基礎物理学講義②(波と音と光)
「波,特に音と光」
(1)波(wave)とは?
流れのない池に小石を投げ込むと,小石が落ちた点を中心として波紋が周囲に広がってゆく。
しかし,このとき水面に浮かんでいた木の葉があったとしてもそれはその場所で上下に振動するだけで波紋とともに移動することはない。
つまり,この波紋は水そのものが広がっているのではなく単に水の振動が伝わって広がっていることがわかる。
このように振動などが周囲に伝わっていく現象を波または波動という。
波の数学的定義は次のとおりである。
ある時刻 t=0 に y= f (x)という形の曲線で表わされるパルスがあったとして,このパルスが時刻 t には元の位置よりも右にvtだけ平行移動されたとすると,その関数形は y=f (x-vt)となる。
このように,速度vで形が伝わってゆく現象を波というのである。
特に,(x-vt) を波の位相と呼び,v を位相速度という。
また,この曲線形を波形と呼ぶ。
波には力学的な波(たとえば音)と力学的でない波(たとえば光=電磁波)がある。
その大きな違いは,力学的な波というのは必ず媒質が必要であるが,"電磁波=光波"は真空中でも存在し,媒質は必要ないことである。
かつては「電磁波=光波」も力学で説明しようとしたため,媒質としてエーテルという架空の物質を想定していた。
力学的な波は"媒質の圧力によって伝わる波=縦波"と媒質のずれ応力=まさつで伝わる波=横波"とこれらの組み合わせによる波があり,圧力やまさつ応力などの弾性により媒質が振動することによって伝わってゆくので弾性波とも呼ばれる。
したがって,「力学的な波=弾性波」の一定の位相速度 v とは媒質に対する相対速度であり,観測者に対して媒質の風が吹いていれば,観測者にとっての位相速度は媒質に対する位相速度に風速を代数的に加えたものとなる。
これに対して媒質のない光の位相速度は媒質とは無関係な各観測者に対する速度である。
(2)正弦波と波長,振動数、波数
特に波の形が,正弦関数 y=f (x)=Asinkxの形をしている場合:y=f (x-vt)=Asin{k(x-vt)} を正弦波という。
このとき波の隣り合う山と山の距離を波長(wave length)といいλで表わす。これはkλ=2πであることを示しているのでk=2π/λである。kあるいは1/λを波数(wave number)という。
また,ある座標がxの固定位置で,1秒間に(山+谷)が現われる回数を振動数(frequency)といい f で表わす。
たとえば,x=0 では y=-Asinkvt となり,周期をTとすると kvT=2πで, f =1/Tなので, f =kv/(2π)=v/λと書ける。
そこでy = sin {2π( x /λ-f t)} と書ける。
(3)波の干渉とうなり,重ね合わせの原理
通常のバラバラに移動している波でも,それらがある点をある時刻に通過するとき,全体として合成された波は結局それらを単にベクトル的に加えたものとなる。これを「重ね合わせの原理」という。
一般に,バラバラに移動している波を合成してもそれらは振動する向きも進行方向もバラバラであるから目立った現象は見られない。
これに対して,進行方向も振動する方向も同じであるが位相だけが違うような波達を合成すると,例えば振幅が同一である2つの波が半波長だけ位相がずれていれば完全に波は打ち消しあってしまう。
つまり,光なら真っ暗になり音なら無音になる。
逆に位相がまったくずれていないなら,振幅が2倍に強調される。光なら明るくなり,音なら2倍の音量になる。
こうした現象を波の干渉という。
干渉する波同士を"コヒーレント=可干渉"な波といい,そうでない波をインコヒーレントな波という。
通常の飛んでいる光達はほとんどインコヒーレントで,だからこそ,影がない限り明るさはどこでも同じであって,まばらにはならないのである。
もしも,部屋の中の光達の位相が,完全に統計的に逆相関,すなわち,相関係数が-1 なら,元々バラバラの光達なので部屋は真っ暗になるが,そうはならないのは統計的に無相関(相関係数がゼロ)がほぼ成り立っているためである。
一方,1つの光源から出た2つ以上の光線などは,コヒーレントであって干渉しやすい。
干渉を数式で表わすと次のようになる。
y1=Asin(kx-ωt+α)で表わされる波と,y2=Asin(kx-ωt+β)で表わされる波とを重ね合わせると,y1 + y2=2Acos{(α-β)/2}sin{kx-ωt+(α+β)/2}となるので,たとえばα=βなら振幅は2Aになり,α-β=±πなら振幅はゼロになる。
一方,振動数 f1 と f2 がわずかに異なる2つの波,つまり角振動数ω1とω2がわずかに異なる場合には,y1=Asin(kx-ω1t+α)で表わされる波とy2=Asin(kx-ω2t+β)で表わされる波とを重ね合わせることになり,これは干渉ではなく,うなりという現象になる。
y1 + y2=2Acos{(ω1-ω2) t/2+(α-β)/2}sin{kx-(ω1+ω2)t/2+(α+β)/2}となって,Δf≡f1-f2 とおけば振幅項が 2Acos{πΔf t +(α-β)/2}となるので,振幅の絶対値が周期 (1/Δf ) で振動することになる。
これをうなりという。
つまり,うなりの振動数は元の2つの波の振動数の差に等しい。
電波で信号を送るときには信号が低周波のうなりに相当し,高周波の方は搬送波と呼ばれる。
合成波の中から"うなり成分=信号"を取り出して,不要な搬送波を取り除くことを検波という。
(4)ホイヘンスの原理
波の山同士など、位相が同じ点をすべてつないでできる面を波面という。波面が平面である波を平面波といい球面である波を球面波という。
点から発生した波は,その位相速度があらゆる方向について同一であるから球面波となるはずである。これに対して大きさのある物体から出た波は,いろいろな波面を持つことになる。
理想的に無限大の面から出た波が平面波になる考えられる。
ホイヘンス(Huygence)は空間を伝わる波を次のように説明した。
波が波面を形成したのち次の波面を形成するには,"今の波面の各点から無数の微小球面波が出てそれを素元波と呼び,それらの重なったものつまり包絡面が新しい波面となってゆく"というシステムになっている,としたのである。これを「ホイヘンスの原理」という。
(5)波の反射と屈折
「ホイヘンスの原理」から,波が媒質Ⅰから媒質Ⅱに入射するとき,その境界面で発生した素元波がⅠの側に進むものを反射波,Ⅱの側に進むものを屈折波といいこれらの現象を反射,屈折という。
一般に,媒質Ⅰと媒質Ⅱでは波の位相速度は異なると考えられるが,ⅠとⅡで異なるのは空間の性質であって時間が異なるわけではない。
そこで速度の異なる原因は振動数ではなく波長である。異なるのは波長であって振動数は屈折によっては変化しない。
反射では速度,波長も変化しないので「入射角=反射角」である。これを反射の法則という。
一方,屈折では入射角をi,屈折角をrとしⅠ,Ⅱでの波の位相速度を,それぞれv1,v2とすると,n=sini/sinr=v1/v2=λ1/λ2=n12と書ける。
このn≡n12を媒質Ⅰに対する媒質Ⅱの(相対)屈折率という。そしてn=sini/sinrという性質を「スネル(Snell)の屈折の法則」という。
(6)音のドプラー効果(Doppler effect)
静止している観測者に近づいてくる電車の警笛は電車自身の警笛よりも高い音(振動数の大きい音)に聞こえ通過して遠ざかる電車の警笛は逆に低い音(振動数の小さい音)に聞こえる。
これを音のドプラー効果という。これは次のように説明できる。
音の周期を T=1/f, 音速をcとする。さらにある時刻に音源と静止観測者の距離をLとし,近づく音源の速さをvとすると,その時刻に発せられた音の山はL/cの後に観測者に届き,次の山は T+(L-vT)/cの後に観測者に届く。
よって観測者の感じる周期はT'=T-(vT/c)=[(c-v)/c]Tとなり,その振動数は, f'=(1/T')=f[c/(c-v)] となる。さらに観測者も速度uで音源に近づくならば,分子の音速の方が(c+u)となるので,振動数は f"=f[(c+u)/(c-v)] となるのである。
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