タキオンと因果律
相対論ではタキオン(超光速粒子)の存在は否定されません。
これは虚数の質量を持ち光速より遅い速度では走ることができず,
エネルギーを貰えば貰うほど速度が遅くなるという不思議な粒子
です。
これが存在すると,因果律(原因の方が結果より前:という基本法則)
が破られます。
因果律が破られる事実は具体的には次のように示されます。
まず,ある座標系,これを仮に静止系Sとします。
この系に対して,x軸の正の向きに相対的に等速度運動している系S'
を考えます。
それは宇宙船に固定された系であるとしてもかまいません。
ただし,これはタキオンではないのでその速度の大きさvは
光速cより小さいとします。
静止系Sと運動系S'の双方の時刻ゼロ(t=t'=0 )に,双方
の座標系の原点が一致する(x=x'=0 となる)ように座標系
を取ります。
そして,x 軸の正の向き(=右向き)に運動する系S'の原点に
固定されている宇宙船から,時刻ゼロ(t=t'=0 )に光速より
速いタキオン信号をこの運動系でのx軸であるx'軸の負の向き
に発信します。
この信号を原点よりも左遠方のある位置で受け取った静止S系
にいる人が,受け取ったと同時に別のタキオン信号をx軸の正の
向きに返して,最初から静止S系の原点にじっとしていた別の人
が受け取るとします。
相対論のLorentz変換を使って,これを計算すると,最後に戻した
信号が静止していた原点にいる人に到達する時刻が静止系で負
になります。
そこで,じっと原点に静止していた観測者が時刻ゼロにすれ違った
宇宙船が信号を発するよりも前に,戻ってきたタキオン信号を受け
取ることになります。
つまり,信号を発する前に信号が返ってくるという不思議なことに
なりますから,これは未来の情報が過去に伝わるという現象の例に
なっています。
これで因果律は破れます。
では具体的な計算を見てみましょう。
宇宙船の速さをv<c,タキオンの速さをw>cとして2次元
のLorentz変換で計算します。
一般的に扱うために宇宙船から発射するタキオン信号の速さを
w1,受け取ってから返すタキオン信号の速さをw2とします。
ただし,w1,w2>cです。
最初にタキオンを発信するときの位置は,原点x=x'=0 で,
そのときの時刻はt=t'=0 です。
ただし,前の説明段階でも述べたように,信号を受けて返す人の
慣性系(静止系)をS,それに対して速度vで運動し宇宙船が静止
して見える慣性系をS'として,S系の2次元座標を(x,t),
S'系での同じ点の座標を(x',t')としています。
そして,宇宙船から発信された最初の信号が左遠方の別の人に届
くまでの時間(届く時刻)を宇宙船S'系の時刻でt1'とします。
すると,届いたときの点のx'座標は,明らかにx1'=-w1t1'
です。
このとき,静止している観測者の系からみた位置での時刻は,
t1=γ(t1'-vw1t1'/c2)=γt1'(1-vw1/c2) です。
ただし,γ={1-(v/c)2}-1/2です。
そして,観測者の系からみた位置座標は,
x1=γ(x1'+vt1')=γt1'(v-w1)
です。
この時刻t1に,位置x1から速度w2で信号を返します。
この信号が原点に静止している別のS系の観測者に届く時刻を,
その原点に静止している人の時刻でt2とし,これを求めます。
x1+w2(t2-t1)=0 (原点)ですから,これに,
x1=γt1'(v-w1),t1=γt1'(1-vw1/c2)を代入
すると,γt1'(v-w1)+w2t2-γw2t1'(1-vw1/c2)=0
となります。
これを解けば,t2=γt1'{1-vw1/c2+(w1-v)/w2}
を得ます。
したがって,例えばw1>c2/vかつw2>(w1-v)であれば,
2<0 ですから,信号を発信した時刻t=0 より前に,まだ発信
してもいない信号が返って来ることになり,これは因果律を破
ってしまいます。
もしも,w1=w2=wならt2=γt1'{2-v(w/c2+1/w)}
です。
そこで,w>c2(1+1/γ)/vの条件でt2<0 になりますから,
発信信号と返信信号のタキオンの速さが全く同じであるとし
ても因果律を破ることが可能です。
w=cの臨界値,つまり信号がタキオンではなくて真空中の光
=電磁波"なら,受けて返した信号が原点に届く時刻は,
t2=2γt1'(1-v/c)であり,このt2はv<cなら正,
v=cならゼロです。
この例では,光速を超えるだけでは因果律が破られるとは限らず,
もうちょっと大きい速度のタキオンが必要なようです。
(※これはチョッと計算を間違えたかな?)
しかし,宇宙船の速度vも光速に近くなれば信号速度が光速を超
えただけで因果律が成立しないことにはなりますね。
もしも,どこかに計算間違いありましたら,ご指摘ください。
PS:ここで用いたLorentz変換は光速度不変に基づくもので,
相対論的運動学(幾何学)の式です。
力学(mechanics or dynamics)を導入せず,運動学(kinematics)
だけの話なら,議論に質量は入ってこないので虚数質量という
問題も生じません。
また,S'系のSに対する相対速度の大きさvがv<cを満たす
なら.γ={1-(v/c)2}-1/2も普通の実数です。
この例では,信号速度の大きさwについてw>cであっても,
宇宙船の速度の大きさvが超光速,つまり,v>cでない限り
はγが虚数になることはないので普通に計算できて因果律の
議論ができるのですね。
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