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2006年7月22日 (土)

黒体輻射(空洞輻射)と空洞の形状

今日は,空洞輻射の波数の分布が空洞の形状に依らないことを証明してみようと思います。

 

しかし,この説明だけでは私が何を目論んでいるかがわからないかも知れません。そこで,記事の動機を下により詳しく述べてみます。

 

通常,黒体輻射(黒体放射)の実験に使用する空洞の形は,別に立方体,直方体,または球など幾何学的に簡単な形状とは限りません。

 

しかし,この実験結果を説明する量子論では対象となる空洞の形を立方体や直方体と仮定して計算し,それで問題ないとしています。

  

それ故,計算の際は波が境界で接線成分がゼロという境界条件は非常に簡単化され,許容される波数の個数分布の計算は容易になります。

 

しかし,現実の実験では空洞の形は一般にそれらとは違うし,見かけ上はそうした単純な形の場合でも実際の壁は完全に滑らかというわけではなくフラクタル的に凹凸で満たされていたりします。

 

そうした凹凸壁の上では乱反射,乱回折があると予想されて境界条件は複雑であり,事はそれほど単純ではないのではないか?というむしろ常識的な?疑問が生じます。

  

そこで,空洞の形,壁がどうあろうと空洞が立方体と同じ容積Vを持ってトポロジー的に同じ形である限り,空間の半径がk=||とk+dkの間にある波の個数が(8πk2dk)(V/π3)であることを明確にすればこの種の疑問が払拭されるのでは?と考えた次第です。

 

さて,一般に自由電磁波の電場に着目するとそれは横波であり真空中のマクスウェル方程式(Maxwell equation)を満足します。

 

そして,まずは空洞を導体と考えてその形は一辺がLの立方体であると理想化しておきます。

 

その自由電磁波の電場の境界条件として境界での接線成分がゼロであるということが必要ですから,電場はsinやcos関数を用いてExE(t)cos(kxX)sin(kyX)sin(kzZ)etc.と表わされ,kx=mπ/L,ky=nπ/L,kz=pπ/L(m,n,p=0,1,2,.)となります。

 

つまり,波数ベクトルは(π/L)を格子定数とする格子点のみを許容値とするので,の個数分布は負でない整数m,n,pのみをとる8分球を仮想します。

 

横波の2つの自由度を考慮すると,波数ベクトルが連続的な値を取るとし,その半径がk=||とk+dkの間にある波の個数として(1/8)×{(4πk2dk)/(π/L)3}×2=(πk2dk)(V/π3)となります。

 

そして,この最終形では立方体であったという仮定はもはや消えていて容積Vが決まっていて有限でありさえすれば,波数ベクトルの個数分布には空洞の形状などはもはや関係ないという形になっています。

 

簡単のために2次元の空洞なるものを仮定し,立方体を正方形に変更するとkx=mπ/L,ky=nπ/L(m,n=0,1,2,.)であり,半径がkとk+dkの間にある波の個数は(1/4)×{(2πkdk)/(π/L)2}×2=(πkdk)(S/π2)となって体積Vの代わりに面積Sで表わした形になります。

 

そこで正方形ではなくて,一般の単連結な閉曲線で囲まれた任意の領域を空洞と考え,その面積をSとしても波数kの波の個数分布が,やはり(πkdk)(S/π2)となることを証明したいと思ったわけです。

まず,この閉曲線を(f(t),g(t))(0≦t≦1),(f(0),g(0))=(f(1),g(1)))で定義します。

 

f,gは微分可能であって,tによる微分係数をf'=df/dt,g'=dg/dtとし,これらはtの連続関数であるとします。

 

この閉曲線を一辺がLの正方形を反時計回りに1回転する閉曲線に変換する写像を汎関数(=関数の関数):F,Gによって(u,v)=(F(f,g),G(f,g))とします。

 

微小変換は線形変換であり,F,Gのヤコービ行列をJ=(∂(F,G)/∂(f,g))とすると,変換は t(du,dv)=Jt(df,dg)となります。

 

そして,微小面積要素を外微分形式を使って表わせば,

dS=df∧dg=|J|-1du∧dvとなります。

 

ここで,|J|はJの行列式:detJです。

 

電場の波数ベクトルの境界条件は,kxdx+kydg=0 ,

つまり,(kx,ky)t(df,dg)=0 です。

 

したがって,(kx,ky)J-1(du,dv)=0 であることから,ベクトル'を成分(kx',ky')≡(kx,ky)J-1で定義すれば,これは一辺Lの正方形の(u,v)空間に対応する波数ベクトル'の分布となります。

  

そこで,先の考察により'についてdkx'∧dky'=(π/L)2dm∧dnの分布形となるはずです。

  

dm,dnは個数空間の微分dm∧dnを1つの格子,つまり1と同一視できます。そして,dkx∧dk=|J|dkx'∧dk'=|J|(π/L)2dm∧dnです。

 

(kx',k')の空間は格子間隔が(π/L)であり,(u,v)空間の逆格子空間=フーリエ(Fourier)変換でいう座標空間と双対な運動量空間としていいわけです。

 

dkx∧dk=|J|(π/L)2dm∧dnは(kx,k)の空間が(f,g)空間の逆格子空間であって,その格子定数の平方が(π/L)2|J|=π2/(L2|J|-1)であると考えるべきことを示しています

 

ところで,L2=∫du∧dvであり,∫|J|-1du∧dv=∫df∧dg=Sですから,Lの値の任意性を考慮してdkx∧dky=(π2/S)dm∧dnと結論していいことになります。

 

すなわち2次元空洞の自由電磁波の波数ベクトルの半径がkとk+dkの間にある波の個数は(πkdk)(S/π2)となって面積Sだけに依存しており空洞の形状には依らないことが示されたと考えます。

 

このように,黒体輻射,あるいは空洞輻射は空洞の壁面の形状の多様性や面の乱雑さなどがあれば無限に多様でランダムな乱反射のモードあるいは分布を持つであろう,という予測は誤りであって,そのモードの個数分布は空洞の体積のみで決まります。

 

そしてモードが連続的でなく離散的であるのは"大きさ=体積"が有限であるためである,と云えると思います。

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前記事で出した答えというのは、単純に振動の方向が揃っている横波で考えていました。 電磁波というのはそれで良いのか?ということなんですが、ここで「自由度」というのが出てきます。... [続きを読む]

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