負の質量
世の中に負の質量の物体が存在すれば,それには反重力がかかるので斥力が働くから,その物体は落下しないで宙に浮く,どころか上昇していくだろう,と考えている人がいるかも知れませんが,それはちょっとした誤解ですね。
そうではなくて地球の質量が負であったら,地上付近の物体には反重力がかかるので,正の質量の物体が上昇するのであり,こうした反重力のもとでは負の質量の物体は落下するのです。
(まあ,すでに質量が正と負のときに一方では斥力が働いて,他方では引力が働いたりしているので,明らかに矛盾が露呈していますね。)
物体の負の質量を(-m)(m>0)とし,働く力を F,加速度をαとすれば運動方程式はF=-mαです。
地球上では等価原理によって,あるいはガリレイによって"どんな質量の物体も真空中のように,抵抗がないなら加速度g=9.8(㎡/s)によって落下する。"ということは,たとえ負の質量であろうとF=-mg であるということですね。
つまり,運動方程式 F =-mg=-mαより,α=gであり加速度は同じで上昇するのではなくて,落下しますね。まあ,この論理では落下するから落下する,と言ってるにすぎませんが。。。。
まあ,質量が負ならそれにかかる力も負なので,負割る負=正である,ということなどがを言いたかっただけです。
(自分の質量が負なら何かを押して反作用を受けても,押し返されるのではなく反作用で引っ張り込まれますね。(押し返される力を(-m)<0で割ると加速度は力と向きが逆です。)
ここで考えた「質量×加速度=力」というときの質量は慣性質量で,ニュートンの万有引力(重力)=F=-GMm/r2 のMやmは重力質量と呼ばれています。
等価原理というのは,「慣性質量=重力質量」なので重力を慣性質量で割ったものは慣性質量がゼロ(例えば光)であろうと負であろうと同一だという意味ですから光でも負質量粒子でも同じように落下します。
ただし,光の場合のように光速に近い運動をする物体ではニュートンの万有引力の法則はメトリック(計量)のうち,g00 成分だけを取り出した近似に相当します。
実際には速度が光速に近くなると空間成分のメトリックgijも効いてくるため,一般相対性理論では重力による加速度の効果は2倍になると考える必要はあります。
まあ,ここまで書けば負の質量の存在と等価原理とは矛盾する,ということがおわかりでしょう。
だから反重力というものは存在しないだろう,と予測されます。
(重力が電気力の場合と違うのは,電気力ならそれを電荷で割っても加速度にはならないという点ですね。)
※追伸:これを書いているのは,ほぼ1年後の2007年6月29日ですが,この記事での私の最後の文章を中心として,私の「負の質量の存在と等価原理とは矛盾するし反重力というものは存在しないだろう。」というここでの論旨による主張は誤りであることが判明致しました。
これは2007年6月26日のhirotaさんから受けた次のコメントによる指摘によって判明したもので,最初私はこのコメントを馬鹿にしていましたが,結局私の方が間違いであることが明白になりました。恥ずかしい話ですね。私の間違いと失礼についてお詫びします。
以下,6月27日のhirotaさんのコメントです。
なんか変なことを書いてますよ。
始めの方の 「 地球の質量が負であったら地上付近の物体には反重力がかかるので,正の質量の物体が上昇するのであり,こうした反重力のもとでは負の質量の物体は落下する 」 は等価原理と矛盾してて間違ってますが,
負質量物体では,力は,-負×負=負 つまり引力で,加速度は負/負=正 つまり上昇なので,「 地球の質量が負なら正負の質量も光も全部上昇する 」 に直してしまえば,負質量の存在と等価原理は矛盾しません。
なお,負質量地球から正質量物体が上昇する場合は,地球が正質量物体に落下しますが,その加速度は微小ですから結果に影響しません。(質量の絶対値が等しい場合は無限の追いかけっこになるけど)
そして6月29日に私の最終的な訂正コメントの一部です。
m1=m>0,m2=-m<0 として,m(d2r1/dt2)=Gm2(r2-r2)/|r1-r2|3;-m(d2r2/dt2)=Gm2(r1-r2)/|r1-r2|3を辺々加えると,md2(r1-r2)/dt2=0 で相対位置ベクトル(r1-r2)の加速度はゼロになるということで,
最初(r1-r2)の初速度がゼロであったなら距離は一定であるとして矛盾がないことがわかり,私の間違いであるということで納得しました。
確かに無限の追いかけっこですね。
「2つの物体に外力ならともかく内力が働いていて互いに回転しているわけでもなく遠心力もないのに相対距離が不変であるなどというのは有り得ないだろう。」という愚かな先入観にとらわれていました。
反重力などという普通の常識とは別の存在を考えているのに余計な「物理的常識=先入観」を持って考えたのが誤りで,最初から数式に頼るべきでしたね。
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コメント
こんにちは。。。hirotaさん。TOSHIです。コメントありがとうございます。
あなたを子供扱いした数々の失礼、申し訳ありません。コメントしないと申し上げましたが私のほうが間違っていることに気づきましたのでコメントします。
実は真面目に検討してみましたら、お恥ずかしいことに、ご指摘の通りで負の質量に対する反重力の存在という仮定に何の矛盾もなく、私の全面的な誤り、勘違いであることが判明しました。どうもご無礼、申し訳ありませんでした。
自身の独善に対するいましめとして恥ずかしい本文はそのままにしてhirotaさんのコメント付きで訂正文を入れておきます。
m1=m>0,m2=-m<0 としてm(d^2r1/dt^2)=Gm^2(r1-r2)/|r1-r2|^3;-m(d^2r2/dt^2)=Gm^2(r2-r1)/|r1-r2|^3;を辺々加えるとmd^2(r1-r2)/dt^2=0 で相対位置ベクトル(r1-r2)の加速度は0になるということで最初(r1-r2)の速度が0であったなら距離は一定であるとして矛盾がないことがわかり私の間違いであるということで納得しました。
確かに無限の追いかけっこですね。「2つの物体に外力ならともかく内力が働いていて互いに回転しているわけでもなく遠心力もないのに相対距離が不変であるなどということは有り得ないだろう」という愚かな先入観にとらわれていました。「反重力」などというふつうの「常識」とは別の存在を考えているのに余計な「物理的常識」=先入観を持って考えたのが誤りで、最初から数式に頼るべきでしたね。
私は「オッチョコチョイ」でしかも独善的傾向がありますから、これまでにも自身がスタッフをしているものも含めて色々な掲示板で自身の軽はずみな誤解を後で訂正して謝ったことは数知れないです。
「自然科学」では、哲学的問題とは異なって、いくら意地を張っても、自己の主張が正しいか間違っているかは事実によって明白なことですから素直に訂正します。これからも末永く有意義なコメントを頂けたら幸いです。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年6月29日 (金) 15時15分
何を考えてるか分かりました。
「万有引力の法則」を「慣性系での加速度を与える法則」じゃなく、「相対距離の変化率を与える法則」だと思ってるんですね。(「どこが矛盾か分かりませんが、」の後に書いてある慣性座標系での説明を読んだ上で、なのか不明だが)
面倒くさいようなので、これで終了に同意。
投稿: hirota | 2007年6月29日 (金) 11時37分
またまたhirotaさん、コメントありがとうございます。TOSHIです。
>どこが矛盾か分かりませんが、
いや、わからなければわからないでいいですよ。。とか言うのも不親切だから。。。
一応、地球の質量が負で月の質量が正としましょうか。力は-負×正=正だから地球の重力は正の質量のものを斥ける力です。
(ということは月の地球に及ぼす重力も、地球の質量が正なら、遠ざける向きです。)そこで月の加速度は正÷正=正なので地球から遠ざかって逃げていきます。
つまり2体問題では普通、重いほうの物体の中心を座標原点にとることが多いので(重心が原点でもいいけどどうせ重心は重いほうの近くです。)
月が地球から逃げていく、ということは月の位置ベクトルの長さが次第に大きくなるということで、月と地球の間の距離は一定ではなく増えていきます。
(まあ、実際の月は地球のまわりを回っているということは地球も月のまわりを回っている、つまり互いに近づこうとして落下していますが、水平速度が大き過ぎていつまでたっても地面に到達できず互いに回っています。)
一方、月を原点にして地球の運動を見ると斥力=「質量が正なら遠ざける力」を地球の負の質量で割るので地球の加速度は月に近づく向きになります。だから月の方に地球が落下する。これも月と地球の間の距離は一定ではなく減ります。
同じ物理現象で一方で月と地球の間の距離が増えて他方で減るというのは矛盾じゃないですか?
ただし両方が負のときは矛盾しません。
これでわからなければもう知りませんから面倒くさいのでもうコメントしません。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年6月28日 (木) 17時08分
どこが矛盾か分かりませんが、慣性座標系で初期条件を両方とも静止としますと、正質量の方は遠ざかる方向の加速度になり、負質量の方は近づく方向の加速度になって、質量の絶対値が等しければ両方の加速度ベクトルは同じになり、相対距離不変のまま加速を続けるので、無限の追いかけっこじゃないですか?
投稿: hirota | 2007年6月28日 (木) 16時01分
こんにちは。。。hirotaさん、TOSHIです。私のブログにコメントいただきありがとうございます。反応がないと面白くないですからね。
>負質量物体では、力は ー負×負=負 つまり引力で、加速度は 負/負=正 つまり上昇なので、「 地球の質量が負なら正負の質量も光も全部上昇する 」 に直してしまえば、負質量の存在と等価原理は矛盾しません。
おっしゃるとおりで、正でも負でも質量が同符号だと別に矛盾しませんね。この場合、負の物体も上昇しますから落下するとしたのは確かに変で、私の間違いですね。
異符号だと力が-正×負=正つまり正物体だと斥力になるというのが正しいとすると、作用反作用の法則でどちらにも同じ正の力が働きますね。
これを正質量で割ると上昇、負質量で割ると落下で、相対的距離としては正質量のほうは遠ざかり、負質量のほうは近づくことになりますね。
双方にかかる力にタイムラグはないから無限の追いかけっこにはならないと思いますしし、一方の質量の絶対値が他方よりはるかに大きいとか仮定する必要もないですから、この設定は「矛盾」だと思いますが。。違いますか?
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年6月26日 (火) 19時43分
なんか変なことを書いてますよ。
始めの方の 「 地球の質量が負であったら地上付近の物体には反重力がかかるので、正の質量の物体が上昇するのであり、こうした反重力のもとでは負の質量の物体は落下する 」 は等価原理と矛盾してて間違ってますが、負質量物体では、力は ー負×負=負 つまり引力で、加速度は 負/負=正 つまり上昇なので、「 地球の質量が負なら正負の質量も光も全部上昇する 」 に直してしまえば、負質量の存在と等価原理は矛盾しません。
なお、負質量地球から正質量物体が上昇する場合は、地球が正質量物体に落下しますが、その加速度は微小ですから結果に影響しません。(質量の絶対値が等しい場合は無限の追いかけっこになるけど)
投稿: hirota | 2007年6月26日 (火) 18時07分