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2006年11月 2日 (木)

ボルツマン方程式とH定理

 今日は不可逆過程と関連してボルツマン方程式とボルツマン

 (Boltzmann)のH定理について述べたいと思います。 

 まず,質量がmで全分子数がNの気体が速度v+dvの間

 にある粒子数の分布をf()dとします。

 

 簡単な考察によって,絶対温度Tで熱平衡状態

 にある場合には,f()はMaxwell-Boltzmann分布:

 f()=N[m/(2πkB)]3/2exp[-m2/(2kB)]

 に従うことがわかります。

 

 これは,∫f()d=Nと規格化されています。

 次に同じ気体分子が非平衡状態にあるとして,その分布関数

 を位置と速度,および時刻tの関数としf(,,t)と

 します。

 

 つまり,時刻tに+dの間,+dの間にある

 分子数をf(,,t)dとするわけです。

 

 

 これも∫f(,,t)d=Nと規格化しておきます。

 このとき,粒子の衝突を無視した自由運動による各位置の近傍

 での粒子数の保存を示す連続の方程式は,

 ∂f/∂t+∇f=0 となります。

 

 これはLiouville方程式を分布関数で与えたものとなっています。

 しかし,一般に非平衡状態では衝突による粒子数変化の

 湧き出し項として衝突項が存在し,連続の方程式は

 ∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)collとなるはずです。

 これをBoltzmann方程式と呼びます。

 

 ある時刻tに速度'1'をもつ粒子対が衝突して単位時間

 に速度1との粒子対となって+d,11+d1

 領域に入ってくるプロセスの頻度をσ(,1|',1')

 とします。

 

 これと全く逆に,+d,11+d1領域から出て

 行くプロセスの頻度をσ(',1'|,1)とすれば,

 

 

衝突(湧き出し)項は,(∂f/∂t)coll=∫σ(,1|',1')

f(,',t)f(,1',t)d1'1'

-∫σ(',1'|,1)f(,,t)f(,1,t)

1'1'なる式で与えられるはずです。

 ところで,力学の時間反転に対する対称性よって,1から

 '1'に変わる頻度は-'と-1'から-と-1に変化する

 頻度に等しい:

 つまりσ(',1'|,1)=σ(-,-1|-',-1')

 と考えられます。

 

 これを「衝突数算定の仮定」と呼びます。

 さらに座標軸の向きを逆転させても,こうしたプロセスの頻度は

 同じと考えられるので,

 σ(-,-1|-',-1')=σ(,1|',1') です。

 

 そこで,結局σ(,1|',1')=σ(',1'|,1)として

 よいと考えられます。

 ここで略記法として,f≡f(,,t),f'≡(,',t),

 f1f(,1,t),1'(,1',t)と書くと, 

 (∂f/∂t)coll

 =∫σ(,1|',1')(f'f1'-ff1)1'1'

 となります。

 

 気体分子の衝突は,弾性衝突で衝突の前後でエネルギーも運動量

 も保存されると考えられるため,

 1'+1',かつ,2+v12=v'2+v1'2

 以外の場合には,σ(,1|',1')=0 です。

 Boltzmann方程式が不可逆過程を記述することを示すため,

 ここでBoltzmannのH関数という関数Hを,

 H(,t)≡∫(,,t)logf(,,t)d

 で定義します。ここでlogは自然対数:lnです。

 このとき,∂H/∂t=∫(∂f/∂t)(logf+1)d

 書けますが,

 Boltzmann方程式:∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll

 を代入すると,

 

∂H/∂t=∫(logf+1)[-∇f+(∂f/∂t)coll ]

=-∇[(flogf)d]+∫(logf+1)(∂f/∂t)coll

となります。 

この右辺のうちで,1×衝突項の部分の積分は

(∂f/∂t)coll

=∫σ(,1|',1')(f'1'-ff1)1'1'

です。

 

これはσ(,1|',1')の,1,',1'における粒子の

交換に対する対称性と(f'1'-ff1)の粒子交換の反対称性から

ゼロとなります。

 

したがって,Hの流れとして,H(flogf)dを定義

すると,∂H/∂t+H[(logf)(∂f/∂t)coll]d

となります。

 

これは,BoltzmannのH関数の流出入以外の正味の生成である

dH/dt=∂H/∂t+H [(logf)(∂f/∂t)coll]d

によって与えられることを示しています。

そして,∫(logf)(∂f/∂t)coll

=∫(logf)σ(,1|',1')(f'1'-ff1)1'1'

です。

 

この式の右辺は, 

(logf1)σ(1,|1',')(f1'f'-f1f)1'1',

(logf')σ(',1'|,1)(ff1-f'1')1'd1',

(logf1')σ(1','|1,)(f1f-f1'f')1'd1'

の全てと等しいことになります。

 

しかも対称性から,これらのσは全て等しいので,簡略化して

σ(,1|',1')を単にσと略記することにします。

すると,(logf)(∂f/∂t)coll

=(1/4)∫σ(f'1'-ff1)(logf+logf1logf'logf1')

1'1'

(1/4)∫σ(f'1'-ff1)log(ff1/f'f1')1'1'

と書けることになります。

ところが,σは衝突頻度ですから,当然σ≧0 であり,しかも

(x-y)log(y/x)≦0 ですから,

 

結局,dH/dt=[(logf)(∂f/∂t)coll]d≦0 が

示されたことになります。

 

つまり,BoltzmannのH関数は時間と共に常に一定,または減少

するということが示されたわけです。

 

こうして,"時間反転不変=可逆な力学法則から,どういうわけか

不可逆変化が導かれました。

これを"BoltzmannのH定理"といいます。

しかし,この定理に対しては,"Loschmidtの逆行性批判"という

有名な反論があります。

 

すなわち,"ある瞬間に時間的変化を反転する,つまり全粒子の向き

を逆転させると,逆にHは過去に向かって減少する,または未来に

向かっては増加するということになる" という反論です。

 

これは,まことにもっともな話です。 

こうしたさまざまな反論に悩んだ末,とうとうBoltzmannは自殺

に追い込まれてしまったのです。

 

今考えると,H定理は実は確率法則による定理であり,例えば衝突

頻度σに対して「衝突数算定の仮定」が導入されています。

 

既に"速度空間の大きい体積の方には小さい体積よりも粒子数

多いはずである"などの「等重率原理」のような確率的構想

が入っていて,単純な可逆的力学法則からの確率概念的な飛躍

があることに気付きます。 

というわけで,確率法則としてはBoltzmannのH定理は正当である

と認めて何ら問題はありません。

 

ところで,H関数は非平衡状態に対して与えられたものですが,

熱平衡状態は∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d=0,

つまりff1=f'f1'に対応します。

 

そして,このときはfをで積分したものはMaxwell-Boltzmann分布

となります。

 

平衡統計力学においてのみ定義されるエントロピー(entropy):

を計算すると,これはBoltzmannのH関数と

S=-kB∫H(,t)d(定数)なる関係にあることが

わかります。

 

そこで,エントロピー概念を拡張して非平衡状態でもエントロピーを,

S=-kB∫H(,t)d(定数)で定義すればいいのでは,

と考えることができます。

 

"孤立系=流出入のない系ではエントロピーは常に増加する"

という熱力学第2法則は,平衡状態でのBoltzmannのH定理の

いい換えに過ぎないということになります。

 

参考文献;北原和夫 著「非平衡系の統計力学」(岩波書店)、テル・ハール 著「熱統計学」(みすず書房)

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