結晶内での弾性波(地震波)
今日は等方的とは限らない一般の結晶内での弾性波,特に地震波について考察してみます。
弾性体の密度をρ,応力テンソルを{σjk},それを構成する部分の局所的速度をu={uj}とすると,この弾性体が従うべき運動方程式は流体方程式と同じくρd2uj/dt2=∂σjk/∂xkで与えられます。
そして,歪み速度テンソル{ujk}をujk≡(∂uj/∂xk+∂uk/∂xj)/2で定義すれば,これは{σjk}と同じく反対称の単なる回転を除いた対称テンソルです。これは6個の独立成分を持ちます。
微小変位に対しては適切な線形弾性体近似では,Hookeの法則:
σjk=Cjklmulmが成立するため,先の運動方程式は,
ρd2uj/dt2=Cjklm(∂2um/∂xk∂xl)となります。
Cjklmは,一般に81個の成分を持ちますが,{σjk}も{ujk}も対称テンソルなのでjとk,lとmについて対称ですから,独立成分は6×6=36個となります。
また,歪みエネルギーWはΔW=σjkΔujkから求まり,対称2次形式W=(1/2)Cjklmujkulmになるので,Cjklmはj,kとl,mの交換についても対称であり,結局,その独立成分は(30/2)+6=21個となります。
この方程式の平面波の解をuj=u0jexp[i(kr-ωt)]として代入すると,ρω2uj=Cjklmkkklumとなります。
これは書き直すと(ρω2δjm-Cjklmkkkl)um=0 とも書けます。
この1次方程式が自明でない解を持つためには,3行3列の行列係数:(ρω2δjm-Cjklmkkkl) (j,m=1,2,3)の行列式がゼロ,
すなわち,det(ρω2δjm-Cjklmkkkl)=0 が成立する必要があります。
そして,ω2を未知数としてこの方程式を解けば,ω2の3個の解が得られ,それらはkの関数となります。
ところで,もしも結晶が等方性弾性体であれば,歪みエネルギー:
W=(1/2)Cjklmujkulmは,座標系の回転に対して不変なスカラーであるはずですが,ujkの2次形式の形で得られる独立な不変スカラーはukk2とujkujkのみです。
そこで,適当な係数λ,μを選んでW=(1/2)λukk2+μujkujkと書けるはずです。
そこで,応力テンソル{σjk}={Cjklmulm}は,σjk=λullδjk+2μujkと書けます。ここに弾性定数λ,μはLameの定数と呼ばれています。
このときには,運動方程式も,
ρd2u/dt2=(λ+μ)∇(∇u)+μ∇2u
と簡単になります。
先に挙げた1次方程式の係数の行列要素は,
ρω2δjm-Cjklmkkkl=(ρω2-μk2)δjm-(λ+μ)kjkm
となります。
kの向きをx軸の正の向きに取ると,k1=k=|k|,k2=k3=0 ですから,行列[(ρω2-μk2)δjm+(λ+μ)kjkm]は対角成分が[ρω2-(λ+2μ)k2]と2つの(ρω2-μk2)の対角行列になります。
したがって,det(ρω2δjm-Cjklmkkkl)=0 の解は,
VP2≡(ωP/k)2=(λ+2μ)/ρ,VS2≡(ωS/k)2=μ/ρ
となります。
それぞれの速度に対応する平面波は,速度VPで伝播する波の伝播方向への振動である"縦波=P波"と,速度VSで伝播する波の伝播方向に垂直な方向の振動である"横波=S波"です。
しかし,もしも異方性の弾性体の場合ならω>0 の3つの解ω(k)はkの関数として1次の同次式ではあっても,単なる1次関数とは限らず,弾性波は一般に分散性の波であると思われます。
そこで,伝播速度は"単一波の速度=位相速度"ではなく,群速度V=∂ω/∂kで与えられると考えられます。
ところで,σjkやujkを[σ]=t(σ11,σ22,σ33,σ23,σ31,σ12)のように,6次元の列ベクトルで表わすVogitの表記という表記法があります。
この表記で表現すると,Hookeの法則は[σ]=C[u]と簡単になります。
ここでCは6行6列のテンソル行列です。
また,このとき,特に結晶が等方性弾性体なら,
Cの成分のうちで独立なのはやはり2つだけです。
先に述べたLameの定数はλ=C12,およびμ=C44=(C11-C12)/2 と表わされます。
例えば結晶が立方体構造をしている立方晶系では独立成分は3つです。
つまり,C11=C22=C33,C12=C23=C31,かつ4~6行の成分は4~6列しか成分のない対角行列であって,C44=C55=C66です。
結局,この結晶構造を示すにはC11とC12とC44の3つだけあれば十分である,ということになります。
この条件では,x軸をkの向きに取り,先のdet(ρω2δjm-Cjklmkkkl)= 0 はCjklmをボイトの表記でCを表わせば,ξ=(ω/k)2,a=C11/ρ,b=C44/ρ,c=C12/ρとして,(ξ-a)(ξ-b)2=0 です。
この解はξ=a,bとなります。
つまり速度をVP,VSとすると,VP2=C11/ρとVS2=C44/ρの2つの速度が得られます。
これは等方性弾性体でのC44=μ,C11=λ+2μのケースと一致します。
一方,六方晶系ではC11=C22で,C13=C23,また4~6は対角行列でC44=C55,C66=(C11-C12)/2です。
故に,結局のところ,C11,C12,C13,C33,C44の5つだけがあれば十分となります。
結果だけ書くと,VP2=C11/ρ,およびVS2=C44/ρ,(C11-C12)/(2ρ)となり,"横波=S波"には2つの速度があるので地震の観測ではS波の方に二重の波が観測されると予測されます。
ただし,異方性の結晶では一般に波は完全にS波とP波になるように行列が対角形になるとは限らないので,これらの計算においては偶々波の進行方向が結晶の対称軸と一致したり直交していたりする特別なケースだけしか扱っていません。
一般的な扱いについては,暇があってその気になればまた記事にするかもしれません。
参考文献;ランダウ=リフシッツ 著「弾性理論」(東京図書),角谷典彦 著「連続体力学」(共立出版)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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