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2006年8月15日 (火)

2つの物体の温度の接触による交換

同じ質量Mの2つの物体(固体)A,Bの温度がそれぞれT,Tであったとし,これらを接触させて放置すること(=熱伝導)だけで,AとBの温度を交換する方法を考えてみます。

 

これは,どこだったか覚えていませんが,ある大学の入試の過去問題にあったと記憶しているものを参考にしています。

 まず,一連の手順を5つの工程に分けて行います。

 

 なお,これらの物体を取り囲む環境は断熱で,熱は逃げたり入ってきたりすることはないと仮定しておきます。

     AとBをそれぞれ半分の質量M/2の2つの物体A1,A2とB1,B2とに分割します。

 

  そしてA1とB1とを接触放置します,質量が同じですから熱量保存の法則によって温度はA1=TB1=(+T)/2になります。

     次にA1とB2とを接触放置します。

 

  温度はA1=TB2={(+T)/2+T}/2=(1/4)T+(3/4)Tになります。

     次にA2とB1とを接触放置します。

 

  温度はA2=TB1={T+(+T)/2}/2=(3/4)T+(1/4)Tになります。

     さらにA2とBとを接触放置します。

 

 温度はA2=TB2=(+T)/2になります。

     最後に,分割していたA1とA2,B1とB2をそれぞれ元のAとBに接着して戻します。

 

  このとき接着して戻したA全体,B全体の温度は,それぞれT'=(1/2)[{(1/4)T+(3/4)T}+{(1/2)T+(1/2)T}]=(3/8)T+(5/8)T,

 

  T'=(1/2)[{(3/4)T+(1/4)T}+{(1/2)T+(1/2)T}]=(5/8)T+(3/8)Tになります。

 これらの結果,結局Aの温度はTからT'=(3/8)T(5/8)

 Tに,Bの温度はT'=(5/8)T+(3/8)Tに変わりました。

 

 当然のことながら,質量が同じなのでT'+T'=T+T

 成立しています。

ちなみに最初Aの温度がT=192℃,Bの温度がT=320℃であったとすれば,この手順の結果としてT'=272℃,T'=240℃となり,既にこの操作だけでA,Bの温度の高低が逆転しています。

では,一連のプロセスをもう1段階増やすとどうなるでしょうか?

 

すなわち,次の手順です。

(1)AとBをそれぞれ4分の1の等質量M/4の4つの物体A1,A2,A3,A4とB1,B2,3,B4とに分割します。

 

 そしてA1,A2とB1,B2に先の手順を施行します。

 

 A1+A2(3/8)T+(5/8)T,TB1+B2(5/8)T+(3/8)

 なりますね。

(2)先の操作をさらにA1,A2とB3,B4に施すと,A1+A2'=(3/8)TA1+A2(5/8)T,TB3+B4'=(5/8)TA1+A2(3/8)Tとなります。

(3)さらにA3,A4とB1,B2でやると,A3+A4'(3/8)T+(5/8)TB1+B2,TB1+B2'=(5/8)T+(3/8)TB1+B2になります。

(4) さらにA3,A4とB3,B4でやると,A3+A4"(3/8)TA3+A4'(5/8)TB3+B4',TB3+B4"=(5/8)TA3+A4'(3/8)TB3+B4'ですね。

(5)そして最後にA1,A2,A3,A4をすべて接触,1,B2,3,B4を全て接触させて接着すれば終わりです。

 

 結果は煩雑なのですが,Aの最終温度はT"=(1/2)TA1+A2'+(1/2)TA3+A4"={(3/8)2+(3/8)(5/8)2}T+(1/2){(5/8)3+(5/8)(3/8)2+2(3/8)(5/8)+5/8}Tとなります。

 

 Bの方はもちろんT"=(T+T)-T"ですね。

ではこのプロセスを無限回分割という段階にして行うとどうなるのでしょうか?

 

簡単のために,a≡3/8,b≡1-a=5/8としておき,n段階の操作の後のAの温度をTnとしておきます。

 

すると,T1=aT+bT,T2(a2+ab2)T+(1-a2-ab2)Tとなります。

 

一般にTn=an+bn (bn=1-an)と置くと,an+1=an2+ann2=an2+an(1-an)2=an(an2-an+1),bn+1=1-an+1と漸化式で書けます。

 

しかし,このan+1=an(an2-an+1)(a13/8)は線形ではないので,一般的に考えて初等的手段では解けませんね。

しかし,an+1/an=an2-an+1=(an1/2)2+3/4>3/4であり,(n+1/an)-1=an2-an=-an(1-an)ですが,0<an<1なので,常に 0<(an+1/an)<1です。

 

故に, 0 <r<1なる定数rが存在して 0<(an+1/an)<rとなるため,an<rn-11ですから,n→∞ に対しan0 となることが示されます。

 

したがって,もちろん,n→∞ でbn1ですね。

 

すなわち,この熱伝導接触操作の分割ステップnを無限に増加させていくと物体Aの温度はTn → Tと元の物体Bの温度に近づき,逆に物体Bの温度は元の物体Aの温度Tに近づくわけです。

こうして無限回分割の施行をすれば「マクスウェルの悪魔」というわけではないですが,接触のみの操作によってAとBの温度を"交換すること=入れ替えること"が原理的には可能である,ということになります。

 

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI 

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コメント

 こんにちは。。hirotaさん。TOSHIです。コメントありがとうございます。

>「対向流型熱交換器」の原理と同等ですね。

 なるほど寡聞にして技術的なものはほとんど知らないのですが、そういうものが実際にあるのですね。

 この入試問題を最初に読んだときは低熱源から高熱源に他に何の影響もなく熱が移動するというのはおかしいなと思いましたが、まあ、接触はエントロピーが増加する「不可逆過程」の最たるもので、実際に計算すると確かにエントロピーが増加していて問題ないことがわかりました。

            TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年7月17日 (火) 17時30分

「対向流型熱交換器」の原理と同等ですね。
二本のパイプをピッタリ接触させて、片方に熱い流体, 他方に冷たい流体を互いに逆方向に流すタイプの熱交換器がありますが、パイプが長く、断熱が充分なら、ほぼ完全に温度が逆転します。
石油ファンヒーターなどでも使ってるはずですが、そんなに長く出来ないので100%とはいかないようで、でもその代り水を通す材質を使って熱交換と同時に排気中の水分を回収して室内の乾燥を防ぐとかやってるようです。

投稿: hirota | 2007年7月17日 (火) 15時11分

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