酔歩(ランダム・ウォーク)
今日は酔歩(ランダム・ウォーク:Random walk)について考察してみます。
まず,1次元の酔歩を考えます。
1歩の長さは一定値aとし,左右1次元にしか運動できないとします。
左右どちらにも1歩ずつ移動することができて,その確率は両側で共に1/2であるとします。
x 軸の原点(x=0)から出発して,N 歩の後に x=ma (-N≦m≦N) の位置にいる 確率をP(m,N)とすると,
正の向きにN+歩,負の向きにN-歩だけ歩いた場合にxに到達するとして,その場合の数はN!/(N+!N-!)ですから,
その確率はP(m,N)={N!/(N+!N-!)}(1/2)Nとなるはずです。
しかし,N++N-=N,N+-N-=mなので単純に計算するとN+=(N+m)/2,N-=(N-m)/2でなければなりません。
N+mとN-mは一方が奇数ならば他方も奇数,一方が偶数ならば他方も偶数ですから,これらが偶数でないなら整数であることを必要とするN+,N-は共に存在できません。
したがって,N-mが偶数のときはP(m,N)={N!/(N+!N-!)}(1/2)N(N+=(N+m)/2,N-=(N-m)/2)となって有限の確率になりますが,
N-mが奇数のときは,実現不可能なので確率はP(m,N)=0 です。
ここで,nが非常に大きいときのStirlingの公式:
n!~(2π)1/2e-nn(n+1/2),あるいは
log(n!)~(1/2)log(2π)+(n+1/2)log(n)-n
を使用します。
すると,N-mが偶数であるとしてNが非常に大きいとすれば,
N+=(N+m)/2,N-=(N-m)/2 も非常に大きく,
log{P(m,N)}~ -Nlog2+NlogN-N+logN+-N-logN-+(1/2)log(2π)+(1/2)(logN-logN+-logN-)=(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)[{1+(m+1)/N}log{1+(m/N)}+{1+(1-m)/N}log{1-(m/N)}]
ですね。
ここで,m<<Nと考えて(m/N)の2次までの展開を考えます。
Taylor展開による近似:log(1-x)~ -x-x2/2,log(1+x)~ x-x2/2 を利用すれば,
log{P(m,N)}~(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)(m/N)2となるので,P(m,N)~ {2/(πN)}1/2exp{-m2/(2N)} です。
x=ma(-N≦m≦N)として1歩の長さaは非常に小さいとします。
N-mが偶数のときと奇数のときの両方を考慮すれば,有限な寄与をする偶数のケースは全体の半分ですから,
xがxとx+dxの間にある確率P(x,N)dxは,
P(x,N)dx=(1/2){2/(πN)}1/2exp{-x2/(2Na2)}(dx/a)={1/(2πNa2)1/2}exp{-x2/(2Na2)}dx となるはずです。
このP(x,N)は,Na→ ∞,a→ 0,Na2 →σ2(有限)のときには,xで積分すると確かに1になるので,確率密度の条件を満足しています。
2次元の場合でも酔歩は等方的であると考えられるので,単純に上式でx2をr2=x2+y2に置き換えるだけでいいと考えるところですが,実は1歩の各方向への成分Δx,ΔyはΔx2+Δy2=a2を満足します。
そこで,x方向とy方向を対等に扱うならΔx2=Δy2=a2/2なので,N歩で位置r=(x,y)に到達する確率密度P(x,y,N)は,
全平面で1になるように規格化して,
P(x,y,N)dxdy={1/(πNa2)}exp{-x2/(Na2)}exp{-y2/(Na2)}dxdy={1/(πNa2)}exp{-r2/(Na2)}d2r
となるはずです。
同様に,3次元ではr2=x2+y2+z2として,Δx2=Δy2=Δy2=a2/3により,位置r=(x,y,z)に到達する確率は,
P(x,y,z,N)dxdydz=[1/{(2/3)πNa2}3/2]exp[-r2/{(2/3)Na2}]d3rになると考えられます。
(※特にa=1,つまり酔歩の1歩がある物差しで測った単位長さなら,
原点から出発する3次元酔歩でN歩の後に,r=(x,y,z)の付近の単位体積中に彼が存在する確率は,[1/{(2/3)πN}3/2]exp[-r2/{(2/3)N}]となるはずです。
これは2次元なら単位面積当たりの確率で,
{1/(πN)}exp(-r2/N)です。※)
特に,3次元ではt=Nτ,D=a2/(6τ)とおけば,4Dt=(2/3)Na2となるので,P(r,t)=P(x,y,z,N)={1/(4πDt)3/2}exp{-r2/(4Dt)}となります。
これは,拡散係数がDの拡散方程式:∂P/∂t=D∇2Pにおいて,初期時刻t=0 に発生源の強度が原点に集中しているときの解,
つまり,初期条件がP(r,0)=δ3(r)の拡散方程式の解に一致します。
ここで拡散の平均速度をvとすると,これは酔歩の1歩の時間τと長さaによってv=a/τと同定されます。
そして,a=vτを代入するとD=v2τ/6となります。
常温では並進運動のエネルギーはmv2/2=(3/2)kBTですから,拡散係数Dはブラウン運動(Brownian motion)などの平均衝突時間τに(kBT/2m)を掛けた程度の値になるという考察ができると思います。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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