星の重力平衡とエネルギーの流れ
星(恒星)は重力によって束縛されたガスの塊りで,その表面から核融合などの反応で得られたエネルギーを放出しています。
こうしたメカニズムの一端を述べてみようと思います。
まず,今日は球対称な星の重力平衡の話から始めます。
中心から半径がr,r+drにおける圧力をP,P+dPとすると,この圧力差によってrとr+drの間のガスはrの増加する向きに単位面積当たり-dPの力を受けます。
一方,同じ領域のガスはrの内側の質量M(r)による重力で中心に向かって引き付けられています。
そこで,万有引力定数をG,半径rの位置の密度をρ(r)とすると,重力平衡の条件=釣り合いの条件は,-dPΔS={GM(r)ρ(r)ΔV/r2}
={GM(r)ρ(r)/r2}ΔSdr で与えられます。
つまり-dP/dr=GM(r)ρ(r)/r2 です。
また,M(r)はM(r)=4π∫0rr2ρ(r)drと書くことができます。
他方,Pとρは一般に温度Tや組成の平均分子量μなどから決まる,ある気体の状態方程式:P=P(ρ,T,μ)を満足するはずです。
このため,温度Tを決定する関係式が必要となります。
そのためには星の内部でのエネルギーの流れを考える必要があります。
星の内部の点でのガスのエネルギー密度をE,そこでのエネルギー流束をFとし,εを単位質量当たりの星によるエネルギー発生率とすると,エネルギー保存の方程式は,∂E/∂t+∇F=ρεで与えられます。
そこで,L(r)を半径rの球面を単位時間に横切るエネルギーの総量とすると,L(r)=4πr2Frですから,dL/dr=4πd(r2Fr)/dr
=4πr2∇F=4πr2(-∂E/∂t+ρε)です。
FrはFのr方向の成分です。
平衡状態では,∂E/∂t=0 ですから,エネルギー保存の方程式は,
dL(r)/dr=4πr2ρεとなります。
ここで,理論的にλ=4acT3/(3κρ)なる式が成立することを証明しておきます。
Iを光の強度(単位時間当たりに単位面積を通過する単位立体角当たりの光のエネルギー)とすると,エネルギー流束はF=∫IcosθdΩ=πIで与えられます。
そして,熱平衡で完全黒体のときにはI=J≡acT4/(4π)です。
光の強度Iとエネルギーの流束Fの違いは,あらゆる方向から直進してきた強度Iの光がその断面積をあらゆる方向に通過するのに対し,
流束Fの方は,その断面に垂直な成分のみを総和したという意味になっているということです。
振動数がνの光の流束と光の強度をFν,Iνとすると,
F=∫Fνdν,I=∫Iνdνです。
それに対応して平衡状態での理想的な黒体輻射の法則を,
J=∫Jνdνと書いておきます。
ある物質の距離dsを通過する間に,Iνが物質によってανIνだけ吸収され,物質からjνの光放出を受け,さらに全体として散乱の寄与を受けるとすれば,
dIν/ds=-ανIν+jν-ανSC(Iν-Jν)
=-(αν+ανSC) (Iν-Sν)となります。
ανSCは散乱係数で,Sν≡(jν+ανSCJν)/(αν+ανSC)です。
ここで,簡単のために物質の温度や吸収係数がz方向のみに変化するとして考察することにすれば,対称性によって光の強度もzとその方向となす角度θのみに依存します。
θ方向への光の流れを考えると,ds=dz/cosθより,
cosθ{∂Iν(z,θ)/∂z}=-(αν+ανSC)(Iν-Sν),
または,Iν(z,θ)=Sν-cosθ(∂Iν/∂z)/(αν+ανSC)
です。
星の内部では局所的に熱平衡にあると見なせるので,第ゼロ近似として,
Iν(0)(z,θ)=Sν(0) =Jν(T)と取ります。
そして第1次の近似を行なえば,Iν(1)(z,θ)
=Jν(T)-cosθ{Jν(T)/∂z}/(αν+ανSC)
となります。
そこでエネルギーの流束として正味の値,向きが反対の光も考慮してθを 0~πの範囲に取ると,
Fν(z)=∫Iν(1)cosθdΩ
=2π∫-11Iν(1)cosθd(cosθ)=
-[4π/{3(αν+ανSC)}]{∂Jν(T)/∂z}
を得ます。
∂Jν(T)/∂z={∂Jν(T)/∂T}(dT/dz)ですから,
F(z)=∫Fν(z)dν
=(-4π/3)(dT/dz)∫(∂Jν/∂T)/{ρ(κν+κνSC)}dν
となります。
ここで,αν=ρκν,ανSC=ρκνSCとしました。
さらに,∫(∂Jν/∂T)dν=(∂/∂T)(∫Jνdν)
=(∂/∂T){acT4/(4π)}=acT3/πを使用し,
Rossland平均:1/κ≡[∫(∂Jν/∂T)/(κν+κνSC)dν]/[∫(∂Jν/∂T)dν]による吸収係数κを定義すると,
F(z)=-{4acT3/(3κρ)}(dT/dz)
が得られます。
そして,1次元zから球対称rに移行すれば,L(r)=4πr2Frで,
Fr=-{4acT3/(3κρ)}(dT/dr)となります。
以上で証明は完了しました。
こうした吸収,散乱の他に,熱伝導によるエネルギーの減衰も考えると物質の吸収のκをκrad,熱伝導率をκcondとして,1/κ=1/κrad+1/κcond とする必要があります。
取り合えず,今日はここまでにします。
参考文献:佐藤文隆,原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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