気体の浮力(アルキメデスの原理)
「浮力」というのは小学生など比較的素養が無い人に説明するなら,「上下の圧力差が原因である。」という説明より,次のような説明の方が簡単に理解されると想像されます。
これは,例えば水中の物体にかかる浮力なら,「もしも物体の水中部分をくり抜いてその部分を全部水に置き換えると,それは周りの水と同じように支えられて全く動かないだろう。」という説明です。
「浮力=物体が押しのけた流体の重さ」というのが古来からある「アルキメデスの原理」ですが,結局はその浮力の起源は上下の圧力差であるというのが正確な説明であるだろうとは思います。
空気のような気体で考えると,上下の圧力差というのは,もちろん,下から衝突する空気分子の衝撃のほうが上からのそれより大きいから生ずる,ということになります。
空気の分子量をM,空気の密度をρとすると,P=ρRT/M というのが気体の状態方程式です。
しかし,通常,上下に絶対温度 T の差はないわけだし,上からも下からもぶつかる空気分子の速度 v は√Tに比例するのですから,どうして圧力差が起きるのか?不思議です。
1つの分子の質量は同じであって,1つ当たりのぶつかる速度が上下で同じだというのですから,圧力差があるのは衝突する分子の個数のほうに上下差があるということしか考えられません。そうです,密度ρが上下で違うのですね。
しかし,一般に重力の効果は∂P/∂z=-ρgという静力学平衡の式が成立しているから,密度一定なら物体の上下で圧力差ΔP があるのはΔP=-ρgΔz という式が成立するからであるということになります。
この考えでは,密度はほぼ一定であるから押しのけた流体の体積 Vと同じ重さのρgV が浮力であるという話ですから,上述の密度が違うからだ,という考察とは一見矛盾しているように見えます。
しかし,T が一定であるという仮定のもとで,気体の状態方程式 P =ρRT/M と静力学平衡∂P/∂z=-ρg を連立させると,dρ/dz = ーMgρ/ RT という微分方程式が成立し,これを解くとρ=ρ0 exp(-Mgz / RT)となります。( ただしρ0 を z=0 での空気の密度とします)
これによると気体の場合にも,密度ρについて上下差Δρ=-ρ0 Mg / RTが生じているので,やはりΔP =ΔρRT/M =-ρ0 g Δzとなります。
結局はρが ρ0 に変わるだけで,矛盾は生じないということになりますね。つまり,「密度がほぼ一定である」という仮定のほうがおかしかったのです。
しかし密度がρ=ρ0 というのは地上 z=0 付近の話だけで,気球が飛ぶような高さでは密度差だけでなく,上下の温度差ΔT によって1つの衝突分子の速度 v に差がある,ことも圧力差の原因になります。
つまりΔP =ΔρRT /M+ ρRΔT/Mですね。
まあ,結局は∂P/∂z =-ρgで Δz という微小な高低差程度ではρは一定 としてよいのでΔP=-ρgΔz であるとするのが正しいわけです。
でも,微視的に,つまり分子論的に考察するならば,浮力を生じる圧力の差の要因としては結構いろいろと考えるに足りる内容があるのではないか,ということが言えます。
水のような液体では理想気体の状態方程式 P=ρRT/M は成立しなくて,ρ=一定としてよいので,∂P/∂z=-ρg からそのままΔP=-ρ gΔzだけで解釈して差し支えないと思います。
つまり,圧縮性流体と非圧縮性流体で浮力の解釈は違っているのですが,結果的にどちらの解釈でも,圧力差に起因するという説明は同じであって,とにかく共通の法則であるアルキメデスの原理は成立する,ということになります。
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