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2006年10月 4日 (水)

原子核のα崩壊の理論(Ⅰ)

 原子番号が (Z+2)の放射性核のα崩壊による半減期を T1/2とし,その崩壊で放出されるα粒子のエネルギーをEとすると,これは

  

 logT1/2=a[Z/(√E)]+b 

 

 という関係式でうまく表現されることが知られています。

    

(※α粒子はヘリウムの原子核:24Heなのでα崩壊により原子番号(Z+2)の放射性核は原子番号Zの原子核になります。)

 

 これは,ガイガー・ヌッタル(Geiger-Nuttall)の法則と呼ばれています。

(ここでのlogは常用対数であり自然対数lnではありません。)

 

 このGeiger-Nuttallの法則を説明した有名なジョージ・ガモフ(George Gamow)のα崩壊の理論は,量子力学に特有のトンネル効果という現象を応用した理論です。

 

 これは,定常的な理論で説明されることも多いようですが,ここでは量子遷移を中心とした非定常的な理論とWKB近似によって理論を展開したいと考えます。

 

(※注:WKB近似とは,Wentzel,Kramers,Brillouinによる近似法で,別名:準古典近似とも呼ばれています。※)

 まず,hをPlank定数とし,hc(h/2π)とします。

 

 α崩壊は初期状態:|i>=ψiから終状態:|f>=ψfへの量子遷移であると考えて,崩壊過程に時間を含む摂動論を適用することにします。

 

 摂動論によれば,摂動HamiltonianをH'とするとき,

 最低次の遷移確率wは,黄金律(Golden rule)として有名な式:

 w=(2π/c)|<f|H'|i>|2ρf(E)で与えられます。

 

 ここで,<f|H'|i>は<f|H'|i>≡∫ψf*H'ψi3xなるH'の行列要素で,ρf(E)は終状態fのエネルギー状態密度です。

 以下,簡単のため,α粒子の軌道角運動量がゼロのS波のみを考えることにします。

 

 すると定常状態の波動関数は動径rだけの関数になるので,

 ψ()=[1/(4π)]1/2u(r)/rと置くと規格化は,

 1=∫|ψ|24πr2dr=∫|u|2drと書けます。

 

 そしてH'もrだけの関数であるとすると,

 <f|H'|i>=∫ψf*H'ψi3x=∫uf*H'uidr

 と書けます。

 

 さらにuiはそのままでufのみ,

 ψf()(ρf(E))1/2=[1/(4π)]1/2f(r)/rのように,

 ∫|uf|2dr=ρf(E)と規格化しておけば,

  

 黄金律はw=(2π/c)|∫uf*H'uidr|2と簡単になります。

 原子核の半径(有効レンジ)をRとし,核力とクーロン斥力の合成されたポテンシャルV(r)を,V(r)=V1(r)=-V0(r≦R);(V0>0),

 V(r)=V2(r)=2Ze2/r(r≧R)とモデル化します。

  

 (MKS単位では係数4πε0が面倒なので,c.g.s.単位を取ります。)

 "α粒子=ヘリウム原子核"の質量をmとすると,Schroedinger方程式は,

 rの1次元方程式となって,

 [-c2/(2m)](d2u/dr2)+(V(r)-E)=0 です。

 

 これは,u=ui,V(r)=V1(r),E=Eiと置けば,

 r≦Rにおける束縛状態ui(r)の満たす方程式になり,

  

 u=uf,V(r)=V2(r),E=Efと置けば,

 r≧Rにおける散乱状態uf(r)の満たす方程式となります。

 そして,核力で束縛されている入射α粒子のクーロン障壁によって受ける摂動H'は明らかにH'(r)=V(r)-V1(r)と書けます。

 

 これはr≦Rではゼロであり,r≧Rでは(V2(r)-V1(r))ですから,

 第1近似の崩壊確率はw=(2π/c)|∫Rf*(V2-V1)uidr|2

 となります。

 この崩壊確率wを求める式の積分で,VはSchroedinger方程式から,

 Va(r)ua=Eaa+[c2/(2m)](d2a/dr2) (a=i,f or 1,2 )

となるので,これを代入します。

 

 Ef=Eiであることに注意し,積分を行う際にuのrによる2階導関数を部分積分によって消去して,r=∞ではuもdu/drも消えることを用いると次の表式が得られます。

 すなわち,崩壊確率w=(2π/c)|∫Rf*(V2-V1)uidr|2は,

w=[(2π/c){c2/(2m)}2|(duf*/dr)ui-uf*(dui/dr)|2]r=Rと表現されます。

 

 このことから,ui(r)とuf(r)の動径rが核半径R付近にある,つまりr~Rのときのそれらの関数形を求めることが非常に重要になります。

(つづく)

 

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