« 非共変ゲージの非局所性(電磁場) | トップページ | 算術幾何平均と楕円積分 »

2006年10月11日 (水)

ボーズ・アインシュタイン凝縮とゼータ関数

 今日はボーズ・アインシュタイン凝縮(Bose-Einstein condensation)とゼータ関数(Zeta)の間の,ほんの少しの関係について述べてみます。 

 量子統計力学によれば,非常に多数個(N個)のボーズ粒子(Boson)のみからなる系が絶対温度Tの平衡状態にあるとき,

  

エネルギーがεrの状態rに存在する平均粒子数nrはBose-Einstein分布:

 n r[exp{(εr-μ)/(kBT)}-1]-1で与えられます。

 

 そして,系の最低のエネルギー状態はεr0 ですから,粒子数rが負になるという有り得ない状況にならないためには,exp{-μ/(kBT)}は常に1より小さくない必要があります。

  

 そこで,Bose粒子では,化学ポテンシャルμは常にゼロ以下である必要があります。

 そして,状態のエネルギー準位密度をg(ε)とすれば,この温度での化学ポテンシャルは,∫0[exp{(ε-μ)/(kBT)}-1]-1g(ε)dε=Nという条件から決まります。

系の体積をV,Planck定数をhとすると,位置座標で積分した後の運動量p空間での半径pの運動量球殻の位相体積要素は4πVp2dpです。

 

量子統計力学の意味では,位相体積:ΔqxΔqyΔqzΔpxΔpyΔpz=h3につき1つの割合で状態が存在するので,運動量球殻の位相体積要素中の状態密度は4π(V/h3)p2dpで与えられます。

 

粒子が自由粒子であると考えると,エネルギーと運動量の関係はε=p2/(2m),またはp2=2mεですから,p2dp=(2mε)1/2mdεより,

  

エネルギー準位状態密度は,g(ε)=2πV(2m/h2)3/2ε1/2で与えられることがわかります。

したがって,(2πV/h3)(2mkBT)3/20[x1/2/{exp(x+α)-1}]dx=Nによってαが決定されます。α=-μ/(kBT)≧ 0 です。

 

1/{exp(x+α)-1}=exp{-(x+α)}/[1-exp{-(x+α)}]=∑n=1[exp{-n(x+α)}]なる級数展開を利用すると,

 

0dx[x1/2/{exp(x+α)-1}]=(π1/2/2)F(exp(-α))

 ≡(π1/2/2)∑n=1{exp(-nα)/n3/2} となります。

 

なぜなら,∫01/2exp(-nx)dx=2∫02exp(-nu2)du

=-(d/dn)(π/n)1/2=π1/2/(2n3/2)だからですね。

そして,関数F(exp(-α))≡∑n=1{exp(-nα)/n3/2}が最大値を取るのは明らかにα=0 のときです。

  

すなわち,F(1)=∑n=1(1/n3/2)=ζ(3/2)≒2.612となるときです。

関数ζはゼータ関数です。

そして,先のαを決めるための条件は(2πmkT/h2)3/2F(exp(-α))=(N/V)という形です。

 

そこで,温度Tを下げてゆくとF(exp(-α))が増加するしかないので,αは正の値からゼロに近づいてゆくわけですが,ゼロを超えて負になることはできません。

  

それ故,極限,つまりα=0 での臨界温度をTcとおけば,規格化条件は,

(N/V)=(2πmkc/h2)3/2ζ(3/2)≒2.612(2πmkc/h2)3/2

となります。

もしも,このTcよりさらに温度Tが低くなれば,もはや

(2πmkT/h2)3/2F(exp(-α)e)=(N/V)という式からは

物理的に意味のある化学ポテンシャルは見つかりません。

 

しかし,実は化学ポテンシャルμが負の値からゼロに近づくとき,

"エネルギーの最低状態=(ε00 のゼロ状態)"を占める粒子数0は,

0[exp{-μ/(kBT)}-1]-1によって無限大に近づきます。

この矛盾が生じた原因は,粒子の総数が∑rr=Nであるという条件式の総和:∑を積分:∫dεに置き換えたためと考えられます。

 

つまり,エネルギー準位密度:g(ε)=2πV(2m/h2)3/2ε1/2ε→ 0 でゼロとなります。

 

このため,正味の無限大へと発散する項:g(ε)[exp{ε/(kBT)}-1]~ const.ε-1/2が,積分∫dεε-1/2の結果で消えるとしてしまったためです。

 

現実には,限りなく大きくなるはずのゼロ状態の粒子数の項が見落とされて切り捨てられたのが原因と解釈されます。

そこで,∑rrからゼロ状態の項だけを抜き出し残りを積分で置き換えるという操作をすれば,

  

(2πmkT/h2)3/2F(exp(-α))=(N/V)の代わりに,

0+V(2πmkT/h2)3/2F(exp(-α))=N なる式が得られます。

 

これが改めてαを決定する式になります。

ところで,0が大きくなって,これが無視できず,Nと比較できるオーダーになるのは,01/{exp(-α)-1}~ Nのとき,つまりα~ (1/N)となるときです。

 

このとき,F(exp(-α))~F(1)=ζ(3/2)≒2.612 と見なしていいですから,0+V(2πmkT/h2)3/2F(exp(-α))=Nなる条件式は,

  

より簡単な温度だけによる表式で,0=N[1-(T/Tc)3/2]と表わすこともできます。

例えばBose気体などでは臨界温度Tcから下では多くの粒子がなだれ的にゼロ状態へと落ち込んでゆくことになりますが,これを理想Bose-Einstein凝縮と言います。

 

液体ヘリウム:4Heでは上式による臨界温度Tcの計算値は,2.13Kですが,これは実際の液体ヘリウムで超流動や超伝導を起こす転移温度:2.19Kと極めて近い値です。

 

実際,現在の理論では超流動や超伝導の主因はBose-Einstein凝縮であるとされています。

電子のようなフェルミ粒子(Fermion)では粒子数分布はFermi-Dirac分布に従うので,こうした凝縮は起きないはずです。

 

しかし,実際の物質中では陽イオンの格子振動を量子化したフォノン(phonon)という量子の交換によって,電子同士にも電荷による斥力を上回る引力が働くため,Cooper対という電子対が構成されることがあります。

 

この電子対は複合粒子としては1つのBose粒子なので,低温でBose-Einstein凝縮を起こし,そのために超伝導が起こるとされています。

 

これは有名なBCS理論(Bardeen-Cooper-Schriefer)ですね。

 

なお,ζ(3/2)=∑n=1(1/n3/2)の近似値をパソコンで計算してみましたがエクセル(Excel)だと1万項の和をとっても2.6に到達しませんでした。

 

そこで,CompaqのVisual-Fortranで計算プログラムを作り,倍精度で10億項まで和をとったところ,

  

項:1/n3/2の大きさが10-14程度のところでζ(3/2)~2.6123121という非常に良い近似値を得ました。

 

参考文献;中村伝著「統計力学」(岩波全書)

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI 

http://blog.with2.net/link.php?269343(ブログ・ランキングの投票)↑ここをクリックすると投票したことになります。

|

« 非共変ゲージの非局所性(電磁場) | トップページ | 算術幾何平均と楕円積分 »

111. 量子論」カテゴリの記事

109. 物性物理」カテゴリの記事

104. 熱力学・統計力学」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ボーズ・アインシュタイン凝縮とゼータ関数:

« 非共変ゲージの非局所性(電磁場) | トップページ | 算術幾何平均と楕円積分 »