基礎物理学講義⑤(力と運動3)
⑦いろいろな位置エネルギー
(ⅰ)重力の位置エネルギー
鉛直上向きをz軸の正の向きとすると,質量mの物体に働く重力Fはz軸成分のみを持ち,それをFと書くとF=-mgである。ただしgは重力の加速度である。
そこで,z=0 を地上として,それを重力の位置エネルギーの原点に取ると,重力の位置エネルギーUはzの関数としてU(z)=-F(z-0)=mgzとなる。
つまり,高さがhの位置での質量mの物体の有する重力の位置エネルギーはmghである。
(ⅱ)弾性力(ばね)の位置エネルギー
ばねの伸びの向きをx軸の正の向きに取り,xだけ伸びたときに受ける力をFとすると,フックの法則(Hooke's law)によりF=-kxなる式が成立する。比例定数kは,ばね定数(弾性定数)と呼ばれる。
そこで,ばねがxだけ伸びたときの位置エネルギーをU(x)とすると,-F=kxをx=0 を基準としてxまで積分した結果としてU(x)=(1/2)kx2となる。
負の伸び(x<0),つまり縮みの場合でもxの長さが同じなら位置エネルギーは同じである。
(ⅲ)万有引力の位置エネルギー
r=∞を基準として,万有引力:F=-GMm/r2に抵抗する斥力-Fを位置rまで積分すると万有引力の位置エネルギーとして,U(r)=-GMm/rが得られる。
一般に宇宙の何もない空間の位置エネルギーはどこもゼロで,ところどころに星があると,そこだけ穴が開いたように引力のせいで位置エネルギーが負の値に落ち込んで谷のようになっている。
⑧いろいろな運動
(ⅰ)水平投射と斜方投射
質量mの物体に外力として重力のみが働くとき,その物体が従う運動方程式はF=maである。これはxを水平方向,yを鉛直方向で上向きを正とすると,成分表示でmax=0,may=-mgとなる。
そこで,加速度aは,水平方向がax=0,鉛直方向がay=-gであるから,物体の運動は水平方向には等速度運動,鉛直方向には等加速度運動である。
水平方向から仰角θの方向に大きさv0の初速度v=v0で物体が斜方に投射されたとすると,v0=(v0cosθ,v0sinθ)である。
投射された初期時刻をt=0 とすると,速度vに対する時刻tにおける運動方程式の解は,速度の水平成分,鉛直成分についてそれぞれvx=v0cosθ,vy=v0sinθ-gtとなる。
さらに,投射された初期時刻t=0 における位置を(x,y)=(x0,y0)とすると,軌道に対する解,つまり時刻tにおける運動物体の位置座標はx=x0+vcosθt,y=y0+v0sinθt-(1/2)t2となる。
ただし,θ=0 の斜方投射は特に水平投射である。これは,水平な地上付近ではy0>0 の高さのある場所から投げなければ不可能である。
一方,時刻t=0 に地上y0=0 からものを投げ上げて,再びy=y0=0 の地上に落下する時刻はt=2v0sinθであり,物体の到達距離はx-x0=2v02sinθcosθ=2v02sin(2θ)となる。
それ故,遠投では仰角θ=45度で投げたときに最も遠くへ届く。
(ⅱ)斜面上にある物体の運動
質量mの物体が水平と角度θをなす斜面に置かれている場合には,重力mgと垂直効力Nの合力が,物体を斜面に平行にすべり落とす力に等しい。
その力Fの大きさはmgsinθであり,また抗力Nの値はN=mgcosθである。もしも,摩擦があればその大きさはμNに等しい。
(ⅲ)等速円運動
質量mの物体に長さrの糸をつけ,糸の他端0を中心として円運動させる。1秒間にωラジアンだけ回転するとき角速度がωであるという。
このときの速さはv=rωである。等速円運動ではvは一定であるがその向きは1秒間にωだけ変わる。
したがって,加速度aの大きさはゼロではなくa=vωである。
つまりa=rω2であるから,等速円運動中の物体が受ける力は物体から中心0の向きを持ち,大きさはF=ma=maω2である。
この力を,回転運動における向心力という。
(ⅳ)惑星の運動
1610年ごろケプラーはティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)の長年にわたる観測結果から,ケプラーの法則(Kepler's law)を発見した。
Ⅰ.惑星の軌道は太陽を1つの頂点とする楕円である。
Ⅱ.惑星と太陽を結ぶ線分が一定時間に通過する面積(面積速度)
は一定である。
Ⅲ.惑星の公転周期の2乗は、楕円軌道の長半径の3乗に比例する。
これは,ニュートンの万有引力と上で示した等速円運動の向心力が等しいと置けば導かれる法則である。(ただし,簡単のため,法則Ⅰにおいて一般の楕円軌道ではなくて特に円軌道を仮定した。)
(ⅴ)単振動
半径Aの等速円運動をしている点QにX方向から平行光線を送り,Y軸上に射影してできる点Pの軌跡はY軸上の往復運動になる。
Qの角速度をωとし,投射点Pは時刻t=0に原点からスタートしたとすればPの軌跡はy=Asin(ωt)となる。
このように,変位yと時間tの関係がsin関数,またはcos関数になる運動を単振動という。
この運動でのPの速度はv=Aωcos(ωt)である。
円運動の加速度は-Aω2であるが,単振動は円運動の射影なのでその加速度は-ω2y=-Aω2sin(ωt)である。
よって,質量mの点Pの受ける力はF=-mω2yとなる。
これは,ばねに結ばれた質量mの質点の受ける力Fに対して成立するフックの法則F=-kyに従う,質点の振動が角速度ωの単振動に一致することを示している。
ma=F=-ky=-mω2yより,k=mω2であり振動の周期Tは円運動の周期(2π/ω)に等しいので,T=2π√(m/k)である。
(ⅵ)みかけの力=慣性力,特に遠心力
これについては省略する。あとで機会があればくわしく説明したい。
⑨剛体や流体に働く力
(ⅰ)剛体に働く力
N個の質点からなる質点系の運動は,1つの質点の座標(位置ベクトル)が3個の数で表されるので,3N個の質量×加速度を3N個の力と結びつける3N個の運動方程式で表わされる。
しかし,大体1gの固体物質は約1023個の莫大な個数の分子で構成されており,またそれらの間に働く力(基本的には電気的力)の性質もはっきりしてはいない。
1gでさえN~ 1023なので,一般に3Nというのは巨大な数となってしまって,これらの運動方程式系を解くことはきわめてむずかしい。
一方,剛体とは押しても引いても決して形が変形しない物体のことであり,それらを構成している質点系の2点間の距離はどんなに運動しても変化しないものである。
この性質のため,剛体の中の異なる2点の運動さえわかれば,残りのすべての点の運動は完全に決まってしまう。
つまり,運動を完全に記述するのに3N個の運動方程式は必要ではなく,6個の運動方程式がありさえすれば十分となる。
このように,多粒子から構成される力学系の運動を完全に記述するのに必要な運動方程式の数:3Nとか6をその系の自由度という。
そこで,特に剛体の重心というものを定義してその運動のみを考えるとそれは3個の運動方程式となる。
剛体ではあと3個の運動方程式は回転運動に関するものである。
x,y,z軸のそれぞれのまわりの回転の角速度を自由度に選ぶことにより3個の運動方程式が得られる。
I=Σmi(xi2+yi2)をz軸のまわりの慣性モーメントという。(iは剛体を質点系と考えたときの各質点の番号である。)
たとえば,z軸のまわりの回転の角速度をωとすると,I(dω/dt)=(z軸のまわりの力のモーメント)という運動方程式が成り立つ。
よって,重心に働く力=(外力の合力)がゼロで,力のモーメントもゼロなら剛体系はつりあいの状態にあるといえる。
つりあいとは静止していることではなく,重心が一定速度で等速度運動し,また地球のように剛体が一定角速度で回転する状態である。
ア)重心とは?
N個の質点がそれぞれ質量miと位置ベクトルriを持つとき,総質量をM=Σmiとして,重心の位置ベクトル:RをR=(∑miri)/Mで定義する。
特に重力mgのみがかかる状態では,重力による力のモーメントを求めることによって重心の位置を求めることができる。
(問)半径aの均質な円板がある。これから,円板の半径の中点を中心とする半径a/2の円板を切り取った残りの板の重心の位置を求めよ。
イ)力のモーメントとは?
剛体のある支点からrの距離にある点に力Fが働くとき,その力のベクトルFの腕となす向きの角度がθであるなら,l=rsinθとしてFl=Frsinθをその支点のまわりの力のモーメントという。
(ⅱ)圧力と浮力,および流体
全ての物体は弾性(押したり引いたりする力に反発する性質)を持っている。その力:2つの物体の一方が他方に与える単位面積あたりの力を応力という。
応力には,"面に垂直にかかる力=法線応力(圧力,張力)"と"面に平行にかかる力=接線応力(せん断応力 or ずり(ずれ)応力)とにベクトル的には2種類に分けられる。
特に,ここでは圧力だけを考える。
面を垂直に押す力をF,その面の面積をSとすると,圧力PはP=F/Sで定義される。
圧力の単位は,Pa(パスカル)である。ただしPa=N/m2である。100Paのことを1hPa(ヘクトパスカル)ともいう。
流体とは,静止状態では圧力以外に応力を持たない連続体のことである。流体内では,接線応力を持つ性質のことを粘性というが,これは摩擦のことである。
つまり,この応力を粘性力というが,これは摩擦力のことである。
静止状態で,もし摩擦があると必ず流れ出してしまうので流体では静止状態では"摩擦=粘性"はない。しかし,運動中では一般に流体は"粘性=摩擦"を持っている。
運動中でも粘性がない理想的流体を完全流体(理想流体)という。
ふつうの粘性のある流体のことは粘性流体という。
また圧力を受けても縮まない理想的な流体のことを非圧縮性流体という。地球上では水がその代表的な例である。
一方,圧力を受けて縮むふつうの流体のことを圧縮性流体という。
a)重力による大気の圧力,水の圧力
地球上の空気は"地球の引力=重力"によって地球上に押さえつけられている。空気の地球表面付近の重さが大気圧,または単に気圧である。
1気圧とは,たまたまトリチェリーが水銀柱の高さで気圧を測定したときにその高さが76cm=760mmであったので,そのときの気圧の大きさを1気圧と定めたものである。
1気圧は760mmHgであるともいわれるが,その大きさはHgの密度が13.6g/cm3,あるいは13.6×103kg/m3なので,重力加速度g=9.8m/s2を考慮して13.6×103×0.76×9.8=約1013hPaとなる。
一方,1気圧は一般には1033.6g重/cm2であって1cm2の面積に約1kg重の力がかかると考えてよい。
水や油は,その密度ρが一定の近似的に非圧縮性流体である。
特に水は密度がρ=1g/cm3,海水は密度がρ=1.03g/cm3である。
面積S深さhの直方体の体積はV=Shであり,その非圧縮性流体の重さはF=ρVg=ρShgであるから,深さhでのそれによる圧力はP=F/S=ρghである。これが水や油の重力による圧力である。
水の場合,深さ10mの位置の水圧は1×103×10×9.8=980hPaである,つまり約1気圧に相当する。
海水でもだいたい同じである。
そこで深さ10mの海中にいる場合,受ける圧力は"気圧+水圧=約2気圧"で空気中にいるよりも2倍の圧力を受けることになる。
b)パスカルの原理
これは水や油の深さが同じ位置では同じ圧力であるという性質を述べた原理であり,単にF=PSであるというのがその内容である。
つまり,圧力Pが一定なら受ける力Fは面積の大きさに比例するということである。
c)浮力
浮力は,物体が流体中にある場合,その上面に受ける圧力より深い位置にある下面に受ける圧力の方が大きいため,総体として上向きに力を受けるその力のことをいう。
別の言葉でいうなら,流体中で物体の部分をくり抜いて,そこに同じ形の流体を流し込んだ場合でも,残りの流体はそれを支えて静止したまま動かないはずなので,元の物体があっても残りの流体は丁度そこに流し込んだ仮想流体を支えるのと同じ上向きの力を及ぼしていると考えられることで説明できる。
結論として,物体はそれと同じ体積の流体の重さと同じだけの浮力を受けるということになる。これをアルキメデスの原理(Archimedes principle)という。
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