移流拡散方程式を解く
特殊な条件の下で移流拡散方程式を解いてみたいと思います。
これは30年ほど前,就職した会社で配属後に計算したものの転載です。
点源から,不断にQ(m3/s)の気体物質が排出され,風速は一様でv=(u,0,0)で与えられ,拡散係数:Kx,Ky,Kzが定数である場合の濃度計算を考えます。
まずは,点源は原点にあるとします。
このとき,気体物質の体積濃度Cに対する拡散方程式は,
∂C/∂t+u(∂C/∂x)=Kx(∂2C/∂x2)+Ky(∂2C/∂y2)
+Kz(∂2C/∂z2)+Qδ3(r) と書けます。
これを解くため,濃度:C=C(r,t)のFourier変換式を,
C(r,t)≡{1/(2π)3}∫d3kC^(k,t)exp(ikr)とします。
これを上のr≠0での拡散方程式に代入すると,C^=C^(k,t)に対する方程式として∂C^/∂t+(Kxkx2+Kyky2+Kzkz2+ikxu)C^=0
が得られます。
故に,C^(k,t)=C^(k,t0)exp[-(Kxkx2+Kyky2+Kzkz2+ikxu)(t-t0)]と書くことができます。
そして,C^(k,t0)=∫d3r'C(r'+r,t0)exp[-ik(r'+r)]ですから,C(r,t)={1/(2π)3}∫d3kC^(k,t0)exp[-(Kxkx2+Kyky2+Kzkz2+ikxu)(t-t0)+ikr]={1/(2π)3}∫d3r'C(r'+r,t0)∫d3kexp[-(Kxkx2+Kyky2+Kzkz2)(t-t0)-i{kr'-kxu(t-t0)}] を得ます。
ところが,
∫d3kexp[-(Kxkx2+Kyky2+Kzkz2)(t-t0)-i{kr'-kxu(t-t0)}]
=∫exp[-Kx(t-t0){kx+i[x'-u(t-t0)]/[2Kx(t-t0)]}2]dkx∫exp[-Ky(t-t0){ky+iy'/[2Ky(t-t0)]}2]dky∫exp[-Kz(t-t0){kz+iz'/[2Kz(t-t0)]}2]dkzexp[-{x'-u(t-t0)}2/{4Kx(t-t0)}-y'2/{4Ky(t-t0)}-z'2/{4Kz(t-t0)}]
です。
Gauss積分を実行することにより,
右辺=[π3/{KxKyKz(t-t0)3}]1/2exp[-{x'-u(t-t0)}2/{4Kx(t-t0)}-y'2/{4Ky(t-t0)}-z'2/{4Kz(t-t0)}]
となります。
したがって,C(r,t)=(1/8)[1/{π3KxKyKz(t-t0)3}]1/2
∫d3r'C(r'+r,t0)exp[-{x'-u(t-t0)}2/{4Kx(t-t0)}-y'2/{4Ky(t-t0)}-z'2/{4Kz(t-t0)}]です。
特に初期瞬時濃度が排出強度Q'そのもの,C(r,t0)=Q'δ3(r)なら,
C(r,t)=(Q'/8)[1/{π3KxKyKz(t-t0)3}]1/2exp[-{x-u(t-t0)}2/{4Kx(t-t0)}-y2/{4Ky(t-t0)}-z2/{4Kz(t-t0)}]
となりますね。
そこで,排出量が単位時間当たりQ,つまり,微小時間dt0ではQ'=Qdt0である場合,これを代入してt0で積分します。
定常状態の濃度C(r)は,これで得られるはずです。
C(r)=∫0∞dt0(Q/8)[1/{π3KxKyKz(t-t0)3}]1/2exp[-{x-u(t-t0)}2/{4Kx(t-t0)}-y2/{4Ky(t-t0)}-z2/{4Kz(t-t0)}]と書けます。
この時間積分を実行すると,
C(r)=(Q/4)[1/{π2KxKyKz}]1/2(x2/Kx+y2/Ky+z2/Kz)-1/2 exp{ux/(2Kx)}exp(-u(x2/Kx+y2/Ky+z2/Kz)1/2/(2Kx1/2))
となります。
特にx,yを水平方向,zを鉛直上向き方向としたとき,一般に地上付近を考えるならばx,y>>zです。
また,水平方向の対称性からKx=Ky=KH とすると,
(x2/Kx+y2/Ky+z2/Kz)1/2~ R/KHと考えることができます。
ただし,R≡(x2+y2)1/2は点源からの水平距離です。
そこで,C(r) ~ [Q/(4π)][1/(RKHKz1/2)]exp {ux/(2KH)-u{R2/(2KH)2+z2/(4KzKH)1/2}]です。
さらに風下方向xがyよりも風に流される影響が優勢と考えて,
x>>yとするとき,
ux/(2KH)-u{R2/(2KH)2+z2/(4KzKH)1/2} ~ ux/(2KH)-ux/(2KH)[1+y2/(2x2)+KHz2/(2Kzx2)]と近似すれば,
C(r) ~ [Q/(4π)][1/(xKHKz1/2)]exp[-uy2/(4KHx)-uz2/(4Kzx)] となります。
ここで,σx2=σy2=2KHx/u,σz2=2Kzx/uと書けば,
C(r)~[Q/(2πσxσzu)]exp[-y2/(2σy2)-z2/(2σz2)]
となります。
しかし,一般には地上z=0 より下のz<0 には拡散しないので,
z=0 で境界条件として∂C/∂z=0 なる反射条件が成立します。
規格化定数は,上半面z>0 のみを対象空間とするため,先の値の2倍となります。
また,拡散式は発生点源より風上のx≦0 ではC(r)=0 であるという境界条件をも満足する必要があります。
さらに,点源が高さz=He=(有効高さ)を持つなら,地下z=-Heにも仮想の鏡像点源があるとすれば∂C/∂z=0 を満たす解となります。
濃度は,C(r) ~ [Q/(2πσxσzu)]exp{-y2/(2σy2)}[exp|-(z-He)2/(2σz2)+exp|-(z+He)2/(2σz2)]]と変更されます。
行政では,簡易式として,y方向について-∞ から+∞ まで積分し,その濃度が円周2πRではなくて,16等分した風向の風下扇形(π/8)R部分に全て分配されると仮定して近似した式が採用されているようです。
すなわち,濃度は風向をx軸として,C(r)~C(R,z)
~ [Q/{(2π)1/2(π/8)Rσzu}][exp|-(z-He)2/(2σz2)+exp|-(z+He)2/(2σz2)]] で与えられる,という簡易式を多用するようです。
これらの式は,有風時プルーム(plume)式と呼ばれています。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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