非慣性座標系で現われる慣性力
@nifty物理フォーラムでの「座標変換と遠心力」という質問に関して松田卓也先生から助言を頂いていますが,正直なところ遠心力という言葉にこだわりが強すぎるような気がします。
結局は気象庁の木下篤哉氏や琉球大学の前野(いろもの物理学者)昌弘氏を交えて議論し結論らしいものが出たようです。
松田卓也先生には専門家の中の専門家であるが故のこだわりが見られるようです。
初めの質問はデカルト座標系から極座標に移っただけで,何故遠心力が現われるのかという単純な質問でした。
この単純な質問の中にニュートンの運動の第1法則の存在価値という重要な課題も含まれていますね。
松田先生のご意見はあくまで遠心力という慣性力は重力ではあるかもしれないがそもそも重力というのは時空のゆがみであるという意味でしょうか,それはそもそも力ではないというものでした。
向心力というものがあるのであって,遠心力などという力などない,あるとしても回転座標系で現われるものであり,非加速系である極座標で現われる項は遠心力と呼ぶべきではない,ということでした。
私はあえて反論はしませんでしたが,そもそも非慣性系で慣性力が現われるのはごく自然なことです。
座標変換が運動系への変換ではなくても,擬似的に一般座標での加速度に対して外力以外の寄与があるのは当然のことですね。
簡単のために2次元で考察します。
x=x(ξ,η),y=y(ξ,η)なる直交曲線座標変換に対して,dx/dt=(∂x/∂ξ)(dξ/dt)+(∂x/∂η)(dη/dt),dy/dt=(∂y/∂ξ)(dξ/dt)+(∂y/∂η)(dη/dt)です。
そこで,Lagrangian:L=T-Uにおいて,T=(m/2)[{(∂x/∂ξ)2+(∂y/∂ξ)2}(dξ/dt)2+{(∂x/∂η)2+(∂y/∂η)2}(dη/dt)2]
です。
"運動方程式=Euler-Lagrange方程式"の1つである
(d/dt)[∂L/∂(dξ/dt))]―∂L/∂ξ=0
を書き下します。
m{(∂x/∂ξ)2+(∂y/∂ξ)2}(d2ξ/dt2)
-m{(∂x/∂ξ)(∂2x/∂ξ2)+(∂y/∂ξ)(∂2y/∂ξ2)}(dξ/dt)2-m{(∂x/∂η)(∂2x/∂η∂ξ)+(∂y/∂η)(∂2y/∂η∂ξ)}(dη/dt)2+∂U/∂ξ=0 です。
明らかに,m(d2ξ/dt2)=Fξ+(慣性力)という形にならざるを得ないことがわかりますね。
例えば,平面極座標x=rcosθ,y=rsinθなら,運動方程式は,
m(d2r/dt2)=-∂U/∂r+mr(dθ/dt)2,
および m(d2θ/dt2)=-(∂U/∂θ)/r2 となります。
局所的な回転角速度があれば遠心力が働きます。
さらに3次元ならCoriolis力も現われますが,ある意味でこれらが現われるのは非慣性系の宿命なのです。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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コメント
こんにちは。hirotaさん、TOSHIです。コメントありがとうございます。
私が主張した内容の例として、量子力学で波動方程式を極座標で書いたときに、波がS波ではなく軌道角運動量 l が 0 でないP波以上の場合なら、角運動量による部分が 0 ではなくて、このときこれを遠心力ポテンシャルとか遠心力障壁とか、呼ぶのが慣例になっていることなどを証拠として主張したわけですが、松田先生も量子力学では確かにそう呼ばれていることを認められましたが、その使用法自体も誤用ではないか?とのご見解でした。まあ、ある意味、これは本質的な問題ではないので目くじらを立てるほどのこともありませんが。。
くわしい顛末はfolomy内にある旧ニフティ物理フォーラムの過去ログをご覧ください。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年7月20日 (金) 15時53分
なーるほど、簡単な例で言うと、慣性系で等速直線運動してる物体があったとき、極座標なら「位置座標の二回微分がゼロでないから遠心力がある」というのがTOSHIさんの立場で、「慣性系の等速直線運動だから加速度も力もない」というのが松田先生の立場ですね。
なお、僕の受けた教育では松田先生の立場になります。
投稿: hirota | 2007年7月20日 (金) 13時46分