エントロピーの定義
エントロピー(entropy)の熱力学における定義は,エントロピーをS,
絶対温度をT,準静的過程で得る熱量をΔQとしてΔS=ΔQ/Tです。
一方,統計力学におけるボルツマン(Boltzmann)によるエントロピーの
定義はある状態において分子(粒子)がとりうるあらゆる状態の数をW
としてS=kBlogWというものです。
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ただし,,kBはBoltzmann定数です。
(※気体定数をR,Avogadro数をNとしてkB=R/N,つまり,kBは分子
1個当たりの気体定数です。)
Boltzmannンの定義なら,エントロピーは状態数Wの自然対数に比例
する値ということで,これはバラバラの度合いです。
つまり乱雑であるほど状態の数が多く,このことがエントロピーSが大きい
ということに合致するので"乱雑になること=エントロピーが増えること"と
いうイメージになるかと思います。
それでは熱力学における定義はどのようにBoltzmannの定義と同一視
できるのでしょうか?
統計力学によると,絶対温度Tの恒温層に接触して等温のまま熱だけを
もらっている分子(主に気体)の系は,そのエネルギーがEのとき,その状態
にある確率は,指数関数exp [-E/(kBT)] =(Boltzmann因子)に比例します。
これは,平衡状態での等重率(等確率)の仮定:"各状態の確率は状態の
いかんによらず同じである。"やエネルギーの保存則(熱力学第1法則)
などから導かれます。(等重率(等確率)=equal weight(probability))
確率というものの性質と等確率の仮定から,確率 exp [-E/(kBT)] は
状態数Wの逆数:1/Wに比例する量であることがわかります。
したがって,Wの方はexp [E/(kBT)] に比例します。
そこで,Boltzmannの定義に代入すれば,ΔS=kBΔlogWということに
なり,温度Tが一定の恒温層に接触しているカノニカル(正準)な系では,
ΔS=ΔE/T=ΔQ/Tとなって熱力学の定義に一致します。
つまり,仕事がなく熱だけをもらっているような状況では乱雑さの増える
ことがエントロピーの増加になる,というのは熱力学の定義でも云えること
です。
え?断熱ではエントロピーはどうなるのかですって?
断熱:ΔQ=0 ならエントロピーの変化量はΔS=ΔQ/T= 0 なので
エントロピーは変化しませんよ。
何?それはおかしい?。。。うん,確かにそうですね。
最初に述べたように,この定義でのΔQは準静的過程での熱です。
断熱ではΔQ= 0 ですが,実は普通の日常的過程ではΔS≧ΔQ/T
であり,等号は特別な場合なんですね。
だから,断熱で,かつ特別なケースでないならΔS>0 なので,普通は断熱
のときにはエントロピーは増加する,というのが本当のことです。
例えば体積が2Vの容器の中央に気体が通過できない隔壁を入れ,
左半分にはN個の気体分子を封入して閉じ込め,右半分の方は何
もない真空にしておいた後,中央の隔壁を排除して断熱自由膨張
をさせるケースを考えてみます。
この断熱過程では,温度Tには増減がなく,ΔQ=0 です。
気体は希薄で理想気体としてよいとします。系の内部エネルギー
Uは温度Tのみの関数で体積Vの増減には無関係なのでΔU=0
です。
こうした気体の膨張についての熱力学第一法則はΔU=ΔQ-PΔV
ですから,通常の隔壁の両側の圧力がほぼ同じで余分な運動ネルギー
が生じないように非常に緩慢に膨張させる準静的断熱膨張であれば
ΔQ=0 ですが気体のする仕事PΔVは正の量なので,ΔU=-PΔV
が負で温度は下がるのですが.P=0の真空に膨張するのに何の抵抗
も受けないのでΔU=ΔQ=0で温度Tは不変な等温膨張になるのです。
そこで気体の状態方程式は最初がPV=NkBTで,膨張が完了した後は
(P/2)(2V)=NkBTです。
この最後の同じ状態は断熱ではなく容器の中央隔壁を可動にし.温度T
の恒温槽に接触させて熱をもらいながら等温膨張させても到達されます。
この過程では,0=ΔU=ΔQ-PΔVでΔQ=PΔV>0でありこれは
準静的過程ですからΔS=∫PdV/T=NkBln(2V/V=NkBln2>0です。
つまり,この断熱自由膨張の過程ではΔQ=0ですが,エントロピーは
ΔS>ΔQ/T=0となって増加します。これは断熱自由膨張が不可逆
過程であることを意味しているだけです。
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