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2006年8月30日 (水)

双子のパラドックス(一般相対論による計算)

 今日は少し重い話題ですが双子のパラドックス(twin paradox)を真面目に取り上げてみます。 

 地球に双子の兄弟が住んでいてあるとき兄のほうが地球から直線距離にして距離L(n光年)だけはなれたα星まで,光の速さcのβ倍の一定の速さv=βcで往復して地球まで帰ってきたとします。

  

 もちろん,宇宙船はα星に着いて即座に転回して逆向きに速さvで地球まで帰ってきて到着したら停止するわけです。

 

 そこで,α星では転回のために地球の向きに無限大の力で無限大の加速度を受けるわけですし,地球から出発したり到着して止まるときにも向きは逆ですが無限大の力を受けて無限大のGがかかります。 

 そして,この理想的なケースを特殊相対性理論で扱うと,弟は兄が帰ってくるまでに時間にして,2L/v=2n/β年だけ歳を取りますが,

 

 兄の方は,時間の遅れによって,2L(1-β2)1/2/v=2n(1-β2)1/2/β年しか歳を取りません。

 

 あるいは兄から見ると,地球とα星は速度v=βcで運動しているので,その間の距離Lが(1-β2)1/2倍にローレンツ収縮していると考えても同じ結論を得ます。

 

 こうして同じ年齢だった双子の兄の方が星間旅行から帰ってきた結果,弟より年下になることになります。

 

 でも,これだけでは別にパラドックスでも何でもありません。 

 具体的には,地球とα星の間の距離を10光年としv=0.8c(β=0.8)とすれば兄が帰ってくるまでに弟は25年も歳を取りますが,兄は15年しか歳を取りません。

 

 ところが,見方を変えて兄の宇宙船を中心にして考えると地球(弟)のほうが逆向きに速さv=βcで等速度運動をし転回して再び等速度運動をして兄に会うというようにも見えます。

 

 相対性理論では"運動は完全に相対的なものである"と見ますから,兄が15年歳を取る間に弟は9歳しか歳を取りません。

 

 いずれにしても2人は再び出会うわけであり,遠く離れた場所での時刻を比較するのではありませんから,もしも互いに完全に対称な運動であるとしたら,これは明らかに深刻な矛盾です。

 

 これを双子のパラドックスといいます。

 これらは,普通のミンコフスキー空間での兄の運動だけを扱うなら何の疑問も生じませんが,実は弟からみた兄の運動と兄から見た弟の運動は対称ではありません。

 

 このパラドックスを解消するには,時空図を書いて世界線の乗り換えを考えれば,特殊相対性理論だけでそれなりの説明ができます。

 

 しかし,特に兄の宇宙船がα星で転回するとき莫大な重力(慣性力)を感じ,遠方から地球が落下する際,兄の一瞬の加速の間に弟が極端に大きく歳をとるというように,一般相対性理論での加速度座標系を用いた扱いでも詳細に説明できるので,以下にその方法を紹介します。 

もっとも,2つの時刻とか時間の比較というのは,同一の場所における正しい時計の刻みの比較でしか本質的な意味を持ちませんから,離れた場所での時間経過の比較というのは計算上の話でしかありませんが,とにかく辻褄は合います。 

さて,まず,"無重力の空間=特殊相対性理論の空間"を考えて質量mの質点がx軸の方向に一定の力F=mgを受けて加速される,というのは相対論ではどういう運動なのかを考えてみましょう。

 

ただし,運動の定式化は空間1次元,時間1次元の2次元で考えれば十分なので,特に必要な場合を除いて時空座標としては位置座標xと時刻tの2つだけを想定します。

  

時刻t=0 で位置座標をx=0,速度もv=dx/dt=0 であるとし,質量mは時間的に変化しない:dm/dt=0 とします。

  

ニュートン力学では,運動方程式はdp/dt=F,つまりm(dv/dt)=mgなので,この運動はv=gt,x=(1/2)gt2となります。

  

一方,特殊相対性理論の力学では,運動方程式は,

dp/dt=(d/dt){mv/(1―v2/c2)1/2}=mgです。

  

これを解けば,

v=gt/{1+(gt/c)2}1/2,x=(c2/g)[{1+(gt/c)2}1/2-1]

となります。

 いま,兄の宇宙船から見た地球(弟)の運動を考えてみます。

 

 出発時には地球は加速度gで宇宙船の後方から落下を始め,落下速度の大きさがv=βcに到達した後は,その一定速度で等速度運動して離れて行き距離L(1-β2)1/2に到達後には急転回します。

 

 今度は逆に加速度gで宇宙船に向かって落下して行き,静止を超えて逆向きにの速度v=βcに達した後,再び等速度運動で宇宙船に近づいて行き,会う直前で加速度gで減速して愛護に静止と同時に宇宙船と合体するということになります。 

 このうち,等速度で運動する部分の"弟=地球"の時間T1は,兄の往復時間:2L(1-β2)1/2/vのさらに(1-β2)1/2倍ですから,12L(1-β2)/vです。

 それでは,猛烈なG=gを感じる重力場の中での相対的な時間の進み方というのはどういうものでしょうか?

 

 例えば,地球上で一定の重力加速度gの重力を受けて自由落下する石の立場に立って,石や我々の感じる時間を考えてみましょう。 

石の速度をuとすると,最初はu=0 ですが重力の加速度gにより石は次第に加速されていきます。

 

特殊相対性理論の時空というのは無重力の時空ですから,自由落下中の無重力で浮遊する石の感じる時刻こそが無重力での時刻です。

 

その石の感じる時刻変化をΔτとすると,これが無重力=重力がゼロの中の時刻変化(固有時の変化)なのですが,石が速度uで落下している場所では,石を基準にすると,我々の方が逆に速度v=-uで上昇して行くと見えます。

 

したがって,石から見ると我々の時刻変化はΔt=Δτ(1-u2/c2)1/2です。等価原理により,これが重力gの重力場の底の中での時間の遅れに相当します。

 

重力場の底(u≠0)ではなく,まだu=0 の天井の方では時間の遅れはありません。

 

重力加速度の負の向き(鉛直上向き)を正の向きとする座標をxとすると,もしもニュートン力学近似でいいなら,u2=-2gxで重力のポテンシャルはχ=gxなので1-u2/c2=1+2χ/c2です。

 

しかし,正しく相対性理論で考えると,v=-u=gτ/{1+(gτ/c)2}1/2,x=(c2/g)[{1+(gτ/c)2}1/2-1]なので,1-u2/c2=1-v2/c2=1/{1+(gτ/c)2}=1/{1+gx/c2)2です。

 

(x軸は石が原点(x=0)固定で鉛直上向きが正,系の時刻はτです。)

 

そこで,Δt=Δτ(1-u2/c2)1/2=Δτ/{1+(gτ/c)2}1/2=Δτ/(1+gx/c2)なので,重力ポテンシャルをχ=gx{1+gx/(2c2)}で定義すれば,Δτ=(1+gx/c2)Δt=(1+2χ/c2)1/2Δtと書くこともできます。

 

※PS(2009年4/4補足):最近,誤解を受けそうなことがあったので少し補足しておきます。

 

すぐ上の"Δτ=(1+gx/c2)Δt"という式を見ればわかるように,重力加速度の大きさgが有限値であれば,x~ 0 のときにはΔτ~ Δtとなって石と我々の時間経過にほとんど差はありません。

 

Δτ=(1+gx/c2)Δtという式は,我々が重力場の底,すなわち,gxがc2と比較できるほどxの非常に大きい場所にいて,石の方は原点で自由落下しているとした場合に,Δt<< Δτとなって我々の時間が遅れることを意味します。

 

(双子のパラドックスでは,ここでの我々が宇宙船に,石が落下する地球に対応しています。

 

また,τが重力に逆らわず自由落下している"石=地球"の固有時間,tがそうではなく何らかの重力を感じている(落下せず重力に逆らっている)"我々=宇宙船"の時間であるとしています。)

 

これが"重力で時間が遅れる"と述べていることの意味です。

 

つまり,強い重力が存在したとしても重力に逆らわず流されている(=無重力で落下している)人から見て,その重力場の中のどこかにピン止めされて動かない人(=強い重力を受けている人)の時間がほとんど進まないように見えるのは,かなり遠方から離れて見たときで,すぐそばにいればそういうことはありません。

 

石と我々の両者が空間の同じ位置にいる(x=0)なら,石とわれわれが感じる時間経過に差があったとしても,それは相対速度に起因するもので加速度には全く関係ないというのが一般相対論の根本仮定の1つですからね。

 

すぐ前の本文において,"石からみると我々の時刻変化はΔt=Δτ(1-v2/c2)1/2です。等価原理により,これが重力gの重力場の底の中での時間の遅れに相当します。重力場の底でなくて天井の方では時間の遅れはありません。と書いたのは,そういう意味です。

 

ここらへんの話は,メラーでなく内山龍雄先生著の「一般相対性理論」やシュッツの「相対論入門」から仕入れたような気がします。(補足終わり)※

 

そして,自由落下する石を地球と考え,我々を原点に固定された宇宙船と考えます。

 

宇宙船の加速時にはどちら向きでも,常に石(地球)は落下します。

 

落下する地球の加速度を-g,または加速している宇宙船の加速度をgとし,"無重力=自由落下中"の地球時間をτとします。

 

時刻τでの宇宙船の速度v(τ)は,v(0)=0ならv(τ)=gτ/{1+(gτ/c)2}1/2で与えられます。

 

このとき宇宙船時間tの経過はΔt=Δτ(1-v(τ)2/c2)1/2=Δτ/{1+(gτ/c)2}1/2です。

 

そしてv(τ)=v=βcとなる宇宙船時刻をt=t0,地球時刻をτ=T0とすれば,右辺を 0 からT0まで積分してt0=∫dτ/{1+(gτ/c)2}1/2=(c/g)sinh-1(gT0/c)が得られます。

   

(※ sinh は双曲線関数:sinh(x)={exp(x)-exp(-x)}/2です。

sinh-1は sinhの逆関数です。これは逆双曲線関数と呼ばれ,自然対数で表わすこともできます。※)

この式から(gT0/c)=β/(1-β2)1/2=sinh(gt0/c),そして tanh(gt0/c)=βが得られますが,g→ ∞ のときβ/(1-β2)1/2は有限ですから,T0 → 0 です。

 

そこで,宇宙船と地球が接近しての出発時,到着時の瞬間加速のときには,地球時間の経過は宇宙船時間と同じくゼロです。

 

重力ポテンシャルの考察から,宇宙船を基準とし"x軸の負の向きにG=gの一様重力がある時空=リンドラー時空"の計量は,

  

2dτ2=c2(1+gx/c2)2dt2-dx2-dy2-dz2

  

で与えられると考えられます。

 

今設定のx軸に沿った地球の自由落下運動では,dy=dz=0 と考えてよいのでc2dτ2=c2(1+gx/c2)2dt2-dx2と書けます。

 

これから,地球時間(弟の固有時間)τと宇宙船時間(兄の固有時間)tの間に,dτ=dt{(1+gx/c2)2-(dx/dt)2/c2}1/2なる関係が得られます。

 

また,=c2(1+gx/c2)2(dt/dτ)2-(dx/dτ)2 ラグランジアンとして,の変分がゼロとなるというオイラー・ラグランジュ方程式を取ることにより測地線の方程式を作ると,d2x/dτ2=-g(1+gx/c2)(dt/dτ)2となります。

 

この両辺に(dτ/dt)2を掛けると,xとtの簡単な2階常微分方程式d2x/dt2=-g(1+gx/c2)が得られます。

 

これを,t=0 でx=x0 ,(dx/dt)=0 という初期条件で解くと,x=(c2/g)[(1+gx0/c2){1/cosh(gt/c)}-1]となります。

 

(dx/dt)を計算してdτ=dt{(1+gx/c2)2-(dx/dt)2/c2}1/2に代入して積分すると,τ=(c/g+x0/c)tanh(gt/c)を得ることができます。

 

地球と宇宙船が最も遠くにあるとき,地球にかかる加速度は-gで宇宙船を原点として地球の座標の初期値はt=0 でx=Lです。

 

宇宙船時間がt=t'だけ経過したときの地球時間の経過τ=T'を求めるために,すぐ上の式でx0=Lを代入するとT'=(c/g+L/c)tanh(gt'/c)となります。

 

宇宙船の加速時間t'は地球付近での加速時間t0と全く同じですから前に求めたように,tanh(gt'/c)=β=v/cです。

 

そして,この場合はg→ ∞ のとき2T'→T2 とすると,距離Lがあるおかげで,T2はゼロではなくT2=2vL/c2有限な値になります。

 

つまり重力そのものではなく,重力のポテンシャルが時間の遅れに効くわけです。

 

宇宙船が重力場の底にいますから,先の結果T0→ 0 とは異なります。

  

これは,兄の宇宙船のα星付近での瞬時の転回時に,地球の弟が極端に大きく歳をとることを意味します。

 

結局,宇宙船の兄の固有往復時間:2L(1-β2)1/2/vの間に,弟の地球での固有経過時間は1+T22L(1-β2)/v+2vL/c22L/vとなるという結論が得られます。

 

これは,兄,弟の固有の経過時間が兄を基準としても弟を基準としたときと全く同じであること,いずれにしても弟の方が余計に歳を取ることを意味しています。

 

参考文献:メラー「相対性理論」(みすず書房)他

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI

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投稿: 大絶画 | 2011年9月10日 (土) 03時46分

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