鳳・テブナンの定理(電気回路)
今日は電気回路において有名な「鳳・テブナンの定理(Ho-Thevenin's theorem)」について述べてみます。
そのために,まず「重ね合わせの理(重ねの理)」を証明します。
「重ね合わせ(superposition)の理」というのは,
"線形素子のみから成る電気回路に幾つかの電圧源と電流源がある場合,
この回路の任意の枝の電流,および任意の節点間の電圧は,
個々の電圧源や電流源が各々単独で働き,他の電源が全て殺されている
場合の回路の電流や電圧の代数和(重ね合わせ)に等しい。"
という定理です。
ここで,"電源を殺す"とは,起電力や電流源電流をゼロにすることです。
つまり,"電圧源を殺す"というのは端子間のその電圧源を取り除き,そこに代わりに電気抵抗ゼロの導線をつなぐことに等価であり,
"電流源を殺す"というのは端子間の電流源を取り除き,その端子間を引き離して開放することに等価です。
この定理を証明するために,まず電圧源のみがある回路を考えて,線形素子に対するKirchhoffの法則に基づき,回路系における連立1次方程式である回路方程式系を書き表わします。
すなわち,Eを電圧源列ベクトル,iを電流列ベクトルとし,Zをインピーダンス(impedance)行列とすれば,
この回路方程式系はZi=Eと書けます。
このとき,電気回路の特性からZは必ず,逆行列であるアドミッタンス(admittance)行列:Y=Z-1を持つことがわかります。
したがって,Eを単独源の和としてE=ΣEkと書くなら,
i=Z-1E=ΣZ-1Ekとなるので,ik≡Z-1Ekとおけば
i=Σikと書けます。
行列の図で表現すると,
=
です。
同様に,Jを電流源列ベクトル,Vを電圧列ベクトルとすると,YV=Jなので,Vk≡Y-1JkとおけばV=ΣVkとなります。
ところで,起電力がE,内部抵抗がrの電圧源と内部コンダクタンス(conductance)がgの電流源Jの両方を考えると,
電圧源の端子間電圧はV=E-riであり,電流源の端子間電流は
i=J-gVです。
これらの電源が等価であるとすると,
開放端子での端子間電圧はi=0 でV=Eより,
0=J-gEとなり ,
短絡端子での端子間電流はV=0 でi=Jより,
0=E-rJとなります。
これらが同時に成立するためには,r=1/gが必要十分条件です。
というわけで,電流源は等価な電圧源で,電圧源は等価な電流源で互いに置き換えることが可能です。
それ故,上で既に示された電流や電圧の重ね合わせの原理は,電流源と電圧源が混在している場合にも成立することがわかります。
これで,「重ね合わせの理(重ねの理)」は証明されました。
次に「鳳・テブナンの定理」ですが,これは,
"内部に電源を持つ電気回路の任意の2点間に"インピーダンスZL(=電源のない回路)"をつないだとき,
ZLに流れる電流ILは,ZLをつなぐ前の2点間の開放電圧をE0,
内部の電源を全部殺して測った端子間のインピーダンスをZ0とすると,
IL=E0/(Z0+ZL)で与えられる。"
という定理です。
これを証明するために,まず起電力が2点間の開放電圧と同じE0の2つの電圧源をZLに直列に互いに逆向きに挿入した回路を想定します。
これは,挿入した2つの電圧源の起電力の総和がゼロなので,実質的には何も挿入しないのと同じですから,元の回路と変わりないので普通に同じ電流ILが流れるはずです。
そして,この2個の追加電圧源挿入回路は,結局,
"1個の追加逆起電力-E0から結果的に回路の端子間電圧がゼロで電流がゼロの回路"と,
"1個の追加起電力E0以外の電源を全て殺した同じ回路"との「重ね合わせ」に分解できます。
したがって,「重ね合わせの理」によって合計電流ILは,後者の回路の電流E0/(Z0+ZL)に一致することがわかります。
この「鳳・テブナンの定理」は「等価電圧源の定理」とも呼ばれます。
電圧源を電流源に置き換え,直列インピーダンスを並列アドミッタンスに置き換えたものについての同様な定理も同様に証明できますが,これは「ノートンの定理(Norton)」=「等価電流源の定理」といわれます。
(ノートンの定理↓)
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