原子核のα崩壊の理論(Ⅰ)
原子番号が (Z+2)の放射性核のα崩壊による半減期を T1/2とし,その崩壊で放出されるα粒子のエネルギーをEとすると,これは
logT1/2=a[Z/(√E)]+b
という関係式でうまく表現されることが知られています。
(※α粒子はヘリウムの原子核:24Heなのでα崩壊により原子番号(Z+2)の放射性核は原子番号Zの原子核になります。)
これは,ガイガー・ヌッタル(Geiger-Nuttall)の法則と呼ばれています。
(ここでのlogは常用対数であり自然対数lnではありません。)
このGeiger-Nuttallの法則を説明した有名なジョージ・ガモフ(George Gamow)のα崩壊の理論は,量子力学に特有のトンネル効果という現象を応用した理論です。
これは,定常的な理論で説明されることも多いようですが,ここでは量子遷移を中心とした非定常的な理論とWKB近似によって理論を展開したいと考えます。
(※注:WKB近似とは,Wentzel,Kramers,Brillouinによる近似法で,別名:準古典近似とも呼ばれています。※)
まず,hをPlank定数とし,hc≡(h/2π)とします。
α崩壊は初期状態:|i>=ψiから終状態:|f>=ψfへの量子遷移であると考えて,崩壊過程に時間を含む摂動論を適用することにします。
摂動論によれば,摂動HamiltonianをH'とするとき,
最低次の遷移確率wは,黄金律(Golden rule)として有名な式:
w=(2π/hc)|<f|H'|i>|2ρf(E)で与えられます。
ここで,<f|H'|i>は<f|H'|i>≡∫ψf*H'ψid3xなるH'の行列要素で,ρf(E)は終状態fのエネルギー状態密度です。
以下,簡単のため,α粒子の軌道角運動量がゼロのS波のみを考えることにします。
すると定常状態の波動関数は動径rだけの関数になるので,
ψ(x)=[1/(4π)]1/2u(r)/rと置くと規格化は,
1=∫|ψ|24πr2dr=∫|u|2drと書けます。
そしてH'もrだけの関数であるとすると,
<f|H'|i>=∫ψf*H'ψid3x=∫uf*H'uidr
と書けます。
さらにuiはそのままでufのみ,
ψf(x)(ρf(E))1/2=[1/(4π)]1/2uf(r)/rのように,
∫|uf|2dr=ρf(E)と規格化しておけば,
黄金律はw=(2π/hc)|∫uf*H'uidr|2と簡単になります。
原子核の半径(有効レンジ)をRとし,核力とクーロン斥力の合成されたポテンシャルV(r)を,V(r)=V1(r)=-V0(r≦R);(V0>0),
V(r)=V2(r)=2Ze2/r(r≧R)とモデル化します。
(MKS単位では係数4πε0が面倒なので,c.g.s.単位を取ります。)
"α粒子=ヘリウム原子核"の質量をmとすると,Schroedinger方程式は,
rの1次元方程式となって,
[-hc2/(2m)](d2u/dr2)+(V(r)-E)=0 です。
これは,u=ui,V(r)=V1(r),E=Eiと置けば,
r≦Rにおける束縛状態ui(r)の満たす方程式になり,
u=uf,V(r)=V2(r),E=Efと置けば,
r≧Rにおける散乱状態uf(r)の満たす方程式となります。
そして,核力で束縛されている入射α粒子のクーロン障壁によって受ける摂動H'は明らかにH'(r)=V(r)-V1(r)と書けます。
これはr≦Rではゼロであり,r≧Rでは(V2(r)-V1(r))ですから,
第1近似の崩壊確率はw=(2π/hc)|∫R∞uf*(V2-V1)uidr|2
となります。
この崩壊確率wを求める式の積分で,VはSchroedinger方程式から,
Va(r)ua=Eaua+[hc2/(2m)](d2ua/dr2) (a=i,f or 1,2 )
となるので,これを代入します。
Ef=Eiであることに注意し,積分を行う際にuのrによる2階導関数を部分積分によって消去して,r=∞ではuもdu/drも消えることを用いると次の表式が得られます。
すなわち,崩壊確率w=(2π/hc)|∫R∞uf*(V2-V1)uidr|2は,
w=[(2π/hc){hc2/(2m)}2|(duf*/dr)ui-uf*(dui/dr)|2]r=Rと表現されます。
このことから,ui(r)とuf(r)の動径rが核半径R付近にある,つまりr~Rのときのそれらの関数形を求めることが非常に重要になります。
(つづく)
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