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2006年9月30日 (土)

線形微分方程式系の直接解法(ボックスモデル)

 今日は屋内での汚染物質濃度を求めることを仮定した簡易ボックスモデルを例にとって定数係数の連立線形常微分方程式の数値解を求めるための1つの手法を紹介します。

 室内の濃度分布を計算するには簡易モデルではなくて熱対流などの気流を計算する2方程式モデルなどに移流拡散方程式を付加した非定常な数値流体方程式を解くという大げさな方法もあります。

 

 しかし,ここでは部屋の平均濃度だけを計算する,という簡易ボックスモデルを考察します。

 例えば容積がV(m3)の部屋の中央に石油ストーブなどがあって,それからの一酸化炭素(CO)の排出強度がQ(m3/s)であるとします。

 

 もしも部屋が密閉されていれば,時間tが経った後に,その一酸化炭素の平均濃度をCとすると,C=Qt/Vになると考えていいでしょう。

 しかし一般に部屋には隙間があって換気されるわけで,通常1時間に部屋全体の空気が入れ替わる回数を換気率という量で表わします。

 

 例えば容積Vの部屋の換気率がnなら,1時間の後には総量nVの空気が排出され,物質量の保存則によって同時にnVの空気が外部から入ってくるわけです。

 それ故,1秒当たりの空気の流出入量をk(3/s)とするとk=nV/3600 ですね。

そこで,各時刻の部屋の中の一酸化炭素の平均濃度をC(t)で表わすとこの部屋の中の単位体積当たりのその量は各時刻にC(t)(3/m3)なので時刻Δtの間に外気に流出する一酸化炭素の量はkC(t)Δtです。

 

一方,外気の一酸化炭素濃度(一定:constant)をC0とすると,

流入量はkC0Δtですから,部屋内のその量の時刻変化は,

V(C(t+Δt)-C(t))=k[C0-C(t)]Δtなる式で

与えられます。

 さらに排出強度をQとすると,右辺には発生量QΔtが加わりますから,

結局,一酸化炭素濃度に対する微分方程式は,

dC/dt=a(C0-C)+Q/V と表わすことができます。

 

 ここで,a≡k/Vです。

 

 B=aC0+Q/VとおけばdC/dt=-aC+Bとなりますが,

 この微分方程式は簡単に解けて,

 C(t)=(C( 0 )-a-1B)exp(-at)+a-1B 

 なる解が得られます。

こうしたモデルを室内物質濃度の簡易ボックスモデルと言います。

 これを一般化して各部屋の容積がVi(i=1,2,..,m)のm個の部屋を有する住宅があって,これらの部屋の平均濃度が(m+1)次元の列ベクトルで(t)=t(C0,C1,C2,..,Cm)で表わされるとします。

 

 ここで,Ckはk番目の部屋における物質濃度です。

 特に,C0は屋外の平均濃度値を示しています。

そして各部屋には排出強度Qiの排出源があり"部屋iと部屋jの間の換気量=先の方程式のkに相当する値"をkij=kji(i≠j;i,j=0,1,2,..m)とします。

  

すると,このボックスモデルの微分方程式は,

dCi/dt=∑j=0mij(Cj-Ci)+Qi/Vi(i=0,1,2,..,m)

となります。ただしaij≡(kij/Vi)です。

 さらに,(排出強度/容積)の列ベクトルを,

 t(Q0/V0,Q1/V12/V2,..,Qm/Vm)で定義します。

 ただしQ0/V0=0 としておきます。

 

 また,λi≡∑j=0mijと定義し,行列Aを成分;(aij-λiδij)によって定義すれば,濃度を求めるボックスモデルの微分方程式:(m+1)変数の定数係数連立線形非同次微分方程式は,

 (m+1)次元ベクトル空間での線形非同次微分方程式として,

 d/dt=-AB と表わされます。  

 この方程式の形式的な解は簡単に求めることができて,

  

 初期値(0)に対し,(t)={(0)-A-1}exp(-At)+A-1

 と書くことができます。

 さらに,濃度をこうした形式解ではなく実際に具体的に求めるには,

 従来の慣用的な方法であれば,Aの最大(m+1)個の固有値:λi(i=0,1,2,..m)を全て求め,(t)の各成分を具体的にexp(-λit)の

1次結合で表わします。

 

 しかし,高々10部屋程度の住宅で行列Aが具体的にわかっているときには,固有値を求めるなどという面倒な手続きを省略して,コンピュータで無理矢理,力技で行列の指数関数を計算してしまう,という方法があります。

 形式解:(t)={(0)-A-1}exp(-At)+A-1で,

 逆行列:A-1はAからコンピュータで掃き出し法などで計算可能ですし,

 exp(-At)=∑ν=0(-At)ν/ν!であり,コンピュータで行列のベキ乗(power):(-At)νを具体的に計算することも可能です。

 

 そこで,左辺のexp(-At)を右辺の∑ν=0のν=0,1,2,..の最初の数項で近似評価することによって力技で数値的に(t)の近似解を求めることができるわけです

 

 逆に,この近似解と物質濃度の直接測定実験の結果から非線形最小二乗法などによって換気率パラメータ:kijを推定することもできます

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI 

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