星の構造(ポリトロープガス球とエムデン解)
前回の議論において,4つの未知数P.ρ,L,Tに対する4つの方程式が得られました。
すなわち,①dP/dr=-(4πGρ(r)/r2)∫0rr2ρ(r)dr,
②P=P(ρ,T,μ),③dL/dr=4πr2ρε,
④dT/dr=-(1/λ){L/(4πr2)};λ=4acT3/(3κρ)
の4つです。
そこで,星の中心;r=0 でL=0 ,表面:r=RでP=P表面 ~ 0 ,T=T表面 ~ 0 (中心のTに比べ表面のTは無視できるほど小さい)という境界条件を与えます。
化学組成によりμやκがわかり,核反応の詳細なメカニズムの解明によりεがわかれば,①~④を解くことが原理的には可能となるので平衡状態での星の構造を知ることができると考えられます。
ただし,それでもまだ条件的には解くことがむずかしいと思われるので,式④dT/dr=-(1/λ){L/(4πr2)}の代わりになるようなより簡明な温度勾配の式を与えるモデルを考えてみます。
一般に,断熱変化での温度勾配はdT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)と表わすことができます。
nは状態方程式PV=U/nを満たすnを意味します。
非相対論的気体分子ならPV=(2/3)Uよりn=3/2,光子気体のような相対論的気体ならPV=U/3よりn=3です。
これは次のような考察で導くことができます。
すなわち,並進以外の回転や振動などの自由度を無視すれば,Nを体積(Vの気体を構成する粒子数とすると,U=nNkBTです。
したがってPV=NkBTですが,dU=nNkBdTで断熱変化ではdU+PdV=0 によって,PdV=-nNkBdTが成立します。ここでkBはBoltzmann定数です。
それ故,PV=NkBTよりPdV+VdP=NkBdTなので,-nNkBdT+NkBTdP/P=NkBdT,(n+1)dT/T=dP/Pとなりますから,結局,dT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)が得られます。
これは,1/(n+1)=d(logT)/d(logP)を意味しますから,PT-(n+1)=(一定),あるいはPρ-(n+1)/n=(一定)となります。
P=kρ(n+1)/n=kρ1+1/n (kは定数)と書いても同じです。
そして,④式の温度勾配:dT/dr=-(1/λ){L/(4πr2)}と断熱変化の温度勾配dT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)は,dP/dr<0 なのでどちらも負の値になります。
温度勾配の絶対値:|dT/dr|が断熱変化のそれより大きいなら,輻射や熱伝導だけでは平衡を保つだけのエネルギーを輸送ができず,流体(ガス)自体の運動が生じる必要があります。これを対流と呼びます。
そして,こうした大きい温度勾配の状態は対流が生じるという意味で不安定なので,最終的にはdT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)に落ち着くか,より安定な温度勾配に落ち着きます。
これを対流平衡といいます。
これらから,Pとρの間に次のような関係があると仮定します。
すなわち,d(logρ)/d(logP)=N/(N+1)が成り立つとします。このとき,P=kρ(N+1)/N=kρ1+1/N(kは定数)が成立します。
このNのことをポリトロープ指数(Polytropic index)と呼びます。
通常の理想気体の断熱変化ではcv,cpをそれぞれ定積比熱,定圧比熱としてγを比熱比γ≡cp /cvとすると,P=kργ (kは定数)となるのでγ=d(logP)/d(logρ)であり,このときのポリトロープ指数NはN=1/(γ-1)で与えられます。
Kelvinは,断熱変化でなく対流平衡でもδQ=cdTとなるケースがあることに気づきました。
例えば湿潤大気では乾燥大気とは異なる対流平衡が存在し得ることを示すこともできます。
Emden(エムデン)はこれを一般化して,δQ=cdTなる変化をポリトロープ変化と呼んで考察しました。
これはc=0 では断熱変化,c=∞では等温変化,c=cv,cpでは,それぞれ定積変化,定圧変化になるという意味で一般的な記述になっていると考えられます。
そしてδQ=cdTというポリトロープ変化でも,あるNについてP=kρ1+1/N(kは定数)が成立することを導くことができます。
すなわち,δQ=dU+PdVにおいてcv=(∂Q/∂T)V=(∂U/∂T)Vですが,理想気体なら(∂U/∂V)T=0 なので,(∂U/∂T)V=dU/dT,PV=NkBTよりδQ=(dU/dT+NkB)dT-VdPです。
そこでcp=(∂Q/∂T)P=dU/dT+NkB,つまりcp-cv=NkB(Mayerの公式)が成立します。
δQ=cdTならδQ=dU+PdVはcdT=cvdT+(cp-cv)TdV/Vより,(cv-c)dT/T+(cp-cv)dV/V=0 と書けます。
γ'≡(cp-c)/(cv-c)とおけばc=0 のときはγ'=γです。
一般には(cp-cv)/(cv-c)=γ'-1ですからdT/T+(γ'-1)dV/V=0 ,つまりd{log(TVγ'-1)}=0 となってTVγ'-1=(一定),
あるいはPVγ'=(一定)を得ます。
したがって,1/γ'≡N/(N+1)とおけばγ'=1+1/N(N=1/(γ'-1))であり,P=kρ1+1/N(kは定数)が得られます。
P=kρ1+1/N(kは定数)④'を④の代わりに用いたガスによる球対称の星をポリトロープガス球(Polytropic gas sphere)と呼びます。
① の両辺を(r2/ρ)倍した後,さらにrで微分すると(d/dr){(r2/ρ)dP/dr}=-4πGρr2となります。
この方程式にP=kρ1+1/N(kは定数)を代入すると,Lane-Emdenの式と呼ばれる微分方程式:(1/ξ2)(d/dξ){ξ2dθN(ξ)/dξ}=-[θN(ξ)]Nが得られます。
ここで,ρ≡ρc[θN(ξ)]N,r≡αξ,α≡(N+1)1/2[Pc/(4πGρc2)]1/2であり,ρcは中心の密度,Pc は中心圧力です。
ただし,θN(0)=1でξ,θNは無次元量です。
θNが満たすべき条件は,θN(0)=1の他には,ξ=r=0 においてdP/dr=0 ,すなわちθN'(0)=0 です。
そしてこの方程式の解をEmden解と呼びます。
この方程式の一般のNに対する解を求めるには数値計算が必要ですが,N=0,1,5 の場合は解析的に厳密解を求めることができます。
ここでは,証明を省略してそれらの解を列記しておきます。
θ0(ξ)=1-ξ2/6,θ1(ξ)=sinξ/ξ,θ5(ξ)=1/(1+ξ2/3)1/2です。
上記の解の陽な表現によれば,θ0(ξ),θ1(ξ)にはθN(ξ)=0 となるξが存在しますが,θ5(ξ)はξが有限の範囲ではゼロにはならず,これは半径が∞であることを意味します。
一般に,θN(ξ)>0 なら,dθN/dξ=-(1/ξ2)∫0ξξ2{θN(ξ)}Ndξ< 0 なので,その範囲ではθN(ξ)は単調減少関数です。
そして,θN(ξ)が最初にゼロになるところが星の表面です。
その表面に相当するξ=r/αの値をξNとおくと,N<5 のときの星の半径RNは,RN=αξN=[Pc/(4πGρc2)]1/2(N+1)1/2ξNです。
星の質量Mは,M=∫0RN4πρr2dr=-4πα3ρc∫0ξN(d/dξ)[ξ2{θN(ξ)}N]dξ=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φNとなります。
ただしφN≡-(N+1)1/2[ξ2dθN(ξ)/dξ]ξ=ξNです。
定数であるφNはNによる変動が小さいので,M=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φNはMとPc,ρcの関係を知ることができる式になっています。
N=5のときには半径が∞ですが質量Mは有限です。
しかし,N>5のときは質量,半径ともに∞になりますから,N>5は現実的な解を与えるとは思われません。
参考文献:佐藤文隆,原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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