私の池袋での専門学校での講義録です。
(※平成8年度から6年間,約50名のクラス3つで,毎週各1コマ
90分の専門学校レベルの教養の物理を講義していました。)
「温度と熱」
(1)はじめに。。。
本講のテーマとしては、熱とは何か?,そして温度とは何か?ということ
を中心に考えていく。
(2)熱平衡と経験温度
物体Aと物体Bを長時間接触しておくと,これらはやがて熱的に同じ一定
の状態に落ち着く。この状態に落ち着くことを熱平衡という。
AとBが熱平衡にあり,BとCが熱平衡にあるならば,AとCも熱平衡にある。
これを熱力学第0法則という。
熱平衡にあるかどうかを決める指標が温度,すなわち経験温度である。
温度計は温度と物体の膨張が比例するという性質と熱力学第0法則
を利用している。
つまり,Bという温度計をAとCにそれぞれ長時間接触することにより,
AとCを直接接触することなく,AとCが熱平衡にあることを知るのである。
経験温度を決めるには,まず,1気圧中での"水の融点(氷点,または凝固点
ともいう)=氷と水の境目の温度"を0 ℃とする。
次に,1気圧中での水の沸点,つまり,水が気化して水と水蒸気が共存
するとき,"飽和水蒸気圧がちょうど周囲の1気圧と一致するようになる
境目=沸騰する状態"を水の沸点と呼び,このときの温度を100℃とする。
そして,アルコールや水銀などの温度計の内部物体の,水の氷点と沸点
の間の膨張長さを100等分して目盛で表わしたものを摂氏(Celsius)温度
という。
(3)熱膨張と絶対温度
①固体と液体の熱膨張
これは熱のせいで,固体や液体を構成している"分子の運動=特に振動
などの往復運動"が激しくなり,構成分子間の平均距離が増大する結果
として体積が増加する現象のことをいう。
一般に近似的に体積Vの固体,液体の体積増加分ΔVはその温度上昇分
Δt に比例する。その比例定数βを体膨脹率という。
つまりΔV=βVΔtであってV+ΔV=V(1+βΔt)である。
固体や線状の容器に入った液体の体積膨脹による長さの変化を
特に線膨脹という。
長さLの物体の膨脹した長さをΔL,線膨脹率をαとすると
ΔL=αLΔtでありL+ΔL=L(1+αΔt)である。
このときβ=3αが成り立つ。その証明は次のとおりである。
(証明) 縦,横,高さが全てLである物体の体積はV=L3で,
V+ΔV=(L+ΔL)3であるから,1+βΔt=(1+αΔt)3
=1+3αΔt+3α2(Δt)2+α3Δ(Δt)3である。
ところがαは非常に小さいので,Δtが小さいとき3α2(Δt)2や
α3(Δt)3は3αΔtに比べてはるかに小さくて無視できる。
そこで近似的に1+βΔt=1+3αΔt,,またはβ=3αである
としてよい。 (証明終わり)
②気体の熱膨張
これは気体を構成する気体分子が熱によって激しく運動し,その平均
分子行路が長くなることで体積が増加する現象を意味する。
一般に,一定の体積の容器に入れておくと温度上昇と共に体積変化
はしない。その代わりに圧力が増加するので圧力を熱膨張前と同じ
にするには体積を増加させた容器に入れ換えなければならない。
しかし,一定の気圧のもとで自由に容器の大きさが変動するようにして
おけば体積は自由に膨脹することができる。
一般に希薄気体の熱膨張率は 0 ℃では気圧によらず,また気体の
種類にもよらず,常にβ=1/273.15であることがわかっている。
つまり,V+ΔV=V(1+βΔt)=V(1+Δt/273.15)
=V(273.15+Δt)/273.15である。
0 ℃での気体の体積VをV0としt℃での体積V+ΔVを単にVと書くと,
V0/273.15=V/(273.15+t)となる。
そこで,摂氏温度が t℃のとき,T≡273.15+t を絶対温度と呼べば,
0 ℃では絶対温度をT0≡273.15として,V0/T0=V/Tが成り立つ。
気体の体積は一定気圧のもとでは絶対温度に比例するといえる。
このことは,T=0 絶対零度ではV=0 となって気体の体積は理論
上ゼロになることになる。
もちろん実在気体ではそのような温度ではもはや気体ではなく固体
や液体になっているので,そうした体積と温度の比例関係はもはや
成り立たない。
しかし,そうした相の転移を無視した理想的な気体を想定すると,
温度は"絶対零度=-273.15℃"が最低温度で,通常の現象では理論
的にそれより下の温度は存在しないことになる。
一方,温度は上の方には限界はない。なお,絶対温度の単位は
K(ケルヴィン;Kelvin)とする。
(4)熱,熱量,比熱
①熱の本質,熱量と熱の仕事当量
熱とは何か?。。。大昔は火を起こすには木を木でこする摩擦に
頼っていた。
火がつくには,現在ではその木がある発火温度に達すればよいことが
わかっている。そして温度が上がるということは,その物体が熱を持つ
ということで達せられる。
しかし,19世紀には熱がある物体からある物体に移るのは熱素という
物質が移動するとか,物が燃えるのは"フロギストン(phlogiston)=燃素"
によるという思想があり,また熱が伝わるのは,その熱素が流れるから
だと考えられた時期もあった。
しかし,そうした熱素なるものが存在するとしても,それは保存しないで
摩擦などによって発生したり,自然に冷えて消滅したりすることになる。
そうしたことから,むしろ熱というのは何らかの力学的仕事によって生起
する実体ではないか?と考えられるようになり,そうした得体の知れない
熱素などというものの存在を仮定する必要はないと考えられるようにな
った。
そうした時期にジュール(Joule)は水の入った容器と攪拌する装置を
使って水をかき混ぜる仕事量に等しいだけ水が熱をもらって温度が
上がるのだと仮定して熱の仕事当量というものを測定した。これを
ジュールの実験という。
すなわち,1気圧の下で水1gが14.5℃から15.5℃まで1度上がるとき
に受けた熱,これを熱量という言葉で表わし,その熱量を1cal(カロリー)
というが,これが仕事でいえば4.19J(ジュール)に相当することを測定し
たのである。
この4.19J/calのことを熱の仕事当量という。
以後,この仮定に基づいて,力学的仕事,つまり摩擦などによって失
われる力学的エネルギー損失が全て熱に変わるとすれば,依然と
して(総エネルギー)=(熱エネルギー+力学的エネルギー)が保存
するという法則,"総エネルギーは保存する"という法則の成立が
確認された。
そのため,熱の本質はエネルギーそのものであると考えられるよう
になり,それから後に,何の矛盾も見つかっていない。
しかし,仕事は全部100%が熱に変わることが可能なことはジュールの
実験以来の事実であるが,熱の方は100%が仕事に変わるわけではなく
その一部は捨てられなければならない。
これは,もちろん1サイクル(cycle)での話であり,サイクルでないなら
100%仕事に変わることはある。 (※サイクルとは系がある熱と仕事
を受ける過程を経た後,結局,自身と周囲に何の変化も起こさない元
の状態に戻るような熱力学過程でのことである。)
このことから考えて,熱には熱としての特有の意味があり,単純に画一化して
エネルギーというだけでは割り切れないところがある。
②熱量の保存,比熱,熱容量
ある物理的過程で力学的仕事が関係することなく,「全体として
熱エネルギーが逃げることがない=断熱されている」なら,熱量
はその過程で保存される。
そして,たとえば高温の物体Aと低温の物体Bを断熱された環境の
中で接触させておくと,やがてAとBは熱平衡に達してある一定の温度
に落ち着く。
このとき,全体の「熱量=熱エネルギー」は保存されるので,
「Aの失った熱量=Bのもらった熱量」という法則が成り立つ。
これを熱量の保存の法則という。また熱エネルギーの保存の法則
ともいう。
具体的には熱量1calは「水の1gの温度1度の上昇」で定義されて
いるので,水以外の物質については1gを1度上げるのに必要な熱量
が水に比較してどのくらいかを調べる必要がある。
その意味で物質1gについて温度を1度上げるのに必要な熱量
のことを比熱というが,比とはいうものの単なる数値ではなくcal/(g℃)
という単位を持っている。そして,比熱は普通cという文字で記述される。
一般に金属の比熱は水に比べてかなり小さく,金属は小さい熱を
与えてもすぐに温度が上がるのが特徴である。
また,「質量m(g)の物体を1度上げるのに必要な熱量
=w(cal/℃)をその物体の持つ熱容量という。w=mcであること
は明らかである。
このwは,その物体が熱的には水のw(g)に相当することを
表わしている。
たとえば,炭素なら12g,水素なら2gの物質量は共に
アボガドロ数(Avogadro-number)と呼ばれる 6.02×1023個の
分子(炭素ならC,水素ならH2)から成り立っている。
このアボガドロ数個の分子からできている物体量を1グラム
分子,または1モル(mol)と呼ぶ。そして特に1モルの物質の
熱容量をモル比熱と呼ぶ。
通常の金属固体のモル比熱は金属の種類によらず,3R
=約25(J/mol・K)=約6(cal/mol・K)である。
これは実験でも確かめられているが理論的に求めることもできる。
すなわち,Dulog-Petit(デュロン・プティ)の法則として知られている。
R~8.31(J/mol・K)は気体定数である。
(5)理想気体のボイル・シャルルの法則と気体の分子運動論
①ボイルの法則(Boyle)
希薄気体では一定温度で気体の体積は圧力の大きさに反比例する。
つまり,温度一定のもとでは圧力Pが2倍になると体積Vは半分=1/2
になる。。PV=一定である。これをボイルの法則という。
②シャルル(ゲイリュサック)の法則(Charles(Gay-Lussac)
希薄気体では,一定圧力の場合気体の体積は絶対温度に比例する。
つまり圧力一定のもとでは温度(絶対温度)Tが2倍になると体積Vも
2倍になる。
すなわち, V/T=一定である。
これをシャルル(ゲイリュサック)の法則という。
③ボイル・シャルル(ボイル・ゲイリュサック)の法則と理想気体
ボイルの法則とシャルルの法則を合わせてボイル・シャルルの法則
という。 これは,PV/T=一定という形に書くことができる。
現実の気体は,この法則とは微妙にずれているが,特にこの法則に従う
気体を理想気体という。
このときのPV/Tの一定値は気体定数と呼ばれ,Rであらわされる。
この気体定数の値はR=8.3145(J/mol・K)である。
つまり1モルの気体に対してはPV/T=RあるいはPV=RTと書ける。
しかし,一般に容器に入っている気体は1モルとは限らないので,
その気体がnモルであるとすると,その体積Vのnモルの気体の
1モル当たりの体積はV/nとなる。
よって,PV/n=RTであるから,PV=nRTと書くことができる。
このように圧力と体積とを温度と結びつける式のことを
状態方程式といい,特に,PV=nRTを理想気体の状態方程式
という。
④気体分子運動論による理想気体の状態方程式の解釈
理想気体はたくさんの分子が摩擦熱を失うことなく反発係数1
で分子同士や容器の壁と完全弾性衝突をしながら,ばらばらに
運動している状態と考えることができる。
そこで,壁に及ぼす圧力は気体分子が壁に衝突することによる壁に
与える力積の総和であると考えることができる。
模型として1辺の長さLの立方体容器:体積V=L3の中にN個の
気体分子がある場合を考える。
気体分子1個の質量をmとし,その速度をv=(vx,vy,vz)とすると,
x方向に垂直な片方の壁に分子1個が1回の完全弾性衝突で与える
力積は2mvxである。
1個の分子は1秒間に, vx /(2L)回衝突するから,"全N分子の1秒
当たりの壁に与える力積=壁に与える力"は,Nmvx2/Lとなる。
圧力Pは,単位面積当たりの"壁に与える力"であるから,壁の面積
S=L2で割ってP=Nmvx2/L3=Nmvx2/Vと表わせる。
つまり,PV=Nmvx2である。
ところで分子1個の速さは, v2=vx2+vy2+vz2と三平方の定理で
表わされ,3つの方向は対等であるから、速さの2乗の全分子の
平均を<v2>で表わすと,x方向の平均は<vx2>=(1/3)<v2>
と考えてよい。
したがって,PV=Nmvx2とは,実はPV=Nm<vx2>=(1/3)Nm<v2>,
結局,PV=(2/3)N<(1/2)mv2> と書き直すことができる。
<(1/2)mv2>は分子1個のエネルギー,つまり,この場合は位置
エネルギーはゼロなので運動エネルギーである。
PV=(2/3)N<(1/2)mv2>=nRTであるから,
<(1/2)mv2>=(3/2)nRT/Nである。
特に,アボガドロ数をN0とするとN=nN0より,<(1/2)mv2>
=(3/2)(R/N0)Tとなる。
そこで,分子1個当たりの気体定数をR/N0=kBと書くことにして,これを
ボルツマン定数(Boltzmann constant)と呼べば,<(1/2)mv2>=(3/2)kBT
と表わすことができる。
こうして,気体分子運動論によれば,理想気体は気体の種類によらず
分子1個の運動エネルギーが(3/2)kBTであると解釈される。
(※しかし,正しくは後述するように圧力Pに寄与するのは,分子の全運動
エネルギーではなくて,内部の回転や振動のエネルギーを除く並進運動
(重心運動)のエネルギーだけである。)
(※なお,理想気体は力を受けず自由に運動するという近似なので粒子間
の位置エネルギーはゼロである。
後述する内部エネルギーは分子の(運動エネルギー+位置エネルギー)
であるが,この位置エネルギーは分子間の外力のそれではなく,分子内
原子などの内部構成粒子の内力の位置エネルギーなので原子間の振動
のように,理想気体でも存在する。)
(6)熱力学第1法則=エネルギー保存の法則
①内部エネルギー
物体を構成する全分子の持つ"力学的エネルギー
=(運動エネルギー+位置エネルギー)"の総和をその物体の持つ
内部エネルギーという。
内部エネルギーの大きさは,一般に物体の絶対温度Tに比例する。
単原子分子理想気体では並進運動の自由度3しかないため,nモル
の持つ内部エネルギーUは気体定数をRとしてU=(3/2)nRTである。
また,2原子分子理想気体では,軸を持つ回転運動の自由度2が
加わるため,U=(5/2)nRTである。
理想気体というのは,ボイル・シャルルの法則と同時に等温で体積
変化による内部エネルギーの変化がないという法則,
すなわち,内部エネルギーがTだけの関数であるという法則を満足
する。
また,固体では位置エネルギーもあるため,U=3nRTである。
位置エネルギーがある場合には,内部エネルギーはTだけでなく
体積Vにもよる場合がある。
②熱力学第1法則
特別なことがない限り,物体を加熱したり,圧縮したりすれば,その
内部エネルギーは増加する。
熱力学第1法則とは,物体の内部エネルギーUの増加分ΔUが,外部
から与えられた熱量Qと外部から加えられた仕事Wの和に等しいと
いう法則である。すなわち,ΔU=Q+Wである。
気体の場合,体積がΔVだけ増加するような仕事は,気体自身の
圧力Pが外部に対してなす仕事なので,気体の方が外部によって
なされる仕事は,W=-PΔVとなる。故にΔU=Q-PΔVである。
③気体の熱力学変化と比熱
a)等温変化
温度が変化しない理想気体の熱力学過程を等温変化という。
等温変化では,PV=一定の変化であり,Tが変化しないので
ΔU=0 である。
つまり,Q+W=0 であるから,Q=-Wである。等温,つまりΔT=0 な
ので比熱Q/ΔTは無限大である。
b)定積変化
体積が変化しない,ΔV=0 の理想気体の過程を定積変化という。
W=-PΔV=0 なので,ΔU=Qである。
単原子分子理想気体では,ΔTの変化に対してQ=ΔU=(3/2)nRΔT
なので,定積比熱は(3/2)nRであり定積モル比熱はCv=(3/2)Rである。
2原子分子理想気体では,定積モル比熱はCv=(5/2)Rである。
c)定圧変化
圧力一定のもとでの理想気体の過程を定圧変化という。
ΔU=Q+W=Q-PΔVであり,PV=nRTであってPが一定だから,
PΔV=nRΔTである。
故に定圧変化では,TのΔTの上昇に対して,Q=ΔU+PΔV
=ΔU+nRΔTである。ΔU=nCvΔTなので,Q=n(Cv+R)ΔT
となる。
定圧モル比熱をCpとすればQ=nCpΔTであるからCp=Cv+R
(マイヤー(Mayer)の法則)が成立する。γ≡Cp/Cvを比熱比という。
d) 断熱変化
外界と熱の出入りがまったくない過程を断熱変化という。
Q= 0 なのでΔU=W=-PΔVである。
もちろん,この場合もPV=nRTの法則は成立しているが,これ以外に
PVγ=一定,あるいはTVγ-1=一定というポアソン(Poisson)の法則
も成り立つ。
(証明) ΔU=-PΔVは,nCvΔT=-PΔVを意味する。
PV=nRTなのでP=nRT/Vより,CvΔT/T+RΔV/V= 0 となる。
これを積分すると,CvlogT+RlogV=一定: TVR/Cv=一定となる。
そして,R/Cv=(Cp-Cv)/Cv=γ-1により,これはTVγ-1=一定である。
さらに,T=PV/(nR)であるから,PVγ=一定とも書ける。(証明終わり)
①サイクル(cycle)
サイクルとは最初と最後で自分自身に何の物理的変化も残さない過程,
またはその過程を行なわせる機関をいう。
②トムソン(Thomson)の原理
一様温度の1つの熱源から熱を奪って,それに等しい仕事をするサイクル
は存在しない。
③クラウジウス(Clausius)の原理
低温の物体から,高温の物体に熱を移動するだけのサイクルは存在しない。
④トムソンの原理とクラウジウスの原理は全く等価である。
すなわち,もし②が誤りなら高熱源1からQ1なる熱量を奪って,それに
等しいWの仕事をするサイクルC1がある。
一方,その仕事W=Q1によって低熱源2からQ2の熱を奪って
高熱源1にQ2+W=Q2+Q1の熱を与えるサイクルC2が存在する
から,サイクルC1+C2は結局低熱源2から高熱源1にQ2なる熱を与
える以外何の変化もない1つのサイクルである。
これは③が誤りであるという結論に導く。
同様に③が誤りなら②が誤りということも示すことができる。
⑤ 熱力学第2法則
②と③の原理を熱力学第2法則,または第2種永久機関を作ることが
不可能である法則という。
⑥カルノーサイクル(Carnot-cycle)とエントロピー
nモルの理想気体を温度T1の高熱源に接触させながら体積V1
からV2に等温膨脹させ,次にV2からV3に断熱膨張させる。
低温T2になったところで,熱源に接触させてV3からV4まで等温圧縮
し最後にV4からV1まで断熱圧縮させる。
このサイクルをカルノーサイクルという。
このとき外界は最初,熱Q1=-W1=nRT1log (V2/V1)を獲得し,
次にはQ2=0 で,かつ -W2=nR(T1-T2)の仕事をされる。
次に,-Q3=W3=nRT2log (V4/V3)の熱を獲得し,最後にQ4=0
でW4=nR(T1-T2)の仕事を受ける。
T1V2γ-1=T2V3γ-1,かつT1V1γ-1=T2V4γ-1に注意すれば,
このサイクルで系が外界にした仕事の合計は,W=-W1-W3
=nR(T1-T2)log (V2/V1)であることがわかる。
他方,"はじめに外界が系からもらった熱量=高温熱源が失った
熱量"はQ1=nRT1log (V2/V1)である。
そこで,効率はη=W/Q1=(T1-T2)/T1であることになる。
このように,熱Q1をもらっても,そのうちQ3の分は捨てられなければ
ならない。これが第2法則の本質である。
η=(Q1-Q3)/Q1=(T1-T2)/T1であるから,結局,カルノーサイクル
ではQ1/T1=Q3/T2であることがわかる。
もし,カルノーでないサイクルで高温からQ1を取って低温にQ3を移し
仕事Wをしても,W=Q1-Q3である。
しかし,このときカルノー逆サイクルで低温からQ3を取ってこれを
高温に移すとしたときに必要な仕事をW'とすれば,高温はQ'=Q3+W'
の熱をもらう。
すると,結局,高温が失った熱はQ1-Q'=W-W'である。
このW-W'はサイクルで熱が全て仕事に変わった場合だから,
トムソンの原理によればこれは決して正ではない。
つまりW-W'≦0 である。
故に,Q1≦Q'( W≦W' )であり,効率η'=W'/Q'については
η=W/Q1より,必ずη≦η'であることになる。
これは,η=1-Q3/Q1でη'=1-Q3/Q'で,Q1≦Q'であるからである。
つまり,カルノーサイクルのような可逆サイクルでは効率が最大になる。
こうして,カルノーサイクルにより,温度の定義が,1つには最大効率の
熱量比という形で明らかとなったわけである。
そして,一般に可逆サイクルではQ1/T1-Q3/T3=0 であるから,常に
もらう熱量Qを正とし,失う熱量を負とすればサイクル全体では
ΣQ/T=0 となることがわかる。
これを,細分化すれば,可逆過程ではΔS=ΔQ/Tなる式で定義
される量Sはサイクルで保存する量で,これはエントロピーと名付けて
定義できる。
もしも,不可逆サイクルなら,サイクル合計ではΣΔQ/T<0 となる
からサイクルでない微小過程で考えると,ΔQ/T<ΔSとなる。
また,もし考えている系が孤立系:つまり断熱で外界と熱も仕事も
やりとりしないならばΔQ=0 であるから,0=ΔQ/T≦ΔSより
一般にΔS≧0 となる。
すなわち「孤立系ではエントロピーは減少することはない。」という法則
が成り立つ。これをエントロピー増大の法則という。
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