素数を分母とする循環小数とその周辺
今日は素数を分母とする循環小数の周辺の話題について書いてみます。
10と互いに素な素数,2と5を除く素数pを分母とする分数 1/pを,
1/p = 0.a1a2..ama1a2..ama1a2..am..なる循環小数で表わすと,
(10m/p)-1/p=(1/p)(10m-1)=(10m-1)/p
=10m-1a1+10m-2a2+..+am=(自然数) なる式が成立します。
そこで,1/pの循環節の長さは(10m-1)をpで割ったときに割り切れるような自然数mの最小値であるということができます。
例えば,分数1/7(素数pが7の1/p)を考えたときには,106-1=999999を7で割ると割り切れて商は142857です。
一方,1/7を小数で表現すると,1/7=0.142857142857142857..となりますから,循環節の長さは確かに6=p-1です。
"Fermatの小定理"から,素数pに対しては10p-1≡1(mod p)が成立するので,(10m-1)をpで割ったときに割り切れる最小の自然数mは必ず(p-1)の約数です。
というわけで循環節の長さが最大となるのはm=p-1のときです。
※ 2006年9/12の記事「オイラーの定理とフェルマーの小定理(合同式)」,続く9/13の記事「フェルマーの小定理の別証明」も参照してください。
では,mが丁度,最大値(p-1)になるのはどういう場合でしょうか?
それは,k=1,2,..,(p-2)に対しては決して10k≡1(mod p)とならないときですから,pが10を原始根とする場合です。
体(Z/pZ)からゼロと合同な元を除いた既約剰余類のつくる巡回群=(Z/pZ)×を剰余類rの巡回群として<r>={1,r,r2,r3,..,rp-2}={1,2,..,p-1}と書くことができるとき,rとして取り得る値がpの原始根の定義です。
そして,pが10を原始根とする場合に限って,1/pの循環節の長さが最大の(p-1)になります。
例えば,p=7のとき10,102,103,104,105,106は7を法として,それぞれ3,2,6,4,5,1となりますから,この場合は10は原始根であり,確かにp-1=6が循環節の長さです。
Gaussによれば,10を原始根とする100までの素数は.7,17,19,23,29,47,59,61,97の9個だそうですから,例えば1/47は循環小数で小数点以下46桁までを繰り返すということになりますね。
実数x以下の自然数で10を原始根とする素数pの個数をπ10(x)とし,x以下の素数全体の個数をπ(x)とします。
それらのx→ ∞での比をCとすると,[π10(x)/π(x)] → Cですが,E.Artinによると,C=Π[1-1/p(p-1)]~ 0.37395だそうです。
Artinのこの予想が正しいとすると,素数定理;
π(x)~ (x/logx)(x→ ∞)を用いることで,
π10(x)~ C(x/logx) と書けることになります。
ところで,Eulerによるゼータ関数:ζ(s)の素数pによる無限積表示:
ζ(s)=Π(1-1/ps)-1で,s=1とおけば,Π(1-1/p)-1=∑(1/n)
です。
そして,∑1n[1/(k+1)]<∫1n(1/x)dx<∑1n(1/k)より,0<[∑1n(1/k)-logn]<1 です。
これから,n→∞に対して∑1n(1/k)-logn→γ (0<γ<1)です。
そこで,x→∞に対して∑1x(1/n)~ logx が成立します。
ただし,γはオイラー数(Euler number)です。
したがって,Eulerの無限積表示:Π(1-1/p)-1=∑(1/n)は,
[-∑log(1-1/p)]~ log(logx) なることを意味します。
ところが,log(1-x)~ -xですから,これは∑(1/p)~ log(logx)であることを示唆していて,素数定理への入り口を与えるものでしょう。
素数定理π(x)~ (x/logx)の証明には,実は,
"ζ(s) の自明でない零点は全てRe(s)=1/2 の上にある。"というリーマン予想(Riemann's hypothesis)は必要なく,
"ζ(s)が Re(s)≧1では零にならない。"という性質だけで十分です。
これを用いてHadamard(アダマール)らによって,素数定理は既に証明されています。
しかし,RiemannはRiemann予想を解決することで,もっと複雑な素数公式を得ることを目指していたらしいですね。
参考文献;黒川信重 他 著「ゼータの世界」(日本評論社)
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