数列の和とベルヌーイ数
皆さん,ベルヌーイ数(Bernoulli number)というものをご存知でしょうか?
私は,かつて御茶ノ水の予備校のアルバイト講師をしていた時代に,当時同僚のS田先生から,ベキ乗数列の和:Sj(n)=∑k=1nkjはBernoulli数という有理数を係数とするnの多項式で表わすことができる,という話を聞いて,そういう数が存在することを初めて知りました。
そして後になって,こうした数がゼータ関数とも大いに関係がありRiemann予想では重要な意味を持つことも知ったのでした。
今日は,そのとき聞いた数列の和の公式やBernoulli数などについて説明したいと思います。
まず,Bernoullli自身の定義によると,Bernoulli数:Bnとは,
漸化式:∑r=0nn+1CrBr=n+1によって定義される数Brです。
すなわち,n=0 としてB0=1,n=1として,B0+2B1=2よりB1=1/2,
以下,B2=1/6,B3=0,B4=-1/30と続きます。
nが1以外の奇数ならBn=0 となることも証明できますが,
この証明は数列の和の公式の証明の後で行なうことにします。
さて,各項がその項の順番を表わす自然数のベキ乗で表わされる数列の和,謂ゆるべき乗和をSj(n)≡∑k=1nkjとします。
このとき,Sj(n)=∑k=1nkj=∑r=0j[jCrBrnj+1-r/(j+1-r)]なる
等式が成立する,という数列の和の公式を以下で証明します。
例えば,S0(n)=n,S1(n)=n2/2+n/2=n(n+1)/2,
S2(n)=n3/3+n2/2+n/6=n(n+1)(2n+1)/6,
S3(n)=n4/4+n3/2+n2/4=n2(n+1)2/4,
S4(n)=n5/5+n4/2+n3/3-n/30
=n(n+1)(2n+1)(3n2+3n-1)/30 etc.です。
まず,S0(n)=nは自明です。そこでj≧1とします。
2項展開によって,(m+1)j+1-mj+1=∑r=0jj+1Crmrですから,
これをm=1,2..nについて総和することにより,
(n+1)j+1-1=∑r=0jj+1CrSr(n)を得ます。
したがって,Sj(n)=[(n+1)j+1-1-∑r=0j-1j+1CrSr(n)]/(j+1)と書くことができます。
帰納的に考えると,Sj(n)はnj+1/(j+1)で始まるnの(j+1)次多項式ですから,nを連続変数xに拡張してSj(x)はxj+1/(j+1)で始まるxの(j+1)次多項式です。
2つの多項式f(x),g(x)についてf(n)=g(n)が全ての自然数nに対して成り立つなら,f(x)=g(x)が成り立つので,
Sj(n+1)-Sj(n)=(n+1)jによりSj(x+1)-Sj(x)=(x+1)jが成立します。
この恒等式でx=0 とおけば,Sj(1)=1なのでSj(0)=0 を得ます。
そして,Sj(x+1)-Sj(x)=(x+1)jにおいて,両辺をxで微分するとSj'(x+1)-Sj'(x)=j(x+1)j-1です。
x=0,1,2,...n-1とおいて両辺の和を取ると,恒等式:
Sj'(n)-Sj'(0)=jSj-1(n) が得られます。
ここで,bj≡Sj'(0)とします。(ただし,b0=1とします。)
Sj'(x)=jSj-1(x)+bjをさらにxで微分すると,
Sj"(x)=jSj-1'(x)です。この式でx=0 とおいて
Sj"(0)=jbj-1を得ます。
Sj"(x)=jSj-1'(x)をさらに微分して,x=0 とおくと
Sj(3)(0)=j(j-1)bj-2となり,以下,これを繰り返して,
Sj(r)(0)=j(j-1)..(j-r+2)bj-r+1 (r=2,3,.j+1 )
を得ます。
したがって,Taylor展開により,
Sj(x)=∑r=0j+1Sj(r)(0)xr/r!=∑r=1j+1[j+1Crbj-r+1xr/(j+1)]
=∑r=0j[j+1Crbrxj-r+1/(j+1)] が得られます。
この式でx=1とおけば,j+1=∑r=0jj+1Crbrとなります。
したがって,brはベルヌーイ数:Brの定義を満足しており,これらbrが
Bernoulli数Brに一致することがわかります。
そして,同時に,Sj(n)=∑k=0nkj=∑r=0j[j+1CrBrnj-r+1/(j+1)]
=∑r=0j[jCrBrnj+1-r/(j+1-r)]となって,求める数列の和の公式
も証明されます。
ここで,最後の等号では2項係数の簡単な関係式:
j+1Cr/(j+1)=jCr/(j+1-r) を用いました。
次に,jを奇数としSj(x+1)-Sj(x)=(x+1)jにおいて,x=-1とおけば,Sj(-1)=0 です。
そこで,等式:(j+1)Sj(x)=∑r=0jj+1CrBrxj-r+1において,x=-1とおけば,∑r=0jj+1CrBr(-1)r=0 となります。
これを,∑r=0jj+1CrBr=j+1から辺々引けばrが奇数の項だけが残って,2∑s=0(j-1)/2j+1C2s+1B2s+1=j+1となります。
ここで,左辺のs=0 の項は,B1=1/2 により右辺のj+1と相殺するので,結局,∑s=1(j-1)/2j+1C2s+1B2s+1=0 となります。
この式でj=3,5,7...としていくことにより,nが1以外の奇数の場合,
Bn=0 となることが証明されます。
さらに,ベキ級数によるBernoulli数の別の定義を与えておきます。
それは,tet/(et-1)=∑n=0∞Bntn/n! における右辺のべき級数展開の係数BnとしてBernoulli数を定義するものです。
このベキ級数展開表示を母関数表示といいます。
後の定義と前の定義が一致しなければ無意味ですから,両者が同じ定義になっていることを確かめてみましょう。
それには,(∑n=0∞Bntn/n!)(et-1)=tetの両辺のtのベキの係数を比較して,∑r=0nn+1CrBr=n+1が得られることを示せばいいです。
すなわち,後の定義によれば,(∑n=0∞Bntn/n!)(∑m=1∞1tm/m!)
=∑n=1∞[∑r=0n-1Br/{r!(n-r)!}]tn =∑n=1∞tn/(nー1)!
が成立します。
このことから,係数を比較して,∑r=0n-1Br/{r!(n-r)!}
=1/(n-1)! (n=1,2,..)となることがわかります。
これは,n→n+1とシフトして∑r=0nn+1CrBr=n+1を意味します。
こうして,前の定義を示す等式の成立が示されたので,両者の定義が確かに同義であることがわかりました。
参考文献;荒川恒男・伊吹山知義・金子昌信 著「ベルヌーイ数とゼータ関数」(牧野書店)
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コメント
EROICAです。
私のブログにまでコメントありがとうございました。その上、今までROMでも見ていてくださったなんて、嬉しいです。
「田園」。私も大好きです。特に第5楽章が。
「第九」は、2月に1回聴く程度です。
ヴァイオリン協奏曲!
私この曲ものすごく好きなんです。アイザック・スターンの演奏は知りませんが、私のお気に入りは、アルトゥール・グリュミオーがサー・コリン・デイヴィスと演奏したものです。クライスラーのカデンツァが、すごく美しく響く。千住真理子のヨアヒムのカデンツァも好きなのですけどもね。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、1週間に1回くらいは聴いています。
音楽も物理も数学も趣味が合う人だとは、今後ともよろしくお願いします。
投稿: EROICA | 2007年5月 4日 (金) 11時56分
どもEROICAさん、はじめまして。。TOSHIです。
さとみさん、というと「やっぱり物理が好き」のさとみさんですよね。。
ずいぶん、昔の記事にコメントされたなあ、と感じましたが、EROICAさんのブログのこれに相当する記事を見ると、私の記事よりさらに1年も前でした。
「一般相対論を制覇しよう。」というブログでしたら、題名につられてずいぶん前からときどきROMだけはしています。
私もベートーベンは好きですが、月並みですが私は交響曲だとベートーベンは3番の「英雄」よりも6番の「田園」ややはり第9がいいと思います。しかし、ベートーベンで最も良く聞くのは私がクラシックを聞くようになるきっかけとなった「ヴァイオリン・コンツェルト」ですね、この曲のCDではスターンのヴァイオリンでバレンボイムの指揮したものが一番気にいってます。
私の趣味「物理と数学」に対する関心を共有できれば幸いです。今後ともよろしく。。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年4月28日 (土) 20時04分
初めまして。
EROICAというペンネームの者です。EROICAとは、ベートーヴェンの交響曲第3番の題名です。
さとみさんのブログへのコメントから興味を持っておたずねしました。
この記事、私とても面白かったです。私も以下のページでこの問題に触れています。
http://blog.livedoor.jp/taro314159265/archives/50102335.html#comments
この投稿の後、続けて数日は、この問題に関係あることを書きました。
TOSHIさんのブログ、面白い記事が多いので、大いに楽しませてもらいます。
今後ともよろしく。
投稿: EROICA | 2007年4月28日 (土) 07時49分