同時刻の相対性
特殊相対性理論の比較的軽い話題である"同時刻の相対性"の例としてよく出される有名な仮想実験について簡単に考察してみたいと思います。
まず,特殊相対性理論の基になる原理="いかなる慣性座標系でも光速cは一定である"という光速度不変の原理を仮定し,その結果として慣性系の座標間にLorentz(ローレンツ)変換が成立するとします。
一定速度で走っている電車の,ある列車の中央に爆弾があって,爆弾の両側にはある特定波長の光を感知するセンサーがあるとします。
そして,リモコンでテレビのスイッチを入れるような要領で,列車の両側から爆弾の方へと,特定波長のレーザー光を同時に発射します。
列車中央にある爆弾の両側のセンサーが同時に光が到達したと感知したときに限って爆弾が爆発する,という仮想実験を考えます。
列車の中で列車の両端から同時に光線を発すれば,爆弾は中央にあるのですから,それは確かに爆発します。
これを外の例えばプラットホームに静止している観測者が通過する電車の中の実験として観測したとしても,爆弾が爆発するという同じ事象が観測者によって異なることは有り得ないので,やはり爆弾は爆発すると観測するはずですね。
しかし,静止観測者にとっては光線が到達するまでの時間に中央の爆弾も列車と共に前に移動しているのですから,もしも両端からの光の発射時刻が本当に同時なら,前の方からの光が先に届き,後ろの方からの光は後から届くことになるので爆弾は爆発しないことになります。
これは何か変ですね。
理論の帰結として,こういうことが生じるのであれば,これは"パラドックス=矛盾"であり,理論自体がおかしい,という結論になります。
ところが,実は静止観測者からみれば列車両端からのレーザー光の発射は同時ではなく,前からのレーザー光発射の方が後ろからの発射よりも後であるというのが正解で,光はやはり同時に爆弾に届くので矛盾はないということになります。
これを計算で確かめるため,走っている列車の長さをL,列車の速さをvとし,列車の進行方向を静止系Sのx軸,かつ列車と共にvで走る慣性系S'のx'軸の共通の正の向きとします。
そして,列車中央の爆弾はS'系の原点x'=0 にあるとします。また,γ≡1/(1-v2/c2)1/2と定義しておきます。
列車内では両側からの光が中央の爆弾に届いて,それが爆発するのは両側から光を発射した同時刻からL/(2c)だけ経過した時刻であり,確かに同時刻です。
しかし列車内の時刻をt',静止観測者の同じ時刻をtとすると列車内の座標x'ではLorentz変換によってt=γ(t'+x'v/c2)となります。
そこで,列車内での光の同時発射時刻をt'とすると静止観測者の系での光の発射時刻は前端ではt1=γ[t'+Lv/(2c2)],後端ではt2=γ[t'-Lv/(2c2)]となります。
したがって,前端での発射時刻t1が後端での発射時刻t2より後になっています。t1-t2=γLv/c2>0 ですね。
つまり,この列車内での同時刻が静止観測者にとっては同時刻ではないのですね。こうしたことを"同時刻の相対性"といいます。
そして,外の静止観測者にとって光が爆弾まで走る時間をΔtとすると,その間に爆弾はvΔtだけ前に移動しています。
爆弾がvΔtだけ移動する前の元の中央の位置に静止していたとして,両側からの光がそこに到達するのに要する時間をΔt0とします。
光の走る距離は,前からの距離が中心よりvΔtだけ短く,後ろからの距離がvΔtだけ長いので,両側からの光が爆弾まで届く時刻が同時刻になるためにはt1+Δt0-vΔt/c=t2+Δt0+vΔt/cとなることが必要です。
左辺から右辺を引き算してΔt0を消去すると,c(t1-t2)= 2vΔtとなります。前に計算したt1,t2からc(t1-t2)=γLv/cですからΔt=γL/(2c)ですね。
一方列車内では,光が爆弾まで走る時間はΔt'=L/(2c)ですから,Δt'=Δt/γ=Δt(1-v2/c2)1/2です。
"外部静止系の経過時間Δtよりもvで走る列車内の経過時間Δt'の方が遅い"ということで,有名な"相対論における時間の遅れ"が存在することを意味しています。
列車の長さについては,静止系でみるとLorentz収縮してL/γ=L(1-v2/c2)1/2であるはずなのに,この計算では,逆にγLとなって伸びているように見えて変だと感じるかもしれません。
しかし,そもそもLorentz収縮するのは両端を静止系の同時刻で見たときの運動系の長さです。
今の場合,列車の方のS'系の時刻が同時刻t'であり,列車からみると静止系の方が(-v)で運動しているのですから,列車のS系での長さはγLなのに,それをS'系から見るとγL/γ=LにLorentz収縮していると見るのが正しいのですね。
もしも,静止系で列車の両端をその同時刻tで見ると,Lorentz変換は座標(x,t)と(x',t')の間でx=γ(x'+vt'),かつt=γ(t'+x'v/c2)で与えられます。
前端の座標はx1=γ(L/2+vt1'),後端の座標はx2=γ(-L/2+vt2')であり,また同時刻tはt=γ[t1'+Lv/(2c2)]=γ[t2'-Lv/(2c2)]という変換性を持ちます。
したがって,静止系で見た列車の長さはx1-x2=γL+γv(t1'-t2')=γL-γLv2/c2=γL(1-v2/c2)=γL/γ2=L/γ=L(1ーv2/c2)1/2となって,確かにLorentz収縮した長さL/γ=L(1ーv2/c2)1/2が実現していることがわかりますね。
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