常微分方程式の解の存在定理①(アスコリの定理)
前の2つの記事は,35年ほど前の大学3年の頃に凝っていた存在定理関連の論題について,当時,大学数学科で講義を受けた際に綴ったノートを参考にして書きました。
今回も,そのころ最も夢中になっていた"初期値問題=常微分方程式の解の存在定理"について,何回かに分けて述べてみたいと思います。
ただし解の存在定理のみであり,いわゆる通常の教科書に普通に載っている"Lipshitz(リプシッツ)条件"を仮定した"解の存在と一意性の定理"ではありません。
Lipshitz条件は,解の一意性の十分条件ですが,かつて日本人,岡村博氏により,解の一意性の必要十分条件が発見されたことは有名です。
これの内容については読んだことはありませんが,岡村博 著「微分方程式序説」に掲載されていると思います。
(※最近,復刻されたようで,この本の新装版が神保町の三省堂書店5階にもありました。)
そこで,まずPeanoの存在定理でもいいのですが,その代わりにこれと同等なEuler-Cauchyの逐次近似法(折れ線法)による存在定理を証明しようと考えたものがあるので,それを述べたいと思います。
まず,問題の定式化をします。
"ある2次元の単連結領域(domain):Dがあるとします,
特にDを矩形閉領域(I×J):I≡[x0-a,x0+a],
J≡[y0-b,y0+b] としても一般性を失わないので,
D≡I×Jとします。
Dにおいて関数f(x,y)が連続なら正の数Mが存在して,
この閉領域では|f(x,y)|≦Mとなりますが,
このとき,α=min(a,b/M)とすれば,
[x0-α,x0+α]の上で定義された点(x0,y0)を通る
1階常微分方程式:dy/dx=f(x,y)の解が存在する。"
というものです。
結論は,解の存在のみであって一意性は考えていません。
そして,今日は準備として"1つの補題=Ascoli-Arzela の定理"を証明します。この定理は次のようなものです。
"Gを有界な区間:Iの上で定義された関数;g(x)のある無限個の集合とします。
GがIの上で一様有界かつ同等(同程度)連続なら,GはIの上で一様収束するような関数列{gn(x)}n=1,2,..を含む。"
という定理です。
ただし,一様有界の定義は,
"有界な区間Iの上で定義された関数g(x)の集合Gがあるとき,
∀g(x)∈Gに対して,Iの上で|g(x)|≦Mとなる共通のMが存在する
なら,GをIの上で一様有界であるという。"
というものです。
また同等連続とは,
"上と同じIとGで,ε>0を任意に与えたとき,
∀g(x)∈Gについてεだけに依存するGにおいて共通のδ>0
が存在して,∀x1,x2∈I,|x1-x2|<δ⇒|g(x1)-g(x2)|<ε
が成立するなら,GをIの上で同等連続であるという。"
と定義されます。
以下,証明です。
I に含まれる有理数の全体QIを考えると,これは可算無限集合ですから,
それに添字をつけて順序付けすることができます。
それを,r1,r2,..,rn,..∈QIとします。
まず,H1≡{g(r1)|g(x)∈G}とおきます。
これはGに属する任意関数g(x)に対して,g(r1)で与えられる値の集合を意味するものです。
H1は有界無限集合ですから,もちろん集積点を持ちます。
そして,H1の中から集積点に収束する全てのg(r1)の集合のうちの,ある1つの集積点に収束する部分列としてg11(r1),g12(r1),..,g1m(r1),..={g1m(r1)}m=1,2,.を取り出すことができます。
そこで,これに対応するg11(x),g12(x),..,g1m(x),..
={g1m(x)}m=1,2,..という関数列を取り出して,
次にH2≡{g1m(r2)|m=1,2,..}を作ります。
そして,これらに対しても収束する部分列g21(r2),g22(r2),..,g2m(r2),..={g2m(r2)}m=1,2,..を取り出します。
さらに,g21(x),g22(x),..,g2m(x),..={g2m(x)}m=1,2,..を作っていきます。
これらを繰り返すことによって,∀kに対してGの中の関数列であって,x=r1,r2,..,rkに対して収束する{gkm(x)}m=1,2,..をつくることができます。
ここでgn(x)≡gnn(x)と定義すると,{gn(x)}n=1,2,..は全てのQIの要素に対して収束します。
よって任意の正の数ε>0 を与えるとrk∈QIに対して,ある正の整数N(ε,rk)が定まり,
∀n,m>N(ε,rk)に対して|gn(rk)-gm(rk)|<ε/3
となります。
一方,GはIの上で同等連続ですから,ε>0 だけによって決まるδ>0 が存在して,∀k∈Nに対して|x1-x2|<δ⇒|gk(x1)-gk(x2)|<ε/3が成立します。
そして,区間Iをどの区間の長さもδより小さい小区間の集合として,
I1,I2,.,Ipに分割します。
そして,各区間Ikで1つの有理数を選び,それを改めてrkと表わすことにします。
∀x∈Iを取ると,これはどれかのIkについてx∈Ikとなります。
それ故,gn(x)-gm(rk)=gn(x)-gn(rk)+gn(rk)-gm(rk)+gm(rk)-gm(x)ですが,x,rk∈Ikですから,
n,m>N(ε,rk)なら,|gn(x)-gm(rk)|<εです。
したがって,N(ε)≡min{N(ε,r1),N(ε,r2),..,N(ε,rp)}とおけば,∀n,m>N(ε)のとき∀x∈Iで|gn(x)-gm(rk)|<εが成立するので,Cauchyの一様収束の条件によって,{gn(x)}n=1,2,..は I の上である関数に一様収束します。
以上でAscoli-Arzelaの定理の証明が終わりました。(つづく)
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