常微分方程式の解の存在定理②
それでは「解の存在定理(初期値(Cauchy)問題)」を証明します。
まず,存在定理を明確に述べるところから始めます。
[解の存在定理]:ある2次元の単連結な閉領域Dがあるとする。
特にDを矩形閉領域:(I×J):I≡[x0-a,x0+a],
J≡[y0-b,y0+b]としても,一般性を失わないので
そう設定する。
このときDにおいて関数f(x,y)が連続なら,正の数Mが存在して,
この閉領域で|f(x,y)|≦Mとなるが,α=min(a,b/M)とおけば,
[x0-α,x0+α]の上で定義された点(x0,y0)を通る1階常微分方程式:
dy/dx=f(x,y)の解が存在する。
以下,証明です。
(証明)閉区間:[x0,x0+α]をn個の小区間に分割して,その分点を,
x0<x1<x2<...<xn とします。
そして,点P0=(x0,y0)から勾配がf(x0,y0)の直線を引き,
x=x1との交点をP1=(x1,y1)とします。
このとき,|f(x,y)|≦Mなので,|y-y0|≦M|x-x0|によって,
y0-M(x-x0)≦y≦y0+M(x-x0);x0≦x≦x1です。
そこで,線分P0P1はy-y0=-M(x-x0),y-y0=M(x-x0),
x=x0+αで囲まれた三角形Tの内部にあります。
次にP1=(x1,y1)から勾配がf(x1,y1)の直線を引き,x=x2との
交点をP2=(x2,y2)とします。
前と同様P1P2も三角形Tの内部にあることがわかります。
以下,同様にPk=(xk,yk)から勾配がf(xk,yk)の直線を引き,
x=xk+1との交点をPk+1=(xk+1,y k+1)とすれば,得られた折れ線:
P0P1P2...Pnは確かにTの内部にあります。
この得られた折れ線をy=φ(x)とすると,φ(x0)=y0,φ(xk)=yk
(k=1,2,...,n)であり,xk-1≦x≦xkでは,
y=φ(x)=φ(xk-1)+f(xk-1,φ(xk-1))(x-xk-1)です。
そこで,xk-1≦x≦xkではdy/dx=φ'(x)
=f(xk-1,φ(xk-1))です。
なお,x=x0では右微分係数のみ:
lim h→+0 [{φ(x0)+h)-φ(x0)}/h]=f(x0,y0),
x=xn=x0+αでは左微分係数のみ:
lim h→+0 [{φ(x0+α-h)-φ(x0+α)}/(-h)]
=f(xn-1,yn-1) です。
その他の分点では,一般に左微分係数と右微分係数が異なるので,
一般には微分可能ではありません。
ここで,f(x,y)は閉領域Dで一様連続故,任意の正の数εを与える
と,あるδ>0 が存在して,Dの任意の2点(x1,y1),(x2,y2)に対し,
"|x1-x2|≦δかつ|y1-y2|≦δ⇒|f(x1,y1)-f(x2,y2)|≦ε"
が成立します。
そこで,max(xk-xk-1)≦min(δ,δ/M)となるように幅を取って
nを調節すれば,xk-1≦x≦xkを満たすxに対して,
(x-xk-1)≦δ/Mであり,|φ(x)-φ(xk-1)|≦M(x-xk-1)
ですから,|x-xk-1|≦δ,かつ|φ(x)-φ(xk-1)|≦δです。
したがって,xk-1≦x≦xkなるxに対して,
|f(xk-1,φ(xk-1))-f(x,φ(x))|≦ε
です。
分点以外では,φ'(x)=f(xk-1,φ(xk-1))ですから,
|φ'(x)-f(x,φ(x))|≦εとなります。
このことから,φ(x)を1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の"
ε-近似解"と呼びます。
ε>0 は任意であり,εに対してδ0≡min(δ,δ/M)>0 は常に存在する
ので,max(xk-xk-1)→ 0 に対しφ'(x)→f(x,φ(x))です。
閉区間:[x0-α,x0]に対しても同様にε-近似解を構成できます。
次にε1>ε2>...>εν>...なる正の数の数列{εν}をν→ ∞ に対してεν→ 0 となるように作ります。(例えばεν≡1/ν)
このとき,[x0-α,x0+α]で各ενに対してεν-近似解が存在するので,それをφν(x)とすると,|φν(x)-φν(x0)|≦M|x-x0|≦bですから|φν(x)|≦|y0|+bが成立します。
また,任意のνについて[x0-α,x0+α]に属する任意の2点x1,x2 に
対して,|φν(x1)-φν(x2)|≦M|x1-x2|です。
そこで,2n個の区間x0-α=x'n<x'n-1<...<x'2<x'1<x0<x1<x2<...<xn-1<xn=x0+αに対し,φν(x0)=y0,φν(xk)=yk
(k=1,2,..,n)です。
特に,xk-1≦x≦xkでは,
φν(x)=φν(xk-1)+f(xk-1,φν(xk-1))(x-xk-1) です。
また,φν(x'k)=yk (k=1,2,...,n)であり,x'k≦x≦x'k-1
ではφν(x)=φν(x'k-1)+f(x'k-1,φν(x'k-1))(x-x'k-1)
です。
そして,折れ線(x,φν(x))は全てDの中にあります。
今,[x0-α,x0+α]の任意の2点x,x'を取れば,2n個の小区間の
うちにそれが属するどれか2つの小区間がありますから,
|φν(x)-φν(x')|≦M|x-x'|が成立します。
したがって,ε>0 が任意に与えられたとき,
|x-x'|<ε/Mならば|φν(x)-φν(x')|<εです。
関数列{φν(x)}は無限関数列です。
そして,以上から,これは一様有界かつ同等連続ですから,
「Ascoli-Arzalaの定理」によって,[x0-α,x0+α]の上で一様収束
する{φν(x)}の部分列が存在するはずです。
その極限関数をψ(x)とすると,φν(x)が[x0-α,x0+α]の上で連続ですからψ(x)もまたその閉区間において連続です。
ここで,各々のεν-近似解:φν(x)に対し,2n個の分点を除く
微分係数:φν'(x)が存在するxに対して,
hν(x)≡φν'(x)-f(x,φν(x)) とおきます。
分点は有限個で,φν(x)は分点においても連続ですから分点での
φν'(x)をどんな有限値に設定しても結果は同じです。
それを便宜上何らかの有限値におくと,
∫xk-1+εxk-ε'φν'(x)dx=φν(xk-ε')-φν(xk-1+ε)
と書けます。
ε→0,かつε'→0 に対し,φν(xk-ε')→ φν(xk),かつ
φν(xk-1+ε)→ φν(xk)が成り立ちますから,
∫xk-1xk'φν'(x)dx=φν(xk)-φν(xk-1) が成立します。
そこで,φν'(xk)をどんな有限値に取っても,
∫x0xφν'(x)dx=φν(x)-φν(x0)ですから,結局
φν(x)=φν(x0)+∫x0x{f(x,φν(x))+hν(x)}dx
と書けます。
ここで便宜上分点ではh(xk)=0 としておきます。
|hν(x)|=|φν'(x)-f(x,φν(x))|≦ενですから,
ψ(x)に収束する{φν(x)}の部分列を{φνi(x)}とすると,
φνi(x)=φνi(x0)+∫x0x{f(x,φνi(x))+hνi(x)}dxであり,
かつ|hνi(x)|≦ενiです。
このとき,|∫x0x{f(x,ψ(x))}dx-∫x0x{f(x,φνi(x))+hνi(x)}dx|≦|∫x0x{f(x,ψ(x))}dx-∫x0x{f(x,φνi(x))}dx|+|∫x0x |hνi(x)|dx|です。
i→ ∞ の極限を取ると,φνi(x)はψ(x)に一様収束しますから,
[x0-α,x0+α]の上で任意のδ>0 に対し,N1(δ)が存在して"
i>N1(δ)⇒|φνi(x)-ψ(x)|<δ"が成立します。
予め,与えられたε>0 に対し,"|φνi(x)-ψ(x)|<δ(ε)⇒|f(x,φνi(x))-f(x,ψ(x))|<ε/(2α)"が成立しますから,
"i>N1(δ(ε))⇒|∫x0x{f(x,ψ(x))}dx-∫x0x{f(x,φνi(x))}dx|<ε/2 "
となります。
同じεに対して,N2(ε)が存在して"i>N2(ε)⇒|∫x0x |hνi(x)}dx|<ε/2"も成立するので,N(ε)≡max{N1(δ(ε)),N2(ε)}とおけば
"i>N(ε)⇒|∫x0x{f(x,ψ(x))}dx-∫x0x{f(x,φνi(x))+hνi(x)}dx|<ε"です。
これは"i>N(ε)⇒|φνi(x)-[y0+∫x0x{f(x,ψ(x))}dx]|<ε"が成立することを意味しています。
一方,i→ ∞ に対してφνi(x)→ ψ(x)ですから,
あるN'(ε)が存在して,
"i>N'(ε)⇒|ψ(x)-[y0+∫x0x{f(x,ψ(x))}dx]|<2ε"
です。
それ故,ψ(x)=y0+∫x0x{f(x,ψ(x))}dxが成立します。
ψ(x)は[x0-α,x0+α]で連続であり,(x,ψ(x))はDの内部にあるのでf(x,ψ(x))も[x0-α,x0+α]の上で連続です。
したがって,[x0-α,x0+α]の上でψ'(x)=f(x,ψ(x))が成立し,しかも明らかにψ(x0)=y0 です。
かくして,[x0-α,x0+α]の上で,点(x0,y0)を通る
dy/dx=f(x,y)の解の存在が証明されました。(証明終わり)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)
← クリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)
物理学 |
| 固定リンク
「308. 微分方程式」カテゴリの記事
- 積分方程式(2)(2009.09.11)
- 積分方程式(1)(導入)(2009.08.30)
- 水の波(8)(有限振幅の波:非線形波3)(2009.07.24)
- 水の波(7)(有限振幅の波:非線形波2)(2009.07.17)
- 水の波(6)(有限振幅の波:非線形波1)(2009.07.15)
「304. 解析学」カテゴリの記事
- 指数関数,三角関数の構成的定義(2011.07.09)
- 三角関数を含むある関数の定積分(2008.08.14)
- 実数から複素数へ(2008.02.16)
- デデキントの切断(補遺)(2008.02.11)
- デデキントの切断(Dedekind cut)(2008.02.10)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント