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2006年8月12日 (土)

空気中での音速

 今日も初歩的ベクトル解析がわかる程度の大学初年級向けの軽い物理学のトピックスを1つ解説してみようと思い,空気中での"音速=弾性波の速さ"をニュートン(Newton)が求めたようなやり方で計算してみたいと思います。

 空気の流れの速度ベクトルを,密度をρ,圧力をpとします。考えている領域での主流速,つまり平均流速はゼロとします。

 

 これは普通に風速を観測すれば風は吹いていない静穏状態(calm)と見なされるという意味です。

 

 そうすると,空気の流れの速度ベクトルは"平均速度=ゼロ"からのずれを意味しますから,は変位速度と呼ばれるものに相当します。

  

 つまり,は主流速(ゼロ)からの微小なゆらぎ速度で,波動,または振動と見なせる程度の量です。

 そして,一般に地上付近の空気中の通常の巨視的対象物のスケールでは,系のレイノルズ数(Reynolds number):Reは10万を超える大きな値になると考えられます。

 

 そこで,ごく薄い境界層内以外の空中では粘性(1/Reに比例)は無視できるため,考察対象の運動方程式は完全流体のオイラー(Euler)方程式(粘性=摩擦の無い流体のニュートンの運動方程式)で与えられるはずです。

 

 そして,平均流速はゼロであるとしているので今の場合のオイラーの運動方程式では"移流項=慣性項"はありません。

 すなわち,ρを空気の密度,pを空気の圧力とすると,"流れ速度=変位速度"に対する運動方程式は,移流項の無いオイラー方程式:

 

 ∂/∂t=-∇p/ρ-gk 

で与えられます。

 

 ただし,gは重力の加速度,は鉛直上向きの単位ベクトルです。

  

 ここで,ρを空気の平均密度ρ0とそれからのずれρ'の和として,

 ρ=ρ0+ρ'と書き,

  

 圧力pも平均圧力p0とそれからのずれp'の和として

 p=p0+p'とします。

  

 ただし,平均量については静力学平衡:∇p0=-ρ0が成立しているとします。

  

 そして,ρ',p',については2次以上の微小量を無視する近似を行なうと,運動方程式/∂t=-∇p/ρ-gは,

 

 ∂(ρ0)/∂t=-∇p'

 

 になります。

  

 一方,空気の質量保存を表わす連続の方程式は,

 ∂ρ/∂t+∇(ρ)=0 ですが,これも

 

 ∂ρ'/∂t+∇(ρ0)=0  になります。

 

 そして,運動方程式:∂(ρ0)/∂t=-∇p'の両辺の発散を取ると,

 ∂{∇(ρ0)/∂t}=-∇(∇p')=△p'となります。

 

 ただし,△≡∇2はラプラスの演算子=ラプラシアン(Laplacian)です。

 

 連続の方程式:∂ρ'/∂t+∇(ρ0)=0 からは,

∇(ρ0)=-∂ρ'/∂tが得られますから,

これを運動方程式に代入すると,

 

 ∂2ρ'/∂t2=△p' 

 

なる関係式を得ます。

 

 ところで,熱力学的には弾性振動現象は熱の流出入の無い断熱過程ですから,理想気体の断熱過程に対する式であるポアソン(Poisson)の公式:

 p=cργ が成立すると考えられます。

 

 ここで,γは比熱比=Cp/Cです。ただしCvは定積比熱,Cpは定圧比熱を示し,cは適当な定数です。

したがって,∂ρ/∂t={ρ/(γp)}(∂p/∂t),さらに∂2ρ/∂t2=∂[{ρ/(γp)}(∂p/∂t)]/∂tですが,

 

係数{ρ/(γp)}をtで微分することによって生じる非線形項はの2次以上の微小量なので無視します。

 

つまり,弾性波の伝わる現象の時間スケールは,波動の周期と比べて十分大きいため,

 

日常的な音の伝播する現象のレベルでは,巨視的な密度ρや圧力pをこのサイクルでの平均量として微分の外に出すことにより方程式を線形化する近似が有効であると考えます。

  

それ故,∂2ρ/∂t2=∂[{ρ/(γp)}(∂p/∂t)]/∂tは,

2ρ'/∂t20/(γp0)}(∂2p'/∂t2)と近似可能です。

 

これを∂2ρ'/∂t2△p'に代入すると,最終的に

 

2p'/∂t2(γp00)(△p')

 

なる線形近似の微分方程式が得られます。

これは"圧力を変位とする波=圧力波"の波動方程式です。

 

このままでもいいのですが,これをに対する方程式に変換しておきましょう。

 

2p'/∂t2(γp00)(△p')の勾配を取ります。

 

右辺の係数は空間に対しても平均量であると考えて,

∂(ρ0)/∂t=-∇p'を利用すれば,

  

2{∂(ρ0)/∂t}/∂t200)[△{∂(ρ0)/∂t}

 

となります。

 

これを逆にtで積分します。

 

積分定数である空間座標の任意関数は,初期条件としてtがゼロのときには波動はまだ存在せず,速度やその微分はゼロであったとしてよいので,これをゼロとします。

 

{∂(ρ0)/∂t}/∂t00){△(ρ0)}ですが,ρ0や右辺の係数は既に平均量と見なす近似をしています。

  

最後にρ0を微分の外に出して,これで両辺を割ると,

 

2/∂t2(γp00)(△) を得ます。

 

これは圧力波の方程式:∂2p'/∂t2(γp00)(△p')と同じ形の変位速度に対する波動方程式です。

 これらの波動方程式は圧力波の方程式形にしても変位速度の方程式形にしても,明らかに波の"位相速度=音速"uが一定で,その値は

 

 u=√(γp00)=(γp00)1/2

 

という式で与えられることがわかります。

 

 ところで,Mを空気の分子量,Tを絶対温度,Rを気体定数とすると,空気を理想気体と考えたときの状態方程式はp0=ρ0RT/Mです。

 

 したがって音速は,u=(γp00)1/2=(γRT/M)1/2となります。

 

 より具体的にはtを空気の摂氏(Celsius)温度とすると,

 T=T0+t(ただしT0=273.15K)ですから,

 u=(γRT/M)1/2=(γRT0/M)1/2(1+t/T0)1/2

   (γRT0/M)1/2{1+t/(2T0)]です。

 さらに,地上付近の空気は,ほぼ窒素N2が80%,酸素O2が20%の混合気体ですが,いずれにしても2原子分子ですから,そのモル比熱はCv=(5/2)R,Cp=(7/2)Rであり,比熱比γはγ=1.40です。

 

 また,気体定数はR=8.31,分子量の実測値はM=28.964×10-3ですから,概算で(γRT0/M)1/2331.2(m/s),そして(γRT0/M)1/2/(2T0)=0.606となります。

 

 つまり,摂氏温度tの地上付近の静止大気中での音速uは近似的に,

 u=331.2+0.606t(m/s)

 

なる式で与えられるという理論的結論が得られました。

 

 これによると,常温=約15℃での空気中での音速の理論的近似値は340(m/s)になりますね。

 

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI

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