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2006年4月23日 (日)

くりこみ回避のアイデア

 3/20の記事「私のライフワーク」でも述べましたが,私が理論物理学の素粒子論の研究で主たる目的としているのは次のようなことです。

 まず,ファインマン(Feynman),朝永,シュヴィンガー(Schwinger)からダイソン(Dyson)に始まるくりこみ理論における発散の正則化という手続きを何とかうまく解釈,または計算して,発散の困難を除去できる,あるいはくりこみを回避できるようにしたい,ということです。

 そして,さらに重力場を量子化して一般相対論と量子論を融合した後に真の統一理論を完成させたいということが究極の目的ですから,ある意味ではとても大それたことですね。

 これらは微妙にからみあっており,両者を同時に解決できる試みとして今注目しているのは,超弦理論(超ひも理論)です。

 これは,最初強い相互作用のs-チャンネルとt-チャンネルの交叉対称性や高エネルギー極限での挙動などに着目して,これらに対するS行列理論やレッジェ軌跡(Regge)の理論を説明するために考案されたヴェネツィアノによる双対(そうつい)共鳴模型に始まるものです。

 今では,この理論は強い相互作用だけではなく,全ての素粒子基本相互作用を巻き込む大統一理論の資格を持つ可能性があるとされ,ボソンとフェルミオンの超対称性などを加味して,最後には第2量子化して弦の場の理論として定式化されるものです。

 超弦理論は,まだまだ,発展の余地があるらしいですが,今のところ,これを実験的に検証することは不可能な理論ですね。

  私はといえば,現在は理論の研究とはおこがましく,1999年から仕事の合間にGreen,Schwarz,Witten著の「Superstring theoryⅠ,Ⅱ」を細々と読んでいて,それが終わったらポルチンスキー(Polchinski)を読む予定の段階に過ぎず,まだまだ気の長い話です。

 超弦理論については,トポロジーや群の表現論など色々と私には不明,知見不十分な部分を学びながら読んでいるのでなかなか進みません。まあ,そろそろ勉強と研究を並行してやらないと残りの自分の寿命も怪しくなってきました。

   ともあれ,くりこみの回避,あるいは発散の除去について学生時代に考えていたアイデアの1つは,摂動論におけるくりこみ級数というのは,べき級数展開の中心の取り方がおかしいのではないかというものでした。

 すなわち,ベキ級数の計算対象の点が収束半径の中に入ってないから発散するのであって,くりこむという操作は解析接続によってベキ展開の中心をずらすことに相当するのではないかと考えました。

 簡単にいうと次のようなことです。

 例えば複素数zのべき級数においてzの絶対値が1より小さいとき,つまり|z|<1のときには∑n=1+z+z2+z3+...=1/(1-z)となり,左辺の無限級数は実際に右辺に収束します。

 しかし,例えばこの等式でz=2とすれば左辺は発散するのに対し,右辺の方はちゃんと存在して-1になります。

 もちろん,z=2は条件|z|<1を満たさないので,上の級数和の等式はz=2では成立しないのですが,それは細かく見るとz=2が原点が中心のベキ級数の収束半径である半径1の円の中にないことが原因です。

 したがって,zをz → (z-5/2)として右辺=1/(1-z)を示すべき級数の中心を 0 ではなく 5/2 に変更して,zの代わりに(z-5/2)のベキ級数展開にすることを考えれば解決されます。

 すなわち,1/(1-z)=-1/{3/2-(5/2-z)}=(-2/3)[1/{1-(5/3-2z/3)]と変形すれば, u≡5/3-2z/3=(-2/3)(z-5/2)と置くことにより,z=2のときu の絶対値が1より小さくなってz=2はuのベキ級数の収束半径の中に入ります。

 つまり,この変数変換でzが|z|<1の範囲に入っていなくても,1/(1-z)=(-2/3)(1+u+u2+u3+...)とべき級数展開できるようになります。この式では z=2のとき,u=1/3となって確かに (-2/3){1/(1-u)}=-1となります。

 こうした手続きを函数論(複素関数論)では解析接続と呼びます。

   だから,ゼータ函数の表現などでよくやるように,1+z+z2+z3+...=1/(1-z)にz=2を代入して形式的に,1+2+4+8+16+...=-1などと書いたりすることがありますが,この式自体は左辺が発散するので成立しません。

 これはもちろん正しい等式ではありませんが,くりこみをしたという意味に取るなら,あながち間違いではない表現であると言うこともできます。

 しかし,よく考えてみると,摂動のくりこみ級数の場合は第1項の1はさておき,第2項からは各項自体がそれぞれ全て無限大に発散してしまいますから,摂動級数の中心をずらすというアイデアではダメだということがすぐにわかります。

 ところが,運動量切断や正則子(regulator)の方法でのファインマン積分のフーリエ積分におけるカットオフ(切断周波数),つまりエネルギーや運動量の上限をΛとしたとき,もしも散乱振幅の摂動展開級数が切断Λのべき級数として,1-Λ+Λ2/2!-Λ3/3!+Λ4/4!-...=∑(-Λ)n/n!と表わされるなら,切断Λが有限の下で散乱振幅の近似値はexp(-Λ)となります。

 この場合は切断ΛがΛ→ ∞ のとき,級数の第2項以後の項は各々が全て発散するにも関わらず,散乱振幅を与える総和exp(-Λ)はむしろゼロに収束して有限値になることがわかります。

 このことから摂動級数の中心をずらすのではなく,級数展開を考えずに直接,総和としての散乱振幅の値を求める方法を考えた方がいいのではないかという着想も当時思い付きました。

 これは,くりこみという操作が必要な高エネルギー極限の紫外発散の問題に対しても,無限個のゼロエネルギー光子(赤外光子)に対して生ずる低エネルギー極限での赤外発散を処理する方法が適用できるのではないか?と考えた結果です。

 赤外発散の場合はゼロエネルギーの実光子の寄与もゼロエネルギーの仮想光子の寄与も共に無限大に発散するのですが,それらは符号が正反対なので相殺することで困難が解消されるのですね。

 もう1つのアイディアは,紫外発散が生じる原因はエネルギー運動量の極限である切断Λが無限大になることに起因しますから,運動量切断Λを有限に保てば発散は除去されることに着目します。

 運動量空間は座標空間に対し,固体物理学でいう結晶格子空間の逆格子空間,つまり座標格子の逆数で作られる空間に相当しているので,これを利用することを考えるものです。

 つまり,粒子のド・ブロイ波長をλとすると,運動量pはp=h/λと書けることや,ハイゼンベルクの不確定性原理:ΔpΔx ~ h/2を考えれば,運動量pが座標 x と互いに相補的な量であるということがわかります。

 このことから,運動量の上限(p≦Λ)を与える切断Λが有限なことΛ<∞ は,ゼロでない臨界波長,または切断波長λc≡h/Λが存在して,λ≧λc>0 が成立することを意味することがわかります。

 これは座標空間が,実はこれ以上分割不可能な格子間距離の限界Δx ~λc を持つ格子で形成される格子空間であり,粒子が存在可能なのはその格子点のみである,と仮定することに相当します。

 これが真であれば運動量空間での"フーリエ積分=ファインマン積分"は,その積分の上境界が有限なので有限な台を持つ積分となります。

 一方,この運動量表示の計算の逆変換である座標空間での位置表示での積分は連続的なフーリエ積分ではなくて離散的な格子点についての和であるフーリエ級数になります。

 つまり,この場合には座標空間は可分なだけではなく,格子空間のように,粒子が存在できる点がデジタルで離散的であるとする必要があります。

 しかし,こうした格子空間を想定することは基本的に空間の一様性を維持しますが,座標系の方向を制限するため空間の等方性を破ってしまいます。逆に等方性を維持しようとすると,一様性が犠牲になるという困難を導きます。

 つまり,普遍的な法則であるエネルギー・運動量保存則か角運動量保存則のいずれかが破れることになって,単純な方法では不都合が生じるのですね。

 そこで,必然的に"第3量子化",つまり座標空間の量子化というアイデアに到達します。

 つまり,エネルギー量子としてプランク定数hがあるように,これ以上は粒子が接近不可能な臨界距離を位置間隔の量子のようなもの考えて,空間の一様性も等方性も期待値としては維持できるランダムな格子点位置を与えるある種の確率波の理論に到達します。

 これに関するものとしては,既に湯川秀樹や片山泰久の素領域理論など非局所場の理論があり,また中野董夫の素粒子の剛体模型などとも通じるところがありますが,非局所場は相対論的な微視的因果律の問題との整合性がきわめてむずかしい問題です。

 もっとも,先に私が現在勉強中であることを述べた,今流行の?超弦理論(超ひも理論)はこれらの因果律の問題を完全にクリアできているらしいです。

 しかも「ひも=弦」というのは点ではなくて元々長さを持つ模型,つまりある種の非局所場の模型としても注目すべきもので,これは上述のように有限な切断に相応しますから紫外発散の問題もクリアされることが期待されます。

  次にもう1つ考えたのは,重力場によってくりこみを回避することです。

 古典論の1つ一般相対論によれば,例えば電子は質量があるのに大きさはゼロ,つまり点粒子ですから,明らかにシュヴァルツシルト半径( シュワルツシルト半径)は電子半径よりも大きいです。

 したがって,電子に限らず構造を持たない素粒子であれば,これらは古典的意味では全てブラックホールになってしまいます。

 これを回避するには量子論に頼るしかないわけで,一応ド・ブロイ波長程度の大きさがあれば,粒子は古典的意味でのブラックホールにはなりません。

 しかし,運動量がその切断Λに近いほどの高エネルギー極限,あるいはこれに相応するシュヴァルツシルト半径よりもはるかに小さいような近距離極限では,非常に弱い力であるとはいえ重力の影響を無視することはできないだろうと考えられます。

 ,つまり素粒子自身の非常な高エネルギーによる空間の曲がり等は無視できないだろうと考えられます。こうした"空間の曲がり=計量(metric)"の効果によって発散が回避できる可能性を考えたわけです。

 これは,プランクエネルギー(プランク距離)程度では古典論たる一般相対論ではなくて,量子論を考える必要があるだろうという現在の見解に一致していると思われます。

 学生時代は色々と考えても,それを理論展開して発展させようというほどの基礎的素養や時間的余裕もなく,結局,これらは単なるアイデアとしてあっただけで,就職と共に忘れて埋もれていきました。

 もっとも,実質的にはほとんどオリジナルな要素などなくて,ただ単に他人のアイデアを自分のそれと勘違いしていただけかもしれませんが,いずれにしろ,問題は未だ明確な解決を見ていないので,結局,様々な可能性を求めて今は超弦理論(超ひも理論)に集中しています。

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                                  TOSHI

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