ブラソフ方程式の解とプラズマ乱流の渦
前記事の続きです。
ブラソフ方程式(Vlasov equation):∂f/∂t+v∂f/∂r-(eE/m)∂f/∂v=0 を実際に解いてみます。
ただし,時間tを陽には含まない定常解に対する方程式:
v∂f/∂r-(eE/m)∂f/∂v=0 の解を求めます。
今から述べる解はBGK解(Bernstein-Greeene-Kruskal solution)として知られています。
実は,1電子のエネルギーをH=mv2/2-eφと書くと,Hの任意関数f(H)が方程式:v∂f/∂r-(eE/m)∂f/∂v= 0 を満足することがわかります。
ただし,ここでの記号HはHamiltonianを意識しているわけではなく,今の場合,電場Eと区別するためにエネルギーの記号Eの代わりにHを用いているだけです。
実際,∂f/∂r=-e(df/dH)∇φ=eE(df/dH)
であり,∂f/∂v=mv(df/dH)ですから,
f(H)はv∂f/∂r-(eE/m)∂f/∂v= 0
を確かに満たすことがわかります。
そこで,後はE,またはφとf(H)が,ε0∇E=-e∫f(r,v,t)dv+en0,またはε0∇2φ=e{∫f(H)dv-n0}を満たすようにf(H)の関数形を決めるだけでよいことになります。
そして,H=mv2/2-eφより∫f(H)dv=4π∫0∞f(H)v2dv=(8π/m)∫f(H)(H+eφ)(dv/dH)dH=2π(2/m)3/2∫-eφ∞f(H)(H+eφ)1/2dHです。
∇2φ=(e/ε0){2π(2/m)3/2∫-eφ∞f(H)(H+eφ)1/2dH-n0}
なる形の方程式が得られます。
ただし,r→∞ではφ≡0 であり,そこでは∇2φ=0 ですから,
2π(2/m)3/2∫-eφ∞f(H)H1/2dH=n0
が満たされる必要があります。
そして,f(H)が決まればφ,つまりEが決まる形になっています。
V(φ)≡-(4π/3ε0)(2/m)3/2∫-eφ∞f(H)(H+eφ)3/2dH+en0φ/ε0とおけば,方程式は∇2φ=-dV/dφとなります。
ここで導入されたV(φ)は,Sadgeev(サジェーエフ)ポテンシャルと呼ばれます。
そして,∇2φ=-dV/dφの両辺に∇φを掛ければ,
∇[(∇φ)2/2+V(φ)]=0 となるため,
結局,(∇φ)2/2+V(φ)=(空間的に一定)と結論されます。
もしも空間微分∇を時間微分d/dtと同一視するなら,
(∇φ)2/2+V(φ)=(空間的に一定)は(dφ/dt)2/2+V(φ)=(時間的に一定)となって,"エネルギー保存則"と同一視できます。
また,特に空間を1次元と考えると,f(H)dv=(2/m)1/2∫-eφ∞f(H)(H+eφ)-1/2dHです。
そして必要条件も(2/m)1/2∫-eφ∞f(H)H-1/2dH=n0に変わります。
そこで,1次元のSadgeevポテンシャルは,
V(φ)=-(2/ε0)(2/m)1/2∫-eφ∞f(H)(H+eφ)1/2dH+en0φ/ε0 となり,保存則は(dφ/dx)2/2+V(φ)=一定となります。
仮に,-eφ0≦H≦E0ではf(H)=(m/E0)1/2n0/23/2=一定,それ以外のHではf(H)=0 というモデルを設定してみます。
すると,0≦φ<φ0ならV(φ)=-{2n0E01/2/(3ε0)}(E0+eφ)3/2+en0φ/ε0で,φ≧φ0ならV(φ)=-{2n0E01/2/(3ε0)}[(E0+eφ)3/2-{e(φ-φ0)}3/2]+en0φ/ε0となります。
これは,φ→0ではV(φ)=-2n0E0/(3ε0)-n0(eφ)2/(4ε0E0)+..を満たし,0≦φ<φ0なら(dV/dφ)<0 であって,Vはφの減少関数であることを意味します。
また,φ≧φ0なら(d2V/dφ2)>0 なのでVは常にφについて下に凸な関数です。そこで,ある点φ=φminでV(φ)は極小になります。
xを時間と考え,φを1次元の空間座標と見て,速度を位置座標φの時間xによる微分係数:v≡dφ/dxであると見ます。
このとき,v2/2+V(φ)=一定という法則はV(φ)をφを位置とする位置エネルギーであるとした力学的エネルギー保存則の描像と考えることができます。
無限の過去x=-∞ではφ=0 で速度v=dφ/dxもゼロとすると,全エネルギーはV(0)です。
この状態から出発して保存則v2/2+V(φ)=V(0)を満たしながら進んでいくと,運動エネルギーv2/2=V(0)-V(φ)における-V(φ)はφ=φminで最大値:-V(φmin)に到達します。
その後,運動エネルギーは次第に減少し,ついにはどこかでv2/2がゼロ,つまり速度vがゼロになって反転することになり,やがて元の位置φ=0 に戻っていくと解釈されます。
この描像で元の位置φ=0 まで戻る時刻を無限の未来x=∞であると考えることにすれば,この往復運動は1回だけということになります。
したがって,反転するところの座標φをφ=φc>0 とすると,φcはφc≧φ0,かつV(φc)=V(0)=-2n0E0/(3ε0)から求まる値です。
それ故,φ(x)は,x=-∞でゼロ,x=∞でもゼロで,その間のあるxでφ(x)=φcという正のピークを持つ上に凸な関数となるはずです。
こうした状況は,一般の3次元の話に戻っても成立するはずです。
3次元で電場のポテンシャルφ(r)が正のピークを持つところ,つまりφ(r)=φcを満たす位置rの近傍では電子が少なく,"正電荷=イオン"の影響の方が大きくなっている領域と考えられますから,この領域を電子のホール(hole:電子の穴)と呼びます。
これは一旦電子の少ないところができると,そこでは正のイオンが支配的になるため,周囲の電子がそこの近くを通ると加速されて素通りし,
また仮に正イオンに捕捉されたなら,電子気体の電子としては出てこられなくなくなるためと考えられます。
先に,V(φ)の下に凸な形からφが周期的な反復運動をすると予想した描像からもわかるように,こうした電子ホール生成などは決して静的な現象ではありません。
電子の集団が大きいスケールで振動運動をしているという意味から,1つの渦の形成を意味すると考えられます。
プラズマ中の乱流では,こうした"ホール=渦"がたくさん存在するはずで,これらをクランプ(clump)と呼びます。
こうして電子気体の運動論から出発して,非平衡な統計物理としてプラマ物理の一端を垣間見ることができたかなと思います。
参考文献;北原和夫 著「非平衡系の統計力学」(岩波書店)
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