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2006年5月22日 (月)

エルゴード問題と次元

 

 昨日書いた「ブラウン運動とフラクタル次元」の中で書き

 漏らしていた重要な話題を,本日思い出したのでここに書く

 ことにします。

 

 それは統計物理学において,"等重率の原理とか等確率の原理

 (principle of equal a-priori probability)"とか呼ばれて

 いる話題です。

  統計物理学,あるいは統計力学で現在明確に確立されているのは,

  平衡系の統計力学というものです。

 これは,熱平衡状態にある巨視的な熱力学系の問題を,分子論的,

 つまり微視的な多数の分子の運動の平均値という見方から統計的

 分布問題として見直す物理学を意味するものです。

 例えば,たった1リットルの体積の容器中に酸素を常温,常圧で

 閉じ込めたとしても,その中にはおよそ1022個もの酸素分子が

 あるわけです。

 そして,それら分子約1022個の全てが容器の壁に衝突する衝撃

 総和を壁の面積で割って,それをさらに非常に長時間にわたって

 時間平均したものを,巨視的量である壁への圧力と同一視します。

 

 しかしながら,圧力など熱物理学の巨視的量を平均量として求める

 ため,容器の中の巨大な個数の分子の各々に関して,古典力学なら

 ニュートンの運動法則(Newton's laws of motion)に従う軌跡を

 実際に追跡計算して,それらの非常に長時間の平均から平均値を

 得ることは超大なコンピュータを用いても非常に困難なことです。

 

 (※しかし,最近ではコンピューターの性能の急速な進歩と相俟って

 実際にこうしたシミュレーション計算を試みる「計算物理学」なる

 分野もあるらしいですが。。。)

 ところが,統計物理学では,"等重率の原理"という基本原理があり

 それに従って統計平均を取ることで巨視的平均値を計算できると

 考えます。

 これは,「長時間の間に各分子はそれぞれ全ての可能な軌道を

 一様に取る。」という原理です。

 

 つまり,今の場合なら「長時間のうちに,容器内の個々の分子

 は総分子数が一定で分子の総エネルギーが系のこの温度での

 内部エネルギーに等しいという条件を満たす限り,運動方程式

 の可能な全ての解の軌道を取る。」という仮定を採用した原理

 のことです。

 この仮定は実は巨視的な量の「長時間平均」は分子全体の軌道

 の作る「相空間平均」と一致する,ということと同じ意味で,

 これを数学的には「エルゴード仮定(エルゴード仮説;

 ergodic hypothesis)」と呼び,この仮定が実際に成立するか

 どうか?を研究する問題を「エルゴード問題」といいます。

 

 こうした問題を考える背景には,長時間平均を求めるよりも相空間

 平均を求める方がはるかに簡単な計算で済む,という事があるわけ

 です。

 

 ただ,N個の分子が描く相空間の軌道(位置と運動量)は時間という

 ただ1つのパラメータの6N次元空間への写像です。

 ですから,その像もたった1次元のはずなのですが,相空間自身

 の次元は位置と運動量合わせて6N次元です。

 そして,エネルギーが一定であるという条件が1つ入った超平面

 は(6N-1)次元ですから,いずれにしろ全く次元が合いません。

 まあ,背景となる空間が何次元であろうと,軌道というからには像

 は常に1次元であるわけです。

 

 もちろん,古典力学でなく量子力学であれば,像を構成するのは

 古典軌道ではなくて状態である,ということになりますが,次元

 が合わないということに変わりはないでしょう。

 普通に考えると,例えばこの3次元空間の世界での普通の質点

 の軌道を考え,どんな1つの小さい容器を取ってきて,その中に

 1次元の軌道のどれだけ莫大な量を集めて入れても,この容器

 を満たすことは不可能です。

 そこで,前の記事で述べたフラクタル次元,ハウスドルフ次元

 (Hausdorff次元),またはペアノ曲線(Peano曲線)を考えれば,

 この矛盾は解消されると思ったわけです。

 実際,軌道の長さは無限大で,総本数も無限大個あると考えても

 いいわけですからね。

 まあ,確かにエルゴード仮説が成立すれば,「等重率の原理」が

 成立するはずです。

 したがって,現在の平衡系の統計力学の成立する基礎原理の成立

 が保証されるわけです。

 実際,今の統計物理学で熱力学をうまく説明できているわけです

 から問題はないのですが,少し大げさかな?という気もします。

 というのも,先の例のような小さい容器の中でも,分子が全ての

 軌道を尽くしてその容器全体を覆って塗りつぶしてしまうまで

 には,恐らく宇宙の始まりから今までを1000回繰り返すよりも,

 はるかに長い時間がかかることがわかっているからです。

 

 これについては,ポアンカレの再帰定理

 (Poincare' recurrence thorem)におけるポアンカレ周期

 (Poincare' period)について書かれている文献を参照して

 ください。

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投稿: BlogStation | 2006年5月23日 (火) 00時31分

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