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2006年10月16日 (月)

量子力学の交換関係の問題

 久しぶりに問題を出しますが,今回は簡単なのですぐに解答も添えておきます。

 [B,[A,B]]=0 なら[A,f(B)]=[A,B](d/dB)f(B)であることを証明せよ。

という問題です。

 解答は以下の通りです。

 まず,f(B)=Bnのときには,(d/dB)f(B)=nBn-1ですから,

 [A,Bn]=n[A,B]Bn-1となることが簡単にわかります。

 例えばn=2 のとき,[A,B2]=AB2-B2A=AB2-BAB+BAB-B2A=[A,B]B+B[A,B]ですが,[B,[A,B]]=0 なので[A,B]B=B[A,B]です。

 故に,[A,B2]=2[A,B]Bとなります。

 そこで,n=kに対して[A,Bk]=k[A,B]Bk-1が成立すると仮定して数学的帰納法で証明します。

 [A,Bk+1]=ABk+1-Bk+1A=AB・Bk-BABk+BABk-B・Bk

 =[A,B]Bk+B[A,Bk]です。

 これに,[A,Bk]=k[A,B]Bk-1を代入すると,

 [A,Bk+1]=[A,B]Bk+kB[A,B]Bk-1ですが,[B,[A,B]]=0 より,B[A,B]=[A,B]Bですから,

 [A,Bk+1]=[A,B]Bk+k[A,B]Bk=(k+1)[A,B]Bk

 となります。

 よって,n=k+1でも成立するので,帰納法によって

 [A,Bn]=n[A,B]Bn-1 となることが証明されました。

 このことから,f(B)がBの多項式(polymonial)であるときには[A,f(B)]=[A,B](d/dB)f(B)が成立することも明らかです。

 そこでfが解析的であるとして,これをMaclaulin展開してみます。

 すなわち,f(B)=∑ann,an=[dnf/dBn]B=0/n!と展開します。

 このとき,[A,f(B)]=[A,B]∑nann-1=[A,B](d/dB)f(B)となりますから,fがBで展開可能なら[A,f(B)]=[A,B](d/dB)f(B)となります。

 ところで,演算子の関数とかその微分というのは何を意味するのでしょうか?

 この問題での関数の意味は,xを単なる数の変数としたときのf(x)と,その微分式(df/dx)にxの代わりに形式的に演算子Bを代入したものですね。

 一般に級数展開には収束半径:r>0 が存在しますが,演算子Bにノルムを与えるならf(B)=∑ann は,このノルムが収束半径rより小さいなら強収束する,という意味に取れます。

 そしてBのノルムとしては任意に小さい値を与えることが可能ですから,形式的な公式:[A,f(B)]=[A,B](d/dB)f(B)は,

 特異点を除いて無限回微分可能なあらゆる関数fに対して成立すると考えてよいと思われます。

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コメント

 こんばんは、hirotaさん。TOSHIです。コメントありがとうございます。

 一般に複素関数ならば微分可能=正則なので、これは無限回微分可能を意味し、しかも解析的=ベキ展開可能なことと同義ですから、そうでない関数というのは実関数の範囲の関数なのか、あるいは超関数のたぐいでしょうか?

 検索してみたら変数変換型数値積分に関して、一様乱数の確率分布にしたがうとか、に関係した関数で無限回微分可能だが非解析的なものがあるらしいのですが、くわしくはネットではわかりませんでした。

>もっとも、演算子の関数で級数展開できないモノなんて定義できるんだろうか?

 についてですが、一価でない関数、例えば分岐点のある多価関数、有理式の平方根=ルートなどの無理関数とか、超越関数ですが対数関数などの中には関数としてベキ展開できないものもありますが、そうしたものが演算子の関数である可能性も否定はできないと思います。

 しかし、例えば有名なところでは「クライン-ゴルドン演算子」の平方根=ルートは、いわゆる「ディラック演算子」ですが、もしも4×4のγ行列を用いてこれを線型化することをしなかったならば、一応、演算子のベキで無限展開はできるだろうけど、結局は非局所場になってしまう=相対論を破るという不都合なことが起きるので、単純にこうしたものを物理量の演算子とするのはやはりダメなのでしょうね。

投稿: TOSHI | 2007年7月19日 (木) 21時44分

無限回微分可能なのにベキ級数展開が収束しない関数の例を数学セミナーで読んだ記憶がある。
もっとも、演算子の関数で級数展開できないモノなんて定義できるんだろうか?

投稿: hirota | 2007年7月19日 (木) 17時04分

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