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2006年12月 5日 (火)

バナッハ空間における陰関数定理

前記事の逆写像定理(逆関数の存在定理)の系として,陰関数定理(Implicit-function Theorem)も証明しておきましょう。

 

これは次のような内容です。

 

"X,YをBanach空間とし,E⊂(X×Y)(=X,Yの直積空間)を,(X×Y)の開集合とする。

 

ただし,(,)∈⊂(X×Y)のノルム|(,)|は,

|(,)||x||y| で定義する。

 

をE→XのC1級の写像とする。

 

(,)=0 を満たすある(,)∈(X×Y)において,

の線形かつ連続な微分係数をA≡'(,)∈L(X×Y,X)

とおく。

 

そして,JxをJx()≡(,0)なるX→(X×Y)の線形写像

と定義するとき,合成線形写像:AJxが可逆なら

 

∈WなるあるYの開集合W⊂Yが存在して,()=,

かつ∀∈Wに対して((),)=0 が成立するような写像

:W→Xが存在して,1級であり一意的である。"

 

というものです。

 

(これをなぜ陰関数定理と呼ぶのかというと,これは(,)=0 なる式から,それと同等な意味を持つ,

 

()が存在して((),)=0 が成立する,という

"陰関数の存在と一意性"を保証するものだからです。) 

 

まず,準備として次の補題が必要なので証明しておきます。

 

"A∈L(X×Y,X)でAJx:X→Xが可逆なら,

(,)≡(A(,),)で定義されるB:(X×Y)→(X×Y)

は線形連続写像,

 

つまりB∈L(X×Y)であって,これも可逆である。"

 

というものです。

 

これの証明をやってみます。

 

Bの線形性はAの線形性から直線的に得られるので,

これの証明は省略します。

 

Bの"連続性=有界性"の方の証明ですが,

 

これは,|(,)||(A(,),)||||(,)||y|

||(|x||y|)+|y|≦(||+1)|(,)|より,

確かに成立することがわかります。

 

よって,B∈L(X×Y)です。

 

次に,B(,)(0,0)ならば,(,)=0 かつ0 です。

 

よって,Ax0 かつ0 ですが,仮定によりAJx:X→Xは可逆なので,これから(,)=(0,0)が得られます。

 

故に,Bは1対1(単射)です。

  

有限次元なら線形写像では1対1写像(単射)と上への写像(全射)は同義なのですが,無限次元空間なのでそうはいきません。

  

そこで,Bが上への写像であることも証明する必要があります。

 

(,)∈(X×Y)が任意に与えられたとします。

 

≡(x)-1(-A(0,)),かつとすると,

B(,)≡(A(,),y)=(A(,0)+A(0,),)

=(Ax+A(0,),)=(,)が確かに成立します。

 

かくして,Bは全単射であることがわかりましたから,

逆写像B-1が存在します。

 

次に,B-1(,)=((x)-1(-A(0,)),)ですから,

|-1(,)||(x)-1|(|z||||w|)+|w|

≦{|(x)-1|(||+1)+1}|(,)|により,

 

-1も"有界=連続"です。

 

以上で,B∈L(X×Y)で,Bは可逆であることが証明されました。

 

では,本題の陰関数定理の証明に取り掛かります。

 

まず,写像:E→(X×Y)を(,)≡((,),)

で定義します。

 

このとき,(,)∈(X×Y)におけるの微分係数を求めます。

 

(,)-(,)=((,)-(,),)

=('(,)(,)+(,),)=(A(,),)+(,),

 

ただし,|s(,)|/|(,)| 0 as (,)→ (0,0) です。

 

それ故,B:(X×Y)→(X×Y)をB(,)≡(A(,),)であるように定めると,B='(,)で上の補題によりBは可逆です。

 

結局,:E→(X×Y)でB='(,)は可逆であり,

(,)=((,),)=(0,)です。

 

そこで,逆写像(逆関数)定理により,開集合U,V⊂(X×Y)が存在して

(,)∈U⊂E,(0,)∈Vで,:U→Vが全単射となります。

  

それ故,逆写像Φ-1:V→Uが存在してVの上でC1級です。

 

Φ(,)=(,)なら(,)≡((,),)=(,)より,

です。

 

そこでΦ(,)≡(φ(,),)でφ:V→Xを定義すれば,

φVの上でC1級です。

 

そして,(,)=(0,)により,Φ(0,)=(,b),

すなわちφ(0,)=です。

 

また,(φ(,),)=(,) for ∀(,)∈V ⇒ (f(φ(,),),)=(,) for ∀(,)∈Vです。

 

Vは開集合で,(0,)∈Vですから,ヨε>0:{(,)||z|||<ε}⊂Vが成立します。

 

このとき,W≡|∈Y|||<ε}と定義すると,WはYの開集合で

∈Wに対して(0,)∈Vです。

 

そして(f(φ(0,),),)=(0,) for ∀∈W,

すなわちf(φ(0,),)=0 for ∀∈W ,

 

つまり()≡φ(0,)とおけば((),)=0 for ∀∈W

です。

 

はWの上でC1級であることが示されました。

 

次に,の他にf(*(),)=0 for ∀∈Wなる*が存在すれば,

 

((),)=(((),),)=(0,)=((*(),),)

(*(),)であり:U→Vは全単射ですから,

Wの上で()=*()となります。

 

以上で証明終わりです。

 

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