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2006年9月14日 (木)

酔歩(ランダム・ウォーク)

 今日は酔歩(ランダム・ウォーク:Random walk)について考察してみます。

 まず,1次元の酔歩を考えます。

 

 1歩の長さは一定値aとし,左右1次元にしか運動できないとします。

 左右どちらにも1歩ずつ移動することができて,その確率は両側で共に1/2であるとします。

x 軸の原点(x=0)から出発して,N 歩の後に x=ma (-N≦m≦N) の位置にいる 確率をP(m,N)とすると,

 

正の向きにN歩,負の向きにN歩だけいた場合にxに到達するとして,その場合の数はN!/(N!N!)ですから,

 

その確率はP(m,N)={N!/(N!N!)}(1/2)Nとなるはずです。

しかし,+N=N,-N=mなので単純に計算すると(N+m)/2,(N-m)/2でなければなりません。

 

N+mとN-mは一方が奇数ならば他方も奇数,一方が偶数ならば他方も偶数ですから,これらが偶数でないなら整数であることを必要とする,Nは共に存在できません。

 

したがって,N-mが偶数のときは(m,N)={N!/(N!N!)}(1/2)N(N+(N+m)/2,-(N-m)/2)となって有限の確率になりますが,

 

N-mが奇数のときは,実現不可能なので確率は(m,N)=0 です。

ここで,nが非常に大きいときのStirlingの公式:

 

!~(2π)1/2-n(n+1/2),あるいは 

log(n!)~(1/2)log(2π)+(n+1/2)log(n)-n

 

を使用します。

すると,N-mが偶数であるとしてNが非常に大きいとすれば,

(N+m)/2,N(N-m)/2 も非常に大きく,

 

log{(m,N)}~ -Nlog2+NlogN-NlogN-NlogN(1/2)log(2π)+(1/2)(logN-logNlogN)=(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)[{1+(m+1)/N}log{1+(m/N)}+{1+(1-m)/N}log{1-(m/N)}]

 

ですね。

ここで,m<<Nと考えて(m/N)の2次までの展開を考えます。

  

Taylor展開による近似:log(1-x)~ -x-x2/2,log(1+x)~ x-x2/2 を利用すれば,

  

log{(m,N)}~(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)(m/N)2となるので,(m,N)~ {2/(πN)}1/2exp{-m2/(2N)} です。

  

x=ma(-N≦m≦N)として1歩の長さaは非常に小さいとします。

  

N-mが偶数のときと奇数のときの両方を考慮すれば,有限な寄与をする偶数のケースは全体の半分ですから,

  

xがxとx+dxの間にある確率(x,N)dxは,

 

(x,N)dx=(1/2){2/(πN)}1/2exp{-x2/(2Na2)}(dx/a)={1/(2πNa2)1/2}exp{-x2/(2Na2)}dx となるはずです。

 

この(x,N)は,Na→ ∞,a→ 0,Na2 →σ2(有限)のときには,xで積分すると確かに1になるので,確率密度の条件を満足しています。

 2次元の場合でも酔歩は等方的であると考えられるので,単純に上式で2をr2=x2+y2に置き換えるだけでいいと考えるところですが,実は1歩の各方向への成分Δx,ΔyはΔx2+Δy2=a2を満足します。

 

 そこで,x方向とy方向を対等に扱うならΔx2Δy2=a2/2なので,N歩で位置=(x,y)に到達する確率密度(x,y,N)は,

 

 全平面で1になるように規格化して,

 

 P(x,y,N)dxdy={1/(πNa2)}exp{-x2/(Na2)}exp{-y2/(Na2)}dxdy={1/(πNa2)}exp{-r2/(Na2)}2

 なるはずです。

 

  同様に,3次元ではr2=x2+y2+z2として,Δx2Δy2=Δy22/3により,位置=(x,y,z)に到達する確率は,

 

 (x,y,z,N)dxdydz=[1/{(2/3)πNa2}3/2]exp[-r2/{(2/3)Na2}]3になると考えられます。

 

 (※特にa=1,つまり酔歩の1歩がある物差しで測った単位長さなら,

 

 原点から出発する3次元酔歩でN歩の後に,=(x,y,z)の付近の単位体積中に彼が存在する確率は,[1/{(2/3)πN}3/2]exp[-r2/{(2/3)N}]となるはずです。

 

 これは2次元なら単位面積当たりの確率で,

 {1/(πN)}exp(-r2/N)です。※)

 

  特に,3次元ではt=Nτ,D=a2/(6τ)とおけば,4Dt=(2/3)N2となるので,P(,t)=(x,y,z,N)={1/(4πDt)3/2}exp{-r2/(4Dt)}となります。

 

 これは,拡散係数がDの拡散方程式:∂P/∂t=D∇2Pにおいて,初期時刻t=0 に発生源の強度が原点に集中しているときの解,

 つまり,初期条件がP(,0)=δ3()の拡散方程式の解に一致します。

 

 ここで拡散の平均速度をvとすると,これは酔歩の1歩の時間τと長さaによってv=a/τと同定されます。

 

 そして,a=vτを代入するとD=v2τ/6となります。

 

 常温では並進運動のエネルギーはmv2/2=(3/2)BTですから,拡散係数Dはブラウン運動(Brownian motion)などの平均衝突時間τに(BT/2m)を掛けた程度の値になるという考察ができると思います。

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI

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