電気伝導(つづき1)(ジュール熱)
「オームの法則」を述べたついでに,「電気が熱に変わるのは何故か?」という「ジュール熱の問題」も微視的に考察してみましょう。
1つの電荷eに対する運動方程式を与えるために位置xでの電位をV(x)とすると,これは単位電荷当たりのポテンシャルです。一様電場Eの向きをx 軸に取って問題を1次元,つまり x 座標だけで考えるとE=-dV/dx と書けます。
したがって,電場Eがあって何の抵抗もないときの運動方程式は電荷の質量をm,速度をvとしてd(mv)/d t =-e vdV/dx となります。つまり抵抗がないと電流を与える電荷の速度は一定ではなくて加速されるのですね。
そして,この運動方程式の両辺に v=dx/dtを掛け,v(dv/dt)=dv2/dt,およびv(dV/dx)=(dV/dx)(dx/dt)=dV/dtなる等式を用いると ,(d/dt){(1/2)mv2+eV}=0 となり,保存力場に対する通常の力学的エネルギー保存則が得られます。
これの左辺は,もちろんこの電荷が持っている力学的エネルギーの単位時間当たりの増加分です。このときは抵抗がないため,熱などのエネルギーの散逸はありません。
しかし,実際は緩和時間をτ(秒)として,抵抗となる金属の中での運動方程式は,d(mv)/dt=-edV/dx - mv/τですから,右辺には位置x によって決まる力だけでなく速度 v に比例する抵抗力の項があります。
力学的エネルギーの時間変化の方は,やはり両辺に v= dx/dt を掛けて求めるわけですが,(d/dt){(1/2)mv2+eV}=-mv2/τとなり,例えば平衡状態,すなわち,d(mv)/dt=0 (加速度がゼロで電荷の平均速度vが一定)の状態となっても,(d/dt)(eV)=-mv2/τとなります。
すなわち,電荷の速度が一定に達し,運動エネルギーが一定に保たれる平衡状態でも,いわゆる位置エネルギーは右辺のような項の形で熱として散逸していくことになります。
つまり,抵抗があるというのは,外力が保存力場どころか位置だけの関数でさえなくて,何らかの原因で電荷がでたらめな方向へと散乱され,その散乱電荷が持去る運動エネルギーの総和という形で力学的エネルギーが損失を蒙ることを意味します。
そしてそのエネルギー損失を与えるのは速度に比例する抵抗という形で表現され,巨視的にはそれが「ジュール熱」として現われるというわけです。
そこで,力学的エネルギーのほかに熱エネルギーの存在をも考慮するならば、先述のエネルギーに対する発展方程式は「単位時間当たりの力学的エネルギーの減少分(増加分)が熱エネルギーの増加分(減少分)に等しい。」という「全エネルギーの保存法則(熱力学第一法則)」を表現しています。
具体的には電位をV(x) =-Ex+(定数)とするならば (d/dt)(eV)=-eEvと書くことができます。したがって,1つの電荷の単位時間当たりのエネルギーの損失の式:(d/dt)(eV)=-mv2/τは-eEv=-mv2/τと書けます。
一方,単位体積当たりの物体中の電荷eの個数をnとすると,電流密度J=nevと書けます。
そこで単位体積当たり,単位時間の損失はnmv2/τ=JEとなり,断面積がS長さがLの抵抗なら,その体積であるSLを掛けて電流の定義: I=JS,電圧の定義:V=ELを用いると,IV =Nmv2/τという表式になります。 N は抵抗の全体積中の電荷 e の個数です。
そこで,抵抗内の全電荷をQ=Neと書くならば,全体積中のN個の電荷による単位時間当たりの損失:Nmv2/τとして与えられる「ジュール熱,あるいは消費電力」は IV=Qmv2/(eτ) なる表式で表現されます。
ここで両辺の単位は,W(ワット)=(J/sec)です。
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