ベルヌーイ数とゼータ関数
前記事の続きです。今日はベルヌーイ数(Bernoulli number)とゼータ関数の関係の一部について述べてみたいと思います。
まず,Bernoulli多項式:Bn(x)というものを定義します。
"Bn(x)は∫xx+1Bn(y)dy=xn が成立する唯一の多項式である。"
と定義します。
Bernoulli多項式:Bn(x)の定義が一意的であることは明らかです。
このBn(x)が,Bn(x)=∑r=0n(-1)rnCrBrxn-r
=B0xn-nB1xn-1+nC2B2xn-2-..(-1)n-1nCn-1Bn-1x+(-1)nBnと書けることは,右辺を直接積分してみればわかります。
実際,上のBn(x)の表式の右辺の変数xをyに変更し,[x,x+1]の区間でyで積分すると,∑r=0n(-1)rnCrBr[(x+1)n+1-r-xn+1-r]/(n+1-r)
となります。
これは前記事で得た公式:Sn(x)=∑r=0n[nCrBrxn+1-r/(n+1-r)]において,xの代わりに(-x-1),および(-x)をそれぞれ代入したものの差を取って(-1)n+1を掛けたものに等しいです。
すなわち,∫xx+1∑(-1)rnCrBryn-rdy=(-1)n[Sn(-x)-Sn(-x-1)] です。
Sn(x)はSn(x+1)-Sn(x)=(x+1)nを満たすxの(n+1)次多項式ですから,この等式のxを(-x-1)に置き換えると,
(-1)n[Sn(-x)-Sn(-x-1)]=(-1)n(-x)n=xn
を得ます。
したがって,多項式の[x,x+1]の区間での積分の一意性によって,
Bn(x)=∑r=0n(-1)rnCrBrxn-rが示されたことになります。
これによって,text/(et-1)=∑n=0∞Bn(x)tn/n!なる恒等式が成立することもわかります。
なぜなら,右辺のxをyに変更して[x,x+1]の区間でyで積分すると,∫xx+1Bn(y)dy=xnによって∑n=0∞xntn/n!=extとなりますが,
左辺を同じようにして積分するとextとなりますから,両辺が共にxで何回でも連続微分可能なため,両辺が等しいことは明らかです。
また,明らかにBn(0)=(-1)nBnです。
text/(et-1)=∑n=0∞Bn(x)tn/n!においてx=1とおくことにより,Bn(1)=Bnもわかります。
nが1以外の奇数ならBn=0 なので,Bn(0)=(-1)nBnより,
Bn(0)=Bn(1)=Bn(n≧2)が成立します。
そして,∫xx+1Bn(y)dy=xnをxで微分すると,
Bn(x+1)-Bn(x)=nxn-1ですから,∫xx+1[Bn'(y)/n]dy=xn-1
より,Bn'(x)=nBn-1(x)も成り立ちます。
ここで,唐突ですが,a,bをa≦bなる任意の整数としMを任意の自然数とすると,区間[a,b]でCM級の任意関数f(x)に対して,
∑abf(n)
=∫abf(x)dx+{f(a)+f(b)}/2+∑k=1M-1[Bk+1{f(k)(b)-f(k)(a)}/(k+1)!]-{(-1)M/M!}∫abBM(x-[x])f(M)(x)dx
なる公式が成立します。
ただし,M=1のときには右辺の∑の項はゼロであると規約します。
これを証明するため,区間 [0,1]においてCM 級の任意関数g(x)と,
B1(x)=(x-1/2)なる関係式を用います。
すなわち,∫01g(x)dx=∫01B1'(x)g(x)dx={g(1)+g(0)}/2-∫01B1(x)g'(x)dxなる等式が成立することを利用します。
Bk'(x)=Bk+1(x)/(k+1)を用いて部分積分を繰り返せば,
∫01g(x)dx
={g(1)+g(0)}/2-(1/2)[B2(x)g'(x)] 01
+(1/2)∫01B2(x)g”(x)dx
=...
={g(1)+g(0)}/2+∑1M-1{(-1)k/(k+1)!}[Bk+1(x)g(k)(x)] 01+{(-1)M/M!}∫01BM(x)g(M)(x)dx
を得ます。
ここで,k≧2 ではBk(0)=Bk(1)=Bkであり,(-1)kBk=Bk でもあるのでこれらの置き換えをします。
結局,{g(1)+g(0)}/2
=∫01g(x)dx-∑k=1M-1{Bk+1/(k+1)!}{g(k)(1)-g(k)(0)}-{(-1)M/M!}∫01BM(x)g(M)(x)dx が得られます。
そして,g(x)≡f(x+n)(a≦n≦b-1)として右辺最後の項の[0,1]での積分変数xをx+nに置き換えます。
n≦x<n+1に対しn=[x]ですから,書き直して,
{f(n+1)+f(n)}/2
=∫nn+1f(x)dx+∑k=1M-1{Bk+1/(k+1)!}{f(k)(n+1)-f(k)(n)}-{(-1)M/M!}∫nn+1BM(x-[x])f(M)(x)dx
となります。
上に得られた式をn=aからn=b-1まで加え合わせた後に,両辺に{f(a)+f(b)}/2を加えることにより,
∑abf(n)
=∫abf(x)dx+{f(a)+f(b)}/2+∑1M-1[Bk+1{f(k)(b)
-f(k)(a)}/(k+1)!]-{(-1)M/M!}∫abBM(x-[x])f(M)(x)dx
が証明されました。
この公式は,Euler-Maclaurinの和公式と呼ばれています。
では,これをRiemannのゼータ関数に適用してみましょう。
まず,∑n=1∞(1/ns)の有限和:∑n=1N(1/ns)を考えることにして,
f(x)≡x-sと定義します。
このとき,f(k)(x)=(-s)(-s-1)..(-s-k+1)x-s-k
=(-1)k(s)kx-s-k です。
ここで,記号:(s)k≡s(s+1)..(s+k-1) を用いました。
ただし,k=0 では(s)k≡0 と規約します。
a=1,b=NとしてEuler-Maclaulinの和公式を使うと,
s≠1なら,∑n=1N(1/ns)
=(1-1/Ns-1)/(s-1)+(1/2)(1+1/Ns)+∑k=1M-1[Bk+1/(k+1)!](s)k(1-1/Ns+k)-{(s)M/M!}∫1NBM(x-[x])x-s-Mdx
が得られます。
Riemannのゼータ関数は,まず,Re(s)>1なる複素数sに対し,
ζ(s)≡∑n=1∞(1/ns) と定義されます。
この範囲では左辺も右辺もN→∞で絶対収束するので,N→∞の極限でも等式として正しく成立します。
そこで,このEuler^Maclaurinの和公式で,N→∞の極限を取ると,
ζ(s)=∑n=1∞(1/ns)=1/(s-1)+1/2+∑k=1M-1[Bk+1/(k+1)!](s)k-{(s)M/M!}∫1∞BM(x-[x])x-s-Mdx
となります。
Re(s)>1ではζ(s)≡∑n=1∞(1/ns)なので,最左辺で∑n=1N(1/ns)のN→∞の極限をζ(s)と表現しましたが,Re(s)>1以外では∑n=1N(1/ns)は有限値に収束しないので,この等式は成立しません。
しかし,最右辺の積分は,Re(s)>1だけでなくRe(s)>1-M の範囲でも絶対収束するので,右辺の和公式によりゼータ関数ζ(s)を定義し直すことによって,自然にRe(s)>1-M の範囲に解析接続されると考えます。
Mは任意の自然数ですから,結局,ζ(s)はs=1に特異点(1位の極)を持つだけで,それを除く全複素s平面に解析接続されます。
ここで,mを任意の自然数とし,ζ(s)のsをs=1-mとおいてM=mとすれば,(1-m)M=0 ですから右辺の積分項は消えてζ(1-m)は次のようになります。
ζ(1-m)=-1/m+1/2+∑k=1m-1[Bk+1/(k+1)!](1-m)(2-m)..(k-m)と書くことができます。
m=1なら,ζ(0)=-1+1/2=-1/2=-B1です。
そこで,m≧2とすると,
(1-m)(2-m)...(k-m)=(-1)kk!m-1Ckですから,
∑1m-1[Bk+1/(k+1)!](1-m)(2-m)...(k-m)
=∑k=1m-1[(-1)kBk+1/(k+1)] m-1Ck=(1/m)∑k=1m-1(-1)k mCk+1Bk+1
=-(1/m)∑k=2m mCkBk=-(1/m)∑k=0m—1mCkBk+1/m+1/2-Bm/m
=-1+1/m+1/2-Bm/m
となります。
よって,いずれにしてもζ(1-m)=-Bm/mが成立するという美しい結果が得られました。
特に,ζ(0)=1+1+1+...+1=-1/2 なる形式的,象徴的な等式も得られ,mが 3 以上の奇数ならζ(1-m)=0 ということも示されたため,
s=-2,-4,-6...がζ(s)の零点であることもわかったことに満足して,今日はここまでにしておきます。
それにしても,"参考文献:荒川恒男・伊吹山知義・金子昌信 著「ベルヌーイ数とゼータ関数」(牧野書店)"は読み返してみるとまた新しい驚きを覚えました。
この種のマニアックな本としては秀逸ですね。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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コメント
Bn(x)の定義が∫[x,x+1] Bn(y)dy=x^n だけだったら、周期1で積分0の任意関数を足しても成り立つから一意的じゃないなー?
と思ったら、多項式という条件が付いてましたね。 失礼しましたー(証明しようとしたら、周期1関数の不定性が出たんで、多項式条件で証明完了です)
そんな戯言は置いといて、美しい結果ですね。
(EMANさんの所に書き込まれたリンクから見に来ました。なにしろ、ここを全部見るのはとっくに挫折してますんで・・)
投稿: hirota | 2008年3月10日 (月) 12時19分