ファン・デル・ワールスの力と状態方程式
2006年10/14の記事「零点エネルギーとファン・デル・ワールス力」では,希ガスの原子間に働く引力としてファン・デル・ワールス(Van der Waals)の力が存在すること,
そしてその引力ポテンシャルがU(r)=-A/r6(A>0)なる形で与えられることを導きました。
これは希ガスだけではなく,一般に気体分子の分子間力である,と考えることができます。
各気体分子を半径がσの剛体球で近似し,他の分子は決してその半径σより内側には侵入不可能で,衝突しても完全反射されるという等方的モデルを想定します。
これは半径σの内部では,そのポテンシャルΦ(r)がΦ(r)=∞(r<σ)となることに相当します。rはもちろん気体の分子間の距離です。
しかし,半径σの外側r>σでは中性の分子間のVan der waalsの引力が働く,Φ(r)=-ε0(σ/r)6(ε0>0)であるとします。
これを不完全気体の1つのモデルとして,Van der Waalsの状態方程式:(P+a/V2)(V-b)=NkBTを導出しようと思います。
ここでNは体積Vの中にある気体分子の個数,Pは気体の圧力,Tはその絶対温度,kBはBoltzmann定数です。
まず,Helmholtzの自由エネルギーをFとすると,圧力Pは,P=-(∂F/∂V)Tで与えられることがわかっています。
そこで,先のポテンシャルΦを用いて統計力学の"状態和=分配関数"を求め,それによってFを計算するという方針を立てます。
系全体のHamiltonian:Hは仮定によってH=∑pi2/(2m)+∑i<jΦ(rij)で与えられると考えられます。ここでΦ(rij)はi,jの2体粒子間のポテンシャルでrijはi,j間の距離を表わすとします。
古典近似での状態和をZとすると,F=-kBTlogZですが,このZはZ=[1/(N!h3N)]∫exp{-H/(kBT)}dx1dy1dz1...dpxNdpyNdpzN で与えられます。
積分は座標については体積Vの容器の中全体で,運動量については-∞から+∞までの範囲で行ないます。
運動量についての積分は各座標について独立に行なうことができます。
その結果は通常の理想気体と同じなので,Z=(2πmkBT/h2)3N/2Ωとなります。
ここに,ΩはΩ≡(1/N!)∫exp[-∑i<jΦ(rij)/(kBT)]dx1dy1dz1...dxNdyNdzN で与えられる量です。
Φ(r)はrの増加と共に絶対値が急速に減少する関数です。
今fij≡f(rij)≡exp[-Φ(rij)/(kBT)]-1とおけば,rijが大きくなるとfijは急激にゼロに近づきます。
一方,Ω=(1/N!)∫Π(fij+1)dx1..dzN となります。そして,Π(fij+1)~1+∑fij+..と展開されます。
右辺の第3項以降は小さいので無視するという近似をすれば,Ω~(1/N!){VN+[N(N-1)VN-2/2]∫f12dx1dy1..dz2}~(VN/N!){1+(N/V)2/2}∫f(r)4πr2drとなります。
この近似では,さらに近似log(1+x)~xによって,F=-kBTlogZはF=F0-(NkBT/V)(N/2)∫f(r)4πr2drと書けます。
自由粒子のHelmholtzエネルギー:F0では,
-(∂F0/∂V)T=NkBT(dlogV/dV)=NkBT/Vですから,
P=-(∂F/∂V)Tより,PV/(NkBT)~ 1+B(T)/V,
B(T)=-(N/2)∫f(r)4πr2drと書くことができます。
ここで,B(T)は第2ビリアル係数と呼ばれています。
一般には,さらに
PV/(NkBT)=1+B(T)/V+C(T)/V2+D(T)/V3+..
と展開することが可能です。
C(T),D(T)をそれぞれ第3,第4ビリアル係数と呼びます。
しかし,ここではrijが大きくなるとfijは急激にゼロに近づくので右辺第3項以下を切り捨てて第2項までで近似します。
B(T)=-(N/2)∫0∞{f(r)4πr2dr
=-2πN∫0∞{f(r)r2dr
=2πN∫σ∞{1-exp[ε0(σ/r)6/(kBT)]}r2dr
となります。
ここで,{1-exp[ε0(σ/r)6/(kBT)]}
=-∑(σ6ν/r6ν){ε0/(kBT)}ν/ν!なので,
B(T)
=(2πNσ3/3)+2πN∫σ∞{1-exp[ε0(σ/r)6/(kBT)]}r2dr
=(2πNσ3/3)-2πNσ3∑{ε0/(kBT)}ν/[(6ν-3)ν!]
~(2πNσ3/3){1-ε0/(kBT)}です。
すなわち,B(T)~ (2πNσ3/3){1-ε0/(kBT)}となります。
そこで,b≡(N/2)(4πσ3/3),a≡(N2/2)(4πε0σ3/3)/(kBT)とおけば,結局,PV/(NkBT)=1+b/V-a/(NkBTV)となり,
NkBT(1+b/V)=V(P+a/V2)です。
これの両辺を,(1+b/V)で割り,1/(1+b/V)~1-b/Vと近似することによって,Van der Waalsの状態方程式 (P+a/V2)(V-b)=NkBTが得られます。
ここで,b=(N/2)(4πσ3/3)は大体N個の気体分子による排除体積を示していると考えられます。
また,nを単位体積当たりの分子数n≡N/Vとしuを単位体積当たりの並進運動のエネルギーとすると,
-a/V2=(n2/2)∫0∞{Φ(r)4πr2dr です。
これの効果は,理想気体における圧力P=(2/3)uが,不完全気体では,
P=(2/3)u-a/V2=(2/3){u-(3/2)(a/V2)}
=(2/3)[u+(3/2)(n2/2)∫0∞{Φ(r)4πr2dr]
となって,引力ポテンシャルΦ(r)<0 により圧力が低減される意味を持つと考えられます。
そして,係数n2/2は単位体積当たりの2体の組み合わせ:n(n-1)/2 に起因すると考えられますから,項a/V2は圧力P以外の気体分子の凝集力を示していると考えられます。
参考文献:中村伝著「統計力学」(岩波全書) 原島鮮 著「熱力学・統計力学」(培風館)
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