バナッハ空間における陰関数定理
前記事の逆写像定理(逆関数の存在定理)の系として,陰関数定理(Implicit-function Theorem)も証明しておきましょう。
これは次のような内容です。
"X,YをBanach空間とし,E⊂(X×Y)(=X,Yの直積空間)を,(X×Y)の開集合とする。
ただし,(x,y)∈⊂(X×Y)のノルム|(x,y)|は,
|(x,y)|≡|x|+|y| で定義する。
fをE→XのC1級の写像とする。
f(a,b)=0 を満たすある(a,b)∈(X×Y)において,
fの線形かつ連続な微分係数をA≡f'(a,b)∈L(X×Y,X)
とおく。
そして,JxをJx(x)≡(x,0)なるX→(X×Y)の線形写像
と定義するとき,合成線形写像:AJxが可逆なら
b∈WなるあるYの開集合W⊂Yが存在して,g(b)=a,
かつ∀y∈Wに対してf(g(y),y)=0 が成立するような写像
g:W→Xが存在して,gはC1級であり一意的である。"
というものです。
(これをなぜ陰関数定理と呼ぶのかというと,これはf(x,y)=0 なる式から,それと同等な意味を持つ,
x=g(y)が存在してf(g(y),y)=0 が成立する,という
"陰関数の存在と一意性"を保証するものだからです。)
まず,準備として次の補題が必要なので証明しておきます。
"A∈L(X×Y,X)でAJx:X→Xが可逆なら,
B(x,y)≡(A(x,y),y)で定義されるB:(X×Y)→(X×Y)
は線形連続写像,
つまりB∈L(X×Y)であって,これも可逆である。"
というものです。
これの証明をやってみます。
Bの線形性はAの線形性から直線的に得られるので,
これの証明は省略します。
Bの"連続性=有界性"の方の証明ですが,
これは,|B(x,y)|≡|(A(x,y),y)|≦|A||(x,y)|+|y|
=|A|(|x|+|y|)+|y|≦(|A|+1)|(x,y)|より,
確かに成立することがわかります。
よって,B∈L(X×Y)です。
次に,B(x,y)=(0,0)ならば,A(x,y)=0 かつy=0 です。
よって,AJxx=0 かつy=0 ですが,仮定によりAJx:X→Xは可逆なので,これから(x,y)=(0,0)が得られます。
故に,Bは1対1(単射)です。
有限次元なら線形写像では1対1写像(単射)と上への写像(全射)は同義なのですが,無限次元空間なのでそうはいきません。
そこで,Bが上への写像であることも証明する必要があります。
(z,w)∈(X×Y)が任意に与えられたとします。
x≡(AJx)-1(z-A(0,w)),かつy≡wとすると,
B(x,y)≡(A(x,y),y)=(A(x,0)+A(0,y),y)
=(AJxx+A(0,y),y)=(z,w)が確かに成立します。
かくして,Bは全単射であることがわかりましたから,
逆写像B-1が存在します。
次に,B-1(z,w)=((AJx)-1(z-A(0,w)),w)ですから,
|B-1(z,w)|≦|(AJx)-1|(|z|+|A||w|)+|w|
≦{|(AJx)-1|(|A|+1)+1}|(z,w)|により,
B-1も"有界=連続"です。
以上で,B∈L(X×Y)で,Bは可逆であることが証明されました。
では,本題の陰関数定理の証明に取り掛かります。
まず,写像F:E→(X×Y)をF(x,y)≡(f(x,y),y)
で定義します。
このとき,(a,b)∈(X×Y)におけるFの微分係数を求めます。
F(a+h,b+k)-F(a,b)=(f(a+h,b+k)-f(a,b),k)
=(f'(a,b)(h,k)+r(h,k),k)=(A(h,k),k)+s(h,k),
ただし,|s(h,k)|/|(h,k)|→ 0 as (h,k)→ (0,0) です。
それ故,B:(X×Y)→(X×Y)をB(h,k)≡(A(h,k),k)であるように定めると,B=F'(a,b)で上の補題によりBは可逆です。
結局,F:E→(X×Y)でB=F'(a,b)は可逆であり,
F(a,b)=(f(a,b),b)=(0,b)です。
そこで,逆写像(逆関数)定理により,開集合U,V⊂(X×Y)が存在して
(a,b)∈U⊂E,(0,b)∈Vで,F:U→Vが全単射となります。
それ故,逆写像Φ≡F-1:V→Uが存在してVの上でC1級です。
Φ(z,w)=(x,y)ならF(x,y)≡(f(x,y),y)=(z,w)より,
y=wです。
そこでΦ(z,w)≡(φ(z,w),w)でφ:V→Xを定義すれば,
φもVの上でC1級です。
そして,F(a,b)=(0,b)により,Φ(0,b)=(a,b),
すなわちφ(0,b)=aです。
また,F(φ(z,w),w)=(z,w) for ∀(z,w)∈V ⇒ (f(φ(z,w),w),w)=(z,w) for ∀(z,w)∈Vです。
Vは開集合で,(0,b)∈Vですから,ヨε>0:{(z,w)||z|+|w-b|<ε}⊂Vが成立します。
このとき,W≡|w∈Y||w-b|<ε}と定義すると,WはYの開集合で
∀w∈Wに対して(0,w)∈Vです。
そして(f(φ(0,w),w),w)=(0,w) for ∀w∈W,
すなわちf(φ(0,w),w)=0 for ∀w∈W ,
つまりg(w)≡φ(0,w)とおけばf(g(w),w)=0 for ∀w∈W
です。
gはWの上でC1級であることが示されました。
次に,gの他にf(g*(w),w)=0 for ∀w∈Wなるg*が存在すれば,
F(g(w),w)=(f(g(w),w),w)=(0,w)=(f(g*(w),w),w)
=F(g*(w),w)でありF:U→Vは全単射ですから,
Wの上でg(w)=g*(w)となります。
以上で証明終わりです。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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