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2006年6月19日 (月)

電気伝導(つづき2)(衝突の正体)

 @nifty物理フォーラムで私と一緒にサブマネージャーをやっている高校の先生で友人(と思っている)かんねんさんから,「電子が金属の原子から抵抗を受ける(=衝突する)ことが抵抗の正体であると本には書いてありますが,陽イオンと電子の衝突って,どんな感じなんでしょう? というのは,衝突による斥力的イメージではなく,異符号ゆえの引力的な力を想像してしまいます。これをどう理解したらいいのでしょうか?」

  という質問を受けたのですが,それに対して私が答えたコメントがあまりにも不親切だったのでその内容を大幅に修正したもの,を書きます。

  まず,量子論で電場など外力がない場合に,固体の中の電子は自由電子近似をするとしても,実は弱いイオンの引力によって体積Vの中に閉じ込められており,Vが有限であるために,1つの電子の運動量(したがって速度)はどんな値でも取れるわけではなくある離散的な値しかとれません。

 そしてこれら取り得る準位の1つ1つに「Pauliの原理」とスピン自由度によって下から2つずつ電子を詰めていって丁度,その固体中の電子が全て収まったときの最大のエネルギーを「Fermiエネルギー」といい,この最高準位を「Fermi準位」といいます。

 そして,この電子準位の全体を運動量ベクトル,またはそれをPlanck定数hで割った波数ベクトルの集まった3次元空間で考えると,これは1つの球になりますか。これを「Fermi球」と呼びます。

 そして,球ですから球対称であるが故に,電場のない状態では平均の運動量はゼロです。つまり,電場がなければ自由電子の平均速度はゼロなので電流もゼロだということができます。

 しかし,固体の中での電子を自由電子で近似するのには無理があり,格子構造を持った束縛電子で遮蔽された周期的な陽イオンの引力ポテンシャルを受ける電子波であることを考慮する必要があります。

 周期的引力ポテンシャルの摂動を受けるため,電子の取るエネルギー準位は,その値を取ることが可能な「許容帯」という「エネルギーバンド」の領域と,その値を取ることが不可能な「禁止帯」という小さなギャップ領域の繰り返しという形態をとることになります。

 そうした自由電子に代わる固体の結晶格子中の電子を,その理論を初めて提唱した人の名前にちなんで「Bloch電子」と呼び,こうした理論を「バンド理論」といいます。

 固体内のBloch電子を下の準位から順にFermi準位に達するまで許容帯の中に詰めてゆきます。そうすると1つのケースとしては,いくつかのエネルギーバンドは完全に占有され,他の全ては全く空であるようなそれになることがあります。

 「"占有バンド=充満帯"または価電子帯」の頂点と,すぐ上の電子がまったく空の「非占有バンド」との"エネルギー差=禁止帯の幅"をエネルギーの「バンドギャップ」と呼びます。

 このギャップが絶対温度 T にボルツマン(Boltzmann )係数Bを掛けた値に比べて大きい場合,Fermi準位付近の移動できる電子の運動エネルギーはBT 程度なので,すぐ上の伝導帯までジャンプできませんから,この固体は「絶縁体」となります。

 一方,ギャップが小さいと,ある温度では電子が充満帯から空の許容帯へとジャンプして,その電子は伝導可能となり,他方充満帯のほうではそのジャンプして欠けた電子の孔が正孔という正電荷のキャリアとなる,などのために「(真性)半導体」になります。

 もう一つのケースは,最高準位であるFermi準位が,ある一つの許容帯の途中になる場合で,このときは,その許容帯の占有可能準位のうちの全部の準位が占有されているわけではなく,部分的に占有されていることになります。

 そこで,その中ではその準位付近の電子は自由に動けるので電子による「電気伝導」が可能となります。

 このとき,部分的に占有されている許容帯を「伝導帯」と呼び,こうしたケースの固体を「導体」といいます。金属はこれに相当します。

 バンド理論によると電子の占有を許された全ての準位の数は,どの許容帯でも同一であり,固体中の格子の総数=構成原子の全個数をNとするとスピンの 2つの自由度のため, 結局,1許容帯当たりの占有可能準位数は2N という偶数になります。

 一方,1個の原子当たりの価電子の個数が偶数の元素では,それを2nとすると,価電子数は全体で 2nN となり,総電子数を許容帯の占有可能状態数 2N で割り算すると, n となって余りがゼロなので占有された許容帯には電子が充満して充満帯となり空き準位がないため身動きできません。

 しかも,その上には禁止帯というエネルギーのバンドギャップがあるので,絶縁体になるか半導体になるかのいずれかで,これらは非金属になります。

 しかし,奇数の価電子を持つ場合,一般にこれは金属ですがこの場合は一番上のエネルギーではバンドが充満しないでほぼ半数の空き準位があるという部分的占有状態の伝導帯になり,自由に動けるBloch伝導電子となって金属導体となるわけです。

 このとき,エネルギー値域のバンド化による自由電子からBloch伝導電子への変化は,一見したところ電子の質量mが有効質量*に変わるというような効果だけで,実は周期的Coulombポテンシャルが全く規則的に並んでいてしかも止まっているだけでは,散乱や衝突などは全く起こりません。

 つまり,それだけでは依然として緩和時間τが ∞ のままなので,素朴な古典論で考えたイオン芯と衝突して散乱されるというような描像は誤りなのです。

  つまり,あるエネルギーを持ったBloch電子というのは自由電子とは異なり運動量固有状態ではありませんから,空間的には一定の速度で運動しているわけではありませんが,とにかく定常状態であるということが重要です。

 そこで,古典的に意味のある運動量あるいは速度の期待値は時間的には一定である,というわけです。

 つまり,自由電子と同じように古典的描像ではBloch電子も一定の速度で運動している,というわけですから,古典的「Drudeの理論」のようにイオン,またはその引力ポテンシャルで散乱されるわけではないということになるのです。

  そして,電子質量をmとしたとき自由電子ではエネルギーはE=2/(2m)なのでこれを運動量 で2回微分したときには,(1/m)となりますが,Bloch電子でもそのエネルギーを運動量で2回微分したものを(1/*)と定義して,*を「有効質量」と定義します。

 すると,電場 E があるときの運動方程式は,散乱がないなら (d/dt )(* )=e となり,有効質量は"電子の慣性質量"と同じ役割を果たすという意味があります。

 したがって,例えば"電気伝導度=抵抗率の逆数"を,自由電子近似のσ= ne2τ/mからσ=ne2τ/*に変更する必要があります。

 電場 がかかるとFermi球の原点がずれて,波数について対称でなくなるので電流がゼロでなくなりますが,それは電子の電荷をe とするとΔt の後に運動量としてeΔt だけずれる,という意味です。

 e は負ですから と反対向きにずれるのですが,それだけでは時間 t とともに電子の速度は増加しますから,一様速度にはならず次第に加速されます。

 やはり,速度が一様になるためには何らかの衝突散乱が必要です。

 衝突が起こるというのは,量子論では電子は波で電子波束が一方向に進行している状態ではなくなって,その方向に影響をこうむることを意味します。

 これは,"並んでいる陽イオンが熱などによって振動する=格子振動する",あるいは,"格子欠陥がある=不純物効果がある"というような不規則な変化がある場合で,それがないならBloch電子が散乱されて一様速度の方向が変わるというようなことはありません。

 主に「格子振動=フォノン(phonon:音子)」と衝突するのが散乱の原因ですが,結局,格子にある陽イオンが規則的に並んで止まっているだけではなく,時間的に変動することによってイオンの位置が規則的配列からずれて,その振動により電子が進路を曲げられるということです。

 その効果が引力であるか斥力であるか?ということは,私には今のところよくわかりません。

 電気的に中性の"電磁波=光子=フォトン"と電子が衝突するCompton効果のように,"格子振動という調和振動子を量子化した波動=音子=フォノン"と電子が衝突する,というイメージしか私にはありません。

 (もっともフォノンとの衝突はCompton散乱のような弾性散乱ではなく,エネルギー運動量が保存されない非弾性散乱もありますが。。(ウムクラップ(Umcrap)散乱とかという呼び名だっけ??))

 例えば極低温で電子と電子が引き付けあってCooper対を作り,結果それは電子対共鳴 としてスピンが整数のBose粒子(Boson)になるため「Bose-Eibstein凝縮」を起こして「超伝導状態」になります。

 このときの電子間引力も,静電Coulombの引力,斥力が電荷と電荷がPhoton(光子)(=仮想スカラーフォトン)のキャッチボールをするために生じるのと同じく,電子と電子のPhonon(陽イオンの格子振動)のキャッチボールに起因するというわけです。

 このように,「Phonon=格子振動波」を「Photon=光子=電磁波」のように粒子性を持った量子(quantum)として吸収したり放出したり散乱したりするものとして扱えると考えるのです。

 実際には緩和時間は運動量や温度の関数でもあり,より詳しくは「Boltzmannの輸送方程式」という偏微分方程式の一つの項で緩和時間という量を挿入定義することにしたがって決まります。

 私もまだ数年前「アシュクロフト・マーミン;固体物理学の基礎」(吉岡書店)の 4巻の内2巻目の途中まで読んだところで,途絶えているのでまだ把握していないことが多々あり,この程度の説明しかできません。

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                                  TOSHI

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