重力波
水素原子には,古典的には"1個の原子核=陽子の周りを1つの電子が回っている。"というラザフォード模型の描像があります。
しかし,実は電荷が加速度運動をすると電磁波を放射してエネルギーを損失するため,こうした模型では電子は運動エネルギーを失ってほとんど瞬時に原子核と一体化してしまい,原子は安定には存在できないことになります。
そこで,水素原子として安定に存在できるためには,電子が原子核からある距離,つまり電子軌道の半径がボーア半径と呼ばれる値 a Bにあれば,もはや"電磁波=光"を放射しない,というような"特別な条件=量子条件"を設けることなどが必要となりました。
これによって,前期量子論の時代が始まったのでした。
そして,この模型で原子核の質量をM,電子の質量をmとすると,M>>mなので電子が半径 r にあるときの引力ポテンシャル=位置エネルギーは,陽子の電荷を e>0 (電子のそれは-e ) とし,静電場のクーロンの法則における比例係数を k=1/(4πε0)とすれば, U=-ke2/r となります。
そこで,相対論を考慮すると水素原子の質量は M+m+U/ c2になると思いがちですが,実はラザフォード模型では遠心力と引力が釣り合っており,そのときの電子の運動エネルギーがちょうど| U |/2 =-U/2 になる(ビリアル定理)ので,これも加えて,水素原子の質量はM+m+(1/2) U/ c2となります。
まあ,正確には2体問題の質量は換算質量を用いる必要があり電子の回転も陽子=原子核が中心ではなく,そのごく近くの重心の周りの回転になるというのが本当ですが,M が m の1840倍程度もありますから気にする必要はないでしょう。
そして,U<0 ですから,実際水素原子の質量は M+mよりも小さくなります。
これと同じことが,地球と月や人工衛星のときの万有引力(重力)にも起きると想像されます。
万有引力定数をG,地球の質量をM,月や人工衛星の質量をmとすると,やはり M>>mであり,月または人工衛星が地球中心から半径Rのところにあり,引力が遠心力と釣り合って回転しているというのは実は常に自由落下しているわけです。
ですから,みかけ上は無重力なのですが,そのときの引力の位置エネルギーは U=-GMm/R で"地球+月",または"地球+人工衛星"の総質量はやはり M+m+(1/2) U/ c2 となります。
重力の量子論はまだできていませんが,古典論では水素原子なら電子が電荷を持って加速度運動するために電磁波を放出して原子核に落ちる,という制動輻射のアナロジーから,
質量を持って加速度運動している月や人工衛星は重力波を放出して地球に落下するだろうと想像されます。
しかも,水素原子の系とは異なり,地球と衛星との系の規模は量子論を無視して古典論で評価できる程度に大きいので,量子条件を用いて安定性を保証することはできません。
ところで,古典論で電子が原子核に落ち込むまでの時間τを計算するとτ=(1/4)(mc)2a B3/(ke2)2~ 10-11秒程度です。
この式から類推すると,重力の場合の月や人工衛星が地球に落ち込むまでの時間はτ=(1/4)(mc)2R3/(GMm)2程度であろうと推測されます。
電気力と重力の大きさの比率は大体,重力のほうが40桁も小さいということがわかっています。
これは大体ke2とGMmを比較したもので,上の式によるとτの比率は,その逆数の2乗に比例すると思われるので,これだけの効果を考えても重力の場合は電気力の場合と比べて,落下までに80桁も長い時間がかかるだろうと予想されます。
しかも,R3はa B3よりはるかに大きいので月や衛星が重力波のために地球に1cmでも落下して接近するには,1060秒以上,つまり1050年以上もかかることになります。
これは宇宙の年齢100億年~200億年よりはるかに大きくて,事実上全く落下しないのと同じですから,全く問題になりませんね。
まあ,電気力と重力では,これ以外にも"電磁波=光"は電荷を持っていませんから,その波自身が光源となってそれからさらに2次の電磁波を発生することはないけれど,重力波はそれ自身がエネルギーεを持っているので,それはε/c2に相当する質量を持ち重力波源になるという違いがありますね。
重力波が重力波源となって2次の重力波を放射し,さらにそれからまた3次の重力波を放射することになって,重力に関わる現象は非線形で扱いにくい,というのは大きな違いです。
その他,小石が地面に落下しているときの位置エネルギーや運動エネルギーは小石と,地球,または空間=重力場のどこに属するのかを考察するのも面白いですね。
また,万有引力の位置エネルギーは2つの質点が一致したとたんに-∞ になるので,合体すると質量が-∞ になるのでしょうか?それとも,その-∞ 分の位置エネルギーが全て+∞ の運動エネルギーに転化されて,熱に変わった結果,相殺されるので問題ないのでしょうか?
あるいは電子の自己エネルギーと同じく,重力の場合も自己エネルギーをくりこんだのだと考えればよいのか,とかの問題について論じるのも興味深いですが,またの機会にしましょう。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
http://blog.with2.net/link.php?269343(ブログ・ランキングの投票)
| 固定リンク
「105. 相対性理論」カテゴリの記事
- 記事リバイバル⑪(ロ-レンツ変換の導出)(2019.01.16)
- タキオンと因果律(再掲)(2013.01.02)
- Diracの空孔理論(2)(荷電共役)(2011.12.20)
- Diracの空孔理論(1)(2011.11.29)
- 水素様原子の微細構造(補遺5-2)(2011.11.23)
「103. 電磁気学・光学」カテゴリの記事
「107. 重力・宇宙・一般相対性」カテゴリの記事
- 惑星の近日点の移動(2007.04.29)
- シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)(2007.04.27)
- 膨張宇宙における赤方偏移2(視角半径)(2007.03.05)
- 膨張宇宙における赤方偏移1(2007.03.03)
- ビッグバンとエントロピー増大(時間の向き)(2006.08.21)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント