計が1秒きざむうちに一方では進んで一方では遅れるって,そんなことは絶対にありえませんね。
では,B君がC君のスピードを測るというのは実際にはどうするのでしょうか?
その前に,A君がC君のスピードを測るといっても,実はA君は止まっているんだから,1秒後に30万kmはなれたところでストップウォッチを押すのはA君じゃなく,A君と同じように止まっているA君から30万kmはなれた誰か別のD君が彼の時計でやるんですよね。
そして,D君の時計があらかじめA君と同じに合わされてるなら確かにC君のスピードを正確に測ることができるでしょう。
B君が測る場合も,時計と距離を同時に見るのはB君ではないですね。
B君は実は,B君の両側に50万km,長さ100万kmの電車に乗っていて,その電車はB君を乗せて秒速10万kmで走っていると考えます。
この電車の中ではB君はその中央で止まっています。
でも,A君からはB君が秒速10万kmで走っていると見えます。そしてこの電車にはもちろん窓があって外でC君が走っているのも見えます。
そして,電車のかべにはB君のいる電車中央からの距離がいたるところ目盛りで書いてあり,また,あらかじめB君の時計に合わせた時計を持った人がかべの目盛りごとに張りついて,ずらりと並んで電車に乗っています。
A君,B君,C君がスタートラインに並んだ瞬間を時刻 0 秒とします。
このときは,A君とB君の時計はともに 0 秒で確かに同時です。
そしてA君の時計が1秒を指した瞬間には,C君と並んだD君(A君から30万kmはなれていて時計は1秒を指している)と,同時に目盛かべに並んでいる電車内のE君がC君とも並んでいて距離と時計を同時に見るのです。
これがB君にとってのC君のスピードを正確に測る方法ですね。
では結果はどうなんでしょうか?
まず,A君とD君にとってはC君は1秒後にA君から30万kmのD君のところにいてその速さは秒速30万kmです。
しかし,B君とE君にとっては,結論からいうとつぎのようになります。
おおよそですが,スタートラインでB君とC君が逆向きにすれちがう場合には,B君と同期したE君の時計は1秒ではなく1.4秒,電車内の距離は40万kmではなく42万kmを示しています。
だからB君の測るC君のスピードはやはり秒速30万kmなのです。
また,B君と同じ向きにC君が走ってB君(B君の電車)が追いかける形のときには,E君の時計は0.7秒を指していて距離は20万kmではなく21万kmを示しており,
やはりC君のスピードは秒速30万kmです。 不思議ですね。
どういう計算をしたのでしょうか?
この計算は,実はどんな運動をしていても限界スピードは秒速30万kmが変わらないということをもとにしたら,どうしても測る人によって距離も時間も変わってしまうという「公式=ローレンツ変換」が出てくるので,
それにしたがって計算しました。
この「公式」をみなさんにやさしく説明するのは私の力ではむずかしく,残念ながらいまのところは結果がそうなるということしか述べることができません。
では,この「公式」にしたがってB君の時計はA君の1秒後に,何秒を指しているかを計算してみると,0.94秒と遅れていることもわかります。
いままでのことから,止まっているA君とD君にとっての1秒後の同時がB君の乗っている電車では同時でないことがわかります。
A君の両側30万kmでの1秒後の同時が実は1.4秒後と0.7秒後という別の時刻に変わってしまいました。B君の時刻も0.94秒と遅れています。
このことを「同時刻の相対性」といいます。
時刻というのは場所によってちがうので場所を決めてやらないと時計の進み方も違うということです。
でも,もちろん,A君とD君や,B君とE君のように,同じ電車に乗っている人については1秒は1秒であり,誰にとっても同じです。
さっきの例で,B君の時計が0.94秒,B君の時計が1.4秒や0.7秒でちがっていたのはその時刻がB君の乗っている電車の上での同時ではなく,A君の乗っている電車(地球)の上での同時(1秒後)だったからです。
B君の電車の中での42万kmがA君からみると40万kmにちぢみ,21万kmが20万kmにちぢんでいることを「運動物体のローレンツ収縮」といいます。
つまり運動している物体を静止している人がみると実際の長さよりもちぢんでいるのです。
また,A君の時計が1秒きざむあいだにB君の時計は0.94秒しか進んでいません。これを「運動物体の時間の遅れ」といいます。
運動している物体では静止しているときよりも時間の進み方が遅いのです。
でも,これらはB君にはわかりません。
なぜなら,B君の電車の中の目盛り,ものさしもA君から見て同じようにちぢみ,電車の中の時計も同じように進み方が遅れて自分では気がつかないからですね。
(「サルにもわかる相対性理論⑤」につづく)
※(追記):ここでの記事は,"サル”でもわかる範囲の話が対象で,むずかしい公式などは抜きで,定性的な話題に終始して少しでも興味を持ってもらえたらという入門紹介文を目指したわけです。
興味がお有りなら,少しだけ先走った記事として,後の2006年10/19の記事「同時刻の相対性」からの抜粋を紹介しておきます。
(※)一定速度で走っている電車のある列車の中央に爆弾があって,爆弾の両側にはある特定波長の光を感知するセンサーがあるとします。
リモコンでテレビのスイッチを入れるような要領で列車の両側から爆弾の方へと特定波長のレーザー光を同時に発射します。
列車中央にある爆弾の両側のセンサーが同時に光が到達したと感知したときに限って爆弾が爆発する,という仮想実験を考えます。
列車の中で列車の両端から同時に光線を発すれば爆弾は中央にあるのですから,それは確かに爆発します。
これを外の例えばプラットホームに静止している観測者が通過する電車の中の実験として観測したとしても,爆弾が爆発するという同じ事象が観測者によって異なることは有り得ないので,やはり爆弾は爆発すると観測するはずです。
しかし,静止観測者にとっては光線が到達するまでの間に中央の爆弾も列車と共に前に移動してるのですから,もしも両端からの光の発射時刻が本当に同時なら,前の方からの光が先に届き後ろの方からの光は後から届くことになるので爆弾は爆発しないことになります。
これは何か変ですね。
理論の帰結としてこういうことが生じるのであれば,これは"パラドックス=矛盾"であり,理論自体がおかしいという結論になります。
ところが,実は静止観測者からみれば列車両端からのレーザー光の発射は同時でなく,前からのレーザー光発射の方が後ろからの発射よりも後であるというのが正解です。
光はやはり同時に爆弾に届くので矛盾はないことになります。
これを計算で確かめるため,走っている列車の長さをL,列車の速さをvとし列車の進行方向を静止系Sのx軸,かつ列車と共にvで走る慣性系S'のx'軸の共通の正の向きとします。
そして,列車中央の爆弾はS'系の原点x'=0 にあるとします。
また,γ≡1/(1-v2/c2)1/2と定義しておきます。
列車内では両側からの光が中央の爆弾に届いて,それが爆発するのは両側から光を発射した同時刻からL/(2c)だけ経過した時刻であり,確かに同時刻です。
しかし,列車内の時刻をt',静止観測者の同じ時刻をtとすると列車内の座標x'ではLorentz変換によってt=γ(t'+x'v/c2)となります。
そこで,列車内での光の同時発射時刻をt'とすると静止観測者の系での光の発射時刻は前端ではt1=γ[t'+Lv/(2c2)],後端ではt2=γ[t'-Lv/(2c2)]となります。
したがって,前端での発射時刻t1が後端での発射時刻t2より後になっています。t1-t2=γLv/c2>0 ですね。
つまり,この列車内での同時刻が静止観測者にとっては同時刻ではないのですね。こうしたことを"同時刻の相対性"といいます。
そして,外の静止観測者にとって光が爆弾まで走る時間をΔtとすると,その間に爆弾はvΔtだけ前に移動しています。
爆弾がvΔtだけ移動する前の元の中央の位置に静止していたとして,両側からの光がそこに到達するのに要する時間をΔt0とします。
光の走る距離は,前からの距離が中心よりvΔtだけ短く,後ろからの距離がvΔtだけ長いので,両側からの光が爆弾まで届く時刻が同時刻になるためにはt1+Δt0-vΔt/c=t2+Δt0+vΔt/cが必要です。
左辺から右辺を引き算してΔt0を消去すると,c(t1-t2)= 2vΔtとなります。
前に計算したt1,t2から,c(t1-t2)=γLv/cですから
Δt=γL/(2c)ですね。
一方列車内では,光が爆弾まで走る時間はΔt'=L/(2c)ですから,
Δt'=Δt/γ=Δt(1-v2/c2)1/2です。
"外部静止系の経過時間Δtよりもvで走る列車内の経過時間Δt'の方が遅い"ということで有名な"相対論における時間の遅れ"が存在することを意味しています。
列車の長さについては,静止系でみるとLorentz収縮してL/γ=L(1-v2/c2)1/2であるはずなのに,この計算では逆にγLとなって伸びているように見えて変だと感じるかもしれません。
しかし,そもそもLorentz収縮するのは,両端を静止系の同時刻で見たときの運動系の長さです。
今の場合は,列車の方のS'系の時刻が同時刻t'であり列車からみると静止系の方が(-v)で運動しているのですから,
列車のS系での長さはγLなのに,それをS'系から見るとγL/γ=LにLorentz収縮していると見るのが正しいのです。
もしも,静止系で列車の両端をその同時刻tで見ると,Lorentz変換は座標(x,t)と(x',t')の間で,
x=γ(x'+vt'),t=γ(t'+x'v/c2) で与えられます。
前端の座標はx1=γ(L/2+vt1'),後端の座標はx2=γ(-L/2+vt2')であり,
また,同時刻tはt=γ[t1'+Lv/(2c2)]=γ[t2'-Lv/(2c2)]という変換性を持ちます。
したがって,静止系で見た列車の長さは,
x1-x2=γL+γv(t1'-t2')=γL-γLv2/c2
=γL(1-v2/c2)=γL/γ2=L/γ=L(1ーv2/c2)1/2
となって,確かにLorentz収縮した長さ:L/γ=L(1ーv2/c2)1/2が実現していることがわかります。(※)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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コメント
時間が短くなったり長くなったりするところから、わかりません。
投稿: tomo | 2011年11月21日 (月) 17時34分