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2006年7月30日 (日)

気液平衡の統計力学

 温度Tと気圧Pが一定の下で,水と水蒸気が2相平衡にあるため

 の条件は,熱力学では水,水蒸気の"化学ポテンシャル=分子1

 当たりのギブス(Gibbs)自由エネルギー"が等しいことです。

 

 すなわち,水,水蒸気の化学ポテンシャルをμlgとすると,

 2相平衡の条件はμl=μgで与えられます。

 これは,分子論の統計力学ではどういう意味を持つのでしょうか?

 

 まず,水蒸気を理想気体と考えると,その気体分子としての

 エネルギーは,Eg=(∑p2)/(2m)です。

 

 一方,液体の水分子は,分子平衡位置においても分子間力等

 より,金属の仕事関数に相当して液体分子1個を格子点位置の

 付近に束縛するエネルギー(-χ)(χ>0)を持つため,

 エネルギーはEl=(∑p2)/2m+U+(-χ)と表わされます。

 

 ここで,∑は1個の分子の運動の全ての自由度にわたる和です。

 また,Uは分子平衡位置からのずれによる振動の位置

 エネルギーです。

そして,1モルの潜熱=蒸発熱をLとすると,Lはエンタルピー

i+PV (Ui内部エネルギー)で定義されているので

L=NAχ+PV=NAχ+NABです。

 

ここで,AはAvogadro数で,A~ 6.02×1023です。Vは体積です。

さらにλ≡L/NAと置いて,"1分子当たりの潜熱=1分子当たり

の蒸発熱"としてλを定義します。 

統計力学によれば,分配関数をZとすると化学ポテンシャルμは

μ=-kBlog(Z/N)で与えられます。

 

そして理想気体では,分子の自由度をfとするとCを規格化定数

としてZ=Zg=V(CkB)f/2=NkBT(CkB)f/2ので,

μ=μg=-kBT[(1+f/2)logT-logP+const.] となります。

 

特に水蒸気は3原子分子なので,f=6であり,それ故,

μ=μg=-kBT(4logT-logP+const.) です。

一方,液体の場合は固体の調和振動子モデル(運動エネルギーの

自由度が3で振動エネルギーU=(1/2)kr2の自由度も3)を

取るか,V=0(運動エネルギーの自由度のみで,それが6のモデル

を取るとします。

 

まあ,いずれにしても,自由度fはf=6です。

気体の場合との違いは体積V=Vl=Nvlを近似的に,温度T

も圧力Pにも依存しない定数であると見なせることです。

 

そこで,Z=Nvl(CkB)f/2,f=6,μ=-kBlog(Z/N)

から液体分子としての水の化学ポテンシャルμ=μlを求めれ

ばいいのです。

 

しかし,液体分子と気体分子の共通のエネルギーの原点として,

気相の静止した位置を基準に取れば,液体の原点は(-χ)になる

ので,気体分子の原点を基準にすると,

μ=μl=-χ-kBT(3logTconst.)となります。

 

したがって,結局μlμgという条件は,

logP=logT-λ/(kBT)-1+const. となります。

 

それ故,P=(const.)Texp{-λ/(kBT)}

=(const.)Texp{-L/(RT)} となります。

これは,相平衡を表わす有名なClapeyron-Clausius

(クラペイロン・クラウジウス)の公式;

dP/dT=LP/(RT2),あるいは logP=-λ/kT+const.

の修正式になっています。

 

(※PS:バックナンバーではなく後記事ですが,2010年12/20の

ブログ記事「水滴の成長と蒸発(2)」の中に,熱力学的な考察

に基づくClausius-Clapeyronの公式の導出があります。

 

この記事の中では,Clausius-Clapeyronの公式は

dP/dT=LeM/{T(Vg-Vl)}から,Vl<<VgよりVl

無視してdP/dT=eM/(TVg)という形で表わされています。

 

eは単位質量たりの蒸発の潜熱ですが,これから1モルの

潜熱LはL=MLe(Mは分子量)です。

故に,書き直すとdP/dT=L/{T(Vg-Vl)},

またはdP/dT=L/(TVg)ですが,理想気体の状態方程式

により,g=RT/Pなので後者はdP/dT=(LP/RT2)

と表わせます。※)

 

    (↓下図はネット検索で入手した図の転載です。)

 

  

 

 

ところで,分子論的には,相平衡とは分子の蒸発数と凝結数が

同じであることを意味します。

今,単位体積中の水の平均分子数をnlとし,これが単位体積中の

水蒸気分子数ngに移行したと見ると,運動エネルギーに差がない

なら熱平衡ではng=nlexp{-χ/(kB)}です。

 

水蒸気の方は理想気体の状態方程式P=ngBTを満足すると

してよいので,結局nlを定数として,

logP=logT-λ/kT+const.となり上述の結果と同じ式が

得られます。

 

 

結局,平衡状態で,"化学ポテンシャルの値が一致する。"という

熱力学での相平衡の条件の意味が,"分子の蒸発数と凝結数が同じ

である。"という分子論的,統計力学的な意味での相平衡と同じで

あることがわかりました。

 

参考文献:中村 伝 著「統計力学」(岩波書店),

原島 鮮 著「熱力学・統計力学」(培風館),

クドリャフツェフ著(豊田博慈 訳)「熱と分子の物理学」(東京図書)

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