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2006年9月

2006年9月30日 (土)

線形微分方程式系の直接解法(ボックスモデル)

 今日は屋内での汚染物質濃度を求めることを仮定した簡易ボックスモデルを例にとって定数係数の連立線形常微分方程式の数値解を求めるための1つの手法を紹介します。

 室内の濃度分布を計算するには簡易モデルではなくて熱対流などの気流を計算する2方程式モデルなどに移流拡散方程式を付加した非定常な数値流体方程式を解くという大げさな方法もあります。

 

 しかし,ここでは部屋の平均濃度だけを計算する,という簡易ボックスモデルを考察します。

 例えば容積がV(m3)の部屋の中央に石油ストーブなどがあって,それからの一酸化炭素(CO)の排出強度がQ(m3/s)であるとします。

 

 もしも部屋が密閉されていれば,時間tが経った後に,その一酸化炭素の平均濃度をCとすると,C=Qt/Vになると考えていいでしょう。

 しかし一般に部屋には隙間があって換気されるわけで,通常1時間に部屋全体の空気が入れ替わる回数を換気率という量で表わします。

 

 例えば容積Vの部屋の換気率がnなら,1時間の後には総量nVの空気が排出され,物質量の保存則によって同時にnVの空気が外部から入ってくるわけです。

 それ故,1秒当たりの空気の流出入量をk(3/s)とするとk=nV/3600 ですね。

そこで,各時刻の部屋の中の一酸化炭素の平均濃度をC(t)で表わすとこの部屋の中の単位体積当たりのその量は各時刻にC(t)(3/m3)なので時刻Δtの間に外気に流出する一酸化炭素の量はkC(t)Δtです。

 

一方,外気の一酸化炭素濃度(一定:constant)をC0とすると,

流入量はkC0Δtですから,部屋内のその量の時刻変化は,

V(C(t+Δt)-C(t))=k[C0-C(t)]Δtなる式で

与えられます。

 さらに排出強度をQとすると,右辺には発生量QΔtが加わりますから,

結局,一酸化炭素濃度に対する微分方程式は,

dC/dt=a(C0-C)+Q/V と表わすことができます。

 

 ここで,a≡k/Vです。

 

 B=aC0+Q/VとおけばdC/dt=-aC+Bとなりますが,

 この微分方程式は簡単に解けて,

 C(t)=(C( 0 )-a-1B)exp(-at)+a-1B 

 なる解が得られます。

こうしたモデルを室内物質濃度の簡易ボックスモデルと言います。

 これを一般化して各部屋の容積がVi(i=1,2,..,m)のm個の部屋を有する住宅があって,これらの部屋の平均濃度が(m+1)次元の列ベクトルで(t)=t(C0,C1,C2,..,Cm)で表わされるとします。

 

 ここで,Ckはk番目の部屋における物質濃度です。

 特に,C0は屋外の平均濃度値を示しています。

そして各部屋には排出強度Qiの排出源があり"部屋iと部屋jの間の換気量=先の方程式のkに相当する値"をkij=kji(i≠j;i,j=0,1,2,..m)とします。

  

すると,このボックスモデルの微分方程式は,

dCi/dt=∑j=0mij(Cj-Ci)+Qi/Vi(i=0,1,2,..,m)

となります。ただしaij≡(kij/Vi)です。

 さらに,(排出強度/容積)の列ベクトルを,

 t(Q0/V0,Q1/V12/V2,..,Qm/Vm)で定義します。

 ただしQ0/V0=0 としておきます。

 

 また,λi≡∑j=0mijと定義し,行列Aを成分;(aij-λiδij)によって定義すれば,濃度を求めるボックスモデルの微分方程式:(m+1)変数の定数係数連立線形非同次微分方程式は,

 (m+1)次元ベクトル空間での線形非同次微分方程式として,

 d/dt=-AB と表わされます。  

 この方程式の形式的な解は簡単に求めることができて,

  

 初期値(0)に対し,(t)={(0)-A-1}exp(-At)+A-1

 と書くことができます。

 さらに,濃度をこうした形式解ではなく実際に具体的に求めるには,

 従来の慣用的な方法であれば,Aの最大(m+1)個の固有値:λi(i=0,1,2,..m)を全て求め,(t)の各成分を具体的にexp(-λit)の

1次結合で表わします。

 

 しかし,高々10部屋程度の住宅で行列Aが具体的にわかっているときには,固有値を求めるなどという面倒な手続きを省略して,コンピュータで無理矢理,力技で行列の指数関数を計算してしまう,という方法があります。

 形式解:(t)={(0)-A-1}exp(-At)+A-1で,

 逆行列:A-1はAからコンピュータで掃き出し法などで計算可能ですし,

 exp(-At)=∑ν=0(-At)ν/ν!であり,コンピュータで行列のベキ乗(power):(-At)νを具体的に計算することも可能です。

 

 そこで,左辺のexp(-At)を右辺の∑ν=0のν=0,1,2,..の最初の数項で近似評価することによって力技で数値的に(t)の近似解を求めることができるわけです

 

 逆に,この近似解と物質濃度の直接測定実験の結果から非線形最小二乗法などによって換気率パラメータ:kijを推定することもできます

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2006年9月29日 (金)

物理的仕事と生理的仕事

 歳のせいなのか?最近左の肩が凝り左腕が痛いという症状に悩まされています。

 

 50肩再発の予兆かもしれません。左手に物をぶら下げて持つだけで痛みが走ります。

  

 人間の身体というのは神が機能的に創られたのでしょうが,こうした物理的仕事をしなくても生理的仕事をすることにより身体のエネルギーを消費して疲れや空腹を感じるようにできているのは困ったものです。

 

 物理学,特に力学においては仕事というのは,"力×移動距離"で定義され,この移動距離というのは力の働く向きの成分だけを指します。

 

 そしてこの力学的仕事をする能力のことが,いわゆる"エネルギー"として定義されるわけです。

 

 したがって物を手にぶら下げているだけで全く動かないなら,腕は"重力に抗する力=重さを支える力を働かせていても移動距離がゼロですから,腕が行なう"力学的仕事=物理的仕事"というのはゼロです。

 

 したがって,力学的にはエネルギーを全く必要としないのですから,物理学,特に力学だけを考えるなら身体が疲れたり痛みを感じたりすることもないはずなのです。

 

 では,何故我々は重い物を持って立ち止まっているだけで身体はエネルギーを消費し疲れたり汗をかいたりするのでしょうか?

 金属なら,金属疲労などという言葉はありますが,それは例えば機械の接合部などで繰り返し運動などによる物理的仕事を何回も受ける結果で,そのためにわずかでも振動などをするので移動距離があるからです。

  

 例えば,金属で出来ているとは限りませんが机の上に重い物を置いても机はもちろん剛体ではありませんから,その物体の重力を受けて最初はわずかに凹んだ後,弾性力によって反動を受けます。

  

 このために振動しても,その振動はすぐに減衰して静止した後には全く動かず,結局エネルギーを消費することはありません。

   

 こうした机や椅子とか建物の柱などの非生物が物を支えているだけで地震もないのに,ちょくちょく疲労を感じて倒れたり壊れたりしたらたまったものではありません。 

 それに対して,人間は鉄棒にぶら下がっただけでもやがて落ちてしまうというふうに,弾性体の一つであるとも言えない弱いものです。

  

 腕などの外部筋が内臓の腸などのように平滑筋でできていれば,その刺激に対する反応は比較的遅いので張力などに対して,まだしも長持ちするはずなのですが,

  

 如何せん,腕などというのは単に物を持つためだけにあるわけではないので,それは刺激に対して比較的反応が速い横紋筋でできています。

  

 それゆえ,引っ張られたりする刺激に対して急速に収縮と弛緩を繰り返すようにできているわけです。 

 物を下げていても外部的には動かないわけですから,何も物理的仕事をしていないように見えますが,実は"腕の筋肉=横紋筋"の組織は収縮と弛緩という振動運動のようなものを継続的に行なっているわけです。

  

 したがって,それは体の内部の筋肉自身にとっては,物理的仕事をしていることに他なりません。

  

 そこで,身体から発生する熱エネルギー(heat)などを用いてその物理的仕事をこなす必要があり,結果として疲れるわけですね。 

 これに対し,上にも述べたように鉄骨などで支えられている建物などが疲労を感じてバタバタ倒れたりしたのではたまったものではありませんが,

  

 それらが疲労したり倒れたりするのは現実に風や波や地震などの物理的作用によって,わずかでも運動をするからです。

  

 つまり,鉄骨などなら"力×動き"の物理的仕事を受けたときだけ"疲労する"のであり,静止しているだけでは人間のように疲労はしません。 

 まあ,人間も死体になってしまえば何か物をひもでぶら下げられたりしても疲労することはありませんがね。。。。

  

 張力でも圧力でも受けた刺激に対し化学反応などが起こって筋肉の収縮や弛緩の反応が起こるのも実は生きている証拠なのかもしれません。 

 参考文献:ファインマン物理学Ⅰ(坪井忠二訳)「力学」(岩波書店)

 

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2006年9月28日 (木)

数論の演習問題(解答)

 ちと早いけど,昨日出した問題の解答を与えておきます。あまりスマートではなく泥臭い解答となりましたが,もっとエレガントな方法があればコメントで披露してください。

問1.(2100-1)99を100で割ったときの余りを求めよ。(ヒントは 210=1024でこれを100 で割った余りは24であるということです。)

(解答) まず, 210=1024≡24(mod 100 )です。そして, 242=576≡-24(mod 100)ですから,243≡-242≡24(mod100)...etc.になります。

 よって2100≡2410≡-24(mod 100)です。それ故, 2100-1≡-25(mod 100)ですね。

 次に(-25)2=625≡25(mod 100)ですから,(2100-1)99≡(-25)98・(-25)≡-25≡75(mod 100)である,というわけで,(2100-1)99を100で割った余りは75である,というのが結論です。(以上)

問2. 330≡1+17・31 (mod  312)であることを証明せよ。

(解答) "フェルマー(Fermat)の小定理"によれば,330≡1(mod31)です。

 よってA をある整数として,330=31A+1と書けますから,A≡ 17(mod31)となることを証明すればいいです。

 そこで,方針としては315≡1(mod31)か,あるいは315≡-1(mod31)であるかのいずれかなので,315=31B±1より,330=(31B±1)2≡1±2B・31(mod 312)として,±2B≡A≡17(mod31)を示すことにします。

 そのために,まず35=243=(31・8-5)と書き,両辺を3乗します。

 すなわち,315=(31・8-5)3=(31・8)3-15(31・8)2+75・31・8-125≡600・31-4・31-1≡7・31-1(mod 312)ですが,これをまとめると315≡7・31-1(mod 312)となります。

 したがって,A≡-2B=-14≡17(mod31)となるので,結局,証明の結論である330≡1+17・31(mod 312)が得られました。(以上)

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2006年9月27日 (水)

数論の演習問題

 今日は久しぶりに数学の問題を出しましょう。

 簡単な整数論の演習問題です。

問1.(2100-1)99 を100で割ったときの余りを求めよ。(ヒントは 210=1024 でこれを100 で割った余りは24であるということです。)

問2. 330≡1+17・31(mod 312)であることを証明せよ。

の2つです。

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2006年9月25日 (月)

ベナール対流の安定性とレイリー数

 今日は上下にそれぞれ一様な温度の床と天井があるところに閉じ込められた流体があって,元々はその高さに比例した温度変化と圧力変化を持って静止していた流体の,上下についての対流の発生,および安定性とレイリー数(Rayleigh number)との関係について述べたいと思います。

 

 これは,いわゆるベナール対流(Benard's convection)の問題です。

 そのために,まず流体方程式系の非圧縮近似について考察するところから始めましょう。

 

 実在の流体は流体速度が音速に比較して非常に小さいときは,非圧縮性流体:Dρ/Dt=0 で近似することができます。

 

 特に重力による圧力傾度と釣り合った静力学平衡:∂P/∂z=-ρgを満たすような密度ρ=ρ0 からの温度分布によるずれ:Δρだけを圧縮性として考慮し,それ以外は非圧縮性流体として扱う近似が正当化されます。

 

 これは,気象力学などでブジネスク(Boussinesq)近似としてよく利用される近似です。

 

 準備として,まずその定式化をすることにします。

 "質量保存の方程式=連続の方程式"は,(∂ρ/∂t)+div(ρ)= 0 ですが,これをLagrange微分で表すとDρ/Dt+ρdiv=0 です。

 

 Lagrange微分は,D/Dt≡∂/∂t+∇です。

 

 そこで,非圧縮性流体Dρ/Dt=0 の近似を行なうと連続の方程式は,

 div=0 となります。

 次に,運動方程式は初めから圧力項を除く部分では非圧縮 div=0 を仮定し,外力は重力だけであるとするナビエ・ストークス方程式(Navier-Stokes equation)とします。

 

 すなわち,運動方程式は,圧力項以外,非圧縮のNavier Stokes方程式:

 /Dt=-∇P/ρ-g+ν∇2v  を出発点にします。

 

 ρ=ρ0+Δρ,P=P0+P'とおき,∇P0=-ρ0として運動方程式の右辺の-∇P/ρを展開して2次の微小量を無視します。

 

 すると,-∇P/ρ=-∇(P0+P')/(ρ0+Δρ)=-(1/ρ0)[1-(Δρ/ρ0)]∇(P0+P')=[1-(Δρ/ρ0)]g-∇P'/ρ0です。

 

 ただしgは重力の加速度,νは動粘性係数=η/ρです。

 そこで,運動方程式は,

 D/Dt=-∇P'/ρ0(Δρ/ρ0)g+ν∇2となります。

 

 これがBoussinesq近似です。

 

 温度Tは密度と圧力で決まるので温度での表現も与えておきます。

 

 ρ0,P0に対応する温度をT0とし,T=T0+ΔTとおくと,圧縮率をαとしてρ=ρ0(1-αΔT)となります。

 

 Δρ/ρ0=-αΔTですから,運動方程式は,

 D/Dt=-∇P'/ρ0+αgΔT+ν∇2v と変形できます。

 最後に,エネルギー方程式です。
 これは温度の方程式に直すことができて,粘性による散逸エネルギーを無視すればDT/Dt=κ∇2Tで与えられます。
 
 ここに,κ=k/(ρCp)は温度拡散係数です。
 kは熱伝導係数であり,Cpは定圧比熱です。

 以下では,(u,v,w)として話を進めます。

 

 まず最初の設定としては領域全体でu=v=w=0 とします。

 

 そして,温度は床z=0 ではT=T0,天井z=hではT=T1で時間的に変わらないとします。この境界条件を満たす定常熱伝導の方程式∇2T=0 の解はT(z)=T0-βz=T0{(T1-T0)/h}zですね。

 

 ここで,β>0 ,すなわちT0>T1とします。

 何故なら,

 さもないと地球上の重力場の中では対流が起きないからです。

 

      ベナール対流の模式図↓

 (PDF:熱対流現象(山中透:京大)から勝手に引用)

 

 そればかりでなく|β|=-βの値が,いわゆる断熱温度減率(=湿度によって変化します)より大きくないと対流は起きません。(例えばランダウ著「流体力学1」(東京図書)参照) 

 そして,圧力はP(z)=-ρgz+const.とします。

 

 =(u,v,w)を,改めてu=v=w=0 の平衡状態からのずれ:摂動流速と見なし,温度もT≡T(z)+θ≡T-βz+θ,圧力もP≡P(z)+P'として摂動温度θ,摂動圧力P'を取ります。

 

 連続方程式は,∂u/∂x+∂v/∂y+∂w/∂z=0 です。

 

 またBoussinesq近似での運動方程式は,

 

 Du/Dt=-(∂P'/∂x)/ρ0+ν∇2,

 Dv/Dt=-(∂P'/∂y)/ρ0+ν∇2,

 Dw/Dt=-(∂P'/∂z)/ρ0+αgθ+ν∇2

 

 となります。 

 温度方程式は,DT/Dt=κ∇2Tですが,DT/Dtの中の移流項∇Tは主流を取って,w∂T/∂z=-βwのみですから, 

 ∂θ/∂t=βw+κ∇2θ となります。 

 ここで,運動方程式からuとvを消去するために,(u,v,w)の"回転=渦"(vortex):ω=rotを取ります。

 

 ζ≡∂v/∂x-∂u/∂yとすると,運動方程式から

 ∂ζ/∂t=ν∇2ζが得られます。

 

 また,(∂/∂t)∇2w=αg(∇2-∂2/∂z2)θ+ν∇4

なる式も得られます。

 

 こうして基本方程式系としては,w,θ,ζの3つを未知数とする3つの微分方程式が得られたことになります。

 さらに,x,y,tの独立変数をzから分離するため,変数分離形を仮定して,w≡W(z)exp[i(kxx+ky)+pt],θ≡Θ(z)exp[i(kxx+ky)+pt],ζ≡Ζ(z)exp[i(kxx+ky)+pt] と置きます。

 

 これは方程式系において,∂/∂t=p,∇2-∂2/∂z2=-k2≡-(kx2+ky2),∇2=d2/dz2-k2と置き換えることに相当します。 

 すると,

 

 p(d2/dz2-k2)W=-αgk2Θ+ν(d2/dz2-k2)2W,

 pΘ=βW+κ(d2/dz2-k2)Θ,

 pΖ=ν(d2/dz2-k2

 

 となります。

 

 これは3つめの方程式とは別に,前の2つのWとΘだけで独立しているのでこれら2つだけでも解ける形になっています。

 そして,床と天井での境界条件はz=0 とz=hでΘ=W=Ζ=0 ,dW/dz=0 です。

 

 ここで,これらの方程式を無次元化するために単位を[L]=h,[T]=h2/νに取ることにして,a≡kh,σ≡ph2/νとします。

 

 x,y,zの単位もhとした後に,D≡d/dzと定義し,温度拡散のプラントル数(Prandtl number)をPr≡ν/κとします。

 すると,3つのうち前の2つの方程式は,

 (D2-a2)(D2-a2-σ)W=(αgh2/ν)a2Θ,および

 (D2-a2-Pr・σ)Θ=-(βH2/κ)W となります。

 

 そして境界条件は,z=0 とz=1 においてΘ=W=Ζ=0 ,

 DW=0 です。

 

 ただし,WとΘは通常の単位であり無次元化していません。

 Θを消去すると,

 (D2-a2)(D2-a2-σ)(D2-a2-Pr・σ)W=-Ra2

 となります。

 

 Rはレイリー数(Rayleigh number)で,これはR≡gαβh4/(κν)で定義される無次元数であり方程式を支配する特徴的な数です。

 安定性を調べるためには,σ=0 (つまりp=0)の特別なケースを調べればよいと思われます。

 

 何故なら,時間的に減衰するか増幅するかの限界は,exp(pt)という因子でのp=0 を臨界点として生じるからです。

 

 そして,その境界におけるRayleigh数に最初に達したときに流れは初めて不安定になると考えられるからです。

そして対称性を利用するために,zの原点を移動して,z=±1/2を境界に取ります。

 

基本となる微分方程式は(D2-a2)3W=-Ra2Wであり,

境界条件はW=DW=(D2-a2)2W=0 atz=±1/2です。

 

この方程式の特性方程式は,

W≡eqzとして,(q2-a2)3=-Ra2です。

 

Ra2=τ36と置いて解くと,

2=-a2(τ-1),q2=a2[1+(1/2)τ(1±i√3)],

または平方根を取って,±iq0,±q,±q* (q0=a(τ-1)1/2 etc.)

ですね。 

 あとの詳細は簡単なので本質的な部分以外は省略しますが,解は偶関数解と奇関数解の2種類に分かれ,

 

 偶関数解としては,

 W=A0cos(q0z)+Acosh(qz)+A*cosh(q*z),

 奇関数解としては,

 W=A0sin(q0z)+Asinh(qz)+A*sinh(q*z)

 が得られます。

 後は,境界z=±1/2でW­=DW=(D2-a2)2W=0 である,という条件から0,A,A*を決めればいいわけです。

 

 これらが自明でない解を持つための条件は境界条件を満足する係数ベクトル:A0,A,A*の係数行列の行列式がゼロでなければならないという1つの固有値方程式になります。

 例えば偶関数解ではこの行列式=0 の条件は,Im[(i+√3)qtanh(q/2)]+0tanh(q0/2)=0 となります。

 

 こうした固有値問題を満足するRを求めると,流れが不安定になり熱伝導だけでは熱を運ぶことが不可能となって物質で熱を運ぶ対流が激しくなる臨界点が求まり,最後には乱流へと移行することになる境界の臨界レイリー数が求められます。

 私がかつて数値的に解いた偶関数の臨界レイリー数Rはたとえばa=3.0でR=1710 etc.であり文献と一致しています。

 

 つまり,a=3.0ではこのRを境として不安定流となり対流が激化していくことになるわけですね。

 参考文献:S.Chandrasekhar 「Hydromagnetic and Hydromagnetic stability」(Dover Books),モーニン,ヤグロム(A.S.Monin&A.M.Yaglom)著(山田豊一訳)「統計流体力学1」(総合図書),

 

(追加):神部勉,P.G.ドレイジン「流体力学の安定性と乱流」(東京大学出版会) 

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2006年9月23日 (土)

磁石と鉄球の引力(誤解答の例)

@nifty物理フォーラムの古典物理の部屋で次のような質問を受けたことがありました。(前半はそれに対する私の誤解答で後半は訂正です。)

 

"表面磁束密度がBの磁石(表面積は∞)からL(m)離れた所にある直径Dの鉄球に働く力は計算できるのでしょうか?

 

F=(B2S)/2μという式をインターネットで見つけました。

 

ここでこのBにはいったい何を代入すればよいのでしょうか?鉄球のある位置での磁束密度?それだと鉄球の材質は関係ないのでしょうか?それとSは何の面積なのでしょうか?鉄球の投影面積でしょうか?"

 

という質問を受けて私は次のように回答しました。

電磁気学は専門というわけではないので,ちょっと計算してみましたが結果には自信がありません。私の計算では力は距離Lには無関係という結果になりました。

 

結果から書くと,力Fの大きさはF=(3π2/4)D22(μ-μ0)/{μ0(2μ0+μ)}となりました。

 

単位は合っていると思いますが,一応MKSA単位です。

 
 磁石の表面積が∞ なら磁束の連続性から,それは直線のまま無限遠まで延びるはずなので,強磁性体(例えば鉄)の周りは空気でしょうけど,それは無視するとして真空の磁束密度Bは距離Lに無関係に一様と考えました。

 

ただし,μは鉄の透磁率です。これは真空の透磁率μ0よりはるかに大きいはずです。

 
 一様磁場のなかでの磁性体球の磁化M(単位体積あたりの磁気モーメント)は電場の中の誘電体球の誘電分極からのアナロジーを用いると,向きも大きさも一様でM={3(μ-μ0)/(2μ0+μ)}B/μ0になります。

 

各半径位置xでの磁化電流(環状電流)をI,そこでの面積をSとすると,

IS=MSΔxとなりますから,I=MΔxです。

(xにおける半径をrとするとS=πr2です。)

 

磁場から受ける力の寄与ΔFは,位置xでの半径rを

r=[(D2/4)-x2]1/2とすると,各環状電流の長さが(2πr)なので,

ΔF=IB(2πr)=2πMBrΔx となります。

 

これを半径x=-D/2~D/2の範囲で積分すると鉄球全体に及ぼす力Fが求まると思って計算しました。

 

しかし,強磁性体については単純な磁場と磁化の比例関係は一般には成立しないので,比例係数を示す透磁率,比透磁率などの概念で定式化したのはかなり無理があるかもしれません。

 

でも別に鉄の磁化Mの磁場Bによる関数形:M=F(B),あるいはHによる関数形か実測値などがわかったなら,

 

F=(3π2/4)D22(μ-μ0)/{μ0(2μ0+μ)}の代わりに,

F=(π2/4)D22Mとなるだけの話です。

そして,横軸がHで縦軸が磁化Mであるような磁気ヒステリシス曲線(履歴曲線)で磁化Mを読み取ればいいことになります。

 

一般に,H=(B/μ0)-Mですが,磁石や鉄のない外部空間では磁化Mはゼロなのでヒステリシス横軸のHについては磁化の元になる真空のH=B/μ0を取ればいいと思います。

 ただし,実際の鉄の周りの外部磁場を求めるのであれば,真空の一様磁場Bの他に,磁化された鉄自身の発生する磁束密度を加えた重ね合わせ,になるので,その鉄球付近の外部磁場はもはや一様な磁束密度ではないです。

 

しかし,鉄球に働く力には自分自身の発生する磁場(自己力)は効かず,ただ自分自身の磁化と磁石による一様磁場Bの相互作用のみが効くだろうという場の考え方で計算しています。

 ヒステリシス曲線などの磁化や磁気モーメントの定義については,既にμ0のかかっているもの,つまり私の今用いている定義の磁化Mでいうと,μ0Mを磁化と称して示している曲線図などもあるので,単位や定義等については注意してください。"

  などと偉そうに答えていたのですが,まことに恥ずかしいことに,ここまでの私の議論は全くの間違いだったということに答えている私自身が気付いたのです。

 つまり,実は"一様磁場の中で鉄球に働く力はゼロであり引力も斥力も全く働かない"ことにやっと気付いたのですね。

 

磁気による力を総和することにばかり専心していて,その向きを考慮することが完全に抜けていたわけです。

 

鉄は強磁性体なので磁化され,その向きはトルクが最小,つまりゼロになる向きですから,磁場の向きと一致します。

 

ところで,磁化されて磁石となった鉄の磁荷ですが,電荷と異なりN極とS極のそれぞれが必ず磁石の両側に同じ大きさだけ現れることになり,NかSが単独で存在するもの(モノポール:単極子monopole)は今のところ見つかっていません。

 ということで,一方の磁荷には引力,他方の磁荷には斥力が同じ大きさだけ働くことになり結果として鉄は動かない,つまり力は釣り合ってゼロであるということになります。

 常識では磁石は必ず鉄を引き付けますが,それは磁場が一様ではなくて,磁石が有限の大きさなので近いところの方が遠いところより磁力が大きいことになり引力の方が斥力に勝るためです。

  したがって,初めに"こうした問題が何故巷の演習書などにありふれていないのか不思議だ。"などと考えていたのは私の誤りで,

 

こうした設定を扱った文献等が全く見当たらないのは,"この設定がつまらないというか無意味であるというか非現実的である"せいだったのだということがわかりました。

 N極から出た磁力線は必ずS極に向かって進み,そこで終わるわけですから一様磁場なら,かなたに ∞-表面積のS極があることになるわけです。

 

このNとSの間に鉄や磁石があっても,結局は両側から同じ力で引かれる結果として動きませんね。

 実際は磁石表面(たとえばN極)は片側にしかないわけですが,表面積が ∞ でS極がどこにもないのなら,結局は無限遠の仮想S極を探して真っ直ぐ伸びていくので同じことです。

 

これは,電気の平面コンデンサーで考えてみると同じことであるとわかるでしょうね。

 

電気なら帯電した無限平面から出る電気力線は,やはり一様電場の直線ですが,電荷ならプラスかマイナスかの一方だけで存在することが可能なので,単極の電荷があればそれには電気力が働きます。

 

しかし,もしこうした電場の中に磁場の中の磁石のように両側に同じ大きさのプラスとマイナス電荷が固定されるよう帯電した棒があるなら,この電場でもその棒全体に働く力はやはりゼロです。

 これは帯電していないもの:電荷のない中性のものを電場の中に置いたのと同じですから,それに働く電気力はゼロです。

 したがって,磁力の場合も磁石は必ず両側にNとSがあるので磁場の磁束が直線でなくて曲がっていない限り,引力など働かないことになります。

 つまり,∞ の表面積ではダメで,有限な表面積の磁束の磁石でないと,こうした問題そのものが成立しないでしょう。

 

とおわびし,訂正をして回答を終わったわけでした。

 

というわけで偉そうに長々と答えた回答が実は大間違いであったという私の失敗談をお話しました。

 

※(蛇足):間違いはそれに気が付けば訂正して謝ればいいだけです。

誤認逮捕や冤罪,それに手術ミスなど人命に関わるような取り返しのつかない間違いは別で謝っただけじゃ済まないでしょうが。。。

 

私は軽薄なのでメンツに傷が付く程度なら謝ります。

(↑メンツもカネもないくせに。。)

 

スグ謝る軽率なヤツと言われ,いくらか信用は失墜しますが,謝らずにごまかしたりしているうち,自ら恥ずかしくなって同じ名前ではネットに出てこれなくなった人が少なからずいるようです。

 

ま,それを職業:メシの種としたり自己のステータスの中心にしている人なら信用失墜が致命的な場合もあるでしょうから,こういうのは無責任野郎の私にしかできないかもネ。。。

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安倍政権に思う

 自民党に安倍新総裁が誕生しました。

 やがて指名選挙で新総理になるでしょう。

 朝日新聞によると,最大の関心事は教育改革であり,まず教育基本法の改正をすることだそうです。

  相変わらずピントはずれな人です。

 恐らく日教組でもぶっつぶしたいのでしょうが,大体,この国で子供が親を殺したりその逆だったり,子供同士の殺し合いなど殺伐としたことが頻発しているのは,別に直接的な教育などに主要な問題があるわけではないと思います。

 結局は,みんなが将来に社会的不安,特に経済的不安を持っているからだろうと思います。

 資本主義の深化,あるいは公的機関の民営化等により日本的な終身雇用制があまりにも急速に崩壊して,欧米的な雇用形式に転化しつつあります。

 その結果,実際的な少子化,高齢化に加え,フリーターの増加などの現象に通じ,子供たちを中心に将来が保証されないという不安が社会に満ち満ちているのが,結果として社会を殺伐とさせていることの主因ではなかろうかと思います。

 経済がデフレ化し財布のヒモが堅くなり,貯蓄貯金やその人口が増えるのも,少ない年金なども含めて,老後の生活が保証されないからでしょう。

 たとえ消費税,あるいは物品税的な生活必需品以外の贅沢品にのみ課税する,というような福祉目的税などの増税を行なっても,とにかく老後を保証することは,今の高齢化を見る限りこの国の最重要課題なのではないでしょうか?

 いずれにしても年金問題や増税を主眼とした国内経済が最重要関心事でなければおかしい,そしてその次が外交です。

(もっとも一般会計の5倍もある「特別会計=日本の現在の債務額800兆円の半分以上の400兆円を超えるといわれる年間特別予算」を少しでも我々一般国民の方にまわしてくれるなら,そもそも増税など不要で減税してもらいたいぐらいなのが私の本音です。。。。)

(ちなみに,我々一般国民が恩恵を受けるとされる一般会計約80兆円がいわゆる年間の国家歳出予算額です。)  

 相変わらずピントはずれな人で,北朝鮮拉致問題などに夢中になり結果的に世論の人気取りをしていることにはなっています。

 拉致被害者には申し訳ないが,たかが百人程度の拉致人数です。

 国家の主権を侵されたとナショナリストなら怒るでしょうが,それによって経済制裁などをするのは,相手の国の圧迫された幾百万の人民をさらに抑圧すると私は思っています。

 また,日本によるかつての大量拉致被害者でもある在日と,その祖国との経済的交流を絶つことになり,拉致被害者の数百倍以上の人々に苦難を強いることになるでしょう。

(キレイゴトに見えるでしょうが,私には日本人,朝鮮人の区別よりも,人として対等な憐憫感情が湧くのみです。)

 "美しい日本"などが主目標ではないです。"美しい地球"というグローバルな見方ができなければならないと私は思います。

 まあ,"自虐的歴史観を払拭しよう"などという目的で教育改革などに固執するナショナリストの小物にそうしたことは期待できないでしょうが。。。

 自分のまわりにも一見正義感にあふれていて,最近問題になっている酒酔い運転の横行などに対し義憤に耐えないという感じで「もし自分の経営している酒場にそいう奴がいたら許せない。」などと言う人がいます。

 そこで,私が「それはそもそも酒というものがあるから悪いのじゃないか?とか車というものがあるから悪いのじゃないか?」とか茶化すと,すぐ正体がばれて,「酒がなくなるのは商売上困る」などという矛盾した正義感が露呈してしまう人物がいたりします。

 安倍氏のナショナリストとしての拉致問題などに対する正義感も,実は目先だけしか見えず,大きな全体は見えていないそれではないかと考えられます。

 そうであれば指導者としては失格だと思うのは私だけでしょうか?

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2006年9月22日 (金)

非線形最小二乗法(JEA式の作成過程)

 今日は窒素酸化物濃度などを計算する解析的な低煙源拡散式のパラメータの推定のために用いたことがある非線形最小二乗法について解説してみたいと思います。(直角風のJEA式)

 地上の道路上を走行する自動車からの窒素酸化物(NOx)などの汚染物質排出のソースを,有効煙源高さ(effective height):he=0 (m)のy軸上で単位長さ当たりの定常的な排出強度がQ(Nm3/(ms)の無限線煙源としてモデル化します。

 

 そして,道路に直角のx方向に風が吹いている設定で,風速も拡散係数も高さz(m)のベキ乗則に従って鉛直上方に向かって増加するというモデルを想定します。

 

 このときの拡散方程式の解である汚染物質濃度を,垂直距離x(m)と高さz(m)の関数と考えてC(x,z)で表わすと,これはAをQに比例するあるパラメータとして,C(x,z)=Ax-sexp(-Bzp/x)なる形の式(Robertsの式)で表わされる,ことがわかります。

 様々な環境の下で数回に渡って行なわれた実際の実験時の煙源長さはもちろん有限なのですが,とりあえず,これを無限大長さで近似します。

   

 

 実はガウスの誤差関数でもって有限長さの効果を取り入れることもできるのですが,今日の話題では割愛します。

 

 実験はトレーサーガスを地上にある有限長さの直線状のパイプに均等間隔で開けた穴から拡散させるというものです。

そのパイプ状の発生源をy軸としたとき,n個の観測点座標:(xi,zi)(i=1,2,..n)において,風向が直角に近い環境のときの実測濃度:ciと先に設定した低煙源拡散式による計算値:Ci=C(xi,zi)とを比較することによって,逆にその式のパラメータA,s,B,pを推定します。

 具体的には,C(x,z)=Ax-sexp(-Bzp/x)の右辺をf(A,s,B,p;x,z)と書いて,i=f(A,s,B,p;xi,zi)として,この計算値と実測値ciの誤差の二乗和:S(A,s,B,p)≡∑(Ci-ci)2を最小にするパラメータA,s,B,pを求めるわけです。

 

 これは,次に述べる非線形最小二乗法のパラメータ数が4個のときの例になっています。

 ここでは,より一般的に未知パラメータがr個あるとし,それらを順にA1, A2,..,Arとします。

 

 上のケースではr=4で,A1=A,A2=s,A3=B,A4=pです。

 

 そして,Ci=C(xi,zi)=f(A1,A2,..,Ar;xi,zi)とし,S(A1,A2,..,Ar)≡∑(Ci-ci)2と定義するわけです。

 誤差の二乗和Sが最小となる条件は,

 

 通常の線形回帰の計算の場合と同様,必要条件として

 i(A1,A2,..,Ar)≡∂S/∂Ai=2∑(Ck-ck)∂Ck/∂Ai=0 (i=1,2,..,r) で与えられます。

 

 そして,この r 個の連立方程式を解くことにより未知数A1,A2,..,Arを求めることが主目的となります。

 

 これらの方程式は一般に非線形ですから,こうした非線形回帰によるパラメータ推定の方法を非線形最小二乗法と呼ぶことにします。

 具体的には,i(A1,A2,..Ar)=0 (i=1,2,..r)を線形近似することにより多変数ニュートン法(Newtonian method)を実行します。

 

 そこで,まず連立方程式を線形近似します。

 

 すなわち,初期値としてAj=Aj0 適当に与えた後に,

 

 0 = i(A1,A2,..Ar)

  =i(A10,A20,..,Ar0)+∑(∂Fi/∂Aj)|A=A0(j-Aj0)

 

 と近似します。

これを行列形式で書くため,Dという行列をD=(dij)≡(∂Fi/∂Aj)で定義し,特にD0(dij0)≡(∂Fi/∂Aj)|A=A0とします。

 

一方,列ベクトルA≡t(A1,A2,..,Ar)で定義し,特に

0t(A10,A20,..,Ar0)とします。

 

さらに,Fi0i(A10,A20,..,Ar0)を成分とする同様な列ベクトルを0と定義します。0t(F10,F20,..,Fr0)です。

 

こうすれば,先の線形近似は 00+D0(0)と表わされます。

 

これを単純に解くと,00-10と近似されることになります。

ここで0-10の逆行列です。

得られた00-10を,改めて0として代入してD0-10を計算し,00-10収束するまで繰り返します。

 

すなわち,m+1mm-1mの漸化式において誤差|m+1m|の相対値が十分小さくなるまで繰り返し計算します。

 

具体的には,100-10,211-11,..,m+1mm-1mを用います。ただし,Dk(dijk)≡(∂Fi/∂Aj)|A=Akです。

 

m→ ∞では,|m+1m|→ 0,それ故m0 となることが予想されるため,この反復計算を実行するわけです。

 

こうすれば,m→ ∞ でのmt(A1m,A2m,..,Arm)の極限値としてi(A1,A2,..,Ar)=0 (i=1,2,...r)を満たすt(A1,A2,..,Ar)が得られるはずです。

さらに,実際には収束を速くするために加速係数:wを与えて,m+1m-wm-1mとする方法などを用いた方がいいと思います。

  

(※ここではwを加速係数であると称してはいますが,それは広い意味でありw>1を意味するわけではありません。実際,計算ではwとして2.0や逆に0.01など収束が悪い場合には,さまざまな値で試行錯誤しました。)

実際のr=4 の計算では,かつてFortranを使ってプログラミングしましたが,初期値を適切に取ると各環境のケースについて大体十数回の繰り返し計算でパラメータの推定値が得られました。

 

そして濃度の実測値とその推定パラメータによる計算値との相関係数としては,0.9 前後の値が得られ,回帰係数の値も0.8 から 1.2程度となって,仮定した計算式が良い近似になることがわかりました。

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2006年9月21日 (木)

電子を大きさのない点であると考える背景

  その昔,ニフティの「物理フォーラム」で受けた質問の中に次のような

ものがありました。

 "なぜ,電子を大きさのない点(電荷)と考えるのか?その理由を

お教え下さい。

 
電子,および素粒子を大きさを持たない点として取り扱うと,色々な問題

が発生して,現在建設中の新しい理論では,その解決策として,大きさの

ある弦として考え直すという話を聞いたことがあります。

 問題点があるにも関わらず,,

なぜ電子を点と考えざるを得なかったのか?


 その背景(点でない場合の問題点,歴史的な経緯,等)が知りたい

のですが"。。


 
というものです。

 それに対して,その当時も「物理フォーラム」スタッフの1人であった

私が回答したことがありますが,それをそのまま記事として掲載したい

と思います。

 それは次のような内容です。


まず,,電子は光子などと同様.レプトンと言われて

陽子,パイ(π)などクォークがグルオンで結合されているというハドロンとは異なり,それ自身が素粒子である,つまり"構造を持たない粒子"であると仮定されています。

 構造を持たないのであれば,それ自身,1点であるわけです。

 もし2点以上であれば,その2点を結びつける力とは何か?ということも物理的問題として生じますから,構造があるということになり論理的にも矛盾します。

 そして,たとえば電子が剛体であると仮定しても,そうしたものは相対論によって存在を否定されています。

 そうでないなら弾性体ですが,もし電子が大きさを持つ弾性体なら,押せば縮み引っ張れば伸びるなどの性質を持ち,弾性振動して音が出たりします。

 しかし寡聞にしてそういうことは聞いたことがありません。

 また,そもそも電子や素粒子の電荷とか,そういう固有の性質は大きさを持つ,つまりそれらが2点以上から成るなら,電子が同時に異なる場所でそういう性質を持つ,ことを意味するので,相対性理論に反する,あるいは因果律に反するということになります。

 同時に,というのはその距離がいくら小さくても情報の伝達速度は光速を超えますからね。

 こうした同時に2点以上に存在するというような性質を非局所性といいます。

 これに対して1点に固有であるということを局所性といいます。

 というわけで,素粒子であるなら,古典論的には広がりを持たないということになっています。

 量子論では粒子はみな波動として広がりを持つわけですから,そもそも量子論では素朴な形の相対論的因果律は成立しません。

 つまり,量子論は本質的に非局所的,非因果的なので,いわゆる相対論を破り,量子テレポーテーションを起こす,というものです。

 波なので,東京と大阪に同時に存在できるわけです。

 このことは,"アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンのパラドックス=EPRのパラドックス"に代表されることです。

 1980年代にアスペ(Aspect)等により"ベル(Bell)の不等式が成立するか否か?"に関する実験によって,この不等式が成立しないことから非局所性の意味が確かめられました。

 結局,"量子論はEPRの意味での相対性理論とは矛盾する理論であり,それでも現実の現象とは合致する理論である。"ということで解決しました。

 そして,「相対論的場の量子論」においては素粒子とは,例えば"光=光子"の場合の電磁波における電場,磁場のように,"粒子=量子場"であるという発想になっています。

 そして,"1点=局所的"というのは,場が4次元時空の各1点ごとで定義された関数になっていて,広がりを持った2点以上で定義された関数ではないという意味に解釈されます。

  問題点というのは点粒子を考えると古典論では電子が"無限大の自己エネルギーを持つ"="例えばクーロンの法則で電荷が小さくても自分自身との距離はゼロなので,それでも自分自身に働くクーロン力はゼロなので矛盾しないのですが,

 クーロンの静電エネルギーは無限大になる。"ということなどですね。

 一応,それは,"小さい電子の半径"などを仮定することにより解決しよう,という試みがなされましたが解決されていないまま,量子論に移り量子電磁力学というものに移行しました。

 そこでも自己エネルギーは無限大になりましたが,古典論の高次の無限大でなく,幸い対数程度の低い次数の無限大であったため,"ファインマン,朝永,シュヴィンガーのくりこみ理論"によって,処方箋的に無限大を除去することに成功しました。

こうした実験結果と合わせるだけの理論を 「有効理論」と言います。

 くりこみというのは,見方によっては無限大から無限大を引くというような荒っぽい方法であります。

 この無限大になる計算も,仮に素粒子が1点でなく広がりを持てば無限大にはならず有限になるというので,湯川や片山の素領域など非局所場の理論や中野の剛体模型などいろいろと考案されましたが,根本的な解決には至っていない,

 と私は思っています。

 そして,"重力場=一般相対性理論の量子化"については現在までのところ,点粒子の理論では,くりこみさえも不可能であることがわかっています。

 そこで,現在流行っていると言われている「超弦理論」では,まだ誰も成功していない重力場の量子化をもめざして点粒子の代わりに弦粒子を想定しているわけです。

 この「超弦理論」においては,量子論における相対論的微視的因果性などの問題はクリアされていると言われており,弦理論に,さらに超対称性,すなわちボーズ粒子とフェルミ粒子の入れ替え対称性を導入した理論として,トポロジー(位相幾何学)なども関わる難解な話になっているらしいです。

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2006年9月20日 (水)

酔歩(ランダム・ウォーク)(訂正)

以前の記事「 酔歩(ランダム・ウォーク) 」において1次元から2次元,3次元に拡張するときに本質的な間違いがあったので訂正しました。既に現時点では以前の本文は訂正してあります。

 

"xがxとx+dxの間にある確率は,

(x,N)dx={1/(2πNa2)1/2}exp{-x2/(2Na2)}dx

となるはずです。" というのはよかったのですが。。。

 

このことから,

 

"2次元でも等方的と考えられるので2をr2=x2+y2と置き換えれば

(x,y,N)dxdy={1/(2πNa2)}exp{-r2/(2Na2)}dxdy,

 

同様に3次元ではr2=x2+y2+z2として,

(x,y,z,N)dxdydz={1/(2πNa2)3/2}exp{-r2/(2Na2)}dxdydzであると考えられます。"

という部分は完全な間違いでした。

 

これは,1次元での1歩の長さの各次元成分への分割を考慮していなかったからです。

 

"2次元でも等方的と考えられるので,単純に2をr2=x2+y2に置き換えるだけでいいと考えるところですが,実は1歩の各方向への成分Δx,ΔyはΔx2+Δy2=a2を満足します。

 

そこで,x方向とy方向を対等に扱うとΔx2Δy2=a2/2 なので,N歩で位置=(x,y)に到達する確率密度P(x,y,N)は,

 

全平面で1になるように規格化して,

 

(x,y,N)dxdy={1/(πNa2)}exp{-x2/(Na2)}exp{-y2/(Na2)}dxdy={1/(πNa2)}exp{-r2/(Na2)}2

となるはずです。"

 

と直しました。

 

  さらに,

 

 "同様に,3次元ではr2=x2+y2+z2として,Δx2Δy2=Δy22/3により,位置=(x,y,z)に到達する確率は

 

 (x,y,z,N)dxdydz=[1/{(2/3)πNa2}3/2]exp[-r2/{(2/3)Na2}]3になると考えられます。"

 

 と訂正しました。

  "特にt=Nτ,D=a2/(2τ)とおけば,4Dt=2N2となるので,

(r,t)=(x,y,z,N)={1/(4πDt)3/2}exp{-r2/(4Dt)}

となります" 

 

 という部分も,

 

 "特に,3次元ではt=Nτ,D=a2/(6τ)とおけば,4Dt=(2/3)N2となるので,P(,t)=(x,y,z,N)={1/(4πDt)3/2}exp{-r2/(4Dt)}となります。"

 

 と訂正しました。

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2006年9月19日 (火)

この国の末路

 日本の中国侵略を含む先の戦争での,相手国に対してはまだしも,自国の民への敗戦の戦争責任と総括を先の先まで先送りしたい馬鹿な総裁候補がいる。

 もう60年も70年も経っているんだよね。そろそろ終わりにしないかい? 

 こうした責任は学者が取るんじゃなくて,みんなが取るんだよ。そしてあんたはその代表なんだよ。

 親や祖父たちのやったことを子供が尻拭いしたっていいじゃないか。

 「消費税を先送りにして「俺の在任中には上げない。」とか言っている無責任なヤクザが日本の政治を牛耳ってる。これも同じような輩だ。

 何で責任を先に先に延ばしちゃうんだろう? 

 オボッチャマばかりが総理大臣になるこの国では,昔からこういうのが相場なんだろう。。。

 これも俺を含めた国民が馬鹿なんだろうなあ。。。。。

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2006年9月18日 (月)

中心極限定理と多世界解釈

 確率現象で現われる中心極限定理(the central limit theorem)とは,

 

 通常の意味でのそれは,

 

 "m個の確率変数:Xj(j=1,2,..,m)が互いに独立で,平均値μjと分散σj2を持つとき,X=∑j=1m(j-μj)/(∑j=1mσj2)1/2の従う分布はm→∞ のとき,正規分布:N(0,1)に収束する。"という定理を言います。

 

 すなわち,定理は,

 "変数X=∑j=1m(j-μj)/(∑j=1mσj2)1/2がa≦X≦bの範囲にある確率Pr(a≦X≦b)は,m→∞ の極限では∫ab(2π)-1/2exp(-x2/2)dxに収束する。"

 

 というものです。

これを証明するには,特性関数:"[exp(itx)]=exp(itx)の期待値"がm→∞ の極限でexp(-t2/2)に近づくことを示せばいいだけです。

  

しかし,これを示すのは比較的簡単なので,この意味での中心極限定理の証明は割愛します。

 

 一方,大数の法則においてよく引き合いに出されるのは独立試行(ベルヌーイ試行)の分布における試行回数が無限大の極限です。

 

 ある事象が起こる確率をpとするとき,N回の独立試行でその事象がX=n回起こる確率:Pr(X=n)が,二項分布:Pr(X=n)=NnnN-n (q=1-p)に従うことはよく知られています

 

 この分布では,平均値がμ=Np,分散がσ2=Npqですが,これらが有限値のままN→ ∞ に移行した極限では,これはまずポアソン(Poisson)分布に近づきます。

 

 そして,Y=(-μ)/(σ2)1/2=(-Np)/(Npq)1/2と変数変換すれば,Yの確率分布は正規分布:N(0,1)に近づくことになります。

 

 この二項分布の正規近似も,やはり中心極限定理と呼ばれると私は思っています

 これは,具体的にはStirlingの公式と対数のTaylor展開公式から,

 NnnN-n → [N/{2πn(N-n)}]1/2(Np/n)n[Nq/(N-n)]N-n

         (2πNpq)-1/2exp[-(n-Np)2/(2Npq)]

 が導かれることから従うわけです。

 ところで,「数理科学」2002年7月号の和田純夫氏の記事「状態の保存と波動関数の解釈」(多世界解釈)には,次のような意味のことが書かれていました。

 

 例えば,スピンのアップ・ダウンのように超選択則に関わる2値関係の物理量,つまり測定値がα,βのいずれか2値しか取り得ない物理量に関して,系の状態ベクトルがa|α>+b|β> (|a|2+|b|2=1)で与えられるとします。

 

 このとき,N回の測定において測定値がαである頻度とは,この同じ状態にある粒子をN個用意して全てを同時に測定したとき測定値がαである個数のNに対する比率のことです。

 そして,a|α>+b|β>(|a|2+|b|2=1)で示される全く同等な状態粒子をN個用意した状態は,|N>≡(a|α>+b|β>)Nなる状態ベクトルで表わされます。

 

 そして,"N回の独立な測定で測定値がαになる回数がrである状態=相対頻度がr=n/Nである状態"|r>は規格化すると,

 

 |r>≡(Nn)-1/2{|α>n|β>N-n+(これらの全ての置換項)}

 という形で与えられるはずです。

 

 この|r>によって,|N>=(a|α>+b|β>)Nを|N>=∑c(r)|r>と展開したとき,展開係数のノルムの平方|c(r)|2は相対頻度がr=n/Nであるときの"共存度"を意味します。

 そして,具体的に上のc(r)を書き下すと,c(r)=(Nn)-1/2nN-n となるはずです。

 

 それ故,共存度は|c(r)|2Nn|a|2n|b|2(N-n)で与えられます。

 これはp=|a|2,q=1-p=|b|2の二項分布です。

もしも,N|a|2とN|a|2|b|2がN→∞ に対して有限に留まるなら上述の二項分布の中心極限定理によって,|c(r)|2

  

(2πN|a|2|b|2)-1/2exp[-(n-N|a|2)2/(2N|a|2|b|2)] 

となるはずです。

 

しかし,今の場合N→∞ に対して|a|2がゼロに収束するわけではないのでN|a|2は有限ではなく,むしろ|a|2自身が有限かつ一定です。

 

そこで,nではなくてr=n/Nを変数として規格化して,|c(r)|2は,

[N/(|a|2|b|2)]1/2exp[-(r-|a|2)2/(2|a|2|b|2/N)] 

になると考えるべきです。

  

この極限での,|c(r)|2はrで積分すると1になりますが,分散はσ2|a|2|b|2/N→ 0 となります。

 

したがって,N→∞での|c(r)|2の極限は,rの関数としてはr=|a|2でのみ ∞でそれ以外ではゼロであり,しかもrで積分すると1となるようなrの関数ですから,

 

|c(r)|2 δ(r-|a|2) であるはずです。

 

この計算結果は,"1回の測定で状態が|α>である確率が|a|2である"という通常の波動関数の意味での確率解釈が,

 

"測定回数Nが無限大のときの相対頻度:r=n/Nが,大数の法則に従う結果|a|2になる" という形で実現される例になっています。

 

以上が,この「数理科学」の記事に対する私の解釈ですが,私自身はエヴェレット(Hugh Everett)に始まる多世界解釈について,必ずしも全面的に信奉しているわけではありません。

 

一方,ロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)らによる多世界解釈に対する批判があります。

 

これは,そもそもスピンであれば,アップとダウン|α>と|β>の重ね合わせ状態,また|猫生>と|猫死>の重ね合わせ状態も多世界解釈では観測できることになるというのがおかしい,というものだと思います。

 

しかし,そうした人間の意識や観測装置による超選択則がなぜ生じるのか?例えば陽子と中性子は観測されるのに,なぜその重ね合わせ粒子は観測されないのか?などという問題については,

  

観測の解釈とは本質的に別の問題であると私は思っています。

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2006年9月16日 (土)

ガンマ関数とスターリングの公式

 今日はガンマ関数(Gamma function)について考察し,ガウスの積公式と統計学などで重要なスターリングの公式(Stirling's formula):n!~(2π)1/2n+1/2-n (as n→ ∞)を証明します。

 まず,x>0 に対してガンマ関数をΓ(x)=∫0-tx-1dx

によって定義します。

 そして,まずガウスの積公式:

(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)] → Γ(x) (as n→ ∞)

を示しましょう。

公式を証明するために,n≧2の整数:nに対して

f(x)≡logΓ(n+x)とおきます。

 

すると,これは凸関数であることがわかります。

 

f(x)が凸関数であること証明します。

その手順は次の通りです。

 その前に,"f(x)が凸関数である"という定義を明確にして

おきます。

 

 すなわち,これは 

 "x<yなる任意の実数x,yと0<λ<1なる任意のλに対して,

不等式:f[λx+(1-λ)y]≦λf(x)+(1-λ)f(y)が常に

成り立つ" ことを意味します。

そして,f(x)が2階微分可能なとき対象領域でf(x)が凸関数

であるためには,fのxによる2階導関数f"(x)が非負,つまり

f"(x)≧0 を満足すれば十分です。

 

一応,これも証明しておきます。

 

(f"(x)≧0 ならfが凸であることの証明)

 

f"(x)≧0 のときには1階導関数f'(x)が単調増加です。

  

そこで,x<yのとき,Δx>0,Δy>0 とすれば,平均値の定理

よりf(x)の差商も単調増加です。

 

すなわち,

[f(x+Δx)-f(x)]/Δx≦[f(y+Δy)-f(y)]/Δy

for x<y が成立します。

そこで,f[λx+(1-λ)y]-[λf(x)+(1-λ)f(y)]

=λ{f[λx+(1-λ)y]-f(x)}-(1-λ)

{f(y)-f[λx+(1-λ)y]}をλ(1―λ)(y-x)>0

で割れば,

 

x<λx+(1-λ)y<y,および上記の"差商の単調増加性"

により,これは常にゼロ以下となります。

 

以上から,"f"(x)≧0 ならf(x)は凸関数である"ことが

示されました。(証明終わり)

ところで,対数が共に凸関数である2つの関数の和の対数は

凸関数,つまりlog(p(x)),log(q(x))が凸なら

log(p(x)+q(x))も凸ですから,無限和である積分を

考えてもそうなります。

 

それ故,g(x)=∫φ(t,x)dtにおいて,tを任意に固定

したときlog[φ(t,x)]がxの凸関数であれば,

f(x)=log[g(x)]もxの凸関数であることがわかります。

(x)=logΓ(n+x)=log[∫0-tn+x-1dx]ですから,

φ(t,x)≡e-tn+x-1とおけばf(x)=∫0φ(t,x)dtで

ありψ(x)≡logφ(t,x)=-t+(n+x-1)logtです。

 

任意のtについてψ"(x)≧0 ですからψ(x)=logφ(t,x)

は凸です。

 

そこで,f(x)=logΓ(n+x)も凸関数であることがわかり

ました。

さて,いよいよガウスの積公式の証明に進みます。

[λx+(1-λ)y]≦λf(x)+(1-λ)f(y)において,

x=0 ,y=1とおけば,f(1-λ)≦λf(0)+(1-λ)f(1)

より,[f(1-λ)-f(0)]/(1-λ)≦f(1)-f(0)が成立

します。

 

また,x=(1-λ)/λ,y=-1とおけば,

f(0)-f(-1)≦[λ/(1-λ)]{f[(1-λ)/λ]-f(0)}

ですから,

 

一般に 0<x<1なる任意のxに対して,

f(0)-f(-1)≦[f(x)-f(0)]/x≦f(1)-f(0)

が成立するはずです。

したがって,ガンマ関数の性質:

Γ(n+1)=n!,Γ(x+1)=xΓ(x)により,

log(n-1)≦[logΓ(n+x)-log{(n-1)!}]/x≦logn

(n≧2,0<x<1) となります。

 

よって,(n-1)x(n-1)!≦Γ(n+x)≦nx(n-1)!が

得られます。

そこで,(n-1)x(n-1)!/[x(x+1)..(x+n-1)]

≦Γ(x)≦nx(n-1)!/[x(x+1)..(x+n-1)]

=(nxn!)[(x+n)/n]/[x(x+1)..(x+n)]です。

 

nは2以上の任意の整数なので,これを 

(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)]≦Γ(x)

≦(nxn!)![(x+n)/n]/[x(x+1)..(x+n)] 

と書いてもいいわけです。

 

それ故,結局,

nΓ(x)/(x+n)≦(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)]≦Γ(x)

となります。

したがって,n→ ∞ のとき,

(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)]→Γ(x) (0<x<1)

なることが導かれました。

 

ここで簡単のため,

γ(n,x)≡(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)]と定義して

おくと,γ(n,x+1)=nγ(n,x)/(x+n+1)です。

 

そこで,n→ ∞ のとき,

γ(n,x+1) → xΓ(x)=Γ(x+1)  です。

 

それ故, 0<x<1 を満足するxだけでなく任意のx>0

に対して, 

"n→ ∞ でγ(n,x)=(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)]

→ Γ(x)が成立することがわかりました。

次はスターリングの公式の証明です。

不等式:[1+(1/k)]k<e<[1+(1/k)]k+1をk=1,2,..,n-1

について全て掛け合わせると,不等式:

n-(n-1)<n!<nn+1-(n-1) が得られます。

 

Γ(n)=(n-1)!ですが,Γ(x)≡axx-1/2-xμ(x)なる形

を仮定して,右辺の未知関数μ(x)を求めることにします。

この表式では,x=Γ(x+1)/Γ(x)

=[1+(1/x)]x+1/2xe-1μ(x+1)-μ(x)なので,μ(x)

の満たすべき必要条件は,

μ(x)-μ(x+1)=(x+1/2)log[1+(1/x)]-1です。

 

そこで,g(x)≡(x+1/2)log[1+(1/x)]-1と置けば,

μ(x)=∑m=0g(x+m)と書けます。この級数が収束すれば,

それは左辺の存在を意味するので,これが収束することを見

ておきましょう。

級数展開:(1/2)log[(1+y)/(1-y)]

=y/1+y3/3+y5/5+.. (|y|<1)において,y=1/(2x+1)

を代入します。これはx>0 であれば 0<1/(2x+1)<1なので

全く問題はありません。

そこでg(x)=(x+1/2)log[1+(1/x)]-1

=1/[3(2x+1)2]+1/[5(2x+1)4]+1/[7(2x+1)6]+..

を得ます。

 

この式の右辺の第2項から後の項の分母の5,7,9..を全て3に

置き換えた等比級数の和は簡単に導出できて,それは

1/[12x(x+1)]=(1/12)[1/x-1/(x+1)]です。

 

そこで,0<g(x)<(1/12)[1/x-1/(x+1)]であり,

 

それ故,

0<∑m=0g(x+m)

<(1/12)∑m=0[1/(x+m)-1/(x+m+1)]

=1/(12x)ですからμ(x)=∑m=0g(x+m)は確かに

収束して0<μ(x)<1/(12x)となることがわかります。

そこで,0<θ<1なるあるθを用いてμ(x)=θ/(12x)

と書くことができて,Γ(x)=axx-1/2-x+θ/(12x)

と書けます。

 

そして,これにx=nを代入した後に両辺にnを掛けると,

n!=ann+1/2-n+θ/(12n)となります。

 

最後に未知の定数aを決めましょう。

先に証明したガウスの積公式:

(nxn!)/[x(x+1)..(x+n)]→Γ(x) (as n→∞)において

x=1/2とおけば, 

(n1/2n!2n+1)/[1・3・5・...(2n+1)]→Γ(1/2) 

となります。

 

左辺の分母:[1・3・5・...(2n+1)]は,[(2n+1)!]/2nn!

とも書けますから,既知の数:Γ(1/2)=π1/2

[n1/2(n!)222n+1]/[(2n+1)!]で近似できることになります。

 

n!=ann+1/2-n+θ/(12n)等を代入すると,

 

[n1/222n+1-2n+θ/(6n) 22n+1]

/[(2n+1)a(2n)2n+1/2-2n+Θ/(24n)]

=ae[θ/(6n)-Θ/(24n)]/[21/2{1+1/(2n)}]

→ Γ(1/2) =π1/2です。

 

それ故,n→ ∞を考慮してa=(2π)1/2が得られます。

こうして,最終的なスターリングの公式の表式である

!=(2π)1/2n+1/2-n+θ/(12n) が証明されました。

 

参考文献:

アルティン著,上野健爾 訳「ガンマ関数入門」(日本評論社)

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2006年9月14日 (木)

酔歩(ランダム・ウォーク)

 今日は酔歩(ランダム・ウォーク:Random walk)について考察してみます。

 まず,1次元の酔歩を考えます。

 

 1歩の長さは一定値aとし,左右1次元にしか運動できないとします。

 左右どちらにも1歩ずつ移動することができて,その確率は両側で共に1/2であるとします。

x 軸の原点(x=0)から出発して,N 歩の後に x=ma (-N≦m≦N) の位置にいる 確率をP(m,N)とすると,

 

正の向きにN歩,負の向きにN歩だけいた場合にxに到達するとして,その場合の数はN!/(N!N!)ですから,

 

その確率はP(m,N)={N!/(N!N!)}(1/2)Nとなるはずです。

しかし,+N=N,-N=mなので単純に計算すると(N+m)/2,(N-m)/2でなければなりません。

 

N+mとN-mは一方が奇数ならば他方も奇数,一方が偶数ならば他方も偶数ですから,これらが偶数でないなら整数であることを必要とする,Nは共に存在できません。

 

したがって,N-mが偶数のときは(m,N)={N!/(N!N!)}(1/2)N(N+(N+m)/2,-(N-m)/2)となって有限の確率になりますが,

 

N-mが奇数のときは,実現不可能なので確率は(m,N)=0 です。

ここで,nが非常に大きいときのStirlingの公式:

 

!~(2π)1/2-n(n+1/2),あるいは 

log(n!)~(1/2)log(2π)+(n+1/2)log(n)-n

 

を使用します。

すると,N-mが偶数であるとしてNが非常に大きいとすれば,

(N+m)/2,N(N-m)/2 も非常に大きく,

 

log{(m,N)}~ -Nlog2+NlogN-NlogN-NlogN(1/2)log(2π)+(1/2)(logN-logNlogN)=(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)[{1+(m+1)/N}log{1+(m/N)}+{1+(1-m)/N}log{1-(m/N)}]

 

ですね。

ここで,m<<Nと考えて(m/N)の2次までの展開を考えます。

  

Taylor展開による近似:log(1-x)~ -x-x2/2,log(1+x)~ x-x2/2 を利用すれば,

  

log{(m,N)}~(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)(m/N)2となるので,(m,N)~ {2/(πN)}1/2exp{-m2/(2N)} です。

  

x=ma(-N≦m≦N)として1歩の長さaは非常に小さいとします。

  

N-mが偶数のときと奇数のときの両方を考慮すれば,有限な寄与をする偶数のケースは全体の半分ですから,

  

xがxとx+dxの間にある確率(x,N)dxは,

 

(x,N)dx=(1/2){2/(πN)}1/2exp{-x2/(2Na2)}(dx/a)={1/(2πNa2)1/2}exp{-x2/(2Na2)}dx となるはずです。

 

この(x,N)は,Na→ ∞,a→ 0,Na2 →σ2(有限)のときには,xで積分すると確かに1になるので,確率密度の条件を満足しています。

 2次元の場合でも酔歩は等方的であると考えられるので,単純に上式で2をr2=x2+y2に置き換えるだけでいいと考えるところですが,実は1歩の各方向への成分Δx,ΔyはΔx2+Δy2=a2を満足します。

 

 そこで,x方向とy方向を対等に扱うならΔx2Δy2=a2/2なので,N歩で位置=(x,y)に到達する確率密度(x,y,N)は,

 

 全平面で1になるように規格化して,

 

 P(x,y,N)dxdy={1/(πNa2)}exp{-x2/(Na2)}exp{-y2/(Na2)}dxdy={1/(πNa2)}exp{-r2/(Na2)}2

 なるはずです。

 

  同様に,3次元ではr2=x2+y2+z2として,Δx2Δy2=Δy22/3により,位置=(x,y,z)に到達する確率は,

 

 (x,y,z,N)dxdydz=[1/{(2/3)πNa2}3/2]exp[-r2/{(2/3)Na2}]3になると考えられます。

 

 (※特にa=1,つまり酔歩の1歩がある物差しで測った単位長さなら,

 

 原点から出発する3次元酔歩でN歩の後に,=(x,y,z)の付近の単位体積中に彼が存在する確率は,[1/{(2/3)πN}3/2]exp[-r2/{(2/3)N}]となるはずです。

 

 これは2次元なら単位面積当たりの確率で,

 {1/(πN)}exp(-r2/N)です。※)

 

  特に,3次元ではt=Nτ,D=a2/(6τ)とおけば,4Dt=(2/3)N2となるので,P(,t)=(x,y,z,N)={1/(4πDt)3/2}exp{-r2/(4Dt)}となります。

 

 これは,拡散係数がDの拡散方程式:∂P/∂t=D∇2Pにおいて,初期時刻t=0 に発生源の強度が原点に集中しているときの解,

 つまり,初期条件がP(,0)=δ3()の拡散方程式の解に一致します。

 

 ここで拡散の平均速度をvとすると,これは酔歩の1歩の時間τと長さaによってv=a/τと同定されます。

 

 そして,a=vτを代入するとD=v2τ/6となります。

 

 常温では並進運動のエネルギーはmv2/2=(3/2)BTですから,拡散係数Dはブラウン運動(Brownian motion)などの平均衝突時間τに(BT/2m)を掛けた程度の値になるという考察ができると思います。

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2006年9月13日 (水)

フェルマーの小定理の別証明

 前記事の"フェルマー(Fermat)の小定理"ですが,"オイラー(Euler)の定理"からそれを証明するのは少し大げさな気がします。

 

 これはもっと簡単で,恐らくよりポピュラーな方法で証明できるので,それも紹介しておきましょう。

 要するに,x,yを任意の整数,pを任意素数とするとき,(x+y)p≡xp+yp (mod p)が成立することさえ証明できれば,任意の整数aに対してap≡a (mod p)が成立することが示せます。

 

 そこで,後はaとpが互いに素ならa≡0 (mod p)ではないので,両辺をaで割ることにより,ap-11 (mod p)が示されるというわけです。

 具体的には,x,y,zを任意の整数,pを任意の素数とすると(x+y+z)p(x+y)p+zp≡xp+yp+zp (mod p)が成立しますから,

 

 整数x,y,zの3つを,さらに4つ,5つ..といくら増やしていってもこうした性質が常に成り立つことになります。

 そこで,もしaが正の整数なら,a=1+1+..+1でありaは1をa個加えたもので,もちろん 1p=1ですから,p1+1+..+1≡a (mod p)が成立するわけです。

 

 また,a=0 ならap≡a (mod p)は自明です。

 

 aが負の整数ならa=-1-1-..-1ですが,素数pは2以外は奇数ですからp≠2なら(-1)p=-1です。

 

 p=2のときも-1≡1 (mod 2)ですから,やはり(-1)2≡-1(mod 2)なので,ap1-1-..-1≡a (mod p)が成立します。

 では,上の証明で前提とした等式:(x+y)p≡xp+yp(mod p)は本当に成立するのでしょうか?

 これの成立は式の左辺を二項展開することで証明することができます。

 

 すなわち,(x+y)p=∑prp-rですが,pはr≠0 のときはp=p(p-1)(p-2)..(p-r+1)/r!です。

 

 右辺の分母のr!の因数はr≠pのときは全てpよりも小さく,分子の素数pとは互いに素ですから,明らかにpはpで割り切れます。

 

 すなわち,p0pp=1であり,1≦r≦p-1ならp≡0 (mod p)ですから,(x+y)p≡xp+yp (mod p)が確かに成立することが示されました。

 しかし,高校の"順列と組み合わせ"で初めて習ったnはnを任意の整数とし,rを1≦r≦nの任意の整数とするとき,本当にいつも整数になるのでしょうか?

 

 確かに,nは組み合わせの数を示すものですから整数になるのは当たり前といえば当たり前ですが,代数的に証明しないと私には何か気持ちが悪いです。

 

 というわけで,これを二重帰納法によって証明してみたいと思います。

 そのために,a,rを任意の整数として(a;r)≡a(a+1)(a+2)..(a+r-1)と定義し,これがr!で割り切れることを帰納法で証明することを考えます。

 r=1のときには(a;r)=(a;1)=aでありr!=1ですから,明らかに(a;r)はr!で割り切れます。

 そこで,r>1とし,第一の帰納法の仮定として,あらゆるaに対して(a;r-1)は(r-1)!で割り切れるとします。

 すると,a=1のときには(a;r)=(1;r)=r!ですから,このときは(a;r)は明らかにr!で割り切れます。

 そこで,第二の帰納法の仮定として,あるaに対しては(a;r)がr!で割り切れるとします。

 このとき,(a+1;r)=(a+1)(a+2)..(a+r-1)(a+r)=a(a+1)(a+2)..(a+r-1)+r(a+1)(a+2)..(a+r-1)=(a;r)+r×(a+1;r-1)となりますから,右辺の第1項も第2項も仮定によってr!で割り切れます。

以上から,任意のaとrに対して(a;r)はr!で割り切れることが証明されました。ここで,n=a+r-1と置けば(a;r)/r!=nですから,結局nが常に整数であることが示されたわけです。

ちなみに,"Eulerーの定理:aφ(m)1 (mod m)"を"Fermatの小定理"から証明することもできます。

 

指針だけを示すと,まずmが素数pのベキ乗であるとき:m=pαのときにEulerの定理が成立することを証明し,一般のmの場合はmを素因数分解すれば証明することができます。

 

ただし,φ(pα)=pα-pα-1,φ(mn)=φ(m)φ(n)などEuler関数φ(m)の性質を使う必要があります。

 

参考文献:松坂和夫著「代数系入門」(岩波書店)

 

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2006年9月12日 (火)

オイラーの定理とフェルマーの小定理(合同式)

 今日は数論の"オイラーの定理(Euler's theorem)"を証明し,それによって,"フェルマーの小定理(Fermat's little theorem)"を証明する方法を簡単に紹介します。 

 まず,整数の合同式(modular equality)の定義を述べます。

 

 a,nという2つの整数があってnは正の整数であるとします。

 "aをnで割ったときの余りがrである"というのは,"a,nに対し整数qが存在してa=nq+r, 0≦r≦n-1と一意的に表現できること"を意味します。

 そして,nをある正の整数とするとき,"整数aとbがnを法(modulo)として合同である。"とは,"aとbそれぞれをnで割ったときの余りが一致すること"をいいます。あるいは,"(a-b)がnで割り切れる"といっても同じです。

 

 そして,整数aとbがnを法として合同であることをa≡b(modn)と書きます。a≡b(modn)なる式を合同式と呼びます。

 

 合同であるという合同式の性質は普通の等式のように両辺に互いに合同な数を加えたり引いたり,また掛けたりしても変わりません。

 

 また,ゼロと合同でない数であれば,それで合同式の両辺を割ることもできます。

"フェルマーの小定理"というのは,"ある整数aがあって,それがある素数pと互いに素,つまり(a,p)=1のときにはap-11(mod p)である。"というものです。

 

ここで,(a,b)は,整数aとbの最大公約数(gcd)を意味します。

 

そして,ap-1は,もちろんa×a×...×aと,aを(p-1)回掛けたものを表わしています。これをpで割ったら余りは必ず1である,

 

というのがこの定理の内容です。これは結構有名なものです。

では,"オイラーの定理"とはどのようなものでしょうか? 

それを説明するため,まず正の整数mに対してmの整数値関数としてオイラー関数(Euler's function)φ(m)を定義します。

 

オイラー関数φ(m)とは,1からmまでの正整数のうちでmと互いに素な正の整数の個数のことです。

 

つまり,正の整数mが与えられたとき,丁度φ(m)個のm以下の正整数1,b2,...,bφ(m)が存在して(bk,m)=1(k=1,2,..,φ(m))を満たすことを意味します。

 

当然のことですが,1≦φ(m)<mです。

そして,"オイラーの定理"というのは,"ある整数aがあって,それがある正整数mと互いに素,つまり(a,m)=1のときには,必ずaφ(m)1(mod m)が成り立つ。"というものです。

これの証明は意外と簡単です。

 

すなわち,(bk,m)=1;bk≦mなるφ(m)個の整数b1,b2, .,bφ(m)に対して,aとbkの積の全てa1,ab2,...,abφ(m)を作り,これらを全部掛け合わせるだけでいいのです。

 

この積は,aφ(m)12...bφ(m)と書けますが,i≠jのときijはmを法として決して合同にはなりません。 

なぜなら,もしi≡aj(mod m)ならa(ij)≡0(mod m)ですから,a(ij)mで割り切れることになりますが,aは m と互いに素なので(ij)がmで割り切れるしかありません。

 

ところが,定義によってi≠jのときにはbi≠bjであり,しかも,biとbj差の絶対値|i-bj|はmより小さくてゼロではないのですから,これは有り得ません。

 

ですから,i≠jのときにはijはmを法として決して合同にはならないわけです。 

それ故,1,ab2,...,abφ(m)から取った全ての対はmを法として互いに合同ではなく,しかも,これらは丁度φ(m)個の整数ですから,それらの各々をmで割ったときの異なるφ(m)個の余りは,丁度b1,b2,...bφ(m)の全体と一致します。

故に,aφ(m)12・・・bφ(m)12・・・bφ(m) (mod m)となりますが,12・・・bφ(m)はmと互いに素です。

 

したがって,両辺を12・・・bφ(m)で割ることができて,結局aφ(m)1 (mod m)を得ます。

 

これでオイラーの定理が証明されました。 

そして,特にmが素数pに等しいなら,φ(p)=p-1なので,フェルマーの小定理:p-11 (mod p)が成立することになります。 

  

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2006年9月11日 (月)

記念日

 週末の飲み疲れで忘れるところでしたが,今日は"アメリカ合衆国本土爆撃記念日"であり,かつ"小泉選挙大勝記念日"でもある,という対照的な"記念日"であることに気付いたのでした。

 そして,これを起点として一方ではアフガンとイラクで無辜の民を殺戮するという侵略戦争が始まり,他方では利益誘導で利権を得るという政治構造の部分的かつ中途半端な破壊が進み,終結を迎えることになったのだと思います。

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2006年9月 8日 (金)

パウリのスピンと相対性理論

 Pauli(パウリ)の導入した電子などのスピンという概念は,Dirac(ディラック)方程式という量子論の相対論的波動方程式が導入されて初めてその意味が明らかになったというのは,恐らく歴史的にはその通りであろうと思います。

すなわち,まず自由粒子のDirac方程式:(γp-m)Ψ=0 において電磁場の極小相互作用(minimal interaction)の原理を用いて,粒子の4元運動量pをp→p-eAと置き換えて,電磁場がある場合の方程式{γ(p-eA)-m}Ψ=0 を作ります。

 

そして,4×4行列γを2×2のPauli行列:σで表現し,正エネルギー解の4成分スピノルΨ=t(ψ,χ)において,大成分の部分である上2成分のスピノルψだけを取り出します。(反粒子なら大成分は下2成分χです。)

 

そして,例えばFoldy-Wouthuysen変換などを用いて相対論的方程式の非相対論の極限を取れば,非相対論での波動方程式=Scrödinger方程式においてスピンの存在を意味するPauli項:{-e/(2m)}σBψが自然に得られるというわけです。

 

(この項は,スピンによる磁気モーメントの磁気回転比gがg=2となることも説明します。)

しかし,このマジックは,別に非相対論の波動方程式を相対論的に修正したために生じたわけではなく,方程式を線形な行列方程式にしたために生じたのです。

 

つまり,波動関数がスピノルであることを明示したことが,Pauli項を浮き出させた原因であり,たまたま相対論的Dirac方程式においてそのことが顕在化しただけであるということを,このトピックで強調しておこうと思った次第です。

 

(※決して,Diracの歴史的発見を貶めよう。。とかの意図は

ありません。) 

非相対論的量子力学でも,電子はスピンが1/2のFermi粒子であることを考慮して,最初から"Scrödinger方程式の解の波動関数が2成分のスピノルである。"ことを意識していればPauli項は自然に得られるのです。

 

波動関数が2成分スピノルであることを意識するなら,非相対論で

の自由粒子のHamiltonian:H=2/(2m)が,Pauli行列σを用いて

H=(σp)2/(2m)とも表現できることに気付くはずです。

自由粒子ならどちらの表現も同じで,ワザワザσを導入することに何の意味もないのですが,電磁場の極小相互作用変換:p→p-eA,すなわち,-e,かつH→H-eΦを実行して電磁場があるケースにするなら事情は違ってきます。

 

2/(2m)から-e,H→H-eΦと変形しても

=(-e)2/(2m)+eΦで何の変哲も生じないのですが,

これを=(σp)2/(2m)を出発点として変形し,

={σ(-e)}2/(2m)+eΦとすれば,何と不思議なこと

に自然にPauli項が得られるのです。

 

これは非可換なPauli行列σがあることにより,

{-e/(2m)}(σiiσjj+σσii)の項から,

{-e/(2m)}(pAAp)以外の項が得られるからです。

 

スピン行列は,i=jのときにはσiσj=1でi≠jのときには

σiσj=-σjσi=iεijkσkなる性質を持っています。

 

そして,(σiσjij+σσii)の項でi=-i∂iとし,

εijk=εkijであることと,ベクトルポテンシャルから磁場

がBk=εkij∂ijによって与えられることを組み合わせます。

 

すると,波動関数に掛かる係数として(pAAp)なる項の

他にσBが得られるのです。

 

 

※(注):↑文章だけではわかりにくく不親切なので追加です。

 

まず,{σ(-e)}2σ(-e)σ(-e)

={(σp)2+(eσA)2e(σpσAσAσp)}です。

 

(σp)2+(eσA)22+(e)2ですが,最後の項は波動関数

Ψに作用する演算子としては,

 

(σpσAσAσp)Ψ=(σiσjij+σσii

=(pA+Ap)Ψ+i(εijkσkij-εijkσki 

(pA+Ap+(εijkσkiΨAj-εijkσkiΨ)

 +(εijkijσk

 

となります。

右辺の2番目の項は同じ項の差なのでゼロです。

そこで残りは(pA+Ap)Ψ+σBΨです。

 

それ故,{σ(-e)}2Ψ={(-e)2σB}Ψが得られます。

 

(注終わり)※

 

 というわけで,パウリの1/2のスピンは単に3次元回転群の2価表現の1つであって,相対論とは直接には何の関係もない,のでした。

 

ここでは,簡単のために,c=hc=1とする自然単位系を取りましたが,通常のSI単位系なら,

Pauli項{-e/(2m)}σBψは{-ehc/(2m)}σBψとなります。

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 今年5月のある日,夜中に巣鴨一丁目のスナック「チャンティー」で,ママと一対一で客として酒を飲み,歓談していたところへ,60歳をかなり越えたと思われる似顔絵書きの爺さんがドアを開けた。。

 雨の中を歩いてきたようで,「二人で千円でいいから描かせてください。」と店に入ってきた。

 ママは断わったが,私は「まあ,いいじゃないか」ということで,千円で私の似顔絵を描いてもらうことにして,爺さんには酒を一杯おごった。

 できた絵は,ちょっと美化しすぎているし,髪の毛も多すぎるけど,20年くらい前であれば何となく輪郭は似ているようだ。

 私が40歳くらいのときのパスポートの写真にも似ているから,この絵描きの爺さん,「今の私から若い頃を想像して描いたのかもしれないな。」と思った。

 その日も,わたしは"はしご"をしたので,この似顔絵はそれからずーっと「チャンティー」に預けていたのだが,先日持って帰ってスキャナーでPCに取り込み,ここにアップしたわけです。

        

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ポアンカレ群と粒子のスピン

 今日はポアンカレ(Poincare')群,特にローレンツ(Lorentz)群と粒子のスピンの関係について書いてみます。 

 ポアンカレ群という変換群は,座標系のローレンツ変換の作るローレンツ群に,時空座標の平行移動群を加えたミンコフスキー空間(Minkowski space)の合同変換群全体を指します。

 このうち,平行移動に関係する物理量は,ネーター(Noether)の定理でご存知のように"平行移動変換群の生成子=エネルギーと運動量"です。

 

 そして,それらの生成子から作られ,既約表現ごとに異なる固有値を与えるカシミア(Casimir)演算子は質量の2乗を示す演算子です。

 

 そして,平行移動変換群の表現に対して"平行移動のカシミア演算子の固有値=質量の2乗"が負なら,その表現はタキオン(tachyon)を表わします。 

  

 また,それがゼロなら,例えばベクトル場(スピンが1)だと光子(photon)を表わします。

 

 他方,正なら既約表現での固有状態は有限質量の実在粒子を表わします。

 

 結局,自由粒子はその質量により平行移動群の既約表現に分解されるというわけです。

一方,ローレンツ群の表現の方には,その表現空間に応じてスピノル,ベクトル,テンソルなどがあります。

 

しかし,これらは4次元ミンコフスキー空間のスピノル,ベクトル,テンソルではなく,3次元ユークリッド空間(Euclidian space)のそれです。

 

そして,粒子のスピンが,s=0,1/2,1,3/2,2,..であるという性質も,質量の2乗が正でエネルギーも正の場合なら,3次元回転群:SO(3)のカシミア演算子による既約表現の分類から得られるわけです。

   

ただ,質量がゼロの特別な場合は,SO(3)ではなく"E(2)=2次元ユークリッド群"に関係するという理由から,光子はベクトルなのに独立成分が2つしかないのですね。

 

また,質量の2乗が負の既約表現に属するタキオンなら,3次元ローレンツ群:SO(2,1)に関係します。

そして,一般に,これら回転群の生成子はスピン,軌道を含めた角運動量演算子であるということになりますが,自由粒子なら軌道角運動量は関係ないのでスピンのみです。

ローレンツ変換は4次元空間の回転であるはずなのに,これはどういう意味か?というと,ウィグナー(E.P.Wigner)によってリトル・グループ(小群)なる概念に基づいて分類可能なことがわかっているからです。

 

まず,上記のように,平行移動群の表現をその既約表現の不変部分空間に分割することにより,質量の如何によって各表現ごとに生成子である4元運動量の固有値は限定されます。

 

実粒子であってエネルギーが正である範疇に属する4元運動量の固有値の任意の1つをkとして,それを不変に保つローレンツ変換:Λの集合,

 

すなわち,Λk=kを満たす変換Λの集合を作ると,これはローレンツ群の1つの部分群になります。

 

こうして作られた部分群の1つ1つをローレンツ群のリトル・グループ(little-group)と呼びます。

 

このとき,4元運動量の1つの固有値kとして,その静止系での値:k=(m,0,0,0)(m>0)を取れば,このリトル・グループが3次元回転群:SO(3)に一致するのは明らかでしょう。

ただし,質量がゼロでエネルギーが正の場合は,例えばk=(E,E,0,0)(E>0)を4元運動量の1つの固有値に取ればよく,リトル・グループは2次元ユークリッド群E(2)になります。

 

とにかく,ローレンツ群のユニタリな既約表現はリトル・グループの1価または2価のユニタリな既約表現を全て与えることで尽くされます。

 

そのため,質量が正の実粒子なら4次元空間のローレンツ群の既約表現を与えるのは3次元空間の回転群のそれを与えることと一致します。

 

そして,3次元空間の回転群については既に通常の非相対論においてスピンによって分類できることがわかっています。

 

なぜ,群の種々の表現のうちで,既約表現を特別視するのでしょうか?

 

それは,例えば質量やスピンを考えるとわかるように,量子論では超選択則(superselection rule)によって,"特別な場合を除いて1つの既約表現の基底空間から他の既約表現の基底空間への遷移が禁止されている"からです。

 

特別な場合というのは,,粒子の崩壊などの非弾性相互作用がある状況です。

 

要するに,変換群の示す対称性が成立しなくなる場合に相当します。

 

 相対性理論の粒子の4つの運動量成分(E,)は,実は全てが独立というのではなくて,その質量mによって制限されています。 

(※:E22=m2です。これは運動量空間の波動方程式(E22-m2)|Ψ>=0 を意味します。)

 

 そこで,,自由なパラメータは実は4つではなく3つなのです。

 

 運動量空間での波動方程式は,フーリエ変換すれば座標空間での波動方程式になりますから,座標空間でも自由なパラメータは3つという状況は同じです。

 

 そこで,高々3つのパラメータで決まるローレンツ変換群の部分群であるリトル・グループ,例えば3次元回転群で,その全てを記述できるわけです。

 

 したがって,非相対論的量子論でも現われる通常の3次元空間でのスピンが,相対論の4次元空間でも主役になるわけですね。

 

参考文献:大貫義郎著「ポアンカレ群と波動方程式」(岩波書店)

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2006年9月 6日 (水)

不確定性,相補性とネーターの定理

前記事との関連で不確定性,相補性とネーター(Noether)の定理について書いてみます。

  

以下,Planck定数:h or h/(2π),および光速cを1とする自然単位で考察します。 

ハイゼンベルク(Heisenberg)の不確定性原理は,物理量の交換関係と密接につながっています。

 

[P,X]=-iなる交換関係は,Pの標準偏差ΔpとXの標準偏差Δxの間にΔpΔx≧1/2 なる不確定性関係を生ぜしめます。

 

同じく[E,t]=iですから,ΔEΔt≧1/2 ですね。

これらの交換関係は特に正準交換関係と呼ばれ交換関係[ , ]をPoisson括弧式:[ , ]P.B.にiを乗じたものと解釈すると,古典論に帰します。

 

そこで,量子論での運動方程式:dX/dt=(-i)[X,H],dP/dt=(-i)[P,H]etc.の右辺を(-i)で割り,[ , ]→[ , ]P.B.とすると古典論の方程式になります。

 

こうした変数の対は互いに正準共役であるといわれます。

 

いわゆるFourier変換での振動数と周期の関係,あるいは格子と逆格子の関係にあるともいえるこうした量の対は,量子論では"相補的(complementary)である"といわれるようです。

 

数学の言葉なら,"互いに双対(そうつい;dual))な変数である"とい

えるでしょうか。

これらは,"時間,空間座標の平行移動の下で運動方程式(または理論)が不変である"という対称性に関係しています。

 

古典論では接触変換,量子論では大域的ゲージ変換という位相変換の下での理論の不変性に対応して,共役な変数が時間的に保存されるという構造があることがNoetherの定理で保証されています。 

例えば,時間tの一様性はエネルギーEの保存に帰します。 

古典論で考察してみましょう。

 

系を記述するLagrangian:LがL(,d/dt,t)=T-Vで与えられるとにします。

 

系はn体系で一般化座標を={qi}とします。

 

すると,一般に運動エネルギーTはd/dtの二次形式:T=∑{aij(dqi/dt)(dqj/dt)}で表わされます。

 

他方,一般化位置エネルギーVはV=V(,t)で与えられるとします。

時間tの一様性とは,時間原点をどこに取ってもいいことを意味します。

  

例えば,時刻tが原点の微小平行移動εによってt'=t-εになったとします。

 

t=t'+εとなりますから,tにt'+εを代入することにより平行移動によって,'(t')=(t'+ε)=(t)として,新しいLagrangian:L'をL'(',d'/dt',t')としても,これがL(,d/dt,t)と一致するとします。

 

これは,両方のLagrangianで異なるのは陽に含まれている時間パラメータtのみですから,L,L'が時間を陽に含まないこと,つまりL(,d/dt,t)=L(,d/dt)であることを意味します。

時間tの一様性により,Lagrangianから得られるEuler-Lagrange方程式(運動方程式)はL,L'のどちらのLagrangianに対しても同一です。

 

これはL'(',d'/dt')=L(',d'/dt'),つまり対称性変換の前後でLagrangianの関数形が同じであることを意味します。

 

そこでt'=t-εに対し,LのLie変分はδL≡L'(',d'/dt')|t'=t-L(,d/dt)=L(',d'/dt')|t'=t-L(,d/dt)です。

''(t)とすれば,Lie変分δ'(t)-(t)=ε(d/dt),そして,大域的変換なのでεはやtに依存しない定数ですから,δ(d/dt)=ε(d2/dt2)です。 

一方,LのLie変分はδL=ε(dL/dt)ですが,Lはtを陽に含まないのでやd/dtを通じてしかtに依存しません。

 

そこで,t'=t-εに対し,δL=(∂L/∂+{∂L/∂(d/dt)}δ(d/dt)=ε[(∂L/∂)(d/dt)+{∂L/∂(d/dt)}(d2/dt2)]です。

ここで,右辺にEuler-Lagrange方程式∂L/∂=(d/dt){∂L/∂(d/dt)}を代入すれば,

 

ε(dL/dt)=ε[(d/dt){∂L/∂(d/dt)}](d/dt)+{∂L/∂(d/dt)}(d2/dt2)]=ε(d/dt)[{∂L/∂(d/dt)}(d/dt)] を得ます。

これと,δL=ε(dL/dt)から,(d/dt)[{∂L/∂(d/dt)}(d/dt)―L]=0 ですから,

 

H≡[{∂L/∂(d/dt)}(d/dt)―L]とおくと,dH/dt=0 となって,Hが時間的に保存されることになります。

 

これがネーターの定理(Noether)の1例です。

 

通常の形式のL=T-VでTがd/dtの二次形式の場合なら,H=T+V=E(エネルギー)ですから,これはdE/dt=0 ,つまりエネルギー保存を意味します。

同様にして,空間の一様性:"座標の原点がどこでもいい"という対称性からは,"運動量の保存:d/dt=0 "が得られます。

 

また,ここでは例に挙げていませんが,"座標系の向きをどのように取ってもいい。"という空間の等方性は角運動量の保存を意味します。

 

例えば,スピンは角運動量ですから,これが定義される空間は等方的である必要があります。

 

余談ですが,一般相対論の時空なら一般に等方的とは限らないので,角運動量やスピンを考察するのはむずかしいですね。

PS:唐突ですが,dE=TdS+PdVを満たす熱力学的変化を考えると,

 定積変化(ΔV=0)では,

 ΔEΔt≧1/2という不確定性はTΔSΔt≧1/2と同等です。

 そこで,交換関係:[E,t]=iからのアナロジーで,

これは[S,t]=i/Tと同等あろうと考えられます。

  

この相補的関係にNoetherの定理を関連付けると,

  

"エントロピー(entropy):Sの保存(断熱準静変化)が温度一定の下での時間の一様性からの帰結を意味する"のでは?と思ったのですが,これが何らかの物理的意味を持つのか?について,ときどき考えています。

  

エントロピーは確率の対数(Boltzmannの原理より)なので,観測と関係しているのでしょうか?

  

高林武彦氏の著書「量子力学(観測と解釈問題)」or「熱学史」に何らかの示唆が述べられていたと記憶しています。

  

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2006年9月 5日 (火)

エネルギーと時間の不確定性関係

EMANお物理学」の「談話室」での内容に触発されて,,

「エネルギーと時間の不確定性」という内容で書いてみたい

と思います。

  

「Heisenberg(ハイゼンベルク)の不確定性原理」の解釈は"測定誤差に

する「小澤の不等式」の意味ではなく標準偏差の積の不等式と考え

が通常の意味で,不確定性原理は物理量の交換関係と密接につながって

いるという認識を持っています。

 

以下,Planck定数:h or h/(2π)と光速cを1とする自然単位系で考察

します。

 

[P,X]=-iなる交換関係は運動量Pの標準偏差Δpと

Xの標準偏差Δxの間にΔpΔx≧1/2なる不確定性関係を生ぜし

めます。

 

そして運動量は座標表示ではP=-i∂/∂Xですね。

 

同じく時間座標tの表示では,E=H=i∂/∂tであり

[E,t]=iですから,ΔEΔt≧1/2 のはずです。

 

しかし,これの意味を

 

"時刻とエネルギーを同時に確定することができない。"

と素朴に解釈することがむずかしいのは何故か?

 

について考察してみます。

 

一般に状態ベクトルを|ψ>とするとき,その波動関数を,

ψ(,t)≡<,t|ψ>で定義すると|ψ(,t)|23dtは,

ある時空点(,t)付近の瞬間的存在確率を示すものである,

と解釈できます。

 

つまり|ψ(,t)|23はある時刻tにおける単位時間当たりの

存在確率と解釈します。

 

ここでは,それぞれ位置座標と時間の線形演算子とTが存在し,

これは交換可能であって,とTの同時的固有状態ベクトル|,t>

が存在する,と仮定しています。

 

自由粒子ならエネルギーE=Hと運動量は交換可能:[H,]=0 で,

これはHeisenbergによるとの時間的保存を示しています。

 

そこで運動量とエネルギーE=Hの同時的固有状態を取ることができ

て,その同時的な固有ベクトルを|,E>とおくなら,

 

座標表示=-i∇,E=H=i∂/∂tに従って,

,t|,E>=Aexp(ipx-iEt)(Aは規格化定数)

と書けます。

 

しかし,謂わゆるFourier変換による展開として,

ψ(,t)=<,t|ψ>=∫d3dE<,t|,E><,E|ψ>

となるわけではない,と考えるべきだと思います。

 

何故なら,自由粒子のとEの間には,粒子が質量殻の上にある,

 

つまりE22+m2であるという制約があるので, 

1=∫d3dE|,E><,E|という単純な完全性は成立しない

と思うからです。

 

そうでなくて,

1=∫d3dEθ(E)δ(E22-m2)|,E><,E|という式が

本当の完全性を示す式であると考えられます。

 

(θ(x)はHeaviside関数です。)

 

dEによる積分を実行し,ωp(2+m2)1/2と置くと,後者の完全性は

1=∫(d3/2ωp)|p><p|となります。

 

したがって,<ψ|ψ>=∫(d3/2ωp)<ψ|p><p|ψ>

=∫(d3/2ωp)|<p|ψ>|2となるので,

 

固有状態を|>≡(2ωp)1/2|p>と定義し,運動量表示の波動関数

としてΦ()≡<|ψ>とおけば,1=∫d3|><|

が成立します。

 

そこで,状態|ψ>のノルムの2乗|ψ|2(これは全確率で通常1

に規格化されている)は<ψ|ψ>=∫d3|Φ()|2となりますね。

 

これらのことから,運動量表示の波動関数Φ()に対して,

|Φ()|23はエネルギーが一定E=ωpの下で運動量が

を取る確率を示すものであると考えられます。

 

これのアナロジーで座標表示の波動関数ψ(,t)=<,t|ψ>にも

1=∫d3dt|,t><,t|が成立するわけではなく,

 

22+m2に相当してtとが独立ではなく,

"-∂2/∂t2=-∇2+m2という制限=波動方程式"を考慮する

必要があると考えます。

 

すなわち,|,t>の代わりに,ある|>を定義し直して,

1=∫d3|><|によって,改めて表示の波動関数

としてψ(,t)≡<|ψ>と定義することにより,

 

<ψ|ψ>=∫d3|ψ(,t)|2 が成立するようにできる

はずです。

 

この新しい|ψ(,t)|23は時刻tが一定の下で粒子が位置にある

存在確率を表わすことになりますから,通常の波動関数の確率解釈と一致

します。

 

ここで,波動関数ψ(,t)=<|ψ>の左辺にtを残したのは,

これは状態|ψ>に含まれる情報によって,時間演算子Tの固有値t

の関数でもあるということを強調したかったからです。

 

というわけで,

 

"時間tをパラメータに取る代わりに空間座標x,y,z

のいずれか1つをパラメータに取ることも可能であり,

 

通常の偏差値の意味で不確定性関係ΔEΔt≧1/2を"時刻とエネルギーを同時に確定することができない。"

  

と捉えることも可能だと思います。

   

(※あるいは非相対論的に考えて,自由粒子ではE=H=2/(2m)

より,=∫d3dEδ(E2/(2m))|,E><,E|であり,

  

右辺のEによる積分を実行すれば,ωp2/(2m)としたとき, 

1=∫d3|p><p|が得られるので|>≡|p

定義してもよいと思います。

 

上記の議論では,座標,tに関する波動方程式も,相対論的な

Klein-GordonやDiracク方程式ではなく,Schroedinger方程式であ

っても別にかまいません。

  

そこで,特に相対論を意識する理由はありませんが,座標と時間を対等に

扱う意識が生まれたのはMinkowski空間以降の感覚だと思ったので,

そうしたわけです。

  

特に相対論的扱いをしたことに他意はありません。※)

 

上記の考察は,本を参照せず,出来るだけ自力で考えましたが,自分の

発想に基づいて考察するのはずいぶん久しぶりなので,内容にはやや

自信なしという思いもありますね。

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2006年9月 3日 (日)

n変数の相加平均と相乗平均

 今日は,数学の統計学の話題です。

 

 n変数の相加平均と相乗平均(幾何平均)を考察します。 

 "(相加平均)≧(相乗平均)"という公式の意味は,変数の場合には,

"x,yが正の数のとき{(x+y)/2}≧(xy)1/2(等号はx=yのとき)が成り立つ。" ということです。

 

 この不等式の成立は自明なのでワザワザ証明はしません。

 

 では,一般のn変数の場合の"(相加平均)≧(相乗平均)"の公式である{(∑i=1ni)/n}≧(Πi=1ni)1/n (は全て正の数)はどのように証明すればいいのでしょうか?

 

 まあ,一応は数学的帰納法(induction)を用いればいい,ということはすぐに気が付くでしょうね。 

 まず,n=2M のときにはこの不等式が成立すると仮定して,n=2M+1のときにも成立することを証明します。

 

 {(∑i=1ni)/n}≧(Πi=1ni)1/n (n=2M) が成立すると仮定すると,

n+1,n+2,.,2M+1,2M+2,.,2M+1の総個数も丁度 2Mですから,

 {(x+y)/2}≧(xy)1/2を使うと,

[{(∑i=1ni)/n+(∑j=1nn+j)/n}/2]≧{(Πi=1ni)1/nj=1nn+j)1/n}1/2  となります。n=2Mです。

 

 故に,{(∑i=12ni)/(2n)}≧(Πi=12ni)1/2n (2n=2M+1)成立します。

 

 そこで,n=2M+1のときにも{(∑i=1ni)/n}≧(Πi=1ni)1/nが成立することが示されました。

 

 すなわち,数学的帰納法により,nが2のベキ乗のときには,常に"(相加平均)≧(相乗平均)"が成り立つことが証明されたわけです。

 では,nが2のベキ乗でないときはどうでしょうか?

 

 このときには,2M-1<n<2Mを満足するMが必ず存在するはずです。

 

 そこで,N≡2M,n1≡N-n,<x>≡{(∑i=1ni)/n}と置きます。

 

 このとき,Nは2のベキ乗なので既に証明した事実によって,

 {(∑i=1ni+n1<x>)/N}≧{(Πi=1ni)<x>n1}1/N

 が成立します。

 

 ところが,この不等式の左辺は丁度<x>に等しいので,両辺をN=2Mすると,<x>N≧{(Πi=1ni)<x>n1となります。

 

 さらに,<x>N≧{(Πi=1ni)<x>n1両辺を<x>n1で割ると,

 <x>ni=1ni)となります。

 

 結局,nが2のベキ乗に等しいとは限らない一般の場合にも,

 <x>={(∑i=1ni)/n}≧(Πi=1ni)1/n

 が成立すること,が示されました。

 

 この後半の証明にはちょっとした工夫が必要でしたね。

  

 これはン十年前,大学の授業で習ったときの記憶なので,参考文献は不明です。

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歌人:島秋人

 永山則夫氏の前にも窪田空穂(くぼたうつぼ)の弟子になった死刑囚の歌人:島秋人もいましたね。

 処刑の前日にはニコニコしていたと聞きます。

 昭和42年のことです。昭和39年には既にできていたけれど,本人の強盗殺人の被害者への遠慮のため,彼の刑死後に歌集「遺愛集」も出ました。640首もありました。

 人が人を処刑できるものなんですね。島さん,あなたの犯した罪もすべて私の罪でもあります。

 あなたが天国にいるのでなければ,いずれ地獄でお目にかかりましょう。                

                         かしこ

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2006年9月 2日 (土)

ロートレアモンとサド

 モーリス・ブランショの評論に「ロートレアモンとサド」というのがあります。

    

 彼はモンテヴィデオの怪人イジドール・デュカス=ロートレアモン伯爵とマルキ・ド・サドとの間に共通性を見出していたと思われます。

 私も両者の間に,大きな共通性を見出しています。

 「マルドロールの歌」という悪魔=マルドロールを崇拝した詩集,と「ポエジー(詩学断想)」,ロートレアモンの作品はこれだけしかないですが,私の受けた衝撃は計り知れないものがあります。

 人生においてモラルというものを完全に拒否したいと考えるようになり,ただ価値というのは"美"というものだけしかない,と考えるに至ったきっかけとしては,これらの作品から,マルクスによるものと同じかそれ以上の影響を蒙っています。

 「深い森の奥に『エルマフロジット=両性具有者』が住んでいる・・・」

 なんと魅力的な響きでしょうか。彼の作品を読むとランボーもボードレールも中原中也もなぜか色褪せて見えます。

 マルキ・ド・サドにも私は若い頃,大きな影響を受けました。

 なぜだかわかりませんが,「悪徳の栄え=ジュリエット」よりも,妹の「美徳の不幸=ジュスチーヌ」の方が好きです。

 「ソドム百二十日」については読んだけど訳が下手なのか理解不能でした。

 彼の作品は,その後の日本の村上龍などにも影響を与えていると考えられますが,こちらの日本人の作品は読んだことがありません。

 この芥川賞作品の題名からそう感じただけです。

 話変わりますが,恐らく同時代の天才レイモン・ラディゲの「肉体の悪魔」も短編ですが,珠玉の反モラル小説ですね。

  数学者,エヴァリスト・ガロアと共に,これらの人物を慕う私は19世紀のフランスに恋しているのかもしれません。

 モラルに反する,という意味では,亡命ロシア人ウラジミール・ナボコフの「ロリータ」もあります。これも私は好きです。

 "ロリータ=本名ドロレス・ヘイズ"に恋したために母親と結婚するハンバート・ハンバートの欺瞞は,ヘイズ夫人には気の毒ですが,わかるような気がするのは,私もロリコンであるせいかもしれません。 

 モラルを嫌い,それに忠実に生きようとするがために,私は不遇な生活でも,退廃的な満足感が常にあるような気がしています。

 一時の快楽,現実逃避のため,私は今日も酒を飲む。

 決して禁酒しようとか禁煙しようとかという感覚は持ってないし,

 これからもそうであろう。。。

 話は違うけれど聖なる娼婦である「罪と罰のソーニャ」や無邪気な娼婦であるマノン・レスコーとは違ったタイプの,新しい私の観音様になるかもしれないAV女優を見つけました。

 大阪の「紅音(あかね)ほたる」さん。

 聖なるとは完全に逆のキャラクターです。

 昼間は娼婦のごとく夜も娼婦のごとくです。

 ファンになろうかなあ,本当に最高ですねえ。。

 ってここはアダルトブログじゃぁないよ。まあ,私の場合,何でもアリですけどね。

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