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2006年12月 7日 (木)

常微分方程式の解の存在定理②

 それでは「解の存在定理(初期値(Cauchy)問題)」を証明します。

 

 まず,存在定理を明確に述べるところから始めます。

 

 [解の存在定理]:ある2次元の単連結な閉領域Dがあるとする。

 

 特にDを矩形閉領域:(I×J):I≡[x0-a,x0+a],

 J≡[y0-b,y0+b]としても,一般性を失わないので

 そう設定する。

 

 このときDにおいて関数f(x,y)が連続なら,正の数Mが存在して,

この閉領域で|f(x,y)|≦Mとなるが,α=min(a,b/M)とおけば,

[x0-α,x0+α]の上で定義された点(x0,y0)を通る1階常微分方程式:

dy/dx=f(x,y)の解が存在する。

 

 以下,証明です。

  

  

(証明)閉区間:[x0,x0+α]をn個の小区間に分割して,その分点を,

012<...<n とします。

 

 そして,点P0(x0,y0)から勾配がf(x0,y0)の直線を引き,

x=x1との交点をP1(x1,y1)とします。

 

 このとき,|f(x,y)|≦Mなので,|y-y0|≦M|x-x0|によって,

0-M(x-x0)≦y≦y0+M(x-x0);x0x≦x1です。

 

 そこで,線分P01y-y0=-M(x-x0),y-y0=M(x-x0),

x=x0+αで囲まれた三角形Tの内部にあります。

 

次に1(x1,y1)から勾配がf(x1,y1)の直線を引き,x=x2との

交点をP2(x2,y2)とします。

 

前と同様12も三角形Tの内部にあることがわかります。

 

以下,同様にk(xk,yk)から勾配がf(xk,yk)の直線を引き,

x=xk+1との交点をPk+1(xk+1,y k+1)とすれば,得られた折れ線:

012...Pnは確かにTの内部にあります。 

 

この得られた折れ線をy=φ(x)とすると,φ(0)=0,φ(k)=k

(k=1,2,...,n)であり,k-1≦x≦kでは,

y=φ(x)=φ(k-1)+f(k-1,φ(k-1))(x-k-1)です。

 

そこで,k-1≦x≦kではdy/dx=φ'(x)

=f(k-1,φ(k-1))です。

 

なお,x=0では右微分係数のみ:

lim h→+0 [{φ(x0)+h)-φ(x0)}/h]=f(0,y0),

 

x=n=x0+αでは左微分係数のみ:

lim h→+0 [{φ(x0+α-h)-φ(x0+α)}/(-h)]

f(n-1,yn-1) です。

 

その他の分点では,一般に左微分係数と右微分係数が異なるので,

一般には微分可能ではありません。

 

ここで,(x,y)は閉領域Dで一様連続故,任意の正の数εを与える

と,あるδ>0 が存在して,Dの任意の2点(x1,y1),(x2,y2)に対し,

 

"|x1-x2|≦δかつ|y1-y2|≦δ⇒|(x1,y1)-f(x2,y2)|≦ε"

 

が成立します。

 

そこで,max(kk-1)≦min(δ,δ/M)となるように幅を取って

nを調節すれば,xk-1≦x≦kを満たすxに対して,

 

(x-k-1)≦δ/Mであり,|φ()-φ(k-1)|≦M(x-k-1)

ですから,|x-k-1|≦δ,かつ|φ()-φ(k-1)|≦δです。

 

したがって,k-1≦x≦kなるxに対して,

|(xk-1,φ(k-1))-f(x,φ())|≦ε

です。

 

分点以外では,φ'(x)=f(xk-1,φ(k-1))ですから,

|φ'(x)-f(x,φ())|≦εとなります。

 

このことから,φ(x)を1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の"

ε-近似解"と呼びます。

 

ε>0 は任意であり,εに対してδ0min(δ,δ/M)>0 は常に存在する

ので,max(kk-1)→ 0 に対しφ'(x)→f(x,φ())です。

 

閉区間:[x0-α,x0]に対しても同様にε-近似解を構成できます。

 

次にε1ε2>...>εν>...なる正の数の数列{εν}をν→ ∞ に対してεν 0 となるように作ります。(例えばεν1/ν)

 

このとき,[0-α,x0+α]で各ενに対してεν-近似解が存在するので,それをφν(x)とすると,|φν(x)-φν(0)|≦M|x-0|≦bですから|φν(x)|≦|y0|+bが成立します。

 

また,任意のνについて[0-α,x0+α]に属する任意の2点x1,x2

対して,|φν(1)-φν(2)|≦M|x12|です。

 

そこで,2n個の区間0-α=x'nx'n-1<...<x'2x'1012<...<xn-1n=x0+αに対し,φν(0)=0ν(k)=k

(k=1,2,..,n)です。

 

特に,xk-1≦x≦kでは,

φν(x)=φν(k-1)+f(k-1ν(k-1))(x-k-1) です。

 

また,φν(x'k)=k (k=1,2,...,n)であり,x'k≦x≦x'k-1

ではφν(x)=φν(x'k-1)+f(x'k-1ν(x'k-1))(x-x'k-1)

です。

 

そして,折れ線(x,φν(x))は全てDの中にあります。

 

今,[0-α,x0+α]の任意の2点x,x'を取れば,2n個の小区間の

うちにそれが属するどれか2つの小区間がありますから,

ν(x)-φν(x')|≦M|x-x'|が成立します。

 

したがって,ε>0 が任意に与えられたとき,

|x-x'|<ε/Mならば|φν(x)-φν(x')|<εです。

 

関数列{φν(x)}は無限関数列です。

 

そして,以上から,これは一様有界かつ同等連続ですから,

Ascoli-Arzalaの定理」によって,[0-α,x0+α]の上で一様収束

するν(x)}の部分列が存在するはずです。

  

その極限関数をψ(x)とすると,φν(x)が[0-α,x0+α]の上で連続ですからψ(x)もまたその閉区間において連続です。

 

ここで,各々のεν-近似解:φν(x)に対し,2n個の分点を除く

微分係数:φν'(x)が存在するxに対して,

ν(x)≡φν'(x)-f(ν()) とおきます。

 

分点は有限個で,φν()は分点においても連続ですから分点での

φν'(x)をどんな有限値に設定しても結果は同じです。

 

それを便宜上何らかの有限値におくと,  

xk-1+εxk-ε'φν'(x)dx=φν(k-ε')-φν(k-1+ε)

と書けます。

 

ε→0,かつε'→0 に対し,φν(k-ε')→ φν(k),かつ

φν(k-1+ε)→ φν(k)が成り立ちますから,

xk-1xk'φν'(x)dx=φν(k)-φν(k-1) が成立します。

 

そこで,φν'(xk)をどんな有限値に取っても,

x0φν'(x)dx=φν(x)-φν(0)ですから,結局

φν(x)=φν(0)+∫x0x{f(ν())+hν(x)}dx

と書けます。

 

ここで便宜上分点ではh(k)=0 としておきます。

 

|hν(x)|=|φν'(x)-f(ν())|≦ενですから,

ψ(x)に収束する{φν(x)}の部分列を{φνi(x)}とすると,

φνi(x)=φνi(0)+∫x0x{f(νi())+hνi(x)}dxであり,

かつ|hνi(x)|≦ενiです。

 

このとき,|∫x0x{f(,ψ())}dx-∫x0x{f(νi())+hνi(x)}dx|≦|∫x0x{f(,ψ())}dx-∫x0x{f(νi())}dx|+|∫x0x |hνi(x)|dx|です。

 

i→ ∞ の極限を取ると,φνi()はψ(x)に一様収束しますから,

[0-α,x0+α]の上で任意のδ>0 に対し,N1(δ)が存在して"

i>N1(δ)⇒|φνi()-ψ()|<δ"が成立します。

 

予め,与えられたε>0 に対し,"|φνi()-ψ()|<δ(ε)⇒|f(νi())-f(,ψ())|<ε/(2α)"が成立しますから,

 

"i>N1(ε))⇒|∫x0x{f(,ψ())}dx-∫x0x{f(νi())}dx|<ε/2 "

 

となります。

 

同じεに対して,2(ε)が存在して"i>N2(ε)⇒|∫x0x |hνi(x)}dx|<ε/2"も成立するので,N(ε)≡max{1(ε)),N2(ε)}とおけば

 

"i>N(ε)⇒|∫x0x{f(,ψ())}dx-∫x0x{f(νi())+hνi(x)}dx|<ε"です。

 

これは"i>N(ε)⇒νi()-[y0+∫x0x{f(,ψ())}dx]|<ε"が成立することを意味しています。

 

一方,i→ ∞ に対してφνi()→ ψ()ですから,

あるN'(ε)が存在して,

 

"i>N'(ε)⇒|ψ()-[y0+∫x0x{f(,ψ())}dx]|<2ε"

です。

 

それ故,ψ()=y0+∫x0x{f(,ψ())}dxが成立します。

 

ψ()は[0-α,x0+α]で連続であり,(x,ψ())はDの内部にあるので(,ψ())も[0-α,x0+α]の上で連続です。

 

したがって,[0-α,x0+α]の上でψ'(x)=(,ψ())が成立し,しかも明らかにψ(0)=y0 です。

 

かくして,[0-α,x0+α]の上で,点(x0,y0)を通る

dy/dx=f(,y)の解の存在が証明されました。(証明終わり)

 

 

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