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2006年9月 6日 (水)

不確定性,相補性とネーターの定理

前記事との関連で不確定性,相補性とネーター(Noether)の定理について書いてみます。

  

以下,Planck定数:h or h/(2π),および光速cを1とする自然単位で考察します。 

ハイゼンベルク(Heisenberg)の不確定性原理は,物理量の交換関係と密接につながっています。

 

[P,X]=-iなる交換関係は,Pの標準偏差ΔpとXの標準偏差Δxの間にΔpΔx≧1/2 なる不確定性関係を生ぜしめます。

 

同じく[E,t]=iですから,ΔEΔt≧1/2 ですね。

これらの交換関係は特に正準交換関係と呼ばれ交換関係[ , ]をPoisson括弧式:[ , ]P.B.にiを乗じたものと解釈すると,古典論に帰します。

 

そこで,量子論での運動方程式:dX/dt=(-i)[X,H],dP/dt=(-i)[P,H]etc.の右辺を(-i)で割り,[ , ]→[ , ]P.B.とすると古典論の方程式になります。

 

こうした変数の対は互いに正準共役であるといわれます。

 

いわゆるFourier変換での振動数と周期の関係,あるいは格子と逆格子の関係にあるともいえるこうした量の対は,量子論では"相補的(complementary)である"といわれるようです。

 

数学の言葉なら,"互いに双対(そうつい;dual))な変数である"とい

えるでしょうか。

これらは,"時間,空間座標の平行移動の下で運動方程式(または理論)が不変である"という対称性に関係しています。

 

古典論では接触変換,量子論では大域的ゲージ変換という位相変換の下での理論の不変性に対応して,共役な変数が時間的に保存されるという構造があることがNoetherの定理で保証されています。 

例えば,時間tの一様性はエネルギーEの保存に帰します。 

古典論で考察してみましょう。

 

系を記述するLagrangian:LがL(,d/dt,t)=T-Vで与えられるとにします。

 

系はn体系で一般化座標を={qi}とします。

 

すると,一般に運動エネルギーTはd/dtの二次形式:T=∑{aij(dqi/dt)(dqj/dt)}で表わされます。

 

他方,一般化位置エネルギーVはV=V(,t)で与えられるとします。

時間tの一様性とは,時間原点をどこに取ってもいいことを意味します。

  

例えば,時刻tが原点の微小平行移動εによってt'=t-εになったとします。

 

t=t'+εとなりますから,tにt'+εを代入することにより平行移動によって,'(t')=(t'+ε)=(t)として,新しいLagrangian:L'をL'(',d'/dt',t')としても,これがL(,d/dt,t)と一致するとします。

 

これは,両方のLagrangianで異なるのは陽に含まれている時間パラメータtのみですから,L,L'が時間を陽に含まないこと,つまりL(,d/dt,t)=L(,d/dt)であることを意味します。

時間tの一様性により,Lagrangianから得られるEuler-Lagrange方程式(運動方程式)はL,L'のどちらのLagrangianに対しても同一です。

 

これはL'(',d'/dt')=L(',d'/dt'),つまり対称性変換の前後でLagrangianの関数形が同じであることを意味します。

 

そこでt'=t-εに対し,LのLie変分はδL≡L'(',d'/dt')|t'=t-L(,d/dt)=L(',d'/dt')|t'=t-L(,d/dt)です。

''(t)とすれば,Lie変分δ'(t)-(t)=ε(d/dt),そして,大域的変換なのでεはやtに依存しない定数ですから,δ(d/dt)=ε(d2/dt2)です。 

一方,LのLie変分はδL=ε(dL/dt)ですが,Lはtを陽に含まないのでやd/dtを通じてしかtに依存しません。

 

そこで,t'=t-εに対し,δL=(∂L/∂+{∂L/∂(d/dt)}δ(d/dt)=ε[(∂L/∂)(d/dt)+{∂L/∂(d/dt)}(d2/dt2)]です。

ここで,右辺にEuler-Lagrange方程式∂L/∂=(d/dt){∂L/∂(d/dt)}を代入すれば,

 

ε(dL/dt)=ε[(d/dt){∂L/∂(d/dt)}](d/dt)+{∂L/∂(d/dt)}(d2/dt2)]=ε(d/dt)[{∂L/∂(d/dt)}(d/dt)] を得ます。

これと,δL=ε(dL/dt)から,(d/dt)[{∂L/∂(d/dt)}(d/dt)―L]=0 ですから,

 

H≡[{∂L/∂(d/dt)}(d/dt)―L]とおくと,dH/dt=0 となって,Hが時間的に保存されることになります。

 

これがネーターの定理(Noether)の1例です。

 

通常の形式のL=T-VでTがd/dtの二次形式の場合なら,H=T+V=E(エネルギー)ですから,これはdE/dt=0 ,つまりエネルギー保存を意味します。

同様にして,空間の一様性:"座標の原点がどこでもいい"という対称性からは,"運動量の保存:d/dt=0 "が得られます。

 

また,ここでは例に挙げていませんが,"座標系の向きをどのように取ってもいい。"という空間の等方性は角運動量の保存を意味します。

 

例えば,スピンは角運動量ですから,これが定義される空間は等方的である必要があります。

 

余談ですが,一般相対論の時空なら一般に等方的とは限らないので,角運動量やスピンを考察するのはむずかしいですね。

PS:唐突ですが,dE=TdS+PdVを満たす熱力学的変化を考えると,

 定積変化(ΔV=0)では,

 ΔEΔt≧1/2という不確定性はTΔSΔt≧1/2と同等です。

 そこで,交換関係:[E,t]=iからのアナロジーで,

これは[S,t]=i/Tと同等あろうと考えられます。

  

この相補的関係にNoetherの定理を関連付けると,

  

"エントロピー(entropy):Sの保存(断熱準静変化)が温度一定の下での時間の一様性からの帰結を意味する"のでは?と思ったのですが,これが何らかの物理的意味を持つのか?について,ときどき考えています。

  

エントロピーは確率の対数(Boltzmannの原理より)なので,観測と関係しているのでしょうか?

  

高林武彦氏の著書「量子力学(観測と解釈問題)」or「熱学史」に何らかの示唆が述べられていたと記憶しています。

  

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI 

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コメント

 こんにちは、hirotaさん、TOSHIです。コメントありがとうございます。

>dp/dt = -∂H/∂q ( H:Hamiltonian )
だから H が q に依存しなければ p が保存される。くらいに思っていましたが、

 これも対称性には違いないですがこれは単にqが循環座標だということだけでネーターは接触変換とか多様体の接続(ゲージ)とかもっと深遠な内容を含むと思っています。

 まあ、惑星軌道などでは循環座標を見つけることによって面積速度=角運動量が一定であることなどがわかるし、如何にして循環座標をたくさん見つけるのか、というのは力学問題を解くためのテクニックとして最重要なことでそのために「ハミルトンヤコービ」までできたのだからこれも深遠ですが。。。

>エントロピーを変数とする Hamiltonian なんてありますか?

ラグジアンLが時間tを含まないという時間の一様性からHamiltonian :H=p(dq/dt)-LをつくるとHamiltonianが保存する:dH/dt=0 になるという意味でHとtは相補的で[H,t]=ihあるいはΔEΔt≧h/2が成立する。

 から類推するとdH=TdS+PdVからSの単位はH/Tと同じなので[S,t]=ih/TあるいはΔSΔt≧h/(2T)となるはずで、エントロピーが保存する:dS/dt=0 (断熱可逆変化)というのはLがt/Tを含まないというような何らかの対称性から導かれるはずなんですが、これはどういう意味なのかということなどを統計力学のS=klogWなどとからめて考えると何か新しいことが発見できるかな、とか考えただけです。

             TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年8月16日 (木) 12時44分

ネータの定理は単純に、
 dp/dt = -∂H/∂q ( H:Hamiltonian )
だから H が q に依存しなければ p が保存される。くらいに思っていましたが、エントロピーを変数とする Hamiltonian なんてありますか?

投稿: hirota | 2007年8月15日 (水) 16時57分

TOSHIさんへ
コメント有難うございました。
TOSHIさんのご教示を受けて、「相補性」という表現は、少し外れていたと思いました。
< もしやして、これらの理論の間には、相補性があるというような事はないのでしょうか?
> もしやして、これらの理論の間には、相関性があるというような事はないのでしょうか?
ぐらいの表現に訂正させていただきます。

投稿: 凡人 | 2007年8月13日 (月) 19時59分

 ども凡人さん、TOSHIです。コメント遅れてすみません。

 フェルマーの原理って何だっけ?と失念していました。そう幾何光学の原理ですね。力学的にはハミルトンの原理、あるいは最小作用の原理と同等で波動と粒子の双対性ということで前期量子論では活躍しているはずです。

 最小作用は運動方程式を与える変分原理であり力学の運動方程式はネーター定理で言えば空間の一様性に基づくリー変分についての理論の不変性から導かれる運動量保存方程式ですからもちろん両者は同一の変分原理を示していると思います。

              TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年8月13日 (月) 13時27分

凡人の勝手な思いつきですが、ネータの定理とフェルマーの原理は、何か関連があるという事は無いのでしょうか?
もしやして、これらの理論の間には、相補性があるというような事はないのでしょうか?

投稿: 凡人 | 2007年8月10日 (金) 22時41分

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