エネルギーと時間の不確定性関係
「エネルギーと時間の不確定性」という内容で書いてみたい
と思います。
「Heisenberg(ハイゼンベルク)の不確定性原理」の解釈は"測定誤差に
関する「小澤の不等式」の意味ではなく標準偏差の積の不等式と考える
のが通常の意味で,不確定性原理は物理量の交換関係と密接につながって
いるという認識を持っています。
以下,Planck定数:h or h/(2π)と光速cを1とする自然単位系で考察
します。
[P,X]=-iなる交換関係は運動量Pの標準偏差Δpと
Xの標準偏差Δxの間にΔpΔx≧1/2なる不確定性関係を生ぜし
めます。
そして運動量は座標表示ではP=-i∂/∂Xですね。
同じく時間座標tの表示では,E=H=i∂/∂tであり
[E,t]=iですから,ΔEΔt≧1/2 のはずです。
しかし,これの意味を
"時刻とエネルギーを同時に確定することができない。"
と素朴に解釈することがむずかしいのは何故か?
について考察してみます。
一般に状態ベクトルを|ψ>とするとき,その波動関数を,
ψ(x,t)≡<x,t|ψ>で定義すると|ψ(x,t)|2d3xdtは,
ある時空点(x,t)付近の瞬間的存在確率を示すものである,
と解釈できます。
つまり|ψ(x,t)|2d3xはある時刻tにおける単位時間当たりの
存在確率と解釈します。
ここでは,それぞれ位置座標と時間の線形演算子XとTが存在し,
これは交換可能であって,XとTの同時的固有状態ベクトル|x,t>
が存在する,と仮定しています。
自由粒子ならエネルギーE=Hと運動量Pは交換可能:[H,P]=0 で,
これはHeisenbergによるとPの時間的保存を示しています。
そこで運動量PとエネルギーE=Hの同時的固有状態を取ることができ
て,その同時的な固有ベクトルを|p,E>とおくなら,
座標表示P=-i∇,E=H=i∂/∂tに従って,
<x,t|p,E>=Aexp(ipx-iEt)(Aは規格化定数)
と書けます。
しかし,謂わゆるFourier変換による展開として,
ψ(x,t)=<x,t|ψ>=∫d3pdE<x,t|p,E><p,E|ψ>
となるわけではない,と考えるべきだと思います。
何故なら,自由粒子のpとEの間には,粒子が質量殻の上にある,
つまりE2=p2+m2であるという制約があるので,
1=∫d3pdE|p,E><p,E|という単純な完全性は成立しない
と思うからです。
そうでなくて,
1=∫d3pdEθ(E)δ(E2-p2-m2)|p,E><p,E|という式が
本当の完全性を示す式であると考えられます。
(θ(x)はHeaviside関数です。)
dEによる積分を実行し,ωp≡(p2+m2)1/2と置くと,後者の完全性は
1=∫(d3p/2ωp)|p,ωp><p,ωp|となります。
したがって,<ψ|ψ>=∫(d3p/2ωp)<ψ|p,ωp><p,ωp|ψ>
=∫(d3p/2ωp)|<p,ωp|ψ>|2となるので,
固有状態を|p>≡(2ωp)1/2|p,ωp>と定義し,運動量表示の波動関数
としてΦ(p)≡<p|ψ>とおけば,1=∫d3p|p><p|
が成立します。
そこで,状態|ψ>のノルムの2乗|ψ|2(これは全確率で通常1
に規格化されている)は<ψ|ψ>=∫d3p|Φ(p)|2となりますね。
これらのことから,運動量表示の波動関数Φ(p)に対して,
|Φ(p)|2d3pはエネルギーが一定E=ωpの下で運動量が
pを取る確率を示すものであると考えられます。
これのアナロジーで座標表示の波動関数ψ(x,t)=<x,t|ψ>にも
1=∫d3xdt|x,t><x,t|が成立するわけではなく,
E2=p2+m2に相当してtとxが独立ではなく,
"-∂2/∂t2=-∇2+m2という制限=波動方程式"を考慮する
必要があると考えます。
すなわち,|x,t>の代わりに,ある|x>を定義し直して,
1=∫d3x|x><x|によって,改めてx表示の波動関数
としてψ(x,t)≡<x|ψ>と定義することにより,
<ψ|ψ>=∫d3x|ψ(x,t)|2 が成立するようにできる
はずです。
この新しい|ψ(x,t)|2d3xは時刻tが一定の下で粒子が位置xにある
存在確率を表わすことになりますから,通常の波動関数の確率解釈と一致
します。
ここで,波動関数ψ(x,t)=<x|ψ>の左辺にtを残したのは,
これは状態|ψ>に含まれる情報によって,時間演算子Tの固有値t
の関数でもあるということを強調したかったからです。
というわけで,
"時間tをパラメータに取る代わりに空間座標x,y,z
のいずれか1つをパラメータに取ることも可能であり,
通常の偏差値の意味で不確定性関係ΔEΔt≧1/2を"時刻とエネルギーを同時に確定することができない。"
と捉えることも可能だと思います。
(※あるいは非相対論的に考えて,自由粒子ではE=H=p2/(2m)
より,1=∫d3pdEδ(E-p2/(2m))|p,E><p,E|であり,
右辺のEによる積分を実行すれば,ωp≡p2/(2m)としたとき,
1=∫d3p|p,ωp><p,ωp|が得られるので|p>≡|p,ωp>
と定義してもよいと思います。
上記の議論では,座標x,tに関する波動方程式も,相対論的な
Klein-GordonやDiracク方程式ではなく,Schroedinger方程式であ
っても別にかまいません。
そこで,特に相対論を意識する理由はありませんが,座標と時間を対等に
扱う意識が生まれたのはMinkowski空間以降の感覚だと思ったので,
そうしたわけです。
特に相対論的扱いをしたことに他意はありません。※)
上記の考察は,本を参照せず,出来るだけ自力で考えましたが,自分の
発想に基づいて考察するのはずいぶん久しぶりなので,内容にはやや
自信なしという思いもありますね。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
http://blog.with2.net/link.php?269343(ブログ・ランキングの投票)↑ここをクリックすると投票したことになります。
| 固定リンク
「105. 相対性理論」カテゴリの記事
- 記事リバイバル⑪(ロ-レンツ変換の導出)(2019.01.16)
- タキオンと因果律(再掲)(2013.01.02)
- Diracの空孔理論(2)(荷電共役)(2011.12.20)
- Diracの空孔理論(1)(2011.11.29)
- 水素様原子の微細構造(補遺5-2)(2011.11.23)
「111. 量子論」カテゴリの記事
- クライン・ゴルドン方程式(8)(2016.09.01)
- クライン・ゴルドン方程式(7)(2016.08.23)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(2)(2016.08.14)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(1)(2016.08.10)
- クライン・ゴルドン方程式(6)(2016.07.27)
「102. 力学・解析力学」カテゴリの記事
- 記事リバイバル⑦(WKB近似・Hamilton-Jacobi・経路積分)(2019.01.12)
- 力学覚え書き(その1)(2017.10.09)
- 再掲載記事:解析力学の初歩(2016.01.17)
- WKB近似,ハミルトン・ヤコービ方程式,経路積分(再掲)(2011.04.17)
- 電磁力学と解析力学(2010.02.06)
コメント
こんばんは。BASiCKさん、TOSHIです。
コメントいただきありがとうございます。ここのところ飲んだくれていて対応遅れてすみません。
>私は、時間の不確定性も位置の不確定性も同じように考えていましたので、「談話室」での時間演算子の議論も問題のポイント自体を理解しずらく感じています。
いや、伝統的な量子力学では「時間を特別扱い」しているので時間とエネルギーの不確定性についてはむしろT_NAKAさんのような違和感を感じるほうが普通の感覚だと私は思います。
>昔の啓蒙書で、素粒子の仮想過程は時間とエネルギーの不確定性ゆえに生じると読みました。
そうですね、場の理論の摂動論での「仮想粒子」や量子力学の時間を含む摂動論など、エネルギー保存が破れる、あるいは質量殻の上にない「中間状態」を想定できるのは短時間ならエネルギーの不確定さが無限大ということを利用した「有効理論」に間違いないです。
もっとも反応の前後でのエネルギーの保存は「絶対的」ですから、あくまで「時間ゆらぎ」があるときのみ「仮想過程」を想定できます。
> ところでこの博士論文をどう評価されますか? 私には専門的すぎてさっぱりわからない、というかまだ概要だけで、本文は少しも読んでいませんが。http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/handle/2065/391
取り急ぎ、本文を流し読みしましたが、はじめから時間演算子は古典論に対応するものがない、と述べているところに既に伝統的な量子力学の枠組みを疑うことなく受け入れる姿勢が見てとられます。
それでは位置演算子も古典論に対応物がないのでしょうか?時間も位置ももちろん古典論で対応物はありますよね。
結局、生存確率(寿命)とエネルギーの問題と問題を矮小化して決め付けていますから、本題とはあまり関係のない話となっているという印象を受けました。数式計算が複雑なだけであって物理的内容は基礎的問題を扱う視点が欠けているようです。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2006年9月11日 (月) 03時43分
BASiCKです
私は、時間の不確定性も位置の不確定性も同じように考えていましたので、「談話室」での時間演算子の議論も問題のポイント自体を理解しずらく感じています。昔の啓蒙書で、素粒子の仮想過程は時間とエネルギーの不確定性ゆえに生じると読みました。
ところでこの博士論文をどう評価されますか? 私には専門的すぎてさっぱりわからない、というかまだ概要だけで、本文は少しも読んでいませんが。
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/handle/2065/391
投稿: BASiCK | 2006年9月10日 (日) 08時51分
こんにちは、T_NAKAさん、TOSHIです。
>ですから「相対論的しばり E^2=p^2+m^2 」が出てくることに違和感を感じてしまいました。
あ、いや、べつにE=p^2/2mでもかまいません。のでそのように書き換えておきます。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2006年9月 6日 (水) 12時16分
私はただの電気屋なんで、見当違い(多分誤り)のことを言うかも知れませんが、ご容赦願います。
演算子の交換関係から不確性関係(標準偏差の積)を導くのは、非相対論的量子力学においてする議論だと思ってました。←(多分間違った認識だろうと思われますが。。)
ですから「相対論的しばり E^2=p^2+m^2 」が出てくることに違和感を感じてしまいました。
投稿: T_NAKA | 2006年9月 6日 (水) 10時35分