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2006年12月19日 (火)

赤外発散の問題(エネルギーゼロの光子)

 先の12/16の記事「電流によって発生する光子の個数分布」では, 

古典電流密度の横波成分:

T(x)=∫0dk0(2π)-1∫d3(2π)-3/2λ=12ε(k,λ)

{j(k,λ)exp(-ikx)+j*(k,λ))exp(ikx)}]

により,輻射される"電磁波=光子(photon)"の個数分布について

考察しました。

 

そして,n個の光子が放出(輻射)される確率nは,

平均個数:<n>=3λ=1,2|j(k,λ)|2}/(2||)

Poisson分布(ポアソン分布):

n[e-<n><n>]/(n! )で与えられることを見ました。

 
例えば,t<0 に速度β/cで運動していた電荷がt=0

にキックされ,それ以降はβ'≡'/cの速度で運動する場合,

 

その運動電荷による電流密度の横波成分は,

Σλ=1,2ε(k,λ)j(k,λ)

~ ec{β/(k0kβ)-β'/(k0kβ')}

となります。

何故なら,この電荷による電流はt<0 では,

T(x)=ecβδ3((t))θ(-t)

で与えられるからです。

 

ここで,(t)=t=cβtであり,θ(t)はHeaviside関数:

θ(t)≡1 (t>0 ),θ(t)≡0 (t<0 )です。

 

Heaviside関数はFourier変換で表わすと,

θ(t)={-1/(2πi)}∫-∞dω[exp(-iωt)/(ω+iε)]

となります。

 

そこで,T(x)={iecβ/(2π)4}∫d3[exp{i((t))}]

dω[exp(iωt)/(ω+iε)]

={iecβ/(2π)4}∫3kdω[exp{ikx-i(ckβ-ω)t}]

={ecβ/(2π)4}∫00∫d3kq(k)exp(-ik00+ikx)

です。(0=ct)

 
ただし,エネルギーk0が正のj(k,λ)成分のみを考慮し,k00

に対応するj*(k,λ)成分は落としました。

 

1={c/(2π)}∫d0dtexp(-ik00)を挿入しています。

 

(k)≡{ic/(2π)}∫dωdt[exp{i(ck0-ckβ+ω)t}

/(ω+iε)]=(-i)/(k0kβ)ですから,目的の式:

Σλ=1,2 ε(k,λ)j(k,λ)~ -ecβ/(k0kβ)

が得られます。

 
このとき,k≡||=k0 ~ 0 では,この運動電荷から放出

される光子の平均個数は, 

<n>=3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||) 

3/k34πlogk ~ ∞ となります。

 

この長波長極限での発散という困難を赤外破局

(infrared catastrophe),

または赤外発散(infrared divergence)といいます。

 

すなわち,こうした電流密度に対しては放出される光子の

平均個数<n>が無限大ですから,

n[e-<n><n>]/n! 0 です。

 

これは,エネルギーがゼロの光子を有限個(n個)放出する確率

は全てゼロで,無限個放出される確率のみゼロでないことを

意味します。

 

それでも,もちろん全確率はΣn=1であって,確率の総和

は確かに有限です。

たとえば,を領域 0≦||≦Δ に選べば,先の記事に述べた

n()=P0[∫R 3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]n/n!,

0≡exp[-∫3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]により,

 

Σn(||≦Δ)

=exp[-3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]

exp[||≦Δ3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]

です。

 

そこで,Σn(||≦Δ)

=exp[-||>Δ3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]

となります。

 
また,(n+1)個の光子を放出する確率のn個放出に対する比

を求めると,{1/(n+1)}3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)

です。

 

これは,~α∫dk/k→ ∞ as k→0 であり,k~0 では

発散します。

 

ただし,α≡e2/(4π)は微細構造定数 ~1/137です。

 

それ故,αのべき展開に基づく摂動論の計算は加速電荷の

長波長の輻射(λ~ 1/k~ ∞)に対しては

正しくありません。

 
この赤外発散の最初の解析と解決は1937年にBlochとNordsieck

によって与えられ,その後1961年のYennie-Frauchi-Suura に

よって完全に解決されました。

私自身は,数年前に後者(Yennie-Frauchi-Suura)の70数ページ

にわたる論文を精読しましたが。。。

 

赤外発散は,||≦Δを満たす全光子の放出確率の計算値

Σn(||≦Δ)

=exp[-||>Δ3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]

で与えられるという事実から判明します。

 

そこで,無限大の発散は全ての摂動級数を総和して得られる

指数関数exp[]の肩:[ ]のマイナス符号の付いた量で起こる

ものです。

 

無限個のエネルギーゼロの実光子の放出確率は,exp(-∞)

に比例するという意味で検出される確率への寄与は無いに

等しいものです。

 
しかし,一方,同じようにエネルギーがほぼゼロの無限個

の仮想光子は,exp(+∞)に比例する寄与をします。

 

そこで,摂動の中間状態という仮想プロセスの存在を認める

立場からは,こちらの方がはるかに深刻です。

 

ところが,厳密な計算で摂動級数を総和すると,実は実光子

と仮想光子の寄与は積として相殺され,結局ゼロでも無限大

でもない有限な正しい寄与を与えることになります。

 

そこで,結局,この問題は解決されることになります。 

 

参考文献;J.D.Bjorken S.D.Drell

"Relativistic Quantum Fields"(McGraw-Hill Books Company)

 

F.Bloch A.Nordsieck 

"Note on the Radiation Field of the Electron"

Phys.Rev.Vol.52 pp54 (1937)

 

D.Yennie S.Frauchi H.suura

"The Infrared Divergence Phenomena and High-Energy

Processes" Ann.Phys.Vol.13 pp379-452 (1961) 

http://fphys.nifty.com/
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コメント

こんばんは。TOSHIです。
 
 普通の黒体輻射のエネルギー密度はρ(ν,T)dν=(8πν^2/c^3)<ε>dνです。

 零点輻射=「輻射を調和振動子の集まりと量子化したときの零点エネルギー」まで入れるとプランクの公式から<ε>=hν/2+hν/[exp(hν/kT)-1]なのでT=0 だと零点輻射<ε>=hν/2のみ残りρ(ν,0)dν=(4πhν^3/c^3)dν=(4πh/λ^3)d(c/λ)で積分すると∞ですね。

 Tが大きいときhν/[exp(hν/kT)-1]=hν/[Σ(hν/kT)^n/n!]~kT[1-(hν/kT)/2]=kT-hν/2より零点輻射がないとエネルギー等分配のつじつまも合いません。

 黒体輻射などの光子、つまり電磁輻射の零点振動ではありませんが、原子内の電子の分極による零点振動をくり込むと「分子間力=ファン・デル・ワールス力」になるという話は2006年10月14日の私のブログ記事「零点エネルギーとファン・デル・ワールス力」に書いてありますが、電磁輻射の場合の零点振動がホーキング輻射に寄与するという話もありそうです。

             TOSHI
         

投稿: TOSHI | 2007年8月 1日 (水) 21時44分

かなり前、どこか (日経サイエンスかな?) で「零点輻射」なんてものを読んだんですが、これも同様に計算されるんですかね?
「零点輻射」とは、エネルギー源も何も無い真空中でも存在する電磁場の揺らぎとかで、波長の3乗の強度の電磁波で満たされてるとか書いてあったような・・
さらに、それを曲がった空間に座標変換するとホーキング輻射 (の電磁波部分) になるとかも別の所で読んだ記憶がある。

投稿: hirota | 2007年7月30日 (月) 15時39分

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