一般に,水素原子は電子が陽子と衝突した場合に陽子に捕捉されて束縛状態になったものである,と考えられます。
電子が原子核,特に陽子と衝突して散乱される問題であれば,それはクーロン電気力によるクーロン散乱とも呼ばれる弾性散乱であるところの,いわゆるラザフォード散乱がメインであり,
もちろん,陽子と電子は粒子と反粒子の対であるわけではないので,散乱過程を示すファインマン・ダイアグラム(Feynman diagram)の中に対消滅するという図は存在しないので,その消滅の確率はゼロです。
ところが陽電子と電子の場合,それらは粒子と反粒子の対なので接近衝突すると非弾性散乱であるところの,対消滅して2つの光子になるというファインマン・ダイアグラムがあり,そのダイアグラムの確率が非常に大きくてメインとなります。
ところで,このポジトロニウムでは電子の換算質量が電子自身の質量の約半分なので,ボーア半径が水素原子の場合の約2倍になるだけですから,基底状態の波動関数をψ(r)とすると,これは水素原子のそれと形は全く同じです。
自由な電子と陽電子対が対消滅して崩壊する確率をWとするとき,ポジトロニウムの基底状態の波動関数をψ(r)とすると, P=W |ψ(0)|2のオーダーの確率 P で対消滅し,粒子の寿命はその逆数ですから非常に短いと思います。
つまり,違いは"粒子-反粒子対"であることで素朴な量子力学のクーロン相互作用だけでは説明できない非弾性散乱振幅を伴うことにあります。
こうしたことはフェルミオン(Fermion)のパウリ(Pauli)の排他原理などにもあることで,同種粒子でなければ成立しないような原理と同じく,粒子-反粒子のみに成立する性質があるということですね。
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コメント
ああ、やっぱりニュートリノの運動エネルギーに依存した話でしたか。
>レプトン数
たしかに、2個では保存しませんね。
n → p^+ でπ^- が出て、π^- → μ^- で反ν_μが出て、μ^- → e^- で反ν_e が出る・・・などと考えて間違えてしまいました。(μの崩壊ではν_μも出ないとμ粒子数が合わなかった。反ν_μとν_μは外に出てくる必要もないけど)
投稿: hirota | 2007年6月28日 (木) 15時36分
こんにちは。。。hirotaさん、TOSHIです。コメントありがとうございます。
弱い相互作用の最低次の反応になぜニュートリノが2個必要なのかわかりません。電子対消滅とか生成では光子が2個以上でないと4元運動量の保存則が破れますが。。。
釈迦に説法かもしれませんが、「ベータ崩壊」だと中性子が陽子と電子と反ニュートリノそれぞれ1個づつに崩壊し、レプトン数は電子の+1と反ニュートリノの-1を加えて0になって保存するわけです。まあ、こまかいことはどうでもいいので2個でもかまいませんけど。。。
中性子のほうが陽子より重いので「ベータ崩壊」の逆反応である「陽子の電子捕獲」は重いニュートリノつまり大きい運動エネルギーを持ったものと衝突しないといけないので非常に確率が小さく、常温の状態では陽子や水素原子は非常に安定で陽子や水素の寿命は宇宙年齢よりはるかに長いくらいに安定であることはよく知られています。
しかし「中性子星」の存在でも明らかなように、電子の縮退圧でも支えられないくらいに重力が大きくなった状態の星では、ニュートリノの運動エネルギーはとても大きくて、むしろ陽子が中性子になる状態のほうが安定になります。
くわしくはプラズマ物理や中性子星関係について書いた記事も後ろのほうにあるので参照してください。
とにかくコメントありがとうございました。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年6月26日 (火) 20時14分
「水素原子が中性子になる確率が 0 でない」と書いてますが、自由な陽子+電子よりエネルギーの小さい水素原子では「中性子+2個のニュートリノ」の方がエネルギーが大きくなってしまうんじゃないですか?(中性子が陽子+電子+2個のニュートリノに崩壊した場合は水素原子にならず全部飛んで行ってしまう)
それとも「ニュートリノの力を借りる」というのは、水素原子に偶然2個のニュートリノが衝突して中性子になるという意味?(それは「水素原子も安定でない」とは言わない)
投稿: hirota | 2007年6月26日 (火) 17時21分