人口増加とロジスティック曲線
今日は軽い話題を一つ述べましょう。
全世界,または比較的出入りの少ない閉じた地域の現在の人口をN 人とし,Δt 年間に人口 N 人に比例して(kΔt)N人だけ人口が増加するとします。
今の時刻(年)を t として,年間の人口増加率kが k =b-d (bは出生率,dは死亡率)で与えられる単純なモデルを想定するわけです。
kは一定であると仮定すると,(t+Δt)年の人口:N1= N+ΔNはΔN /N=kΔtにより,N1=N (1+kΔt)となりますから,結局,時刻(t+nΔt)年での人口Nn人はNn=N(1+kΔt)nになると予測されます。
k>0 であれば,正に人口はネズミ算的に増えてゆきますね。
Δt が無限小:dtであるとすると,ΔN /N=kΔtはdN/dt=kN となります。
この微分方程式を解けば,t=0 での人口をN(t=0)=N0人として時刻:tにおける人口はN=N(t)=N0exp(kt )で与えられるということになります。
これを見ると,k>0 なら t → ∞ ではN → ∞ ですが, 逆にk<0 なら t → ∞ で N → 0 なのでやがて絶滅してしまいます。
しかし,実際には Δt の間にはいろいろな災害や環境の変化などあって,人口増加率 k は一定ではなくかなりの変化を受けると考えられます。
一般に人間をも含む生物個体の増加は個体総数Nが増えれば増えるほど妨げられる傾向がありますから,それは増加率がk=(一定)から k(1-αN)(α>0 )となるような効果で表わすことができます。
このモデルをロジスティックモデル(logistic model)といいます。
増加率:k(1-αN)(α>0 )においてαN>1なら人口(個体総数)Nは増加し,逆ならNは減少しますね。
このモデルは,Nに対する微分方程式の形ではdN/dt=kN(1-αN)という非線型微分方程式になります。
具体的にこれを解くと,dN/N(1-αN)=αdN/(αN)+αdN/(1-αN)}=kdtより,ln(αN)-ln(1-αN)=kt+CですからαN/(1-αN)=Aexp(kt),つまりαN=Aexp(kt)/{1+Aexp(kt)},またはN=Aα-1/{A+exp(-kt)}です。
そしてαN0=A/(1+A)によりA=αN0/(1-αN0)ですから,N=N0/{αN0+(1-αN0)exp(-kt)},結局,N=N(t)=N0/[αN0{1-exp(- kt)}+exp(-kt)]が得られます。
あるいは,N(t)=(1/α)/[1+{1/(αN0)-1}exp(-kt)]です。
これの描く(N-t)曲線をロジスティック曲線(logistic-curve)と呼びます。
これを見ると, t → ∞ の極限ではN → 1/αとなって,人口(個体総数)Nは,あ
る一定の極限値に到達します。それ以上は増加も減少もしません。
ロジスティックモデルは実際に生態学(ecology)において個体の増加減少の履歴と一致する例が多々あり,人口にもこれが適用できると考えられます。
これは,正に「増え過ぎた生物は抑制される。」という自然の摂理(神の摂理)を体現するモデルになっています。
人類は天敵がいないことや医学の進歩,そして軍縮などによる戦争の減少?etc.によってこの摂理を破壊し,結果的に生態系を破壊しつつあります。
やがては,この神の摂理の破壊の報いを受けるかも知れません。
ところで,ロジスティック微分方程式のdt=Δt の刻みを調節して中心差分の差分方程式として離散化すると ,k の値によってはt が大きいところで不安定な人口増減の振動をするカオス現象を起こすことが知られています。
この不安定性は数値解析の目的で「離散化=差分化」を行なったために生じたものですが,現実の現象のモデルとしては時間刻みが無限小の微分方程式よりも時間刻み有限の差分方程式の方が適切かも知れません。
カオス(chaos)の例としては,ロジスティック模型:xn+1=axn(1-xn)は典型的なものであり,上式で時間刻みに相当するaの値によっては「リー・ヨーク(Li-Yorke)の定理」でのカオスになるべき条件を満たします。
※(注):ロジスティック差分方程式:N+ΔN=N+kNΔt(1-αN)=N(1+kΔt)(1-αN)において,xn=αN, xn+1=α(N+ΔN)と置いてパラメータをa=1+kΔtとして簡単化すれば,xn+1=axn(1-xn)に帰着します。※
参考文献;山口昌也 著「カオス入門」(朝倉書店),山口昌也 編著「数値解析と非線型現象」(日本評論社)
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