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2006年8月21日 (月)

ビッグバンとエントロピー増大(時間の向き)

 「エントロピーは増大する」という内容を,「エントロピー=乱雑さ」として身の回りの例を元に考える際,局所的には増加したり減少したりするけど,全体で見るとやっぱり増加している.。

 そう考えたとき,エントロピーを増加させているのは,結局ビッグバンによる物質の拡散膨張が原因なのかと考えてしまうようになってしまいました。

 これって正しいのでしょうか? もしそうだとすると,クランチが始まるとエントロピーは減少するのでしょうか?

  と@nifty物理フォーラムで過去において質問を受けたので,私の回答を掲載しておきます。

 回答は次のとおりです。ただし回答に対して何度も質問を受けたものについてまた回答したものがあるので重複して読みづらくなっている部分もあります。

 通常の断熱自由膨張では体積が2倍になると,気体分子数をN,ボルツマン定数をBとすると,エントロピーの増加はΔS=NBlog2になります。

 もっともエントロピーの増加分は熱平衡状態における差であって非平衡状態で考えるのはちょっとむずかしいですけどね。

 エントロピーの増大ということからすれば,宇宙全体を孤立系と考える必要がありますが,まあ,断熱壁に囲まれた孤立系と考えてよさそうです。

 エントロピーは相空間の体積の対数ですから,膨張すればエントロピーが増加するのだ,と言えるでしょう。

 むしろ,宇宙が膨張するのが熱力学第2法則からの帰結であるのかとも考えられます。

 ただし,今の宇宙論の世界では,現在が熱平衡状態にあるのではなくむしろ非平衡状態にあるとされているので,熱平衡状態の法則がそのまま適用できるのかどうかについては,本当のところ,若干の疑問は感じますが。。。。。

 重力場の方程式は時間反転対称なので膨張解も収縮解も定常解もありますから,膨張しているというのは,現在が膨張状態にあるという事実から,その初期条件に従う解を取らざるを得ないという意味で,重力場の方程式自身に膨張でなければならない,という根拠付けはありません。

 ブラックホールという解があるので,時間を逆向きにすれば光などが全て排斥されてしまう,つまり光放出という一方向にしか進まないというホワイトホールという解もありますからね。。。。。

 熱平衡という感覚からすると,宇宙が膨張すればするほど,局所的には熱平衡からは,ますますずれていって非平衡になりそうです。

 恒星などの低エントロピー源(高温)から,核反応などで生じた高エントロピー(低温)の不要な熱を捨てることのできる低エントロピーの場所=エントロピーの小さい極低温の宇宙空間が膨張によりどんどん増えてゆくともいえます。

 熱力学第2法則自体の時間反転対称性という悩ましい問題もあります。

 孤立系ではエントロピーは必ず増加します。巨視的な熱力学理論も時間反転に対して対称だとしたら,エントロピーが Δt>0 の向きで増加するなら,Δt<0 の向きにも増加するはずです。

 もっとも,現在(時刻:t)が平衡状態にあるとしてですが。。。。

 これは統計力学の基になっている粒子の力学方程式が時間反転対称ですから熱力学でもそうではないかという考察に基づくものです。

 たとえばボルツマンのH定理というのがあります。

 これは実はHというのはエントロピーに負号をつけたものに相当するのですが,時間について減少関数になるからという理由で可逆な粒子力学方程式から不可逆性が導かれる証拠と称しています。

 しかし,時間の向きを逆にとることにより過去にも減少します。ということは見方次第で時間の増加関数にもなります。

 テル・ハール(D.ter Haar)の「熱統計学」によるとエントロピーはS=-BHですから,"Hの減少=Sの増加"になりますね。

 私自身は不可逆性というのは"粗視化"によるところが大きい,と見ています。微視的には複雑な町並みなども遠くから見ると濃いところと薄いところがある塊りにしか見えない,ということなどを"粗視化"と称しています。
 
 さてビッグクランチで収縮に転じるとエントロピーが減少するかという問題ですが,普通に考えると減少するでしょう。

 これについても時間対称性を考えると多少の考察はできます。

 むしろエントロピーの増加そのものが時間の向きを決めているという見方もできるからです。

 ビッグクランチ以降の人にとっては,むしろ,時間はわれわれから見た未来から過去に進む。そこではやはり宇宙は膨張し,エントロピーは増大する。。

 これはホーキング(S.W.Hawking)だったかによる「時間対称宇宙」というものですが,この理論はあまり本流ではないようです。

 その他,私には最近の知識はないのですが,こうした問題はまだ未解決ではないでしょうか。。。。

 ボルツマンのH定理に対しては"ロシュミット(Loschmidt)の逆行性批判("という厳しい反論があります。

 それは力学においては方程式は可逆であるから,Hが最小,あるいはSが最大の熱平衡に達したとき,正にそのときに全粒子(分子)の運動の向きを逆転すれば,たちまち非平衡に逆戻りする。だから,H定理に反してHは増加しSは減少するではないか?

 というものです。

 たとえば,コップから床に落ちた水も,その落ちた全ての水滴は速度を逆向きにすれば,重力に抗してコップまで逆のぼっていくことが可能な運動エネルギーを持っているわけですから,逆行は理論的には可能なのですが,そのようなことは現実には起こりませんね


 要するに,H定理というのは可逆な決定論的な法則から不可逆性を導いたわけではなく,確率的な仮定を考慮に入れた結果として不可逆性を説明した,に過ぎないわけですね。

 拡散現象や熱伝導の現象は,濃い方から薄い方へ,高温から低温へとしか,流れが起きず,逆は生じないというわけで,これらは同じフィック型の拡散方程式で記述されます。

 方程式の型が波動方程式型(双曲型)でなく,放物型なので時間反転対称でなく,不可逆性を表わす式となっています。

 もっとも相対論的に共変な形をしていないので時間を純虚数時間にして i を入れた放物型のシュレーディンガー方程式と同様,アメリカ太平洋岸で起きた津波が瞬時に日本に伝わるような方程式であるという欠点はありますね。

 まあ,相対論的に書き直せばいいだけですが。。。。。

 拡散現象は巨視的には,部分系に分けて考えると全体(孤立系)でエントロピーが増加しなければならないという要求から部分系間の状態の移動の方向が決まるということから導出できますね。

 一方,分子論的な立場からは,濃い場所からも薄い場所からも等しい確率で分子が出入りするという仮定をおけば自然に出てきます。

 つまり,等確率(等重率)の仮定をおけば,ランダムウォークの結果としてブラウン運動になり,拡散方程式を満足するようになるのです。

 拡散,熱伝導は典型的な不可逆現象ですから,これが説明されればだいたい不可逆性の問題は解決です。

 ところが,これにはやはり等確率の仮定というのが入っています。

 この等確率の仮定の根拠というのが,またやっかいなもので,エルゴード仮説(Ergodic hypothesis)と言われるものです。

 この仮説:"あらゆる相空間を粒子系がすべて埋め尽くす軌道を取るのである。"というものがありますが,非常に小さい系でもすべてを埋め尽くす軌道をまわるには宇宙の寿命より長い時間がかかりますが,実際の「熱平衡」は短時間ですからある意味では奇妙な話です。

 この問題はランダウ(Landau)の「統計物理学」によると,"t<0 を考えなければよい。"という話になります。

 つまり,"孤立系を考えるというが,それはいつか作られたものである。箱の中に気体があるという話では,それはそれ以前には人や装置が関った系ではなく,箱に気体を詰めた時刻というものが存在するはずだから,そのときの時刻をt=0 とすればいい"という意味です。

そうすれば孤立系のエントロピーは常に増加するとできるというわけです。

 熱力学第2法則は孤立系では現在から未来に向かって,必ず,エントロピーは増大しなければならないので,例えば時間が逆向きになっても過去に向かって増大しなければならないだろうと思われます。

(現在が平衡状態だと既に最大なのでそうはいかないので,むしろ最小だと考えねばならないでしょう。)

 熱力学法則の時間対称性を要求すると,そういうことになるんですが,統計力学だと,むろん過去に向かっては,逆に減少します。そこが矛盾かな?と感じないわけではありませんが。。。

(熱力学に時間対称性を要求しなければいいのかもしれませんが,統計力学(力学)では時間反転するとビデオの逆回しになるので増大していたものは減少するはずです。

 その世界も現実的にありうる運動状態の場合には,そうした世界でも熱力学が成立するはずで,そこでもエントロピーが増大するはずと思ったわけです。)

  "粒子の方程式が時間反転対称である。"ということの意味は,たとえばニュートンの運動方程式で時刻 t を (-t ) に置き換えたとしても方程式の形は不変という意味です。

 そこで,ある時刻 t0 における位置で,時刻を t'=2t0-t と対称変換して,初期条件をt=t0における位置はそのままで,速度を逆向きにすると(時間 t が (-t ) に変わると,速度は位置の時間による微分なので (-) 符号が付きますね。),その軌道は来たものを逆にたどるというだけです。

 量子論だともっと複雑で,シュレーディンガー方程式の t を (-t) に変更して波動関数の複素共役を取れば時間対称である,というもので,複素共役をとるので座標表示での運動量 =-i∇ したがって速度も逆向きになります。

 統計物理は多数の粒子が衝突を繰り返すもの,といって,元々ニュートンやシュレーディンガーの粒子方程式に従う粒子群の運動状態の分布から,巨視的な挙動を抽出したものです。

 そこで,確率的に大きい(状態の数が多い=エントロピーが大きい)向きに状態が移行する,ということを抜きにすれば,ある瞬間に時間の向きを逆転すると,エントロピーが減少する向きに移行してもおかしくはないというのが"ロシュミットの逆行性批判"を巨視的に捉えた場合の意味です。

 (しかし今考えると確率的な考慮が入っているという部分で,既にロシュミットの逆行性は崩れているといえますね,私も少しは成長していますね。(^^; )

  そして,"孤立系ではエントロピーが増大する。"という意味は熱力学では第2法則(クラウジウスの不等式:ΔS>ΔQ/T)からそれが成立するのは,あくまで"
熱:ΔQの授受がない(ΔQ=0)=孤立している"という前提の下でです。

 そして,宇宙の場合も開闢より前は孤立系ではないだろうし,普通の容器の中の気体も閉じ込めて観測する前は孤立系ではないだろうから,孤立系が始まったときを時間の原点にとって,れ以前を考えないことにしたら,過去というものは考えなくてもよいかな,というのがランダウの主張する内容です。

 ツナギ合わせの編集ということもあって,結論もなくダラダラとした収拾のつかない文章になってしまいました。。。

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI

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