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2006年12月21日 (木)

電子の自己エネルギーとディラックの海

 古典的には発散する電子の自己エネルギーが相対論的量子論のディラック(Dirac)の負エネルギー電子の海,いわゆるDirac seaの陽電子の影響を受けて,量子論ではどのように変わるか?という問題に関する話題として1939年のワイスコフ(Weisskopf)の論文を紹介してみたいと思います。

 電子の質量をm,電荷をe<0,古典的な電子半径をaとすると,静止している電子の自己エネルギーはW ~ mc2+e2/aと表わされます。

 

 電子を点と考えると,これはa→ 0 を意味するので,Wは無限大に発散します。

 クーロン場によるエネルギーをWstと置き,電子の位置の付近で距離ξだけ離れた2点に同時に電荷が見つかる確率を表現する量G(ξ)をG(ξ)≡∫ρ(ξ/2)ρ(ξ/2)dで定義します。

 

 すると,Wstst=(1/2)∫[<G(ξ)>/|ξ|]dξで与えられます。<G(ξ)>は量子論で計算されたG(ξ)の期待値です。

 ディラックの理論によれば電荷密度ρはρ()=e{ψ*()ψ()}-σで与えられます。

  

 {ψ1*(2()}は2つの4成分スピノルのスカラー積を表わします。σは陽電子の海の効果により差し引かれるべき電荷密度です。

 波動関数ψは運動量がqの自由電子の波動関数φqで展開できますからψ=Σqqφqと表わすことができます。ここで,系の全体積をVとすると,{φq*(q()}=1/V が成立しています。

 ψ=Σqqφqという表現が成立するならば,ψを"第2量子化=個数表示した場",すなわち個数Nqによる個数表示の波動関数にかかる演算子であるとするとき,aqおよびaq*は,それぞれフェルミオン(Fermion)の消滅演算子,および生成演算子と考えることができます。

 

 状態qの電子の個数NqはNq=aq*qで与えられ,aqq*=1-Nqが成立します。

 ψ=Σqqφqをρ()=e{ψ*()ψ()}-σに代入し,それをさらにG(ξ)≡∫ρ(ξ/2)ρ(ξ/2)dに代入します。

 

 G(ξ)の期待値に寄与するのは,4つのaqの結合のうち,aq*qq'*q'=Nqq'とaq*q'q'*q=Nq(1-Nq')のみです。

 

 他の結合は非対角成分を持たないので寄与しません。

 こうして<G(ξ)>=e2ΣqΣq'qq'/V+e2ΣqΣq'q(1-Nq')∫{φq*(1q'(1)}{φq'*(2q(2)}d-2σeΣqq+σ2Vを得ます。ここで,1ξ/2,2ξ/2と置きました。

 その頃の従来の理論である陽電子の雲を伴わない単一電子であればσ=0 です。あるq=q0に対してはNq=1で,q≠q0に対してはNq=0 ですから,第1項はe2/Vとなります。Vが十分大きいのでこれは寄与しません。

 

 そこで,結局第2項のみが<G(ξ)>に寄与します。それ故,<G(ξ)>=e2Σq∫{φq0*(1q(1)}{φq*(2q0(2)}dr=2∫d3p[exp(iξp/h)/(8π33)]=e2δ3(ξ)を得ます。

 一方,陽電子論での真空では,全てのq≧0 なるqに対してN+q=0 ,N-q=1であり,σ=e(Σ-qq)/Vとおくことができます。

 

 このとき,<G(ξ)>の表式の第1,3,4項は互いに相殺して第2項のみが残ります。これを<G(ξ)>vacと書けば<G(ξ)>vac=e2Σ+qΣ-q'∫{φ-q'*(1+q(1)}{φ+q*(2-q'(2)}dとなります。

 <G(ξ)>vacがゼロではなく無限大になるという計算結果を与えるという事実は真空における電荷のゆらぎが観測されるという現象の1つの反映と言えます。

 我々の関心は1電子の電荷密度に対応する<G(ξ)>にあります。

 

 q=q0≧0 に対してNq=1,q≧0 ,かつq≠q0 に対してN+q=0 ,そしてN-q=1なる状態における<G(ξ)>である<G(ξ)>vac+1を求め,それから<G(ξ)>vacを差し引くことによって,1電子の電荷密度のそれを計算することができると考えられます。

 結局,<G(ξ)>=<G(ξ)>vac+1-<G(ξ)>vac=e2+q-Σ-q )∫{φq0*(1q(1)}{φq*(2q0(2)}dが得られます。

 

 これに自由電子のディラック方程式の実際の解を代入すれば,この表現を数式で評価することができます。

 

 そして"Σ=総和"を"∫=積分"で表現すれば<G(ξ)>=e2mc2∫d3p[exp(iξp/h)/{8π33E()}]となります。ここでE()≡c(p2+m22)1/2です。

そして,この積分を厳密に計算すると<G(ξ)>={ie2mc2/(2πhξ)}(∂/∂ξ)H0(1)(ξ)が得られます。ここでξ=|ξ|であり,H0(1)(x)は第1種のハンケル関数です。

((注)ここで,自由粒子波動関数の規格化は∫Vp*(p()}d=1 ({φp*(p()}=1/V )としているようですが,空間体積のローレンツ収縮を考慮するなら∫Vp*(p()}d=E()/(mc2)とするのが正しいはずです。

 

しかし,この式と<G(ξ)>=e2ΣqΣq'qq'/V+e2ΣqΣq'q(1-Nq')∫{φq*(1q'(1)}{φq'*(2q(2)}d-2σeΣqq+σ2Vの比が[mc2/E()]となっているようなので,結果的には正しいようです。)

0(1)(x)はx= 0 に特異性を持ち,x>>1に対しては指数関数的に減衰します。

 

結局,ξ<<[h/(mc)]に対しては,<G(ξ)>={e2/(4π2)}(mc/h)ξ-2,ξ>>[h/(mc)]に対しては,<G(ξ)>={e2(mc/h)2{h/(2π3mcξ2)}1/2exp(-mcξ/h)という近似式が得られます。

電子の自己エネルギーのクーロン部分Wst はWst(1/2)∫[<G(ξ)>/|ξ|]dξで与えられます。

 

結局 Wst{e2/(4π2)}∫d3p[mc2/{h3E()p2}]=limP→∞{mc22/(πhc)}log[{P+(P2+m22)1/2}/(mc)],あるいはP=h/aとおくことにより,Wst ~ lima→0{m222/(πhc)}log{h/(mca)}と書き表わせることがわかります。

古典電子半径aがゼロに近づくとき,電子の自己エネルギーは古典的には1次の発散をするのに対して,量子論では対数的に発散するという意味で,電子がコンプトン波長[h/(mc)]程度の広がりを持つという効果が現われて,発散は緩和されています。

 

これは後のくりこみ理論との関連性を示唆していると思えます。

 

参考文献:V.S.Weisscopf「On The Self-Energy and The Electromagnetic Field of The Electron」Physical Review, Vol.56 pp72-85(1939) 

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