電離平衡のサハの式
前回に引き続く話題として,高温プラズマ状態における電離に対するサハの式(Sahaの式)について述べてみます。
一般に核反応や化学反応などにより系を構成する成分粒子数の変化がある場合,定温,定圧では平衡の条件は反応の前後での化学ポテンシャルμが等しいことで与えられます。
"C ⇔ A+B"という反応系で,A,B,Cの粒子数を,それぞれ,NA,NB,NC,反応の前後を1,2として添字表現をするとき,温度,圧力が反応前後で同じ:T1=T2,P1=P2であるとします。
全体のエントロピーの変化は,ΔS=(∂S/∂NC)ΔNC+(∂S/∂NA)ΔNA+(∂S/∂NB)ΔNBですが,ΔNA=ΔNB=-ΔNCという粒子数の条件から,ΔS=[(∂S/∂NC)-(∂S/∂NA)-(∂S/∂NB)]ΔNC=(μC-μA-μB)ΔNC/Tとなります。
そこで,平衡の条件ΔS=0 がμC=μA+μBで与えられることがわかるからですね。
ここで,高温での中性原子状態Aが電離状態A+と,"A⇔A++e-"で表わされる平衡にあるとします。
この条件は,イオン化エネルギーをEとするとμ0=μ++μ-+Eです。
ただし,μ0,μ+,μ-は,それぞれ,A,A+,e-の化学ポテンシャルを示しています。
つまり,通常の化学式のようにEを陽に書くなら,"A+E→A++e-"であり,Aの最低エネルギーの準位はA+やe-のそれよりもEだけ低いので,
通常の並進,回転,振動の自由度のみによる"Gibbsの自由エネルギー=化学ポテンシャル"のA+やe-での原点をAのそれよりEだけ高い位置に取ればいいことになります。
それ故,平衡の条件が,μ0-E=μ++μ-で与えられるからですね。
一方,前記事で非相対論的粒子に対して述べたように,
化学ポテンシャルは.μi=kBTlog[(ni/gi){h2/(2πmikBT)}3/2]
=log[(ni/gi){2πhc2/(mikBT)}3/2]
(i=0,+,-)で与えられます。
ここで,hc≡h/(2π)でhはPlanck定数です。
したがって,kBTlog[(n0/g0){2πhc2/(m0kBT)}3/2]
=kBTlog[{n+n-/(g+g-)}{2πhc2/(m+kBT)}3/2{2πhc2/(mekBT)}3/2]+Eです。
故に,m0 ~ m+であることに注意すれば,
n+n-/n0=(g+g-/g0)[mekBT/(2πhc2)}3/2exp{-E/(kBT)}
が得られます。
原子の総数密度をn≡n0+n+とし,イオン化成分の比率をx≡n+/n=n-/nとすれば,1-x=n0/nであり,
上の式はx2/(1-x)={g+g-/(g0n)}{mekBT/(2πhc2)}3/2exp{-E/(kBT)}となります。これをSahaの式と呼びます。
そして,T→大,E<<kBTでは,exp{-E/(kBT)}→1によりx2/(1-x)→ ∞ なので,x→1となってイオン化が進むことになります。
参考文献;佐藤文隆 原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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