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2006年8月

2006年8月30日 (水)

双子のパラドックス(一般相対論による計算)

 今日は少し重い話題ですが双子のパラドックス(twin paradox)を真面目に取り上げてみます。 

 地球に双子の兄弟が住んでいてあるとき兄のほうが地球から直線距離にして距離L(n光年)だけはなれたα星まで,光の速さcのβ倍の一定の速さv=βcで往復して地球まで帰ってきたとします。

  

 もちろん,宇宙船はα星に着いて即座に転回して逆向きに速さvで地球まで帰ってきて到着したら停止するわけです。

 

 そこで,α星では転回のために地球の向きに無限大の力で無限大の加速度を受けるわけですし,地球から出発したり到着して止まるときにも向きは逆ですが無限大の力を受けて無限大のGがかかります。 

 そして,この理想的なケースを特殊相対性理論で扱うと,弟は兄が帰ってくるまでに時間にして,2L/v=2n/β年だけ歳を取りますが,

 

 兄の方は,時間の遅れによって,2L(1-β2)1/2/v=2n(1-β2)1/2/β年しか歳を取りません。

 

 あるいは兄から見ると,地球とα星は速度v=βcで運動しているので,その間の距離Lが(1-β2)1/2倍にローレンツ収縮していると考えても同じ結論を得ます。

 

 こうして同じ年齢だった双子の兄の方が星間旅行から帰ってきた結果,弟より年下になることになります。

 

 でも,これだけでは別にパラドックスでも何でもありません。 

 具体的には,地球とα星の間の距離を10光年としv=0.8c(β=0.8)とすれば兄が帰ってくるまでに弟は25年も歳を取りますが,兄は15年しか歳を取りません。

 

 ところが,見方を変えて兄の宇宙船を中心にして考えると地球(弟)のほうが逆向きに速さv=βcで等速度運動をし転回して再び等速度運動をして兄に会うというようにも見えます。

 

 相対性理論では"運動は完全に相対的なものである"と見ますから,兄が15年歳を取る間に弟は9歳しか歳を取りません。

 

 いずれにしても2人は再び出会うわけであり,遠く離れた場所での時刻を比較するのではありませんから,もしも互いに完全に対称な運動であるとしたら,これは明らかに深刻な矛盾です。

 

 これを双子のパラドックスといいます。

 これらは,普通のミンコフスキー空間での兄の運動だけを扱うなら何の疑問も生じませんが,実は弟からみた兄の運動と兄から見た弟の運動は対称ではありません。

 

 このパラドックスを解消するには,時空図を書いて世界線の乗り換えを考えれば,特殊相対性理論だけでそれなりの説明ができます。

 

 しかし,特に兄の宇宙船がα星で転回するとき莫大な重力(慣性力)を感じ,遠方から地球が落下する際,兄の一瞬の加速の間に弟が極端に大きく歳をとるというように,一般相対性理論での加速度座標系を用いた扱いでも詳細に説明できるので,以下にその方法を紹介します。 

もっとも,2つの時刻とか時間の比較というのは,同一の場所における正しい時計の刻みの比較でしか本質的な意味を持ちませんから,離れた場所での時間経過の比較というのは計算上の話でしかありませんが,とにかく辻褄は合います。 

さて,まず,"無重力の空間=特殊相対性理論の空間"を考えて質量mの質点がx軸の方向に一定の力F=mgを受けて加速される,というのは相対論ではどういう運動なのかを考えてみましょう。

 

ただし,運動の定式化は空間1次元,時間1次元の2次元で考えれば十分なので,特に必要な場合を除いて時空座標としては位置座標xと時刻tの2つだけを想定します。

  

時刻t=0 で位置座標をx=0,速度もv=dx/dt=0 であるとし,質量mは時間的に変化しない:dm/dt=0 とします。

  

ニュートン力学では,運動方程式はdp/dt=F,つまりm(dv/dt)=mgなので,この運動はv=gt,x=(1/2)gt2となります。

  

一方,特殊相対性理論の力学では,運動方程式は,

dp/dt=(d/dt){mv/(1―v2/c2)1/2}=mgです。

  

これを解けば,

v=gt/{1+(gt/c)2}1/2,x=(c2/g)[{1+(gt/c)2}1/2-1]

となります。

 いま,兄の宇宙船から見た地球(弟)の運動を考えてみます。

 

 出発時には地球は加速度gで宇宙船の後方から落下を始め,落下速度の大きさがv=βcに到達した後は,その一定速度で等速度運動して離れて行き距離L(1-β2)1/2に到達後には急転回します。

 

 今度は逆に加速度gで宇宙船に向かって落下して行き,静止を超えて逆向きにの速度v=βcに達した後,再び等速度運動で宇宙船に近づいて行き,会う直前で加速度gで減速して愛護に静止と同時に宇宙船と合体するということになります。 

 このうち,等速度で運動する部分の"弟=地球"の時間T1は,兄の往復時間:2L(1-β2)1/2/vのさらに(1-β2)1/2倍ですから,12L(1-β2)/vです。

 それでは,猛烈なG=gを感じる重力場の中での相対的な時間の進み方というのはどういうものでしょうか?

 

 例えば,地球上で一定の重力加速度gの重力を受けて自由落下する石の立場に立って,石や我々の感じる時間を考えてみましょう。 

石の速度をuとすると,最初はu=0 ですが重力の加速度gにより石は次第に加速されていきます。

 

特殊相対性理論の時空というのは無重力の時空ですから,自由落下中の無重力で浮遊する石の感じる時刻こそが無重力での時刻です。

 

その石の感じる時刻変化をΔτとすると,これが無重力=重力がゼロの中の時刻変化(固有時の変化)なのですが,石が速度uで落下している場所では,石を基準にすると,我々の方が逆に速度v=-uで上昇して行くと見えます。

 

したがって,石から見ると我々の時刻変化はΔt=Δτ(1-u2/c2)1/2です。等価原理により,これが重力gの重力場の底の中での時間の遅れに相当します。

 

重力場の底(u≠0)ではなく,まだu=0 の天井の方では時間の遅れはありません。

 

重力加速度の負の向き(鉛直上向き)を正の向きとする座標をxとすると,もしもニュートン力学近似でいいなら,u2=-2gxで重力のポテンシャルはχ=gxなので1-u2/c2=1+2χ/c2です。

 

しかし,正しく相対性理論で考えると,v=-u=gτ/{1+(gτ/c)2}1/2,x=(c2/g)[{1+(gτ/c)2}1/2-1]なので,1-u2/c2=1-v2/c2=1/{1+(gτ/c)2}=1/{1+gx/c2)2です。

 

(x軸は石が原点(x=0)固定で鉛直上向きが正,系の時刻はτです。)

 

そこで,Δt=Δτ(1-u2/c2)1/2=Δτ/{1+(gτ/c)2}1/2=Δτ/(1+gx/c2)なので,重力ポテンシャルをχ=gx{1+gx/(2c2)}で定義すれば,Δτ=(1+gx/c2)Δt=(1+2χ/c2)1/2Δtと書くこともできます。

 

※PS(2009年4/4補足):最近,誤解を受けそうなことがあったので少し補足しておきます。

 

すぐ上の"Δτ=(1+gx/c2)Δt"という式を見ればわかるように,重力加速度の大きさgが有限値であれば,x~ 0 のときにはΔτ~ Δtとなって石と我々の時間経過にほとんど差はありません。

 

Δτ=(1+gx/c2)Δtという式は,我々が重力場の底,すなわち,gxがc2と比較できるほどxの非常に大きい場所にいて,石の方は原点で自由落下しているとした場合に,Δt<< Δτとなって我々の時間が遅れることを意味します。

 

(双子のパラドックスでは,ここでの我々が宇宙船に,石が落下する地球に対応しています。

 

また,τが重力に逆らわず自由落下している"石=地球"の固有時間,tがそうではなく何らかの重力を感じている(落下せず重力に逆らっている)"我々=宇宙船"の時間であるとしています。)

 

これが"重力で時間が遅れる"と述べていることの意味です。

 

つまり,強い重力が存在したとしても重力に逆らわず流されている(=無重力で落下している)人から見て,その重力場の中のどこかにピン止めされて動かない人(=強い重力を受けている人)の時間がほとんど進まないように見えるのは,かなり遠方から離れて見たときで,すぐそばにいればそういうことはありません。

 

石と我々の両者が空間の同じ位置にいる(x=0)なら,石とわれわれが感じる時間経過に差があったとしても,それは相対速度に起因するもので加速度には全く関係ないというのが一般相対論の根本仮定の1つですからね。

 

すぐ前の本文において,"石からみると我々の時刻変化はΔt=Δτ(1-v2/c2)1/2です。等価原理により,これが重力gの重力場の底の中での時間の遅れに相当します。重力場の底でなくて天井の方では時間の遅れはありません。と書いたのは,そういう意味です。

 

ここらへんの話は,メラーでなく内山龍雄先生著の「一般相対性理論」やシュッツの「相対論入門」から仕入れたような気がします。(補足終わり)※

 

そして,自由落下する石を地球と考え,我々を原点に固定された宇宙船と考えます。

 

宇宙船の加速時にはどちら向きでも,常に石(地球)は落下します。

 

落下する地球の加速度を-g,または加速している宇宙船の加速度をgとし,"無重力=自由落下中"の地球時間をτとします。

 

時刻τでの宇宙船の速度v(τ)は,v(0)=0ならv(τ)=gτ/{1+(gτ/c)2}1/2で与えられます。

 

このとき宇宙船時間tの経過はΔt=Δτ(1-v(τ)2/c2)1/2=Δτ/{1+(gτ/c)2}1/2です。

 

そしてv(τ)=v=βcとなる宇宙船時刻をt=t0,地球時刻をτ=T0とすれば,右辺を 0 からT0まで積分してt0=∫dτ/{1+(gτ/c)2}1/2=(c/g)sinh-1(gT0/c)が得られます。

   

(※ sinh は双曲線関数:sinh(x)={exp(x)-exp(-x)}/2です。

sinh-1は sinhの逆関数です。これは逆双曲線関数と呼ばれ,自然対数で表わすこともできます。※)

この式から(gT0/c)=β/(1-β2)1/2=sinh(gt0/c),そして tanh(gt0/c)=βが得られますが,g→ ∞ のときβ/(1-β2)1/2は有限ですから,T0 → 0 です。

 

そこで,宇宙船と地球が接近しての出発時,到着時の瞬間加速のときには,地球時間の経過は宇宙船時間と同じくゼロです。

 

重力ポテンシャルの考察から,宇宙船を基準とし"x軸の負の向きにG=gの一様重力がある時空=リンドラー時空"の計量は,

  

2dτ2=c2(1+gx/c2)2dt2-dx2-dy2-dz2

  

で与えられると考えられます。

 

今設定のx軸に沿った地球の自由落下運動では,dy=dz=0 と考えてよいのでc2dτ2=c2(1+gx/c2)2dt2-dx2と書けます。

 

これから,地球時間(弟の固有時間)τと宇宙船時間(兄の固有時間)tの間に,dτ=dt{(1+gx/c2)2-(dx/dt)2/c2}1/2なる関係が得られます。

 

また,=c2(1+gx/c2)2(dt/dτ)2-(dx/dτ)2 ラグランジアンとして,の変分がゼロとなるというオイラー・ラグランジュ方程式を取ることにより測地線の方程式を作ると,d2x/dτ2=-g(1+gx/c2)(dt/dτ)2となります。

 

この両辺に(dτ/dt)2を掛けると,xとtの簡単な2階常微分方程式d2x/dt2=-g(1+gx/c2)が得られます。

 

これを,t=0 でx=x0 ,(dx/dt)=0 という初期条件で解くと,x=(c2/g)[(1+gx0/c2){1/cosh(gt/c)}-1]となります。

 

(dx/dt)を計算してdτ=dt{(1+gx/c2)2-(dx/dt)2/c2}1/2に代入して積分すると,τ=(c/g+x0/c)tanh(gt/c)を得ることができます。

 

地球と宇宙船が最も遠くにあるとき,地球にかかる加速度は-gで宇宙船を原点として地球の座標の初期値はt=0 でx=Lです。

 

宇宙船時間がt=t'だけ経過したときの地球時間の経過τ=T'を求めるために,すぐ上の式でx0=Lを代入するとT'=(c/g+L/c)tanh(gt'/c)となります。

 

宇宙船の加速時間t'は地球付近での加速時間t0と全く同じですから前に求めたように,tanh(gt'/c)=β=v/cです。

 

そして,この場合はg→ ∞ のとき2T'→T2 とすると,距離Lがあるおかげで,T2はゼロではなくT2=2vL/c2有限な値になります。

 

つまり重力そのものではなく,重力のポテンシャルが時間の遅れに効くわけです。

 

宇宙船が重力場の底にいますから,先の結果T0→ 0 とは異なります。

  

これは,兄の宇宙船のα星付近での瞬時の転回時に,地球の弟が極端に大きく歳をとることを意味します。

 

結局,宇宙船の兄の固有往復時間:2L(1-β2)1/2/vの間に,弟の地球での固有経過時間は1+T22L(1-β2)/v+2vL/c22L/vとなるという結論が得られます。

 

これは,兄,弟の固有の経過時間が兄を基準としても弟を基準としたときと全く同じであること,いずれにしても弟の方が余計に歳を取ることを意味しています。

 

参考文献:メラー「相対性理論」(みすず書房)他

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2006年8月29日 (火)

慣性質量とエネルギーの等価性

 相対性理論,特に特殊相対性理論で内部エネルギーなどを光速cの2乗で割ったもの.が何故系の慣性質量となるのか,あるいは逆に質量欠損が何故エネルギーとなるのか?を計算によって確かめてみます。

 すなわち,以下では「質量とエネルギーの等価性」を証明します。

 2つの慣性座標系S (O-xyz)系 とS'(O'-x'y'z')系を考えます。

 S'系がSに対してx軸に沿って一定速度vで直線運動をしているとしγ≡1/{1-(v/c)2}1/2と置きます。

 このときの時空座標のローレンツ変換はx'=γ(x-vt),y'=y,z'=z,t'=γ(t-vx/c2)です。

 そして,S系では静止質量がm0の単独の自由粒子の全エネルギーをEとするとき,E=T+m02,つまりT=E-m02としてTを運動エネルギーといいます。

 

 S'系ではE'=T'+m02です。

 一方,n個の自由粒子から成る系を考えます。

 

 系全体の量は,個々の粒子についての量の和として,運動量:=∑i=1Ni,エネルギー:E=∑i=1Ni (Ei=Ti+m0i2),運動エネルギー:T=∑i=1Ni,質量:m0=∑i=1N0i のように自然に定義できます。

  

 S'系においても同様です。

 

 そして,S系およびS'系で見た系全体の運動量とエネルギーの組をそれぞれ(,E),および(P',E')とし,各粒子の運動量とエネルギーの組をそれぞれ,(i,i)および(i',i')と書きます。

 

 これらの個々の粒子については,S系の量とS'系の量の間の関係は全て4元運動量のローレンツ変換によって与えられます。

 

 すなわち,(ct,)=(ct,x,y,z)から(ct',')=(ct',x',y',z')への慣性座標系の変換が

  

 x'γ(x-vt)=γ{x-v(ct)/c},y'=y,z'=z,

 ct'=γ(ct-vx/c) で与えられるケースには,

 

 対応する4元運動量:(E/c,)(E/c,p1,2,3)から(E'/c,')(E'/c,p1',2',3')への変換は,

  

 1'=γ(p1-vE/c2),p2'=p2,p3'=p3,

 E'/c=γ(E/c-vp1/c)=γ(E-vp1)/c

 

 で与えられます。

 

 このとき,各座標(事象)の不変量:2-c22=x'2-c'2t'2に対応して,1個の自由粒子の4元運動量の不変量(ローレンツスカラー)として,

 p2-E2/c2'2-E'2/c2=-m02 が成立します。

 

 しかも,"系全体の力学的な量は各粒子個々の力学的な量の総和に等しい。"という性質もS系からS'系への変換でそのまま保存されます。

 

そして,系全体のローレンツスカラー量(不変量)については,当然満足さるべき,2-E2/c2P'2-E'2/c2なる不変式は確かに成立します。

 

しかし,計算すれば明らかですが,2-E2/c2P'2-E'2/c2の値は一般に各粒子の不変量の総和:-m02=-∑i=1N(m0i2)より小さくなることがわかります。

  

※(注):2-E2/c2(∑i=1Ni)2-{∑i=1N(Ei/c)}2

    ≦∑i=1N(i2-Ei2/c2)=-∑i=1N(m0i2) です。

  

 一般に,運動状態では等号ではなく不等号です。(※)

  

つまり,P'2-E'2/c2<-m02が成立しています。

 

このことから,左辺が常に負の数であることは明らかですから,P'0 となるようなS'系を選ぶことが常に可能です。

このように,総運動量P'がゼロとなるように取った慣性系S'を改めて0と名付け,そのエネルギーも改めてE0と書くことにします。

 

0系はS系に対して速度で運動しているとして,γ≡1/{1-(u/c)2}1/2とおけば,=γ(E0/c2)u={(E0/c2)}/{1-(u/c)2}1/2,かつE=γE0=E0/{1-(u/c)2}1/2と書くことができます。

 

これは,"全静止質量がM0=E0/c2の1つの粒子が速度で運動していること"として同一視すればよいことを示唆していると見えます。

0=E0/c2=m0+T0/c2ですから,この系の静止質量は静止質量の和に重心静止系での個々の粒子の運動エネルギーの和をc2で割ったものを加えたもので与えられます。

 

そして,このとき不変式は確かに2-E2/c2=-E0 2/c2=-M02となります。 

結局,自由粒子系の内部エネルギーが系の慣性質量に効いてくるという事実が示されたわけです。

 

(※全系が莫大な個数の分子から成る統計物理的な気体,液体,固体のような系なら,相互作用の束縛エネルギ-などを無視する近似でば,分子運動の運動エネルギーTは系の内部エネルギー(熱)です。※)

 

これは,運動エネルギーTだけでなく,熱や化学結合など全ての種類のエネルギーに拡張することができると考えられます。

 

参考文献:メラー「相対性理論」(みすず書房)

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2006年8月27日 (日)

ガウス賞,フィールズ賞

 「ポアンカレ予想」="単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である。"は2002年に発表されたロシアのグレゴリー・ペレルマン(Grigory Yakovlevich Perelman)氏による証明が正しいと認められて今年のフィールズ賞に推薦されていますが,本人に受け取る気がないそうです。

 第1回ガウス賞はブラック-ショールズ(Black-Scholes)などの「確率微分方程式」の基礎付けとなる「伊藤積分」の考案者の京大名誉教授伊藤清氏に決まりましたが,いまどき賞金がたった1万ユーロとはなさけないですね。。

 とにかく,「連続体仮説」,「フェルマー予想」,「ポアンカレ予想」が解決されたので,あと大きいのは「リーマン予想」ですかね。

 「リーマン予想」はゼータ関数ζ(z)=(∑(1/nz)を全複素 z 平面に解析接続したもの)の自明でない零点(自明な零点は z=-2, -4, -6,..)は全てガウス z 平面の Re(z)=1/2 の軸上にしか存在しない。というものです。

 もともとリーマン(Riemann)自身は,「素数定理」,すなわち," x までの素数の個数は π(x) ~ x / log x である。"を証明するためにこれを予想したものですが,「素数定理」の方は「リーマン予想」抜きで,既に証明されています。

 「リーマン予想」も,私が生きているうちに証明されるのでしょうか?

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2006年8月26日 (土)

ホワイトノイズ,1/f ゆらぎ

 以前,マイナスイオンについてかなり"マユツバなもの"だと書きましたが,最近電気店で見たコピーはさらに奇妙でした。

 

 「プラス電子が減少してマイナス電子が増えるから健康になる。」などと"トンデモない"文言に遭遇してあきれています。

 

 プラス電子って電子の反粒子の陽電子のことでしょうか?だったら,そんなもの減少もなにも発見することすら大変なことですよ。

 

ところで,ちょっと前に「身体にやさしい1/fゆらぎ」というキャッチフレーズがはやりましたが,こちらの方はどうやら根拠は無いですが一応もっともらしくまともなようです。

 

そもそも,ここでいう"ゆらぎ(fluctuation)"とは電気回路などの雑音(ノイズ)のことでしょう。

 

電気抵抗Rがつながれた回路では,一般に熱雑音に起因する起電力V(t)が生じますが,これを振動数 fの単振動の周波数成分にフーリエ(Fourier)分解してみます。

 

振動数fは正であるとしfにおけるフーリエ振幅成分をV(f)とします。振幅の強度としてサンプル平均<|V(f)|2>Δfを取り,これの2倍(=fと-fの2つ)をパワースペクトル(power spectrum)S(f)Δfとして定義します。

 

雑音電圧V(t)の自己相関関数はΦ(τ)≡<V(t)V(t+τ)>=∫0dfcos(2πfτ)S(f)となることがわかります。

 

これは「ウィーナー・ヒンチンの定理(Wiener-Khintchine's theorem)」として知られています。

特に,"S(f)=振幅強度の平均"が振動数fによらず一定のとき,これは光の白色光と同じく全ての色が同じ割合で混合したものという意味で白色雑音(ホワイトノイズ)と呼ばれます。

 

白色雑音の場合,S(f)=4D(一定)と置いて先の積分に代入すると,自己相関関数Φ(τ)は,Φ(τ)=2Dδ(τ)とディラック(Dirac)のデルタ関数になります。

これをRC回路に適用します。すなわち,回路方程式をdQ/dt=-Q/(CR)+V(t)/Rと書き,回路内に熱雑音起電力V(t)があるとして,Qのゆらぎを考えます。

 

雑音は白色としてその起電力V(t)の自己相関関数をΦ(τ)=2Dδ(τ)とします。

すると,一般にブラウン運動に対するランダムな揺動力R(t)を導入したランジュバン(Langevin)方程式m(du/dt)=-mγu+R(t)からのアナロジーでブラウン粒子の速度uの2乗平均に相当するQの2乗平均は,Φ(τ)=2Dδ(τ)によってCD/Rに等しくなります。

 

これは,また平衡状態でのコンデンサーのエネルギーE=Q2/(2C)に対するボルツマン(Boltzmann)分布の因子exp(-E/kBT)によっても決まります。

 

すなわち,こちらからの計算ではQ2の平均値は∫-∞[Q2exp{-Q2/(2CkBT}]dQ/[∫-∞exp{-Q2/(2CkB)}dQ]=CkBTです。

 

そこで,ホワイトノイズとしての起電力V(t)は,そのパワースペクトルS(f)=4D(一定)が,D=RkBTを満たすことがわかります。これは「ナイキスト(Nyquist)の定理」と呼ばれます。

 

コンデンサーから電荷が失われて熱雑音だけになり平衡状態になったときの雑音電圧はパワースペクトルがS(f)=4RkBTのホワイトノイズであることがわかります。

しかし,一般にはレーザー光線(Laser)のスペクトルのコヒーレンス時間(可干渉時間)のように,

 

自己相関関数:Φ(t)には"相関がある時間が一瞬である"という理想的ケースはほとんど無く,むしろある有限なスパンτがある方が現実的です。

 

Φ(t)=(D/τ)exp(-|t|/τ),つまり完全なホワイトノイズであるよりも,釣り鐘型のある幅を持ったローレンツ(Lorentz)型雑音であると考えたほうが現実的だと思います。

 

そして,一般の電気回路にはこうしたナイキスト雑音の他に,より周期が長くてノイズのパワースペクトルS(f)が1/fに比例する,つまり

 

"ある振動数fの"雑音の強さ=雑音エネルギー"がfに反比例する。"というような"1/f雑音"が混じっていることが知られています。

また,自然界のバイオリズムとか生理的に心地よいリズムとして,この1/f雑音分布が最適である,という生物的パターンがあるらしいとも聞いています。

 

すなわち,私にとっては根拠は不明なのですが,

 

"振動数fがゼロの極限=超低音でゆったりとしたノイズの成分が最も多く,高音になるにつれてノイズの量が少ないというパターン=1/fゆらぎパターン"が,まるで"フィボナッチ数列=黄金分割"が美しさと関係あるように,心拍数のリズムなど生物である人間の快感のリズムと関係がある

 

らしいという話があります。

  

これは,経験上マユツバな話では無くかなりもっともらしい話だと感じました。

 

参考文献:北原和夫著「非平衡系の統計力学](岩波書店)

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2006年8月25日 (金)

ブラックホールの形成時間

 ちまたでは,銀河系の中心には巨大ブラックホールがあるとか言われています。

 しかし,ブラックホールというか,"シュヴァルツシルト半径=事象の地平面"の内部に何かが落ち込んでしまうという現象は実際には観測できないはずです。(検索用=Schwartzschild;シュワルツシルト,シュバルツシルト)

 外部遠方からは,事象の地平面を通過して内側に何かが落ち込んでしまうようには見えず,外から事象の地平面に近づくだけでも我々の時間では無限大の時間がかかります。 

 にもかかわらず,銀河系の中心には実際に巨大ブラックホールがあると言われています。どうしてそんなことがあり得るのでしょうか?

 という質問が「ニフティ物理フォーラム」で過去にありました。

 その当時,これは非常にむずかしい問題だと思いました。

 完全な意味でのブラックホールというものが既にどこかに存在しているとしたら,それに吸収される物体を観測している側からは事象の地平面まで到達するのに無限大時間がかかるため,物体がのみこまれるのを観測できないはずです。

 しかし,曲率から判断される本当の特異点はブラックホールの中心にしかありません。

 シュヴァルツシルト半径は物体自身にとっては特異点でも何でもないですから,物体の固有時間では有限の時間でのみこまれてしまいます。

 したがって,遠方から見ているだけでは光であれ,いつまでたっても吸い込まれませんが,危険を省みず光といっしょに走れば吸い込まれるのがわかるはずです。(何かゼノンの背理(パラドックス)の「アキレスと亀」みたいですね。)

 とは言うものの,実際にそういう観測ができるかというのはむずかしいかもしれません。

 ブラックホールが既にあるとしたらと言った意味は,重力崩壊によってブラックホールができるという通常の星の進化過程なら,それは結局のところ,自由落下と同じなので外部の我々から見て,ブラックホール形成にも無限大時間がかかるはずだという意味です。

 無限大時間ということは,それこそ宇宙開闢から今までかかっても,重力崩壊しかかったまま,ずーっと事象の地平面に凍り付いているはずだ,と質問された当時は思っていました。

 そこで,何らかの重力崩壊以外の理由で,ブラックホールが既存であるということがないとするなら,現時点でも出来かかったままの,つまり「出来そこないのブラックホールもどき」,しかないのではないか?という風に当時の私は考えていました。

  そういうわけですから,「銀河中心に巨大ブラックホールがある。」としてもそれは宇宙ができて後の通常の"星の進化"によるものではなくて,我々の宇宙のビッグバンが開始した頃とか,銀河系が出来たばかりの頃の何らかの重力崩壊以外の作用因でできたものだろうとか,考えていました。

 また,例えば,あるブラックホールがあって,そこに物体が落ち込んでいくとすると, 事象の地平面近くまで落ちたところで,外部から観察すると,その物体はそれ以上落ちていかなくなるように見えると思います。

 しかし,実際にはその物体が落ちたことによって全体の質量が増すはずですから,事象の地平面の内部はそれによって質量的には太るとも思えます。

 重力崩壊の場合,その星がブラックホールになる前といえば,その星の質量全体が中心にあると仮定したときの仮想の事象の地平面は星の半径の内部にあるわけです。

 例えば我々の太陽なら中心から約3kmのところに仮想の事象地平面があるわけですが,重力崩壊して鉄だけの星や中性子星になるということは,

 体積的には星は太るというよりどんどんやせて,地平面がせり出してくることになり,ついには星の半径より外に地平面が出てきたとき,初めてブラックホールになったといえるわけです。

 もっとも,太陽程度の質量では,その進化によって,半径3km程度のミニブラックホールになるわけではありませんが。。。。

 ですから,外部からの吸収により質量的に太るというよりは星が本来持っていて重力崩壊の期間にずっと"不変である全質量=星の自重"が本質的であって,

 それにガスの圧力が抵抗できなくなる内部崩壊の力学が重要であり,自重でつぶれるという意味の方が大きいと思っていたわけです。

 くわしくは,圧力がゼロのダスト物質からなると仮定した球状の密度分布が一般の星の場合の重力崩壊の方程式の解は次のようになります。

 すなわち, t を共動座標の時間,つまり観測者の座標時間ではなく星の固有時間とし,星の半径Rがゼロになる時刻を t0 として書き下すと,

 重力崩壊中の今の時刻 t に対する星の半径R (t ) は, (t0-t )の 2/3乗に比例します。

 もちろん無限大時間でなく,速やかに半径Rはゼロになりますが,これを遠方の観測者がみると,重力崩壊はシュヴァルツシルト時空での自由落下に同等なので,固有時間は有限であっても,座標時間は無限大経過して"半径がシュヴァルツシルト半径の球面=事象の地平面"に到達します。

 ただし,表面から出る光のエネルギーは座標時間と共に指数関数的に減少)しますから,重力崩壊が止まっているように見えても明るさとしては急激に暗くなっていきます。

 一方,これとは独立に一般相対論の球対称一様密度の星のTOV方程式を解くことにより,求められるシュヴァルツシルトの内部解では,

 中心圧力が正であるためには星の半径がシュヴァルツシルト半径の( 9/8 )倍より大きくなければならないので,ブラックホールが存在することは不可能です。

 これがあるので,シュヴァルツシルト自身は,ある意味では"安心していた?"かもしれません。

 しかし実際には例えば一様密度であるという内部解成立以外の条件による解もあるわけで,現実には条件次第でブラックホールは存在可能です。

 そして,一般には核反応や超新星爆発などの現象が中心となって星がブラックホール化するわけですが,ブラックホール化したあとに,外部の物体やエネルギーの吸収によって"星=ブラックホール"が肥大していくというのも可能だと思っていました。

  しかし,現時点では次のような考え方に変わりました。

 重力崩壊が完了する前には,星全体の質量を元にして計算した仮想的な事象の地平面の内部に,星全体があるというわけではなく,崩壊の途中段階ではガウスの法則により仮想半径の外の部分に働く重力は内部にある質量のみに比例し半径の外にある部分の質量は全く無関係です。

 そもそも,地平面内部の質量だけを元に計算した自己無撞着な事象地平面の半径というものを想定すると,最初は内部質量がゼロなので,明らかにそれによる地平面半径もゼロであるというのが真であると考えられます。

 そして事象地平面は崩壊中に固定しているものではなく,重力崩壊が進んでいくと共に内部質量も次第に増加して,それと連動して地平面の半径が次第に成長していくという描像が真であると考えれば,遠方の観測者から見てもブラックホールの形成時間は有限であると考えられ全く何の問題も生じないのではないか,と思うに到りました。

 そして,重力崩壊以外の例えば2つのブラックホール同士の融合についても,こうした考えに基づいて両者の共通の地平面が有限時間で形成されると考えれば,融合によるブラックホールの成長も可能だと思います。

 ただ,し,この場合はやはり互いに自由落下して一方の質量をmとするとき,他方がその地平面に到達するまでの座標時間 t は,素朴に考えるとやはり無限大になりますね。

 具体的には,シュヴァルツシツト半径を rg= 2Gm/c2とすると,球対称時空の計量は動径部分のみで考えたs波では,ds2=c2dτ2=(1-rg/r)c2dt2-dr2/(1-rg/r)です。

 この時空を仮に質量ゼロの光が自由落下すると仮定するなら,"光の経路=測地線"はdτ=0 で与えられます。

 つまり光の固有時間の経過は常にゼロで,光自身は決して歳を取らずτで表わされる固有時では即座に地平面を通過して星の中心に到達するわけですね。

 そして,光の測地線はcdt=±dr/(1-rg/r)となりますから,これを素朴に解くと,時刻t0でr=r0であったとして落下の条件ならばc(t-0)=(r0-r)-rglog(r-rg)/(r0-rg)となります。

 右辺の第1項は単に光速度で等速運動をするという距離を示しており,自由落下の効果は第2項の対数項で表わされます。

 したがって,これは距離rが地平面半径gに近づくときに観測者の座標時間tが-glog 0 +(r0g),つまり無限大になるということを表わしています。

 光ではなくて有限質量の物体の落下の場合は,最小作用の原理,つまりds=cdτの積分が最大になる経路が測地線になります。

 これを解いた結果だけを書くと,ct/(2g)=(-2/3)(r/rg)2/3-2(r/rg)1/2-log[{(r/rg)1/2-1}/{(r/rg)1/2+1}]+const.となり,やはり対数項の影響によって距離rが"地平面半径=g"に近づくときにtは無限大になります。

 しかしrがrg まで到達しなくても,(r-rg)がいわゆる"プランク長さ=約10-35m"程度になるまで,接近すれば重力の量子効果が無視できないことになります。

 でも,この位置では,事実上,両者は合体したと見なしてもかまわないでしょうね。

 そして,rがプランク長さの距離までg接近する時間,つまりglog(r-rg)+(r0g)に(r-rg)=約10-35mを代入した時間は無限大ではなく有限です。

 このときは,逆に対数項の効果はほとんど無視できて,他の有限な項の寄与のほうがはるかに大きいことになります。

 結局,量子効果を考慮すれば,合体までの時間は無限大ではなく有限である,ということになると思うに到りました。

 (この最後の量子効果を考慮する考察の部分については,主にネットで「甘泉法師さん」から得た情報です。ありがとうございます。)

  参考文献:佐藤文隆、原哲也 著 「宇宙物理学」 (朝倉書店)

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2006年8月24日 (木)

浅川マキ,山崎ハコ(暗い唄)

 私が昔から好きな女性歌手は,なぜか一般大衆から暗い唄を唄うといわれています。

 大学1年の頃(1969年),初めて聴いた浅川マキの唄の印象は強烈でした。

       

 それ以来,私は例によって若気の至りを引きずって,昔のままの初期の浅川マキの唄に今でも惚れていて,今ではCD化されたものをよく聞きます。

 近藤等則らとのセッションによる前衛的な方向へ移った後の曲も全集という形で出たセットの中にあるので所持はしていますが,どうも好きになれず,それはほとんど聴いていません。

 私は,やはり,初期の唄が好きです。

 最も好きなのは「ちっちゃなときから」で,その次は「ブルー・スピリット・ブルース」ですが,その他,有名な「かもめ」や「少年」,「ガソリン・アレイ」,「前科者のクリスマス」,「雪の海」,「花いちもんめ」,「めくら花」,「セントジェームス医院」など好きな曲は枚挙にいとまがありません。

 彼女の魅力は,その声の独特な響きとツヤもそうですが,マキ自身や寺山修司氏らによる歌詞のモラルを無視したような部分に共感を感じるところにもあると思います。

 たとえば,「私が娼婦になったならいつでもドアは開けておく,海からツバメが来るように(私が娼婦になったなら)」とか,「私が着いたのはニューオリンズの朝日楼という名の女郎屋だった。(朝日のあたる家)」とか,「おいらが恋した女は港町のあばずれ,いつもドアの前で着替えして男達の気をひく浮気女(かもめ)」とか,それぞれの曲にかならずそうしたフレーズがあります。

 1960~70年代の「イージー・ライダー」の時代のアメリカで「ビッチ(牝犬)」と蔑まれていた「アウトサイダーのあばずれ女たち」に助けられて生き延びてゆく,陵辱され殺された恋人の復讐のためにアメリカ本土に渡ったお尋ね者の元オリンピック代表アマチュアボクサ-:暮海猛夫(くれみたけお)(漫画「I・飢男(アイウエオ)(小池一夫・池上遼一)」に通ずるものを感じたりもします。

 小池一夫といえばそのヒット作「子連れ狼」もお尋ね者が主人公であり,反権力的=反モラル的な傾向が強いものが多いと思います。

 また浅川マキは,山下洋輔のアレンジで,ジャズ・ピアノのインストゥルメンタルがメインですけれど,ビリー・ホリディ(Billie Holiday)の歌唱曲「奇妙な果実(strange fruits)」をもカバーしています。

 これも衝撃的な歌詞です。

 「南部の木に奇妙な(黒い)果実がなるという。」で始まり「black body is swinging in southern breeze」(黒い実(体)が南部のそよ風になびいている(スウィングしている))と続いていきます。

 コラボレーションでは,つのだひろ とのデュエットで「それはスポットライトではない」というのもあったと思います。

 もう1回挙げますが,LPにしかないと思う「ブルー・スピリット・ブルース」,は珠玉の名曲ですね。

 ライブでは泉谷しげるの飛び入りのギターもありました。しかし,聴いた曲でいちばん暗いと思ったのは「さかみち」という唄だと思いますね。

 学生運動が盛んだったその暗い時代に,男性シンガーで一見明るく彼女とは対照的に見える岡林信康も好きでしたが,彼も実は暗いものをわざと明るく唄っていたに過ぎません。

 有名な「山谷ブルース」の最後の部分,「働く俺達の世の中がきっと,きっと来るさそのうちに」というフレーズは陳腐だと思って昔は嫌いでしたが,やがてそれは反歌であり,彼自身の唄うものを聴くと「そんな世の中など決して来ない」という哀しい響きを感じるようになりました。

 彼の意に反して日本共産党民青の愛唱曲になってしまった「友よ」という唄もあります。「夜明けは近い」というところが気に入られたのでしょうが,これも実は反歌ですね。

 ここは大勢で合唱するようなものではなくて,実は「夜明けは遠い,来ない,決して来ない。」という本当は哀しいフレーズなのですがね。。。。

 彼の曲の中で最も暗いと思うのは被差別部落の靴職人の女の子を想定したと思われる「チューリップのアップリケ」です。

      

 カラオケではなかなかない曲なのですが,数年前,江戸川橋の「サンドール」(現在は「神楽坂」にあります)というスナックで唄ったときに,見知らぬ若い女性の客にほめられ,代わりに「ワールド・アパート(World apart)」という曲を唄っていただきました。

 これは,私がLDで見たことがある南アフリカのアパルトヘイト(Apartheid)の時代を描いた映画「ワールド・アパート」の主題歌だったらしいのですが,私の記憶にはなかった曲です。

 ,「チューリップのアップリケは唄うと,ときどき泣いてしまう唄ですが,その他に泣ける唄はジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)の「ミー・アンド・ボビー・マギー(Me And Bobby MacGee)」くらいですかね。

 そうそう岡林の部落差別に関係した歌詞の唄としては,「チューリップのアップリケ」以外に「手紙」というのがありました。これもほろりと来る唄ですね。。

 話は脱線してしまいましたが,それから何年も経って,東京に就職したとき(1977年)に同期の友達に聴かせてもらったLPレコード「山崎ハコ・ファースト・ライブ」で,またまた強烈な衝撃を受けました。

          

 それは「ハーモニカ吹きの男」から始まるLPですが特に最後の「向かい風」が絶品で「走れ,走れ,走れ,走れ,生きてる証拠にー」というのを聴くと本当に走りたくなってしまいます。

 このLPは後になって中古で入手して永久保存のためDATに記録してときどき自身が「暗くなるために」聴いています。

 山崎ハコは自身の頭の中のイメージを,彼女のソプラノで独特のスキャットに乗せて叫ぶように,そのまま表現する才能があるようで感心します。

 また歌詞でも,例えばララバイというのは子守唄という意味ですが,日本人ならグッバイとかバイバイとか別れ言葉のイメージを浮かべる響きを持っていると感じるのではないでしょうか。

 彼女はそうした韻(いん)を,その雰囲気のままに盛り込んでゆくように歌詞を作っていく,と感じました。

 また大分の日田の生まれで九州弁はピッタリときます。

 その後,テープやCDも集めましたが最も「暗い」と感じたのは「ダージリン」という唄ですね。

 「雨上がりの朝,いつもの道をスニーカーの爪先を見つめながら歩くのさ」とダージリンを飲みに喫茶店へ向かうのですが,こんなフレーズは普通では浮かんできませんね。なんて「暗い」のでしょうか? 

 内容が暗くてモラルに反するものとしては「兄妹(きょうだい)心中」という哀しい曲もあります。

 一般にヒットした曲は五木廣之作詞の「織江の唄」だけで,これは映画「青春の門」の主題歌です。カラオケではこれと「望郷」,「気分を変えて」(←香坂みゆきもカバーしています。)くらいしか見たことがありません。

 ほかに「地獄(心だけ愛して)」というのも映画の主題歌だったと思います。

 古い映画で確か若いときの野川由美子が主人公で中国の前線での日本人の従軍慰安婦の前途に何の希望もない地獄のような生活を描いたものを昔深夜に見たような気がします。(※これは私の誤りらしいです。)

 とりとめがないのでこれで終わります。暗い気分になりたくなったら,こうした曲を聴くのがいちばんですね。

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2006年8月22日 (火)

近視と老眼

 物理屋なので,人体の生理学の一分野であろう眼の構造には全然詳しくないのですが。。。

 確か近視のときは眼の水晶体レンズが厚過ぎるため遠方の物体からの光が網膜上よりも前に結像するので,ぼやけてしまう。

 一方,遠視のときは水晶体レンズが薄過ぎるために近くの物体からの光が網膜上よりも後ろに結像してぼやけて見にくいのである。

 という認識をしています。

 まあ,老眼は厳密には遠視とは異なるのでしょうが,遠近両用メガネがあるように近視で,かつ遠視である,という人が世の中には大勢います。

 これはある種の矛盾ではないかと,長年疑問に思っていました。近視の人は老眼になりにくいのではないか,とも思っていましたが,現実はそうではないので不思議でした。

 しかし,そもそも健康な眼では,遠方,近傍の両方が見えるように眼の毛様筋が水晶体レンズの厚さを調節するという働きをしている,ということです。

 ですから,結局は近視でかつ老眼というのは,毛様筋が焦点を機敏に調節できなくなった状態であり,うまく水晶体レンズを厚くも薄くも調節できないという病気であるのだと理解しました。

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2006年8月21日 (月)

ビッグバンとエントロピー増大(時間の向き)

 「エントロピーは増大する」という内容を,「エントロピー=乱雑さ」として身の回りの例を元に考える際,局所的には増加したり減少したりするけど,全体で見るとやっぱり増加している.。

 そう考えたとき,エントロピーを増加させているのは,結局ビッグバンによる物質の拡散膨張が原因なのかと考えてしまうようになってしまいました。

 これって正しいのでしょうか? もしそうだとすると,クランチが始まるとエントロピーは減少するのでしょうか?

  と@nifty物理フォーラムで過去において質問を受けたので,私の回答を掲載しておきます。

 回答は次のとおりです。ただし回答に対して何度も質問を受けたものについてまた回答したものがあるので重複して読みづらくなっている部分もあります。

 通常の断熱自由膨張では体積が2倍になると,気体分子数をN,ボルツマン定数をBとすると,エントロピーの増加はΔS=NBlog2になります。

 もっともエントロピーの増加分は熱平衡状態における差であって非平衡状態で考えるのはちょっとむずかしいですけどね。

 エントロピーの増大ということからすれば,宇宙全体を孤立系と考える必要がありますが,まあ,断熱壁に囲まれた孤立系と考えてよさそうです。

 エントロピーは相空間の体積の対数ですから,膨張すればエントロピーが増加するのだ,と言えるでしょう。

 むしろ,宇宙が膨張するのが熱力学第2法則からの帰結であるのかとも考えられます。

 ただし,今の宇宙論の世界では,現在が熱平衡状態にあるのではなくむしろ非平衡状態にあるとされているので,熱平衡状態の法則がそのまま適用できるのかどうかについては,本当のところ,若干の疑問は感じますが。。。。。

 重力場の方程式は時間反転対称なので膨張解も収縮解も定常解もありますから,膨張しているというのは,現在が膨張状態にあるという事実から,その初期条件に従う解を取らざるを得ないという意味で,重力場の方程式自身に膨張でなければならない,という根拠付けはありません。

 ブラックホールという解があるので,時間を逆向きにすれば光などが全て排斥されてしまう,つまり光放出という一方向にしか進まないというホワイトホールという解もありますからね。。。。。

 熱平衡という感覚からすると,宇宙が膨張すればするほど,局所的には熱平衡からは,ますますずれていって非平衡になりそうです。

 恒星などの低エントロピー源(高温)から,核反応などで生じた高エントロピー(低温)の不要な熱を捨てることのできる低エントロピーの場所=エントロピーの小さい極低温の宇宙空間が膨張によりどんどん増えてゆくともいえます。

 熱力学第2法則自体の時間反転対称性という悩ましい問題もあります。

 孤立系ではエントロピーは必ず増加します。巨視的な熱力学理論も時間反転に対して対称だとしたら,エントロピーが Δt>0 の向きで増加するなら,Δt<0 の向きにも増加するはずです。

 もっとも,現在(時刻:t)が平衡状態にあるとしてですが。。。。

 これは統計力学の基になっている粒子の力学方程式が時間反転対称ですから熱力学でもそうではないかという考察に基づくものです。

 たとえばボルツマンのH定理というのがあります。

 これは実はHというのはエントロピーに負号をつけたものに相当するのですが,時間について減少関数になるからという理由で可逆な粒子力学方程式から不可逆性が導かれる証拠と称しています。

 しかし,時間の向きを逆にとることにより過去にも減少します。ということは見方次第で時間の増加関数にもなります。

 テル・ハール(D.ter Haar)の「熱統計学」によるとエントロピーはS=-BHですから,"Hの減少=Sの増加"になりますね。

 私自身は不可逆性というのは"粗視化"によるところが大きい,と見ています。微視的には複雑な町並みなども遠くから見ると濃いところと薄いところがある塊りにしか見えない,ということなどを"粗視化"と称しています。
 
 さてビッグクランチで収縮に転じるとエントロピーが減少するかという問題ですが,普通に考えると減少するでしょう。

 これについても時間対称性を考えると多少の考察はできます。

 むしろエントロピーの増加そのものが時間の向きを決めているという見方もできるからです。

 ビッグクランチ以降の人にとっては,むしろ,時間はわれわれから見た未来から過去に進む。そこではやはり宇宙は膨張し,エントロピーは増大する。。

 これはホーキング(S.W.Hawking)だったかによる「時間対称宇宙」というものですが,この理論はあまり本流ではないようです。

 その他,私には最近の知識はないのですが,こうした問題はまだ未解決ではないでしょうか。。。。

 ボルツマンのH定理に対しては"ロシュミット(Loschmidt)の逆行性批判("という厳しい反論があります。

 それは力学においては方程式は可逆であるから,Hが最小,あるいはSが最大の熱平衡に達したとき,正にそのときに全粒子(分子)の運動の向きを逆転すれば,たちまち非平衡に逆戻りする。だから,H定理に反してHは増加しSは減少するではないか?

 というものです。

 たとえば,コップから床に落ちた水も,その落ちた全ての水滴は速度を逆向きにすれば,重力に抗してコップまで逆のぼっていくことが可能な運動エネルギーを持っているわけですから,逆行は理論的には可能なのですが,そのようなことは現実には起こりませんね


 要するに,H定理というのは可逆な決定論的な法則から不可逆性を導いたわけではなく,確率的な仮定を考慮に入れた結果として不可逆性を説明した,に過ぎないわけですね。

 拡散現象や熱伝導の現象は,濃い方から薄い方へ,高温から低温へとしか,流れが起きず,逆は生じないというわけで,これらは同じフィック型の拡散方程式で記述されます。

 方程式の型が波動方程式型(双曲型)でなく,放物型なので時間反転対称でなく,不可逆性を表わす式となっています。

 もっとも相対論的に共変な形をしていないので時間を純虚数時間にして i を入れた放物型のシュレーディンガー方程式と同様,アメリカ太平洋岸で起きた津波が瞬時に日本に伝わるような方程式であるという欠点はありますね。

 まあ,相対論的に書き直せばいいだけですが。。。。。

 拡散現象は巨視的には,部分系に分けて考えると全体(孤立系)でエントロピーが増加しなければならないという要求から部分系間の状態の移動の方向が決まるということから導出できますね。

 一方,分子論的な立場からは,濃い場所からも薄い場所からも等しい確率で分子が出入りするという仮定をおけば自然に出てきます。

 つまり,等確率(等重率)の仮定をおけば,ランダムウォークの結果としてブラウン運動になり,拡散方程式を満足するようになるのです。

 拡散,熱伝導は典型的な不可逆現象ですから,これが説明されればだいたい不可逆性の問題は解決です。

 ところが,これにはやはり等確率の仮定というのが入っています。

 この等確率の仮定の根拠というのが,またやっかいなもので,エルゴード仮説(Ergodic hypothesis)と言われるものです。

 この仮説:"あらゆる相空間を粒子系がすべて埋め尽くす軌道を取るのである。"というものがありますが,非常に小さい系でもすべてを埋め尽くす軌道をまわるには宇宙の寿命より長い時間がかかりますが,実際の「熱平衡」は短時間ですからある意味では奇妙な話です。

 この問題はランダウ(Landau)の「統計物理学」によると,"t<0 を考えなければよい。"という話になります。

 つまり,"孤立系を考えるというが,それはいつか作られたものである。箱の中に気体があるという話では,それはそれ以前には人や装置が関った系ではなく,箱に気体を詰めた時刻というものが存在するはずだから,そのときの時刻をt=0 とすればいい"という意味です。

そうすれば孤立系のエントロピーは常に増加するとできるというわけです。

 熱力学第2法則は孤立系では現在から未来に向かって,必ず,エントロピーは増大しなければならないので,例えば時間が逆向きになっても過去に向かって増大しなければならないだろうと思われます。

(現在が平衡状態だと既に最大なのでそうはいかないので,むしろ最小だと考えねばならないでしょう。)

 熱力学法則の時間対称性を要求すると,そういうことになるんですが,統計力学だと,むろん過去に向かっては,逆に減少します。そこが矛盾かな?と感じないわけではありませんが。。。

(熱力学に時間対称性を要求しなければいいのかもしれませんが,統計力学(力学)では時間反転するとビデオの逆回しになるので増大していたものは減少するはずです。

 その世界も現実的にありうる運動状態の場合には,そうした世界でも熱力学が成立するはずで,そこでもエントロピーが増大するはずと思ったわけです。)

  "粒子の方程式が時間反転対称である。"ということの意味は,たとえばニュートンの運動方程式で時刻 t を (-t ) に置き換えたとしても方程式の形は不変という意味です。

 そこで,ある時刻 t0 における位置で,時刻を t'=2t0-t と対称変換して,初期条件をt=t0における位置はそのままで,速度を逆向きにすると(時間 t が (-t ) に変わると,速度は位置の時間による微分なので (-) 符号が付きますね。),その軌道は来たものを逆にたどるというだけです。

 量子論だともっと複雑で,シュレーディンガー方程式の t を (-t) に変更して波動関数の複素共役を取れば時間対称である,というもので,複素共役をとるので座標表示での運動量 =-i∇ したがって速度も逆向きになります。

 統計物理は多数の粒子が衝突を繰り返すもの,といって,元々ニュートンやシュレーディンガーの粒子方程式に従う粒子群の運動状態の分布から,巨視的な挙動を抽出したものです。

 そこで,確率的に大きい(状態の数が多い=エントロピーが大きい)向きに状態が移行する,ということを抜きにすれば,ある瞬間に時間の向きを逆転すると,エントロピーが減少する向きに移行してもおかしくはないというのが"ロシュミットの逆行性批判"を巨視的に捉えた場合の意味です。

 (しかし今考えると確率的な考慮が入っているという部分で,既にロシュミットの逆行性は崩れているといえますね,私も少しは成長していますね。(^^; )

  そして,"孤立系ではエントロピーが増大する。"という意味は熱力学では第2法則(クラウジウスの不等式:ΔS>ΔQ/T)からそれが成立するのは,あくまで"
熱:ΔQの授受がない(ΔQ=0)=孤立している"という前提の下でです。

 そして,宇宙の場合も開闢より前は孤立系ではないだろうし,普通の容器の中の気体も閉じ込めて観測する前は孤立系ではないだろうから,孤立系が始まったときを時間の原点にとって,れ以前を考えないことにしたら,過去というものは考えなくてもよいかな,というのがランダウの主張する内容です。

 ツナギ合わせの編集ということもあって,結論もなくダラダラとした収拾のつかない文章になってしまいました。。。

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2006年8月19日 (土)

スペクトル展開と超関数(量子力学)

 自分の復習の意味で"量子力学の線形演算子=物理量"をその固有状態の状態ベクトルで作った射影演算子で展開する方法を考察してみます。

 まず,ある自己共役な線形演算子Aの固有値が離散的であるとして,それをλn (n=1,2,3,...) とし,その固有状態のケットベクトルを|λn >とします。

 簡単のため縮退がないとすると m≠nのときは<λm| A |λn>=λm<λmn >=λn <λmn >で,λm≠λn ですから ,<λmn>=0 であり, |λm>と |λn>は直交します。

 一般に離散的固有値のみのときは,<λmn >=δmnとヒルベルト空間のベクトルとして直交規格化することができます。

 そして固有状態のベクトル系が完全系:∑nn><λn | =1であれば任意の状態のベクトル |ψ>は |ψ>=∑nn><λn |ψ> と展開できます。

 特に, A |ψ>=∑nn>λn<λn |ψ> と書くこともできるので,Pn≡|λn><λn | で射影演算子を定義すれば, A=∑nλn Pn と表わすことができます。

 これを演算子のスペクトル展開といいます。

 一方,Aが位置や運動量Pのような連続)固有値の場合はどうでしょうか?

  運動量Pは閉じ込められたり,束縛状態(の場合には離散固有値も取りますが,自由粒子では連続固有値しか取りませんね。

 このときの Aの連続固有値をλ,固有ベクトルを|λ>とするとλ≠λ' ならやはり <λ |λ' >=0 です。

 しかし,この場合は一般に固有ベクトルはノルムが有限でなく,ヒルベルト空間のベクトルでさえないので,"直交規格化"することはできません。

 例えばX表示で は,<X | X'>=δ(X-X' ) という,ディラック(Dirac)のデルタ関数という"関数とはいえないもの=超関数"でしか"直交規格化"をうまく表現できません。

 展開の方も,形式的には |ψ>=∫|λ><λ |ψ>dλ,また A |ψ>=∫|λ>λ<λ |ψ>dλと書いて,P (λ)≡|λ><λ| と定義し, A=∫λP(λ) dλ と表現して,これを演算子の"スペクトル展開"である。としてもいいように思えます。

 しかし,P (λ)≡|λ><λ|なるものを記号的,形式的に射影演算子と定義しても,これ自身が"長さ=ノルム"が有限でなくて超関数的な実体です。

 ヒルベルト空間の上の有限な演算子,または物理量という資格がありません。

 A=∫λP(λ) dλという形式的な展開を表わす右辺の積分も,ルベーグやリーマンの意味での積分という通常の定義からはみ出してしまいます。

 そこでAの固有値がλとλ+dλの間のP(λ)dλ=|λ>dλ<λ| に相当するものdE(λ)をスペクトル射影演算子と定義します。

 そして,スティルチェス積分を使って,|ψ>=∫|ψ>dE(λ)と展開します。

 また,A=∫λdE(λ)と書けば,やっと意味のある演算子のスペクトル展開になるわけです。

 超関数を気持ち悪いと考えないなら,ディラックのオリジナルのA=∫λP(λ) dλ=∫|λ>λ<λ |dλを演算子のスペクトル展開としても,私は別にかまわないと思います。

 いずれの扱いでも,積分の定義を拡大解釈することにより,離散的な場合をも含めて機能的に扱うことが可能となります。

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2006年8月18日 (金)

卑怯ということ

 私は,そもそも相当の変人で変態なので,モットーなどというのはほとんどないし,持ちたくもないのですが,なぜか卑怯な行為とか,女性には失礼ですが男らしくない,女々しい行為だけは嫌いです。

 卑怯というのを広辞苑で引くと「卑劣なこと」などとありましたが,これは単に言い換えただけですね。

 ネット将棋などを指すと負けたときの反応に,その人の人格が如実に出たりします。私自身を正当化するつもりはないですが,対局相手には卑怯なと思える行為が多いですね。

 まあ,将棋はもともと庶民のゲームで,熊さん,八っつあんの縁台将棋の世界ですから,負けてくやしくて盤をひっくりかえすなんていうのはよくある話で,それを面前でやられても卑怯だとは思わず,むしろ「ざまあみろ」ってなもんです。

 しかし,ネット将棋では自分が負ける寸前に「逃げる=回線を切る」なんてのをやられると卑怯な奴とやや腹が立ちますね。まあ,こちらが腹を立てれば相手の思うつぼなんでしょうから,そのうち慣れて腹も立たなくなりました。

 故意の王手放置などもありますが,これは故意なのかうっかりなのかわかりませんね。正念場でわざと回線を落として後て帰ってくるなど,いろいろな盤外作戦もあるようですが,そうまでして勝ちたいのでしょうか?

 また,私の手番なのに相手に投了されると,むっとしますが,これはそもそも投了の権利が自分の番にしかないことを知らないだけなのかもしれませんね。

 私の場合は相手に失礼と思うから明らかに自分の負けなのに,手番を待たされても自分の手番でないと投了はしません。まあ礼儀ですからね。

 また,詰んでいる,負けている,のに残り時間が過ぎるまでじっとしていて,あるいは寝ているのかもしれませんが,投了がいやなので時間切れを待ってそれで負ける人もいます。

 私の場合は逆で,たかが将棋というゲームで私自身はアマチュアなのですから,真剣に考えていると思われるのが癪でもあり,時間切れは一番の恥だと思っているので,私がほぼ勝勢でも時間が切れそうになったり,手がわからなくなると時間が切れる前に投了するようにしています。

 したがって「将棋倶楽部24」の道場では2万局近く指していますが,時間切れ負けが20~30局程度しかないはず,なのが自慢です。

 だから対局の最中に電話や宅急便などがあると,あわててしまうし急に考え出したと思われるのは癪ですね。そこで,電話しながら指すこともあるけど,そうしたことの前に投了することもよくあります。

 将棋の話ばかりしましたが,私は外見はあまりよくないけど内面だけは男らしくありたい,というのがいわばモットーですね。

 将棋に負けたくらいで別に命をとられるわけではなくレーティングが下がるだけです。パターン認識という面で相手より劣っているだけ,つまり相手より頭が悪いか経験が少ないか執念が足りないにすぎません。

 では本当に命をとられるなら,卑怯な手を使ってもいいのでしょうか。強い相手に対面して殺されそうなときに逃げるというのは私は別に卑怯だとは思いません。

 また戦争での奇襲,ゲリラ,テロなどは卑怯という範疇に入るかもしれないけど,そもそも殺し合いにルールなどないと思います。

 卑怯というのは平時に個人的利益を得るために卑劣なだましうちをすること,あるいはそうした態度をとること,をいうのでしょうか。

 しかし,そもそも正しくない社会,曲がった社会ではいわゆる善行をすることが悪であり,悪行をすることが善であるかもしれません。やはり相対的な価値観にしかすぎないのでしょうね

  でも,赤ん坊や幼児が自分のわがままが通らないと大泣きしたりして駄々をこねたりしますが,これは卑怯な行為なんでしょうねえ。

 老人になると頭は赤ん坊に帰って退化していきますし,してみると人間の本性は本来卑怯なのかもしれません。相対的概念といいながらも,こうしたことも考えてしまいます。

 したがって,モットーとしては私は私の思う男らしさを実行し,私の思う卑怯な行為を嫌う,ということだけでしょうね。私は自分に厳しく他人にはやさしくありたいとは思いますが,それもまた主観的にそう思うだけですし,それも自己満足を得るというひとつのエゴでしょう。

 私の亡父には「他人がやりたがらない,嫌がる仕事を,つまり3Kのような仕事を率先してやれ。と教育されましたが,それは実行しようとするのだけれどなかなかむずかしいことですね。

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2006年8月16日 (水)

台風の進路(コリオリの力)

 そろそろ台風が頻発する季節になりました。

 今日は,北半球では赤道付近で発生し,海域から多量の水分やエネルギーを吸収しながら発達して北上する台風が,なぜ右(東)の方に進路を変えていくのか?

 そして,なぜ上空から見て左巻き(反時計回り)の風が吹くのか?

 という,ごくありふれた疑問について解説してみます。

 例として,ちょっと古いけど左回転しているLPレコードがあり,その上に"一寸法師"よりも小さい小人が乗っているという仮想的な状況を考えてみます。

(↑左回転は仮定であって,実際のLPレコードは,裏から見ない限り右回転(時計回り)です。)

 レコードの中心は地球の北極に相当し,レコードの最大半径の部分は地球の赤道に相当します。

 

 まず,レコードの回転している"最大半径=赤道"の上にいる小人が"レコードの中心=北極"めがけて真っ直ぐに小石を投げたとします。

 本人は真っ直ぐ中心に向かって投げたつもりでも,小石が手を離れた瞬間には慣性によって小石はレコードの回転スピードと同じ速度で右に向かう接線速度を持ちますから,実はそれは中心の方向に向かって真っ直ぐに飛ぶのではなく て,次第に右の方に逸れていくということになりますね。

 ↑ここで右というのは,小石を投げた小人にとっての右です。(わかっているとは思いますが念のため))

 次に逆に"中心=北極"の上に小人がいて今度は"最大半径=赤道"めがけてやはり小石を投げたとします。

 今度は北極で小人は自転しているかもしれませんが,スピンの回転半径はゼロなので,その慣性による小石の左右方向への速度はゼロですから確かに"真っ直ぐ"進むはずです。

 ところが,レコードの上,つまり北半球の地球上にいる人は"左から右=西から東"に回転しています。その人から見ると"上=北"から真っ直ぐ飛んでくる小石は"下=南"から見て"左に左に(西に西に)"逸れていくように見えます。

 逆に"小石を投げた方=北"から見ると,見かけ上はやはり右の方に逸れていくわけですね。

 小石を台風だとみなし地球の自転の角速度をΩとすると Ωは"360度=2πラジアン(rad)"を24時間で回転する角速度です。

 地球の半径をRとし,緯度をθとすると,そこでの回転半径はRcosθですから,回転の接線速度はΩRcosθです。

 したがって"赤道"での接線速度は最大速度"ΩR=時速1667km=秒速463m"ですが,日本付近の緯度:θ=35度での接線速度は"ΩRcosθ=秒速379m"です。

 日本付近では回転速度は赤道より"約2割=秒速80m"くらい減少しています。

 したがって,赤道付近で発生した台風は地球のまさつにより"ΩR=時速1667km=秒速463m"の地球に引きずられて慣性による右向きの速度を持っていて,その右向き速度は北上しても全く変わらないものです。

 しかし,地球自身の回転速度は緯度が上がるにつれて次第に小さくなるものですから,日本付近では1秒間に80mくらいの割合で,右(東)へ右へと逸れていくことになるわけです。

 先に,LPレコードの例で述べたように仮に北極で台風が発生して南下したとしてもそれは右に逸れていきます。

 実は北半球ではどこから投げた石も見かけ上,右に逸れていくわけです。

 例えば,スナイパー:「ゴルゴ13」が1km遠方の標的を狙って狙撃しても,弾丸は僅かに右に逸れていくのでそれを勘定に入れて狙う必要があるわけです。

 もしも南半球なら逆に左に逸れるわけですね。

 こうした北半球で右にそれる現象は結局,遠心力などと同じく"見かけの力=慣性力"が働いていると考えることができて,それを発見者の名前にちなんでコリオリ(Coriolis)の力といいます。

 次に,北半球での台風を考えると,台風ですから"中心=目の部分"の気圧が最低でまわりの気圧は目の部分のそれより高いわけです。

 風はどのように吹くか,というと水が高いところから低いところへと流れるように,風も気圧の高いところから低いところ目指してその気圧のスロープに沿って吹いていきます。

 もしもコリオリの力がなければ,風は"外周部から中心に向かって一直線に進む=落下していく"はずなのですが,コリオリの力によって気圧のスロープも右にねじれてしまっています。

 それ故,風は外周部から中心に向かっていくときに,右にフックして逸れていきながら,最後は中心の気圧最低の目に向かっていくことになり,そのために左巻き(反時計回り)になるのです。

 南半球での台風は逆に右巻き(時計回り)ですね。

 どこかの"バカな大学教授"は,風呂の水が排水口へと流れていき排水されるときに,北半球では左巻き(反時計回り)ですが,赤道を越えて南半球に入ったとたんに右巻き(時計回り)に変わる,などと主張したと聞きましたが,それは誤りですね。

 風呂の水程度の規模では地球自転の影響などは出てきません。

 たまたま排水口付近で左巻きの角運動量を持っていたら左巻きになり,逆なら右巻きになるというだけで,それはカオス現象,偶然の産物でしかありません。

 しかし台風くらいの規模になると地球の自転がもろに効いてきます。

 遠心力の加速度は緯度θでΩ2Rcosθですから,最大でも重力の加速度の0.3%程度です。

 北極で体重100kg重の人が赤道で体重を測っても300g重くらいしか軽くはなりません。

 一方,コリオリの力の加速度は台風の北上の速度をvとして2Ωsinθ×vです。

 Ω=7,2×10-5/sですから,緯度θが35度で台風の北上速度が100mを10秒で走る程度の時速36km程度なら,加速度a=8.3×10-4m/s2であり,重力g=9.8m/s2の約0.01%程度です。

 そこで,コリオリの力の加速度は,最大で重力加速度の0.3%程度しかない遠心力のさらに1/30程度にすぎません。

 しかし,台風程度の規模だとそれがかなり効いてきます。

 地球自転の証拠であるとされるフーコー(Foucault)の振り子をこのコリオリ力で説明することもできます。

 ニュートン(Isac Newton)は"慣性系の同等性=ガリレイの相対性原理"は認めても"回転系を含む非慣性系の同等性=マッハ(Mach)原理 → 一般相対性原理"を認めることをあきらめました。

 そして,彼が"絶対座標系=絶対空間"に固執せざるを得なかったのも,こうした"遠心力やコリオリ力の絶対性"を解消する道はない,という考えからだったという話もあります。

 こうした"見かけの力=慣性力"の扱いはとても悩ましいところがあります。 

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2006年8月15日 (火)

2つの物体の温度の接触による交換

同じ質量Mの2つの物体(固体)A,Bの温度がそれぞれT,Tであったとし,これらを接触させて放置すること(=熱伝導)だけで,AとBの温度を交換する方法を考えてみます。

 

これは,どこだったか覚えていませんが,ある大学の入試の過去問題にあったと記憶しているものを参考にしています。

 まず,一連の手順を5つの工程に分けて行います。

 

 なお,これらの物体を取り囲む環境は断熱で,熱は逃げたり入ってきたりすることはないと仮定しておきます。

     AとBをそれぞれ半分の質量M/2の2つの物体A1,A2とB1,B2とに分割します。

 

  そしてA1とB1とを接触放置します,質量が同じですから熱量保存の法則によって温度はA1=TB1=(+T)/2になります。

     次にA1とB2とを接触放置します。

 

  温度はA1=TB2={(+T)/2+T}/2=(1/4)T+(3/4)Tになります。

     次にA2とB1とを接触放置します。

 

  温度はA2=TB1={T+(+T)/2}/2=(3/4)T+(1/4)Tになります。

     さらにA2とBとを接触放置します。

 

 温度はA2=TB2=(+T)/2になります。

     最後に,分割していたA1とA2,B1とB2をそれぞれ元のAとBに接着して戻します。

 

  このとき接着して戻したA全体,B全体の温度は,それぞれT'=(1/2)[{(1/4)T+(3/4)T}+{(1/2)T+(1/2)T}]=(3/8)T+(5/8)T,

 

  T'=(1/2)[{(3/4)T+(1/4)T}+{(1/2)T+(1/2)T}]=(5/8)T+(3/8)Tになります。

 これらの結果,結局Aの温度はTからT'=(3/8)T(5/8)

 Tに,Bの温度はT'=(5/8)T+(3/8)Tに変わりました。

 

 当然のことながら,質量が同じなのでT'+T'=T+T

 成立しています。

ちなみに最初Aの温度がT=192℃,Bの温度がT=320℃であったとすれば,この手順の結果としてT'=272℃,T'=240℃となり,既にこの操作だけでA,Bの温度の高低が逆転しています。

では,一連のプロセスをもう1段階増やすとどうなるでしょうか?

 

すなわち,次の手順です。

(1)AとBをそれぞれ4分の1の等質量M/4の4つの物体A1,A2,A3,A4とB1,B2,3,B4とに分割します。

 

 そしてA1,A2とB1,B2に先の手順を施行します。

 

 A1+A2(3/8)T+(5/8)T,TB1+B2(5/8)T+(3/8)

 なりますね。

(2)先の操作をさらにA1,A2とB3,B4に施すと,A1+A2'=(3/8)TA1+A2(5/8)T,TB3+B4'=(5/8)TA1+A2(3/8)Tとなります。

(3)さらにA3,A4とB1,B2でやると,A3+A4'(3/8)T+(5/8)TB1+B2,TB1+B2'=(5/8)T+(3/8)TB1+B2になります。

(4) さらにA3,A4とB3,B4でやると,A3+A4"(3/8)TA3+A4'(5/8)TB3+B4',TB3+B4"=(5/8)TA3+A4'(3/8)TB3+B4'ですね。

(5)そして最後にA1,A2,A3,A4をすべて接触,1,B2,3,B4を全て接触させて接着すれば終わりです。

 

 結果は煩雑なのですが,Aの最終温度はT"=(1/2)TA1+A2'+(1/2)TA3+A4"={(3/8)2+(3/8)(5/8)2}T+(1/2){(5/8)3+(5/8)(3/8)2+2(3/8)(5/8)+5/8}Tとなります。

 

 Bの方はもちろんT"=(T+T)-T"ですね。

ではこのプロセスを無限回分割という段階にして行うとどうなるのでしょうか?

 

簡単のために,a≡3/8,b≡1-a=5/8としておき,n段階の操作の後のAの温度をTnとしておきます。

 

すると,T1=aT+bT,T2(a2+ab2)T+(1-a2-ab2)Tとなります。

 

一般にTn=an+bn (bn=1-an)と置くと,an+1=an2+ann2=an2+an(1-an)2=an(an2-an+1),bn+1=1-an+1と漸化式で書けます。

 

しかし,このan+1=an(an2-an+1)(a13/8)は線形ではないので,一般的に考えて初等的手段では解けませんね。

しかし,an+1/an=an2-an+1=(an1/2)2+3/4>3/4であり,(n+1/an)-1=an2-an=-an(1-an)ですが,0<an<1なので,常に 0<(an+1/an)<1です。

 

故に, 0 <r<1なる定数rが存在して 0<(an+1/an)<rとなるため,an<rn-11ですから,n→∞ に対しan0 となることが示されます。

 

したがって,もちろん,n→∞ でbn1ですね。

 

すなわち,この熱伝導接触操作の分割ステップnを無限に増加させていくと物体Aの温度はTn → Tと元の物体Bの温度に近づき,逆に物体Bの温度は元の物体Aの温度Tに近づくわけです。

こうして無限回分割の施行をすれば「マクスウェルの悪魔」というわけではないですが,接触のみの操作によってAとBの温度を"交換すること=入れ替えること"が原理的には可能である,ということになります。

 

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2006年8月13日 (日)

力学的エネルギー保存則

 普通のニュートン力学で質量mの物体が速度vで運動しているときの運動エネルギーTが何故T= (1/2)mv2なのか?とか,

 いわゆる力学的エネルギー保存の法則,すなわち,"(運動エネルギー+位置エネルギー)は摩擦などの位置だけでなく速度にも依存する散逸エネルギー(熱などに転化するエネルギー)がないなら常に時間的に一定である。"のは何故か

 などの問題を高校生向けに説明してみます。 

 まず,運動エネルギーというのは何か?というと,それは速度vで運動中の物体を止める,すなわち速度をゼロにするにはどれくらいの"仕事=力×距離"が必要なのか,というのがその意味ですね。

 質量mの物体が最初は速度vで走っていて,加速度aで加速されながら距離sを走った後の速度をv'とするとv'とvの関係はaとsだけを使ってどのように表わされるでしょうか?

 結果から書くと,v'
2-v2=2asとなります。これはs=(1/2)at2+vt,v'=v+atの2つめの式から,t=(v'-v)/aとなるので,これを1つめの式に代入すれば出てきます。

 v'
2-v2=2asの両辺に(1/2)mを掛けてみると,(1/2)mv'
2(1/2)mv2=masとなりますが,運動方程式から,ma=Fなので右辺はF×s,つまりこの物体に加えられた仕事になります。

 左辺は実はsだけ力を受けながら走ったときのこの物体の持つ運動エネルギーというものの増加分になっています。つまり得られた式は(運動エネルギーの増加分)=(もらった仕事)という式になっています。

また,v'=0 と置けば止めるのに必要な仕事は-mas=(1/2)mv2となりますから,最初に述べたように速度の向きとは逆向きの加速度a< 0(-mas>0 )でどのくらいの仕事をすれば止められるか,という意味になっています。

 後は,物体にこの仕事masを加えることが位置エネルギーというものの減少を表わすことがいえれば力学的エネルギーの保存法則も得られます。

 つまり,速度がvであったときの位置での位置エネルギーをU,sだけ走って速度がv'になった位置での位置エネルギーをU'と書くと,

 

mas=F×s=U-U'となるように,つまり,"位置が仕事Fsをしたために位置エネルギーがUからU'に減ってしまった。"というように位置エネルギーを定義すればいいと思います。

 そうすると,結局(1/2)mv'
2(1/2)mv2=U-U'となるので,移項すると,(1/2)mv'2+U'=(1/2)mv2+Uとなります。

 これは運動の最初と最後で(運動エネルギー+位置エネルギー)が変化しない。つまり"力学的エネルギーが保存される"ことを述べています。

 ところで,位置エネルギーというものですが,これは例えば重力の加速度をgとすると,地上から高さhのところでは
位置エネルギーをU=mghという値で表わせばいいことがわかります。

 物が落下するとき,物が受ける力は下向きにF,加速度は下向きにgなのでF=mgですから,下向きにsだけ落下したとき物がもらう仕事はF×s=mgsです。

 

そこで,下向き速さの増加によりこれだけの量だけ運動エネルギーが増加することになります。

 

そして,sだけ落下したときには,確かに位置エネルギー:U=mghはmgsだけ減少しています。

 このように物体に加えた仕事だけ引き算されるように決められているのが位置エネルギーです。

 

高校の教科書などでは,逆に物をスピードをつけずにゆっくりと持ち上げるのに必要な手のする仕事が重力の位置エネルギーである,と書いてあるものが多いです。

 

(なぜなら,スピードがあると運動エネルギーが関係するからです。)

 

しかし,よく考えると,同じだけ落下したときに,重力がした仕事だけ減るものを重力の位置エネルギーと定義しても同じですね。

 ゆっくり持ち上げるときには,手が失うエネルギー(仕事)が位置エネルギーの増加になりますが,落下するときにはもちろん位置エネルギーの減少は運動エネルギーの増加になります。

 

(力学的エネルギーかどうかは別にして,とにかくどちらでも全エネルギーは保存されます。)

 また,バネなどはもとの状態より伸びたり,ちぢんだりした状態のほうが位置エネルギーが大きいと決めます。

 

そうすると,例えばバネの先に物をつけておくと伸びていたものが手をはなして縮みはじめると同時に位置エネルギーは減少をはじめ,運動エネルギーが作られて増加します。

 こうして運動エネルギーの増加が位置エネルギーの減少,運動エネルギーの減少が位置エネルギーの増加というようになっていれば,ともかく,それらの和である力学的エネルギーは保存されます。

 

ちなみにニュートン力学ではなくて特殊相対性理論の力学では物体のエネルギーはE=mc2/{1-(v/c)2}1/2(力を受けず自由に運動しているとき)ですが,速度がなくて静止しているとき:v=0 でも,Eはゼロではなくて,E=mc2となります。

 

したがって運動エネルギーはT=[mc2/{1-(v/c)2}1/2]ーmc2となります。

 

ニュートン力学でp=mvと書くと,運動方程式は実はma=Fではなく本当はmも含めた加速度でdp/dt=Fとなりますが,相対論力学でもp=mv/{1-(v/c)2}1/2と書くと運動方程式は同じようにdp/dt=Fと書けます。

 

そこでM=m/{1-(v/c)2}1/2と置けばp=Mvと書くことができてニュートン力学でのp=mvの形と同じになるのでよく速度が光速cに近づくと慣性質量が ∞ になる,などという昔からの誤まった解釈があります。

 

しかし,これは便宜上ニュートン力学と同じ扱いができるように見えるようにした相対論的質量などという質量もどきのM が∞ になるというわけです。

 

そもそも,特殊相対性理論とニュートンの理論とは異なるものです。

 

本来の質量であるいわゆる静止質量mが増えるわけではないので,運動エネルギーT=[mc2/{1-(v/c)2}1/2]ーmc2が増えて∞になると解釈すべきですね。

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2006年8月12日 (土)

空気中での音速

 今日も初歩的ベクトル解析がわかる程度の大学初年級向けの軽い物理学のトピックスを1つ解説してみようと思い,空気中での"音速=弾性波の速さ"をニュートン(Newton)が求めたようなやり方で計算してみたいと思います。

 空気の流れの速度ベクトルを,密度をρ,圧力をpとします。考えている領域での主流速,つまり平均流速はゼロとします。

 

 これは普通に風速を観測すれば風は吹いていない静穏状態(calm)と見なされるという意味です。

 

 そうすると,空気の流れの速度ベクトルは"平均速度=ゼロ"からのずれを意味しますから,は変位速度と呼ばれるものに相当します。

  

 つまり,は主流速(ゼロ)からの微小なゆらぎ速度で,波動,または振動と見なせる程度の量です。

 そして,一般に地上付近の空気中の通常の巨視的対象物のスケールでは,系のレイノルズ数(Reynolds number):Reは10万を超える大きな値になると考えられます。

 

 そこで,ごく薄い境界層内以外の空中では粘性(1/Reに比例)は無視できるため,考察対象の運動方程式は完全流体のオイラー(Euler)方程式(粘性=摩擦の無い流体のニュートンの運動方程式)で与えられるはずです。

 

 そして,平均流速はゼロであるとしているので今の場合のオイラーの運動方程式では"移流項=慣性項"はありません。

 すなわち,ρを空気の密度,pを空気の圧力とすると,"流れ速度=変位速度"に対する運動方程式は,移流項の無いオイラー方程式:

 

 ∂/∂t=-∇p/ρ-gk 

で与えられます。

 

 ただし,gは重力の加速度,は鉛直上向きの単位ベクトルです。

  

 ここで,ρを空気の平均密度ρ0とそれからのずれρ'の和として,

 ρ=ρ0+ρ'と書き,

  

 圧力pも平均圧力p0とそれからのずれp'の和として

 p=p0+p'とします。

  

 ただし,平均量については静力学平衡:∇p0=-ρ0が成立しているとします。

  

 そして,ρ',p',については2次以上の微小量を無視する近似を行なうと,運動方程式/∂t=-∇p/ρ-gは,

 

 ∂(ρ0)/∂t=-∇p'

 

 になります。

  

 一方,空気の質量保存を表わす連続の方程式は,

 ∂ρ/∂t+∇(ρ)=0 ですが,これも

 

 ∂ρ'/∂t+∇(ρ0)=0  になります。

 

 そして,運動方程式:∂(ρ0)/∂t=-∇p'の両辺の発散を取ると,

 ∂{∇(ρ0)/∂t}=-∇(∇p')=△p'となります。

 

 ただし,△≡∇2はラプラスの演算子=ラプラシアン(Laplacian)です。

 

 連続の方程式:∂ρ'/∂t+∇(ρ0)=0 からは,

∇(ρ0)=-∂ρ'/∂tが得られますから,

これを運動方程式に代入すると,

 

 ∂2ρ'/∂t2=△p' 

 

なる関係式を得ます。

 

 ところで,熱力学的には弾性振動現象は熱の流出入の無い断熱過程ですから,理想気体の断熱過程に対する式であるポアソン(Poisson)の公式:

 p=cργ が成立すると考えられます。

 

 ここで,γは比熱比=Cp/Cです。ただしCvは定積比熱,Cpは定圧比熱を示し,cは適当な定数です。

したがって,∂ρ/∂t={ρ/(γp)}(∂p/∂t),さらに∂2ρ/∂t2=∂[{ρ/(γp)}(∂p/∂t)]/∂tですが,

 

係数{ρ/(γp)}をtで微分することによって生じる非線形項はの2次以上の微小量なので無視します。

 

つまり,弾性波の伝わる現象の時間スケールは,波動の周期と比べて十分大きいため,

 

日常的な音の伝播する現象のレベルでは,巨視的な密度ρや圧力pをこのサイクルでの平均量として微分の外に出すことにより方程式を線形化する近似が有効であると考えます。

  

それ故,∂2ρ/∂t2=∂[{ρ/(γp)}(∂p/∂t)]/∂tは,

2ρ'/∂t20/(γp0)}(∂2p'/∂t2)と近似可能です。

 

これを∂2ρ'/∂t2△p'に代入すると,最終的に

 

2p'/∂t2(γp00)(△p')

 

なる線形近似の微分方程式が得られます。

これは"圧力を変位とする波=圧力波"の波動方程式です。

 

このままでもいいのですが,これをに対する方程式に変換しておきましょう。

 

2p'/∂t2(γp00)(△p')の勾配を取ります。

 

右辺の係数は空間に対しても平均量であると考えて,

∂(ρ0)/∂t=-∇p'を利用すれば,

  

2{∂(ρ0)/∂t}/∂t200)[△{∂(ρ0)/∂t}

 

となります。

 

これを逆にtで積分します。

 

積分定数である空間座標の任意関数は,初期条件としてtがゼロのときには波動はまだ存在せず,速度やその微分はゼロであったとしてよいので,これをゼロとします。

 

{∂(ρ0)/∂t}/∂t00){△(ρ0)}ですが,ρ0や右辺の係数は既に平均量と見なす近似をしています。

  

最後にρ0を微分の外に出して,これで両辺を割ると,

 

2/∂t2(γp00)(△) を得ます。

 

これは圧力波の方程式:∂2p'/∂t2(γp00)(△p')と同じ形の変位速度に対する波動方程式です。

 これらの波動方程式は圧力波の方程式形にしても変位速度の方程式形にしても,明らかに波の"位相速度=音速"uが一定で,その値は

 

 u=√(γp00)=(γp00)1/2

 

という式で与えられることがわかります。

 

 ところで,Mを空気の分子量,Tを絶対温度,Rを気体定数とすると,空気を理想気体と考えたときの状態方程式はp0=ρ0RT/Mです。

 

 したがって音速は,u=(γp00)1/2=(γRT/M)1/2となります。

 

 より具体的にはtを空気の摂氏(Celsius)温度とすると,

 T=T0+t(ただしT0=273.15K)ですから,

 u=(γRT/M)1/2=(γRT0/M)1/2(1+t/T0)1/2

   (γRT0/M)1/2{1+t/(2T0)]です。

 さらに,地上付近の空気は,ほぼ窒素N2が80%,酸素O2が20%の混合気体ですが,いずれにしても2原子分子ですから,そのモル比熱はCv=(5/2)R,Cp=(7/2)Rであり,比熱比γはγ=1.40です。

 

 また,気体定数はR=8.31,分子量の実測値はM=28.964×10-3ですから,概算で(γRT0/M)1/2331.2(m/s),そして(γRT0/M)1/2/(2T0)=0.606となります。

 

 つまり,摂氏温度tの地上付近の静止大気中での音速uは近似的に,

 u=331.2+0.606t(m/s)

 

なる式で与えられるという理論的結論が得られました。

 

 これによると,常温=約15℃での空気中での音速の理論的近似値は340(m/s)になりますね。

 

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2006年8月11日 (金)

長崎原爆祈念式典での小泉君

  長崎原爆の日の式典での小泉首相の演説と,靖国問題に関することでのマスコミ批判,をニュースで見ました。

 例によって当たり障りのない誰かが作ったであろう原稿の棒読みと,唯我独尊的言辞でお茶を濁していましたね。

  小泉君の弁を素直に解釈すると,

 「ドイツの首相がヒトラーの奉られているお墓を参拝しようと,ドイツ人にも,そしてユダヤ人にも何も恥じることはない。私(小泉)の事を他人や外国人の彼らに何の文句をも言われるおぼえはない。」

 ということでしょうか。。。

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2006年8月10日 (木)

ゲーデルの不完全性定理

 今日もまた軽い話題を少し。。。。

 ゲーデル(Kurt Gödel)の「不完全性定理」は"通常の数学の公理から出発して証明することが不可能な命題が存在する。"というような定理だったと思いますが集合の「ラッセルの背理」などと同じような範疇に入りますね。

 "一つの数学の体系があるとき,その閉じた体系の枠内から自分自身の体系が無矛盾かどうか?を判定することはできない。”という類の定理なのでしょうね。

 有名なところでは,"クレタ人はみんなウソツキである。とクレタ人が言った。"という文があります。

 この場合,,"クレタ人はみんなウソツキである。"という命題が「正しい」のであればこのクレタ人はウソツキではないので,"クレタ人はみんなウソツキである。"という命題が「間違い」だということになります。

 一方,この命題が「間違い=ウソ」であれば,"クレタ人はウソツキである。"ということが間違いなので,"クレタ人はウソツキではない。"ことになるにも関わらず,"これを言ったクレタ人はウソツキである。"というジレンマに陥ります。

 そこで,この,,"クレタ人はみんなウソツキである。"という命題を含む全体の文,"クレタ人はみんなウソツキである。とクレタ人が言った。"というのは"パラドックス=矛盾"であるというわけですね。

(PS:このクレタ人の話については上では"みんな"という人称を入れて「クレタ人はみんなウソツキである。」という命題を含む文にしました。

 しかし,厳密にはこの命題が「間違い=ウソ」の場合の否定命題は「ウソツキでない人もいる。」ということなので,全体としての文は別に"パラドックス=矛盾"ではなかったですね。

 この文をパラドックスの例として挙げたのは,適当ではなかったことに後で気付くきました。"「私=Aはウソツキである。(Aはウソしか言わない。)」とAが言った。"と1人称の文にすべきでした。

 失礼しました。(多重人格を除きます。))

 まあ,簡単に述べるなら,ゲーデルが証明したことは,"「この文は誤りである。」という文は正しいのか誤りなのかを証明できない。"という類のことです。

 "この文が誤り"であることが"正しい"と証明されれば"この文は正しい"ことになるので,"この文は誤り"であり,逆に"誤り"であると証明されれば"この文は正しい"ことになるので"この文が誤り"というのが正しいことになります。

 彼(ゲーデル)はこうした”証明することができない命題が数学の論理体系の中には必然的に存在する。"ことをカントールの対角線論法を使って証明したというわけです。

 (まあ,数学の公理系の無矛盾性の証明ができないことを証明した。という意味では「この文は正しい」という文が正しいことをこの文だけから証明することはできない。と言ったほうが適切なのですが,それではパラドキシカルな説明ができなくて面白味がないと思ったので逆にしました。)

 説明しようする私自身が完全には理解していないので,既にかなり混乱していますが,結局,"文を次々と枚挙してゆき,それが正しいなら誤りという文をつくって連ねていくと,正しくてかつ誤りであるというような"矛盾した文"が必ずできるということになり,ゲーデルは,そうした文が常に存在する。"ということを厳密に証明したということでしょうか。

 まあ,厳密には形式論理学の"論理式をトートロジー変形していく操作",例えば"「真理の木」のようなダイアグラムを作る操作"を続けていって最終的に矛盾を導くことなをしなければならないのでしょうね。

 参考文献:リチャード・ジェフリー著「形式論理学」(産業図書)

PS:後記事ですがこれの続編として,2007年9/22の記事「ゲーデルの完全性,不完全性」があります。

また,さらに続いて2007年10/4の「形式論理学(1)」に始まり,(1)から(6)までで途中で中断している論理学シリーズ記事もあります。

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2006年8月 8日 (火)

負エネルギー解と相対論的因果律

 私が学生時代には東大教授であった"奇妙さ(strangeness)の

量子数"の発見者としても知られ,「Fields and Particles」の著者と

しても有名な西島和彦氏,が著わした和書「相対論的量子力学」

(培風館)には他の著書にはない興味深いことが書かれています。 

"量子力学の相対論的波動方程式の解のうち,物理的粒子

であると考えられる正エネルギー解のみを採用して

負エネルギー解を捨てると,相対論的因果律が破れる"

ということです。 


 
簡単のため,スピンがゼロで質量がゼロの粒子が存在すると

してその粒子の因果性を論じて,そのことを確かめてみま

しょう。 


 まず,質量がゼロなので,その粒子は光速度cで
運動します。

 そこで,ある時刻tに位置にあった粒子が時刻t'に位置

'に存在する確率密度を計算すると,因果律を正しく表現

した確率であるならば,|'-|2=c2(t'-t)2を満足

する時空点以外ではそれはゼロになるはずです。

 以下では,簡単のためPlanck定数と光速を1,つまり

c=h/2π=1とする自然単位で計算することにします。

 求める確率密度は,<x'|x>=<',t'|,t>という

遷移振幅で表わすことができます。

ここで,x=(,t),x'=(',t')です。

 この遷移振幅はいわゆる自由粒子の"伝播関数=propagator"

で,1粒子の"Green関数=積分核"でもあり,Fourier表示では

<x'|x>=(2π)-4i∫d4pexp{-ip(x'-x)}/(p2+iε)

=(2π)-4i∫d4pexp{-iE(t'-t)+i('-)}

/(E22+iε) と表わされます。

 ここで,もしエネルギーEが正の値しか取れないと仮定

すると,被積分関数の分母の極E=±ωp=±(||-iε)

のうち,ωp=(||-iε)だけが効きますから,

∫d4のうち,∫dp0=∫dEのみを実行すると,

<x'|x>

=-(2π)-3∫d3exp{-i||(t'-t)+

i('-)}/(2||)

=-(2π)-2∫d||d(cosθ)||exp{-i||(t'-t)

+i|||'-|cosθ}/2 となります。

 

 さらに,cosθによる積分を実行し,その後||による積分を

行なうと,

-(2π)-2∫d||exp{-i||(t'-t)sin(|||'-|)

/|'-|=(i/2π)[1/{(t'-t)2-|'|2} 

を得ます。

 

 結局,正エネルギー解のみが許されると仮定したときの

遷移振幅は,

<x'|x>=(i/2π)[1/{(t'-t)2-|'|2}

となります。

 これを見ると,|'-|2=c2(t'-t)2が特異点になって

いて振幅はこの点で∞になり,これは確かに想定した質量ゼロ

の粒子が非常に大きな確率で光速度cで進むことを表わして

はいます。

 

 しかし,それ以外の点を通る確率もゼロでない値を取る

ので,厳密には相対論的因果律を破っているといえます。


一方,エネルギーEは正の値だけでなく負の値も取る

ことできて負エネルギーの解をも認めるなら,分母

のEの両方の極:E=±ωp=±(||-iε)をとる

ことが可能です。

 結果もそれぞれの閉経路の留数の和になります。

 

ただし,これらの極に対するp=Eの積分の複素平面内

での周回経路は,回る向きが正反対なので,ωp=(||-iε)

の留数には(2πi)が,-ωp=-(||-iε)の留数には

(-2πi) 掛かります。

 (※-ωpを極として含む周回経路は上に示した
図から

下半円除き,逆に上半円を加えたもので,向きも反時計回

で図の,ωpを極とする経路とは逆向きです。) 

最終計算結果は,Diracのデルタ関数を用いて,

<x'|x>=<',t'|,t>

=(i/2π)[δ((t'-t)-|'-|)-δ((t'-t)

+|'-|)/|'-|]となります。

 

得られた遷移振幅を見ると,遅延波と先進波の両方を

重ね合わせたGreen関数の形式になっています。

 

つまり,|x>から|x'>への遷移確率振幅:<x'|x>は粒子

が光速で進むことを意味する点:|'-|=±c(t'-t)のみ

に集中し,それ以外の点では完全にゼロです。

 

これは見事に質量がゼロの光速粒子の相対論的因果的軌道を

正しく表現するものとなっています。

 

それ故,西島和彦氏著の「相対論的量子力学」に書かれていた

ように,

 

"相対論的波動方程式の正エネルギー解のみを採用して

負エネルギー解を捨てると相対論的因果律が破れる。"

 

という命題が確かに成立することを示すことができました。

 

参考文献:西島和彦 著「相対論的量子力学」(培風館)

 

PS:2007年8月31日(金)追記

 

本文ではその当時の直観で<x'|x>=<',t'|,t>が

Green関数,あるいは伝播関数であると説明なしで書きました

が,後付けながら一応説明しておきます。

 

|x>=|,t>というのは普通は位置演算子の固有ベクトル

を表わすのに用いるケットベクトルの記法です。

 

実際,粒子が時刻tに位置にいることを表現しているので,

それで間違いありません。

 

そして,もちろん|x'>=|',t'>も粒子が時刻t'に

'にいることを表現している位置演算子の固有ベクトル

を示しています。

 

しかし,"同じ演算子の固有ベクトル同士のスカラー積は通常ゼロ

(直交している)か,またはδ関数であるべきはず"なのに,この

場合は何故にGreen関数,または伝播関数になると主張している

のか?

 

という疑問が生じるでしょう。

確かにそれはもっともな疑問です。

 

<x'|x>=<',t'|,t>という表現におけるブラとケット

確かに同じ表記をしており,共に位置演算子の固有ベクトル

であることは間違いありません。

 

しかし,それぞれの固有ベクトルが対応している位置演算子は

暗黙のうちに時間に依存しています。

 

そして,時刻tの位置演算子と時刻t'の位置演算子はユニタリ同値

ではありますが,異なる演算子であるという事実を含んでいます。

 

すなわち,時間発展のユニタリ演算子をU(t)で定義すると,

 

(Hを系のHamiltonianとすると,これは自然単位で

U(t)=exp(-iHt)と表現されます。)

 

|,t>=U(t)|> (|>≡|,0>)なので,

<x'|x>=<',t'|,t>=<'|U(t')-1U(t)|

=<'|U(t',t)|> (U(t',t)≡U(t')-1U(t)

=exp{iH(t'-t)})となります。

 

そして,|Ψ(t)>を任意の状態ベクトルとすると,

|Ψ(t')>=U(t',t)|Ψ(t)>なので,

'|Ψ(t')>=∫d'|U(t',t)|><|Ψ(t)>

となります。

 

ここで<|Ψ(t)>は,位置表示の波動関数です。

 

したがって,

<x'|x>=<',t'|,t>=<'|U(t',t)|>となり,

これは確かに"Green関数=伝播関数"であることが示されました。

(以上)

 

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2006年8月 7日 (月)

唯物論

 歪んだ社会が生み出した犯罪者たちを,その元凶である歪んだ社会が裁く,断罪する。そんな資格が誰にあるのか?

 テロによる犠牲者よりも,その報復による犠牲者のほうがはるかに多い。どこかのバカな大統領とそのポチはいったい何人殺せば満足なのだろうか?

 大日本帝国というお国のために死んだ人々はそのお国のためにどこのお国と戦争をしたのでしょうか?戦争をして被害を受けた相手のお国の人々が,そのお国に文句を言ったら内政干渉で筋違いなんでしょうか?

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2006年8月 6日 (日)

エントロピーの定義

 エントロピー(entropy)の熱力学における定義は,エントロピーをS,

絶対温度をT,準静的過程で得る熱量をΔQとしてΔS=ΔQ/Tです。


 一方,統計力学におけるボルツマン(Boltzmann)によるエントロピー

定義はある状態において分子(粒子)がとりうるあらゆる状態の数をW

としてS=klogWというものです。

 ;
ただし,,k
はBoltzmann定数です。

 (※気体定数をR,Avogadro数をNとしてk=R/N,つまり,kは分子

1個当たりの気体定数です。)
 Boltzmannンの定義なら,エントロピーは状態数Wの自然対数に比例

する値ということで,これはバラバラの度合いです。


 つまり乱雑であるほど状態の数が多く,このことがエントロピーSが大きい

ということに合致するので"乱雑になること=エントロピーが増えること"

いうイメージになるかと思います。

 それでは熱力学における定義はどのようにBoltzmannの定義と同一視

できるのでしょうか?


 統計力学によると,絶対温度Tの恒温層に接触して等温のまま熱だけを

もらっている分子(主に気体)の系は,そのエネルギーがEのとき,その状態

にある確率は,指数関数exp [-E/(kT)] =(Boltzmann因子)に比例します。

 
これは,平衡状態での等重率(等確率)の仮定:"各状態の確率は状態の

いかんによらず同じである。"やエネルギーの保存則(熱力学第1法則)

などから導かれます。(等重率(等確率)=equal weight(probability))

 確率というものの性質と等確率の仮定から,確率 exp [-E/(k
T)] は

状態数Wの逆数:1/Wに比例する量であることがわかります。


 したがって,Wの方はexp [E/(k
T)] に比例します。


 そこで,Boltzmannの定義に代入すれば,ΔS=k
ΔlogWということに

 なり,温度Tが一定の恒温層に接触しているカノニカル(正準)な系では,

 ΔS=ΔE/T=ΔQ/Tとなって熱力学の定義に一致します。


 つまり,仕事がなく熱だけをもらっているような状況では乱雑さの増える

ことがエントロピーの増加になる,というのは熱力学の定義でも云えること

です。


 え?断熱ではエントロピーはどうなるのかですって?

 断熱:ΔQ=0 ならエントロピーの変化量はΔS=ΔQ/T= 0 なので

エントロピーは変化しませんよ。

 
何?それはおかしい?。。。うん,確かにそうですね。

 
最初に述べたように,この定義でのΔQは準静的過程での熱です。

断熱ではΔQ= 0 ですが,実は普通の日常的過程ではΔS≧ΔQ/T

あり,等号は特別な場合なんですね。


 だから,断熱で,かつ特別なケースでないならΔS>0 なので,普通は断熱

のときにはエントロピーは増加する,というのが本当のことです。

 
 例えば体積が2Vの容器の中央に気体が通過できない隔壁を
入れ,

 左半分にはN個の気体分子を封入して閉じ込め,右半分の方は何

 もない真空にしておいた後,中央の隔壁を排除して断熱自由膨張

 をさせるケースを考えてみます。

 

 

 この断熱過程では,温度Tには増減がなく,ΔQ=0 です。

 


 気体は希薄で理想気体としてよいとします。系の内部エネルギー
 

 Uは温度Tのみの関数で体積Vの増減には無関係なのでΔU=0 

 です。

 


こうした気体の膨張についての熱力学第一法則は
ΔU=ΔQ-PΔV

ですから,通常の隔壁の両側の圧力がほぼ同じで余分な運動ネルギー

が生じないように非常に緩慢に膨張させる準静的断熱膨張であれば

ΔQ=0 ですが気体のする仕事PΔVは正の量なので,ΔU=-PΔV

が負で温度は下がるのですが.P=0の真空に膨張するのに何の抵抗

も受けないのでΔU=ΔQ=0で温度Tは不変な等温膨張になるのです。

 


そこで気体の状態方程式は最初がPV=Nk
Tで,膨張が完了した後は

(P/2)(2V)=NkTです。


この最後の同じ状態は断熱ではなく容器の中央隔壁を可動にし.温度T

の恒温槽に接触させて熱をもらいながら等温膨張させても到達されます。 

この過程では,0=ΔU=ΔQ-PΔVでΔQ=PΔV>0でありこれは

準静的過程ですからΔS=∫PdV/T=Nkln(2V/V=Nkln2>0です。


つまり,この断熱自由膨張の過程ではΔQ=0ですが,エントロピーは

ΔS>ΔQ/T=0となって増加します。これは断熱自由膨張が不可逆

過程であることを意味しているだけです。

 

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花火大会

 土曜日の夕方5時に巣鴨駅で,あるスナックのママと待ち合わせをして板橋花火大会に行ってきました。

 都営三田線の高島平の1つ手前の西台まで20分くらいで着いて,そこで降りて土手まで20分くらい歩いて場所取りをしました。

 前の日も酒を浴びるほど飲んでおり,歳も歳なので,荷物を持ってそこに着くだけで,もう体力的に疲れてしまい,汗だくだくでしたが,夜も更けてくると土手は8月初めなのにとても涼しい風が吹いて快適でした。

 7時丁度に最初の花火が上がり,8時45分まで1万発以上の花火が上がりましたが,尺玉と思われる花火が開いたあと柳のように尾を引いて落ちてくるのが一番感動的でした。

 のんびり花火を見るのは,30年以上も昔の学生時代,夏休みに静岡から岡山に帰省する途中,京都の京大農学部の近くの田中大久保というところの,友達の下宿に毎年居候していて,毎年のように嵐山に行って桂川花火大会を楽しんでいたころ以来でしたが,そのころの記憶も呼び覚まされ,改めてとても新鮮な驚きの感情がよみがえりました。

 ビールやお茶を飲み,つまみを食べて花火を見て,若い頃に帰った気分になりました。

 ママが言うには花見と花火それに祭りは「お金がかからない庶民の楽しみ」というのが共通点だということでしたが,まあ,多少のお金はかかりましたね。

 こうしてのんびり花火を見ることができるのも,実はお金があってのことで,ホームレスなんかではそんな余裕はないでしょう,と例によって私は屁理屈をこねました。。とにかく酒ばかりではなく,こういう風流なこともたまにはいいですね。

 まわりは若いカップルか家族連ればかりで中年というか熟年というかのカップルはわれわれだけでしたが,それなりに楽しめました。

 実は秘密なのですが花火が終わって1時間半くらい経って,あたりが大分暗くなってから,ママがトイレに行きたくなったけど,「並ぶのが面倒だし,誰も見てないわよ」と言って,私を盾にして「見ないでよ。」と言って芝生の蔭で2回オシッコをしたのですが,私も普通の男なので,よっぽど見てやろうかと思いましたね。

 オシッコと言えばずいぶん昔に読んだ太宰治の小説「斜陽」を思い出してしまいました。(^ ^)

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2006年8月 4日 (金)

空気の質量を計る方法

 今日は中学生くらいにもわかる軽い話題です。

(子供にもわかるように,多少くだけた表現を多用しています。例えば,「質量」を地上環境では同等な「重さ」と表現しているとか。。です。)

  (参考:私がサブシスだった@nifty「物理フォーラム」と「化学フォーラム」兼用の「理科の部屋」の過去ログから: http://sci.la.coocan.jp/fchem/log/rika/13520.html )

 ある温度(常温)で空気の質量(密度)を測る簡単な方法を提示してみます。

 「通常のゴミ袋のような密閉可能な袋に空気を入れて密閉して"はかり"で重さを計り,袋の重さも同じように計ってこれを引いた後の空気の重さを,袋の容積で割ればいい。」などという人がいました。

 しかし,袋に空気を入れようと入れまいと,"はかり"の上にはいつも空気があるので,これは無意味ですね。

 実験が苦手な私なりに考えた質量を計る方法は次のとおりですが,既に多くの人によって提示されているありふれたものかもしれません。

 まず,少しくらいの圧力には耐えられる(少々押したり引っ張ったりしても膨らんだり萎んだりしない)容器で,その中に自転車の空気入れのようなもので空気を入れることができるものであって,

 さらに,密閉することもできて,しかも,予め水などを入れそれをメスシリンダーなどに移して計ったりすることにより容積のわかっているフラスコのようなもの,

 を用意します。

 元々まわりの外気はほぼ1気圧だし,最初はフラスコの中も外と同じ1気圧です。

 そしてできるだけ精密な"はかり"でフラスコの重さを計ります。この重さというのは「("フラスコ+空気"の重さ)-(浮力)=(フラスコの重さ)」です。

 その後,内部の気圧が2気圧か3気圧か,になるように空気入れで無理矢理空気を入れます。

 実験には詳しくないのですが,何らかの方法で気圧計でフラスコの中の気圧を測ることができるでしょう。

 ただし急激に空気を入れると,その仕事量の分だけ,断熱圧縮されて中の温度が上がってしまうので,そうならないよう,うまく熱が逃げて温度は変わらないように空気をゆっくり入れます。

 そしてそのときのフラスコの重さを同じ精密な"はかり”で計ります。

 例えば気圧が2.5気圧だったとしましょう。

 そのときは増加した分の重さは1気圧のときの空気の1.5倍であると考えられるので,増加した分の重さを1.5で割ります。

 さらにフラスコの容積で割れば,例えば1立方cmあたり何gかというように空気の密度が原理的には計れるはずです。

 重さと質量の違いはありますが,この地球の地上でははかりの重さの目盛りが質量と同じ値になるようになっていますから重さで問題ありません。

 空気を注入したフラスコにも浮力が働くので,重さの増加分は元の"(1気圧の空気の重さ)=(浮力)"を引いたものであることに注意してください。

 念のため述べておきますが,これは"温度と体積が一定のときには圧力と空気の質量(つまり空気分子の個数)が比例する。"ことを利用したものです。

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2006年8月 1日 (火)

スケートの摩擦(圧力融解説は誤り)

 氷の上でスケートで滑ることができる理由としては,古来から"圧力融解説"というのがあります。

 物理学の専門家でもそう信じている人が大勢いるらしく,かつては私もその一人でしたが,最近の研究では,ほぼ誤りであるとわかったそうです。

 もっとも,スケート靴を体重100kgくらいの人が履いて,表面積が0.5cm以下のエッジで体重を支えた場合,200気圧以上の圧力がかかります。

 先に,述べたClapeyron-Clausius(クラペイロン-クラウジウス)の式を固体の水である氷に適用すると,この場合は, dT/dP<0 です。

 そのため,氷あるいは水にかかる圧力が1気圧大きくなると,"氷点=凝固点"は約 0.0075度ずつ下がりますから,200気圧以上だと,氷点は-2℃くらいになることになります。

※(注):Clapeyron-Clausiusの式というのは相平衡のときの,圧力変化dPと温度変化dTの関係を与える式です。固体と液体が相平衡に ある場合には,潜熱(融解熱)をL>0 として,dP/dT=L/{ T ( V-V) }です。

 ただし,V,Vは液体,固体の比体積(=単位質量当たりの体積)です。

 普通はV>Vなので,L>0 なら,dP/dT>0 なのですが,水と氷の場合はV<VなのでdP/dT<0 なのです。(注終わり)※

※(注追加):水と水蒸気が共存する系なら,Pを水の飽和蒸気圧とし,VwとVvをそれぞれ水と水蒸気の体積として,

 Clapeyron-Clausius(クラペイロン-クラウジウス)の式は,

 dP/dT=L/{T(Vv-Vw)}と表わされます。

 ただし,Lは蒸発の潜熱です。

 これの逆数を取れば,dT/dP=T(Vv-Vw)/Lです。

 普通はT>0,L>0 であり,Vv>>Vwですから,dT/dP>0 です。

 Pが飽和蒸気圧のときの臨界温度:Tは沸点ですから,これは圧力が増加すると沸点が上昇することを意味しています。("沸点上昇"です。)

 沸騰というのは,系の気圧と水蒸気圧が一致したときの沸点における現象ですから,圧力釜により電気炊飯器内の圧力を増加させて,沸点を普通の1気圧での100℃より上昇させて,"ご飯をおいしく炊く"というのがありますね。

 一方,氷と水が共存する系ならTを凝固・融解点の"臨界温度=凝固点温度",Pを臨界圧として,VwとViをそれぞれ水と氷の体積とすると,

 dP/dT=L/{T(Vw-Vi)}  or  dT/dP=T(Vw-Vi)/L となります。

 ただし,この場合の潜熱Lは融解熱です。

 水が凍ると体積が増加することは古来からよく知られています。

 そこで,"凝固点=氷点"付近での同量(1モル)の氷は水よりも体積が大きいので,Vw<Vi,つまりVw-Vi<0 ですから,L>0,T>0 により dT/dP<0です。

 これを圧力による"凝固点降下"といいます。

 つまり,圧力を加えると凝固する温度が普通の 0℃より次第に下がっていくわけですから,圧力が加わると 0℃付近では凍らないし最初凍っていれば融けて水になることになります。(追加注終わり)※

 したがって,氷の表面温度が 0℃くらいの状況なら,これは"氷点=-2℃"より温度が高いということになります。

 確かに多少の氷は融けて水になり,それが潤滑油になって摩擦を消すという効果もゼロではないので,まったく間違いというわけではないでしょう。

 しかし,実際はもっと氷の表面温度が低い環境でもスケートは滑れるわけですから,上述の圧力融解説というのは疑問である,ということになりますね。

 また,スキーでは接触面が大きいので,圧力は小さくて,これが理由では雪が溶けるほど氷点は下がらないと思われます。

 もう一つは,摩擦融解説というのがあり,摩擦の効果で発熱して氷を融かし,そのためにスケートが滑る,というのもあります。

 しかし,そもそも滑った後でなければ摩擦熱は生じないわけですから,融けるのが後追いになるというわけで,止まったら滑れないというお笑いもあり,これはもっと疑問です。 

  あと古来からあるものでは"固体潤滑説=氷の表面は固体の状態でも摩擦係数が小さい。"というのがありますが,これは昔は理由がわからなかったものです。

 しかし,Yasushi.(岡田康志)さんによれば,

 "氷が溶けるほどの圧力がかからなくとも金属表面と氷表面の間の摩擦係数は 0.005程度と極端に小さくなる。" 

 そうです。

 さらに,

 "富山大学のグループが,低温低速での測定により融解水による可能性を排除した条件で,単結晶氷を用いて結晶面による摩擦係数の異方性を報告。

 更にこれを応用して低摩擦係数表面を持つスケートリンクを作ることで実証。逆に,『摩擦融解説』的には低温低速下での摩擦係数低下でスケートの速度向上というのは矛盾するので『摩擦融解説』に対する反証ともなった。"

 ということです。

 そこで,固体潤滑説が有力になり,あとの問題は,氷の表面の性質という"表面物理"の問題に還元されたのでした。

 そして,結局,低温でも金属と氷の間において氷の表面はこわれやすく,そこに液体の水が存在するということで摩擦係数が小さくなる,という現象が観測されたということになったわけです。

 普通のスケートリンクの条件だと,

 氷を作るためのパイプラインの中の温度が-10℃,氷の温度が -7℃,気温が 10℃前後なので,圧力による融解というのは,ちょっと厳しいですね。

 結局,現在では,

 "金属と氷のように極端に融点が違う物質間では摩擦力が低下する,つまり氷の表面での金属の効果による,摩擦係数の減少がスケートが滑る原因である。"

という結論になったわけです。

 圧力融解説は誤りであろうということになりました。

PS:バックナンバーでなく後記事ですが,2010年12/20のブログ記事「水滴の成長と蒸発 (2)」に,Clausius-Clapeyronの公式について書いたものがあります。

 参考のために,記事のその部分を再掲しておきます。

(↓※再掲記事)

②Clausius-Clapeyronの公式

 さて,2相(液相,気相)平衡状態の飽和水蒸気esat(T)の温度保存式を求めます。

 熱力学によれば,平衡の条件は液相,気相のGibbs自由エネルギーについてGw=Gv(34),またはμw=μvが成立することです。

 

 Gw,Gvは1モル当たりの水,水蒸気のGibbs自由エネルギーです。

 

 また,μwvは1モル当たりの水,水蒸気の化学ポテンシャルですが,Gw=μw,Gv=μvであり,同じものを別記号で表わしているだけです。

 温度TがT+dT,圧力pがp+dpになっても(34)の関係が維持されるためには,その際のGw,Gvの増加分dGw,dGvについてもdGw=dGv(35)が成立することが必要です。

 ところで,熱平衡状態ではdu=Tds-pdvでG=u+pv-Tsですから,dG=-sdT+vdpです。

 

 ただし,u,sはそれぞれ1モル当たりの内部エネルギー,エントロピー,vは1モル当たりの体積です。

 したがって,dGw=dGv (35)は-swdT+vwdp=-svdT+vvdpを意味します。

 

 つまりdp/dT=(sv-sw)/(vv-vw)(36)を意味します。

 ところが,T(sv-sw)=Lew (37)ですから,これは

  dp/dT=Lew/{T(vv-vw)}とも書けます。

同じ1モルでは水の体積は水蒸気の体積よりはるかに小さいので,この式の右辺で水蒸気の体積vvに比して水の体積vwを無視します。

  

左辺のpp=esat(T),右辺のvvにvv=RT/esatを代入すると,

  

(1/esat)(desat/dT)=Lew/(RT2)(38)を得ます。

 

これが,有名なClausius-Clapeyronの公式(クラウジウス・クラペイロンの公式)です。

 

念のため,改めて追記するとLeは単位質量当たりの蒸発の潜熱,Mwは水の分子量です。

 

     (↓下図はネット検索で入手した図の転載です。)

  

  

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