慣性質量とエネルギーの等価性
相対性理論,特に特殊相対性理論で内部エネルギーなどを光速cの2乗で割ったもの.が何故系の慣性質量となるのか,あるいは逆に質量欠損が何故エネルギーとなるのか?を計算によって確かめてみます。
すなわち,以下では「質量とエネルギーの等価性」を証明します。
2つの慣性座標系S (O-xyz)系 とS'(O'-x'y'z')系を考えます。
S'系がSに対してx軸に沿って一定速度vで直線運動をしているとしγ≡1/{1-(v/c)2}1/2と置きます。
このときの時空座標のローレンツ変換はx'=γ(x-vt),y'=y,z'=z,t'=γ(t-vx/c2)です。
そして,S系では静止質量がm0の単独の自由粒子の全エネルギーをEとするとき,E=T+m0c2,つまりT=E-m0c2としてTを運動エネルギーといいます。
S'系ではE'=T'+m0c2です。
一方,n個の自由粒子から成る系を考えます。
系全体の量は,個々の粒子についての量の和として,運動量:P=∑i=1Npi,エネルギー:E=∑i=1NEi (Ei=Ti+m0ic2),運動エネルギー:T=∑i=1NTi,質量:m0=∑i=1Nm0i のように自然に定義できます。
S'系においても同様です。
そして,S系およびS'系で見た系全体の運動量とエネルギーの組をそれぞれ(P,E),および(P',E')とし,各粒子の運動量とエネルギーの組をそれぞれ,(pi,Ei)および(pi',Ei')と書きます。
これらの個々の粒子については,S系の量とS'系の量の間の関係は全て4元運動量のローレンツ変換によって与えられます。
すなわち,(ct,x)=(ct,x,y,z)から(ct',x')=(ct',x',y',z')への慣性座標系の変換が
x'=γ(x-vt)=γ{x-v(ct)/c},y'=y,z'=z,
ct'=γ(ct-vx/c) で与えられるケースには,
対応する4元運動量:(E/c,p)=(E/c,p1,p2,p3)から(E'/c,p')=(E'/c,p1',p2',p3')への変換は,
p1'=γ(p1-vE/c2),p2'=p2,p3'=p3,
E'/c=γ(E/c-vp1/c)=γ(E-vp1)/c
で与えられます。
このとき,各座標(事象)の不変量:x2-c2t2=x'2-c'2t'2に対応して,1個の自由粒子の4元運動量の不変量(ローレンツスカラー)として,
p2-E2/c2=p'2-E'2/c2=-m0c2 が成立します。
しかも,"系全体の力学的な量は各粒子個々の力学的な量の総和に等しい。"という性質もS系からS'系への変換でそのまま保存されます。
そして,系全体のローレンツスカラー量(不変量)については,当然満足さるべき,P2-E2/c2=P'2-E'2/c2なる不変式は確かに成立します。
しかし,計算すれば明らかですが,P2-E2/c2=P'2-E'2/c2の値は一般に各粒子の不変量の総和:-m0c2=-∑i=1N(m0ic2)より小さくなることがわかります。
※(注):P2-E2/c2=(∑i=1Npi)2-{∑i=1N(Ei/c)}2
≦∑i=1N(pi2-Ei2/c2)=-∑i=1N(m0ic2) です。
一般に,運動状態では等号ではなく不等号です。(※)
つまり,P'2-E'2/c2<-m0c2が成立しています。
このことから,左辺が常に負の数であることは明らかですから,P'=0 となるようなS'系を選ぶことが常に可能です。
このように,総運動量P'がゼロとなるように取った慣性系S'を改めてS0と名付け,そのエネルギーも改めてE0と書くことにします。
S0系はS系に対して速度uで運動しているとして,γ≡1/{1-(u/c)2}1/2とおけば,P=γ(E0/c2)u={(E0/c2)}u/{1-(u/c)2}1/2,かつE=γE0=E0/{1-(u/c)2}1/2と書くことができます。
これは,"全静止質量がM0=E0/c2の1つの粒子が速度uで運動していること"として同一視すればよいことを示唆していると見えます。
M0=E0/c2=m0+T0/c2ですから,この系の静止質量は静止質量の和に重心静止系での個々の粒子の運動エネルギーの和をc2で割ったものを加えたもので与えられます。
そして,このとき不変式は確かにP2-E2/c2=-E0 2/c2=-M0c2となります。
結局,自由粒子系の内部エネルギーが系の慣性質量に効いてくるという事実が示されたわけです。
(※全系が莫大な個数の分子から成る統計物理的な気体,液体,固体のような系なら,相互作用の束縛エネルギ-などを無視する近似でば,分子運動の運動エネルギーTは系の内部エネルギー(熱)です。※)
これは,運動エネルギーTだけでなく,熱や化学結合など全ての種類のエネルギーに拡張することができると考えられます。
参考文献:メラー「相対性理論」(みすず書房)
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